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ちょっとドジらしい
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ごめん、用事があるから。
わきあがった好奇心を抑えて、ユイは断ろうとした。
しかし、
「ユイは何が好きかなあ。今日はどんな生き物に会うだろう。それとも見たこともない本かな?」
ペン太のつぶやきを聞いて、のど元まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
見たことのない本?
「……ねえ、その図書界って遠い?」
心の中で、行ってみたいという気持ちが強くなった。
ちょっとだけならいいか、と思い始めた。
「すぐつくよ。数秒ってところかな」
「ほんとに!?」
ペン太はあっさり言った。思いもよらない幸運にユイはとび上がった。
「学校の中にあるの?」
「ここにね」
ペン太は机に置いた本のページを一枚一枚丁寧にめくった。ページの真ん中をとじたミシン糸が今にも外れかけている。
ペン太が黒い目を曲げた。ほほ笑んでいるようだ。
「さあ、このページの次だ――あれ?」
「どうしたの?」
「バッジがない……リュックにつけておいたのに」
リュックの肩ひも部分に目を向けたペン太が、とつぜんおろおろし始めた。せわしなく両手をばたつかせ、首を色々な方向に曲げて床をにらみつける。
「まずい、まずい、まずい! ぼくのバッジが! よく考えたら、ペンギンに見えてる時点で気づくべきだった! ぼくはなにをのんきに話してるんだ!」
ぴょんとイスから飛び降り、必死の様子で床にはいつくばった。
ペン太がおなかですべりはじめた。どうやっているのかはユイにはわからない。
よほど大事なものらしい。
図書室の端から端まで、ジェット機のように両手を広げてすいっと一滑り。棚に当たれば直角に曲がって、またすいっと。見事な操縦だ。
まるでスケートリンクの上を滑っているようだ。
ペン太の顔がますますゆがんだ。
「それって、どんなバッジ?」
ユイはもしかしてと思って尋ねた。
「銀色の丸いやつだ! 誰でも見ただけでただものじゃないとわかるような、すごいバッジだ!」
「これ?」
「それだ! えっ?」
右に左にすごい速さで床を滑走していたペン太が、ユイの手のひらに乗ったバッジを見て、くちばしを開いた。
そのまま、止まることなく受付カウンターに顔からつっこんだ。大きな音が室内に響いた。
頭をなでながらペン太が「いてて」と立ち上がった。
ユイが上からのぞき込む。
「だいじょうぶ?」
「なんのこれしき……図書ペンギンはこの程度ではへこたれない。それより、ありがとう。見つけてくれて助かった。これがないと――」
「どうなるの?」
「図書界へのゲートが開けなくなる……つまり、図書ペンギン司書の夢が絶たれてしまうんだ。ほんとうにありがとう。ユイは恩人だ」
何度も頭を下げるペン太に、ユイはむずかゆくなって、「いいって、いいって」と手を振った。
図書室の前に落ちていたものを拾っただけだが、ペン太にはとても大事なものだったらしい。見ないふりをしなくて良かった。
「あっ」
ユイは声をもらした。「どうした?」と首をかしげるペン太を見下ろしながら、一つ忘れていたことを思い出した。
「そういえば、図書室ってカギかかってたはずなのに、ペン太はどうやって入ったの? 廊下から入ってたよね?」
ペン太が目を丸くし、ため息をついた。
「ここに入る前に、もうバッジを落としてたのか……この部屋以外にも本がたくさん集まった部屋があるのかと思って、さっき外に出たんだ。カギはこれを使った」
そう言ってリュックから取り出したのは、タンポポにも似た一輪の黄色い花だった。小さい花びらが何段にも重なって広がっている。
ふと、付け根の葉が、生き物のように細くうごめいていることに気づいた。
「なにこれ?」
「図書ペンギン道具の、カギあけデイジーさ。どんなカギでもあけられる図書界の花だよ」
「図書界の花? それを使って図書室のカギあけたんだ……」
「そうさ、すごいだろ」
胸をはったペン太が「ユイも試してみるかい?」とカギあけデイジーを差しだした。
ユイは素早く首を振って断った。
どんなカギでもあけられる道具なんて恐ろしい。
図書室だけじゃなく、家でも牢屋でも、勝手にあけてしまえるのかもしれない。持つだけで色々と疑われそうな道具だ。
「まあ、ユイは図書ペンギンじゃないからな」というペン太の言葉に、素直にうなずいた。
調子の戻ったペン太は、両足をそろえてイスにジャンプした。少し長めの尻尾がかわいいなと思ったのは内緒だ。
くるりと振り返ったペン太は、リュックの肩ひもに大事なバッジを苦労してとりつけると、一つせきばらいをして、片手を開いた本にのせた。
「さっきも言ったけど、このページの次をめくれば図書界だ。ユイ、準備はいいかい?」
「うん」
「じゃあ、いくぞ。さあ、ぼくの手をにぎって」
ペン太にうながされるままに、ユイは平たい手の先をにぎった。
意外と固い。もっとふわふわしているものだと思っていたユイは、ごつごつした骨と羽のさわりごこちに驚いた。
そして、白い光に包まれた。
わきあがった好奇心を抑えて、ユイは断ろうとした。
しかし、
「ユイは何が好きかなあ。今日はどんな生き物に会うだろう。それとも見たこともない本かな?」
ペン太のつぶやきを聞いて、のど元まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
見たことのない本?
