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知り合いのことを忘れたりもしますよね
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転生当初から比べれば着地も滑らかになってきました。
まずは素早く自然な落下に身を任せ、地面がある程度近付いたら羽ばたく。もちろん周囲に被害が出ないよう最少回数で。
おっと、言うことを聞かない尻尾には十分な注意を払って、と。
ようやくファンタジーの醍醐味が味わえそうです。
ドシンッ、と着地完了。
ほんとにエルフだわ。木の杖っぽいの持ってる。
あのとがった耳、すっごい綺麗な顔立ち。透き通った茶色い瞳。
髪が緑色や金色じゃなくてオレンジっぽい色だけど、それ以外はまさにエルフの特徴をばっちり備えている。
しかも胸がでかい! エルフって確か貧……ゲフンっ。
体のラインが出る民族衣装みたいな服だからまた一段と……おぉ。
これこそファンタジー。
かわいいなー。何歳くらいなんだろ?
でも長寿命の設定多いから見かけどおりじゃない可能性もあるんだよね。
そういえば俺も自分の年齢知らないな。もうどうでもいいけど。どうせ20歳以下じゃないだろうし。
「こんにちは。私は斎藤と申します」
コンニチハーワタシハサイトート――って何普通に話しかけてるの。
エルフに自分の旧名名乗ってどうすんのよ。
その人間は別世界でもう死んだし。
今の俺は邪竜イハリス。こわいドラゴンだから。
だいたい言葉通じないじゃん。
またやっちまった。
考えられんくらいにスムーズに女性に話しかけられたというのに。これも邪竜の性格でしょうか。
色々やっちゃったぞ。
しかも一人で森を歩いてるエルフの前にドシンって。
ないわー。
大きな邪竜出現、捕食ルート間違いなし。
よりにもよってこんな大事な場面でやっちゃったの?
初対面から最悪です。
「こんにちは、イハリス様。どうしてここに?」
「……? 君を見つけたからだけど」
「え?」「は?」
あっれー? 予想外に返事が返ってきたんだけど。
イハリスって名乗らなかったよね?
ちょっと待って。俺の言葉聞こえてるの?
やばい混乱してきたぞ。
「イハリス様?」
鈴を転がすような声とともに疑問を浮かべたエルフが俺を見ている。
ちょっと待って、考え中です。邪竜イハリス考え中。
まず、俺の言葉が通じた。これは間違いない。
人間には通じないのにエルフには通じるのか。それともこの子だけか。
そして、俺は斎藤と名乗ったのにイハリスと知っている。
これは――いや、邪竜として有名だから単に知ってる可能性もある。騎士団だって俺を見かけるなり邪竜イハリスと言ってた。
でもそれならなぜ逃げようとしないんだ?
こわーい邪竜ですよ? 戦う気――なわけないか。
むしろこの子の声から感じるのは親しみ。俺に憧れてるとか。
ないな。
種族違うし。
「大丈夫ですかイハリス様? 具合が悪いのですか?」
さらっさらの肩までの髪を揺らしてエルフが見上げてきた。
お、おう。
良く分かんないけどなんか泣きそうになる。
じんわりと目頭が熱いです。
邪竜の俺にこんなにやさしい言葉をかけてくれたのは君が初めてです。
会っていきなり勇者に斬りかかられたり、嫌われたり、神に遊ばれた俺。
泣きそうです。
もう細かいこと考えるのやめよ。
流れに身を任せるわ。
「ごめん、大丈夫だから。ちょっと嬉しくて」
「嬉しい……ですか?」
「うん。初対面の俺をこんなに心配してくれることが嬉しくて」
「初対面?」
「……?」
「イハリス様? ……私の名前……覚えて……ますよね?」
「……え?」
あなたの名前を言えって?
「俺の名前を言ってみろ」と自己主張のために試してるとかじゃないですよね?
これはもしかして……もしかする?
ザ・知人って感じですか? こんなに嫌われてるのにフレンドリーな知人いるの?
うそーん。
一気に冷静になってきたぞ。
そういえばガキんちょが「絶対いい人だから」的なことを言ってた。
あれはもしや分かっていて会いに行けと言われたのでは?
や、やるな邪竜イハリス。ちょっと見直した。こんな美人さんと知り合いなんて。
もしかして人間以外とは仲良い感じなんでしょうか。
でも俺はどうしたらいいの?
思いっきり話しかけちゃったんだけど。
知り合いだと分かってればもう少し考えたのに。
謝るのも意味不明なんだけど、名前忘れてるって結構失礼じゃない?
それもフレンドリーな感じの人だし、なんとなく一度や二度の出会いって感じじゃないし。
ヘルプミー。
「もしかして……名前忘れちゃったんですか?」
エルフの少女がまつ毛を悲しそうに伏せ、拗ねた子供のような表情を作った。
そんなエルフを見て俺の罪悪感メーターはいきなり振り切っちゃいました。
違うんです。忘れたんじゃなくて、知らないんです。一度も会ったことないの。
人格入れ替わっちゃったんです。
ごめんなさい。
どうしたら分かってもらえる?
