ペンギン・イン・ザ・ライブラリー

深田くれと

文字の大きさ
2 / 31

どこから来たの? って聞いていい?

しおりを挟む
 ユイは足音を忍ばせながら黒いかたまりに近づいた。正体を確かめるつもりだった。
 薄暗い室内で、黒いかたまりは体の横についた板のようなものを何度か動かしている。
 
 ――ペンギンのぬいぐるみの中に誰かが入ってるんだ。
 
 そう思い込もうとしたものの、一歩近づくたびに違うと直感した。
 いたずらで演技をしているようには思えない。まるで水族館でペンギンの背中をながめているようだ。そもそも人間にしては小さすぎる。
 ユイはペンギンが座るイスから一つあけて、自分もひっそり腰かけた。
 ペンギンの視野は狭いと本で見たような気がするけれど、こんなに近づいてもまったく気づかないのだろうか。
 ユイは自分が持ってきた本を、音を立てないよう机に置いて、ちらちらと横をうかがいながら読むフリを始めた。
 本のタイトルは『ピロスと森の仲間たち』。最近、図書室に入った新しい本だ。森の困りごとを一番体の大きなドラゴンが解決しようとがんばる話だ。おもしろくて三回も読んだ。
 けれど、見なれた挿絵が今は頭に入らない。
 機械的にページをめくっているだけで、ユイの目は黒い横顔に釘づけだ。
 どこからどう見てもペンギンだ。
 白いカチューシャを乗せたような模様の顔に黄色いくちばし。黒い背中に真っ白なおなか。長めの尾羽。記憶では、ジェンツーペンギンという種類が近い。図鑑に載っている写真よりも少し大きい瞳が可愛らしい。
 そんなペンギンが、自分の体の半分ほどある背もたれに、ゆったり体をあずけて、平たい手で写真がたくさん入ったページを器用にめくっている。
 しかも背中にはなぜか布のリュックを背負っている。
 ユイはさらに興味をひかれて、ぐぐっとペンギンが読む本をのぞきこもうとした。
 すると、同じタイミングでペンギンの瞳がくわっと見開かれた。
 すごい勢いで体を乗りだし、イスの座面にぴょんっと立ち上がると、近くが見えないおばあちゃんのように、くちばしが当たろうとする距離にまで顔を近づけた。
 ページのタイトルは、「南極圏とその周辺」となっていた。
 あろうことか、ペンギンは鳥の図鑑でペンギンの仲間を見ていたのだ。

 真剣な表情で図鑑をながめているペンギンを、ユイはあっけにとられて見ていた。
 あなたはペンギンなの?
 ペンギンがどうして鳥の図鑑でペンギンを見てるの?
 ペンギンがどうしてこんなところに?
 次々と頭に浮かぶ質問をすべて飲み込んだユイは、こんなこときいてどうするの? と自分にあきれた。
 ペンギンに質問したところで、答えられるわけがない。
 先生に連絡をするべきだ。近くに水族館はないが、どこからか逃げてきた飼いペンギンかもしれない。
 ユイはようやく当たり前のことに気づいた。驚かさないようひそかに腰を浮かせて、イスから立ち上がろうとした。
 その時だった。

「いやあ、これはすごい。こんなにたくさん種類がいるのか。でも寒い場所はやだなあ……」

 少年の声が真横から聞こえて、ユイは頭をなぐられたような衝撃を受けた。
 ペンギンはそんなユイに気づかず、読んでいた図鑑をぱたんと閉じると、上手にリュックを背中から下ろし、中をさぐって小さな何かを取りだした。
 茶色いスタンプだ。

「いずれ入口に使おうかな」

 板のような手先を器用に丸めて、ぽんと図鑑の右上に押した。
 意外と強い力で押したのか、机が小さく音を立てた。
 思ってもいなかった展開に、ユイは体をこわばらせ、イスをがたりと揺らして立ち上がった。

「あっ……」

 どちらの声だっただろう。
 ユイと素早く首を回したペンギンは無言で数秒見つめ合った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。   (also @ なろう)

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

まぼろしのミッドナイトスクール

木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

幸せのろうそく

マイマイン
児童書・童話
 とある森の中にある町に住むおばあさんは、お祭りの日に「死んだ孫娘のキャンベルとまた暮らしたい」と、祈りをささげると、そのキャンベルが妖精に生まれ変わっておばあさんの前に現れました。  これは、キャンベルが恵まれない人々を幸せにしていく短編童話です。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

ゼロになるレイナ

崎田毅駿
児童書・童話
お向かいの空き家に母娘二人が越してきた。僕・ジョエルはその女の子に一目惚れした。彼女の名はレイナといって、同じ小学校に転校してきて、同じクラスになった。近所のよしみもあって男子と女子の割には親しい友達になれた。けれども約一年後、レイナは消えてしまう。僕はそのとき、彼女の家にいたというのに。

神ちゃま

吉高雅己
絵本
☆神ちゃま☆は どんな願いも 叶えることができる 神の力を失っていた

処理中です...