「……ねえ、その図書界って遠い?」
心の中で、行ってみたいという気持ちが強くなった。
ちょっとだけならいいか、と思い始めた。
「すぐつくよ。数秒ってところかな」
「ほんとに!?」
ペン太はあっさり言った。思いもよらない幸運にユイはとび上がった。
「学校の中にあるの?」
「ここにね」
ペン太は机に置いた本のページを一枚一枚丁寧にめくった。ページの真ん中をとじたミシン糸が今にも外れかけている。
ペン太が黒い目を曲げた。ほほ笑んでいるようだ。
「さあ、このページの次だ――あれ?」
「どうしたの?」
「バッジがない……リュックにつけておいたのに」
リュックの肩ひも部分に目を向けたペン太が、とつぜんおろおろし始めた。せわしなく両手をばたつかせ、首を色々な方向に曲げて床をにらみつける。
「まずい、まずい、まずい! ぼくのバッジが! よく考えたら、ペンギンに見えてる時点で気づくべきだった! ぼくはなにをのんきに話してるんだ!」
ぴょんとイスから飛び降り、必死の様子で床にはいつくばった。
ペン太がおなかですべりはじめた。どうやっているのかはユイにはわからない。
よほど大事なものらしい。
図書室の端から端まで、ジェット機のように両手を広げてすいっと一滑り。棚に当たれば直角に曲がって、またすいっと。見事な操縦だ。
まるでスケートリンクの上を滑っているようだ。
ペン太の顔がますますゆがんだ。
「それって、どんなバッジ?」
ユイはもしかしてと思って尋ねた。
「銀色の丸いやつだ! 誰でも見ただけでただものじゃないとわかるような、すごいバッジだ!」
「これ?」
「それだ! えっ?」
右に左にすごい速さで床を滑走していたペン太が、ユイの手のひらに乗ったバッジを見て、くちばしを開いた。
そのまま、止まることなく受付カウンターに顔からつっこんだ。大きな音が室内に響いた。
頭をなでながらペン太が「いてて」と立ち上がった。
ユイが上からのぞき込む。
「だいじょうぶ?」
「なんのこれしき……図書ペンギンはこの程度ではへこたれない。それより、ありがとう。見つけてくれて助かった。これがないと――」
「どうなるの?」
「図書界へのゲートが開けなくなる……つまり、図書ペンギン司書の夢が絶たれてしまうんだ。ほんとうにありがとう。ユイは恩人だ」
何度も頭を下げるペン太に、ユイはむずかゆくなって、「いいって、いいって」と手を振った。
図書室の前に落ちていたものを拾っただけだが、ペン太にはとても大事なものだったらしい。見ないふりをしなくて良かった。
「あっ」
ユイは声をもらした。「どうした?」と首をかしげるペン太を見下ろしながら、一つ忘れていたことを思い出した。
「そういえば、図書室ってカギかかってたはずなのに、ペン太はどうやって入ったの? 廊下から入ってたよね?」
ペン太が目を丸くし、ため息をついた。
「ここに入る前に、もうバッジを落としてたのか……この部屋以外にも本がたくさん集まった部屋があるのかと思って、さっき外に出たんだ。カギはこれを使った」
そう言ってリュックから取り出したのは、タンポポにも似た一輪の黄色い花だった。小さい花びらが何段にも重なって広がっている。
ふと、付け根の葉が、生き物のように細くうごめいていることに気づいた。
「なにこれ?」
「図書ペンギン道具の、カギあけデイジーさ。どんなカギでもあけられる図書界の花だよ」
「図書界の花? それを使って図書室のカギあけたんだ……」
「そうさ、すごいだろ」
胸をはったペン太が「ユイも試してみるかい?」とカギあけデイジーを差しだした。
ユイは素早く首を振って断った。
どんなカギでもあけられる道具なんて恐ろしい。
図書室だけじゃなく、家でも牢屋でも、勝手にあけてしまえるのかもしれない。持つだけで色々と疑われそうな道具だ。
「まあ、ユイは図書ペンギンじゃないからな」というペン太の言葉に、素直にうなずいた。
調子の戻ったペン太は、両足をそろえてイスにジャンプした。少し長めの尻尾がかわいいなと思ったのは内緒だ。
くるりと振り返ったペン太は、リュックの肩ひもに大事なバッジを苦労してとりつけると、一つせきばらいをして、片手を開いた本にのせた。
「さっきも言ったけど、このページの次をめくれば図書界だ。ユイ、準備はいいかい?」
「うん」
「じゃあ、いくぞ。さあ、ぼくの手をにぎって」
ペン太にうながされるままに、ユイは平たい手の先をにぎった。
意外と固い。もっとふわふわしているものだと思っていたユイは、ごつごつした骨と羽のさわりごこちに驚いた。
そして、白い光に包まれた。
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