ぶさた

端本 やこ

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本編

3:誠

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 佳奈との時間はどこにでもいるカップルのデートそのものだった。
 真面目であるが故に不器用だと思い込んでいた。俺のとんだ思い違いだった。
 仕事を連想させる話題を巧みに避けているのだ。
 宴会場で絡んで来た女子たちとは違う、上級者の気遣いだ。
 惜しい気もするが、今日のところは同僚とのサシ飲みに留めておかないと歯止めがきかなくなりそうな予感がする。

「そろそろ出るか」
「あ、はいっ」

 俺に合わせて腰をあげた佳奈が足を縺れさせた。どうやら酔いが足腰に来るタイプらしい。少し頬を染めた顔はそこまで深酔いしたようには見えなかった。口調も思考も変化なく会話が成り立っていたのも判断を鈍らせた。
 俺としたことが、楽しさに読み間違えたか。
 いささか自嘲気味になりながら佳奈に手を伸ばした。
 ホテルを出る時と違って、下手に取繕わずこちらの厚意に身を任せてくれる。タクシーは一緒に降りた。佳奈の腰を支えて彼女の部屋まで辿り着く。

「きゃっ。あ、ちょっと待って、脱げちゃった」
「んあ?」

 来た道を振り返ると、廊下にパンプスが片方脱げ落ちている。
 ひとまず、鍵を開けさせ玄関先に座らせた。ふたりぶんのバッグを脇に置いて、落とし物まで戻る。
 ひとり暮らしの部屋は、玄関だけで独りだとわかる状態だった。
 拾い上げたパンプスを指先でプラプラと遊ばせながら、この後を考える。

「ずいぶん色っぽいシンデレラだな」

 座り込んだままの佳奈を揶揄うと、目を見開いて見上げてきた。帰宅した安堵からかトロンとした表情で、一気に酔払いのそれになっている。

「……時間切れ?」

 含みを持たせて俺のコートの裾を引っ張った。これが誘いでなかったら一体何だと言うのか。
 狙った獲物から食べられに来ているのに、断るなどと無粋な真似が出来るはずもない。

「午前零時にはまだ早い」

 靴を滑り落とし、腰を屈めて顎を掬った。

「んくっ、、、ふわぁ」

 綺麗な富士山型の上唇はしっとり誘い、ぷっくりした下唇は吸盤のように吸い付いてくる。その弾力がたまらず、合意の探りを入れる手順はすっ飛ばして貪る。
 いつの間にか恋人同士のように抱き合って夢中になっていた。

「立てる?」 

 さすがにこのまま玄関先で致すようなお年頃ではない。とは言え、我慢をする気もさらさらない。
 ほぼほぼ佳奈を抱えて移動し、互いにコートを脱ぎ捨てベッドに倒れこんだ。
 欲情した佳奈の目線は驚いたようにも見える。
 襟元を緩めながら膝立ちで見下ろすと、そこに横たわるのは口うるさい風紀委員ではなく、女盛りの色香を漂わせる美しい女性そのものだ。
 逃げるなら今だ。
 最終選択に必要な時間を与えるために、ジャケットを脱ぎ、ゆっくりとネクタイを引き抜いて、腕時計を外す。
 文字盤が見えない様に、サイドチェストに置いた。
 午前零時を回っても、魔法の時間は終わりだなんて言わせない。
 四十路のいい大人が魔法もクソもない。佳奈とて、そこまで少女趣味ではないだろう。

「王子じゃないオッサンで悪いな」
「えっ」

 佳奈は瞬きを忘れたかのように、じっと俺の仕草を目で追っていた。少し動く度に、その目が欲情的にうっとりするのは見逃さなかった。
 拒絶の余地を無下にしたのだから遠慮はしない。
 玄関から縺れた拍子にでも引っ掛けたのか、薄手の黒タイツに真直ぐ伝線が走っている。その左脚を持ち上げ脹脛ふくらはぎの内側に唇を当てた。

「あっ。く、久我島課長!?」
「ここで課長は無いだろ。まぁ、そーゆー趣味なら、付き合わなくもないけどな」

 佳奈は状況判断が遅れたらしく、慌ててスカートの裾を抑えて非難の声を挙げた。
 俺は構わず、佳奈の体を倒すように脹脛を待ち上げた。抑えきれられないスカートが捲り上がって、腿上部の飾り柄のランガード部分が露になった。
 この色気いいねぇ。
 佳奈の「いや」「止めて」に乗せられた期待の甘さは耳障りが良い。
 通常にない体勢で、伝線は音も無く拡がっていく。タイツの傷を追って、舌を這わせて上に向かう。己の肩に脚をかけさせ、阻んだ震える手に指を絡める。
 膝上で止まった裂け目に焦らされ歯を立てた。

「ひゃっ。ぁ、ぃやっ、、メて」
「何気にスタイル良いよな。この綺麗な脚にはそそられる」

 舌を這わせた後を、手を握ったままの指先でツツッとなぞる。何度か上下させている内に、押し止めようとしていた佳奈の手から力が抜けた。
 一旦脚から顔を離し、髪、こめかみ、頬、唇、項と満遍なく口づける。
 佳奈が離してしまった手は、スカートの裾から侵入させた。腰回りや臀部のパンストの手触りをも存分に楽しむ。

「んんっ」

 自由を得た手の甲を口に当て、刺激に耐える姿が可愛い。
 俺の掌に俄かに蒸れて来ている感触が伝わってきた。わかってはいたが、佳奈の否定的な言葉は飾りであると確信を得た。
 そっと眼鏡を外させ腕時計の横に並べると、弾かれたように潤んだ瞳がこちらを向いた。少しの加虐心が擽られ頬が弛む。
 脱がせたいところだが、タイツまで剥ぎ取ってしまうのは惜しい……であればやることは一つ。

 伝線に指を滑り込ませ、一気に引き裂いた。

「あっ」 

 小さな叫びと共に、一筋だった伝線は暴力的な破れに変わる。
 佳奈の素肌が徐々に面積を広げていく。

「あの相園主任がクソエロい格好晒してんの堪んないね」

 破れた下に見える、ベージュに黒のレースが重なる下着が俺を挑発する。
 何この子。下着のセンスまで俺好みに寄せてきてんの?
 タイツの黒に佳奈の白い肌が異様に映える。鑑賞対象としても申し分がない。
 自分のものにしたくなった。

 どう攻めてやろうか、、、って、おいっ。ちょ!
 は?
 ウソだろ。

「……マジ泣きかよ」

 佳奈は痛手を負った獣の如く、苦し気に唇を噛み締めていた。
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