転生したなんて絶対信じてもらえないわ。でも正直に言わないと、名前を忘れた理由が説明できん。
邪竜イハリスには記憶力がない……とかどうだ?
ないな。
それなら最初から名前なんて覚えられないはず。
「どうして何も言ってくれないんですか? ほんとに忘れたんですか?」
やめて。
もう泣きそうなんだけど。エルフも俺も。
――に、逃げるってのは?
いやダメだ。こんな状態で逃げるのは。ドラゴンでも人間でも許されん。
考えろ。考えるんだ、イハリス。
――しばらく離れていてど忘れしちゃって、あははは。って感じは?
これもダメだな。
そもそもいつぶりに会ったのか分からん。
最悪昨日会っていたとかいうケースもあるのに。
見ないうちに美人になっちゃって分からんなー、改めて名前を教えて下さい、お嬢さん。
って格好つけるのも同じ理由で無理か。
どうすりゃいいんだよ! 知人に会うなんてこと全然考えてなかったじゃん。
邪竜の記憶なんてかけらも残ってないのに。
――って、それだっ! あるじゃないか!
「ごめん。じ、じつは……記憶が無いんだ……」
これ以外に思いつかん。こんなに使い古された台詞を使う日が来るとは。
「えっっ!? 記憶が……ないっ!? ほんとですか?」
エルフが少し涙をにじませた両目を見開いて、両手で口を押えた。
心苦しいけど、信じてくれたかな?
ってそんな驚かんでもいいんじゃない?
いや、これが普通なのか。
「信じてもらえないかもしれないけど、そうなんだ。昼ごろに変な食べ物を食べてからなぜか記憶を失ってしまったんだよ」
勢いで言っちゃったけど変な食べ物ってなんなのよ。
イカ焼きか?肉か?
もうちょっとうまい言い訳あったよな。
頭打ったとか。
それはないか。頑丈だしな。
「そ、そんなことが……イハリス様に」
「うん。だから君を見た記憶はかすかにあるんだけど、名前はまったく思い出せない」
ごめん。嘘です。
かけらも見た記憶ない。ちょっとフォローがいるかと思って。
余計なこと言ったか。
「そうだったんですか……イハリス様が記憶を……ほんとに?」
少し細められた目がこちらに向けられる。
だよねー。
疑って当然だわ。そんな簡単に記憶喪失になってたまるかよ。
だが貫き通すしかない。
勢いでGOだ。これからの知人、友人はみんなこれで行くしかない。
「ほ、ほんとほんと。そのせいでさっきまで孤独感に襲われてたんだ。俺を知ってる人に会えてすごく安心した」
ぐすん。
嘘を塗り重ねましたね。ごめんなさい。
ナンパでこんなテクニックなかったっけ?
この寒空の下で出会えたのは運命だ……とかなんとか。
孤独感に襲われてたのは本当だけど。
まあ邪神のせいなんだろうからエルフに罪はない。
「まだ信じられませんけど、ほんとに名前は忘れちゃってるみたいですね……」
「ごめんね。良かったらもう一度教えてくれない? 今度は絶対忘れないから」
脳に刻み付けましょう。
この邪竜イハリスの名にかけて。不名誉な名ですけどなにか?
「はい。なんかちょっと恥ずかしいですけど………エルフのレネアーネです……もう忘れないでくださいね」
いい子じゃん。
めっちゃいい子、レネアーネちゃん。
邪竜さん惚れちゃいそうです。
なんなのこのエルフ。想像以上なんだけど。
名前言ったあとのお辞儀はサービス?
邪竜の視力は流れる髪とか揺れる胸とか全部捕えちゃうんだけど。
俺を悶え殺す気か。
エルフ万歳。
「レネアーネね。絶対忘れない。……で、レネアーネは俺とどんな知り合いなわけ? あっ、ごめん。それも忘れちゃってて」
「悲しいけど、そうだろなあって思ってました」
「うん」
「私は――イハリス様の婚約者です」
「え? ……えぇっ!?」
恥じらうエルフが放った言葉はまったく想定外のものだった。
まずは素早く自然な落下に身を任せ、地面がある程度近付いたら羽ばたく。もちろん周囲に被害が出ないよう最少回数で。
おっと、言うことを聞かない尻尾には十分な注意を払って、と。
ようやくファンタジーの醍醐味が味わえそうです。
ドシンッ、と着地完了。
ほんとにエルフだわ。木の杖っぽいの持ってる。
あのとがった耳、すっごい綺麗な顔立ち。透き通った茶色い瞳。
髪が緑色や金色じゃなくてオレンジっぽい色だけど、それ以外はまさにエルフの特徴をばっちり備えている。
しかも胸がでかい! エルフって確か貧……ゲフンっ。
体のラインが出る民族衣装みたいな服だからまた一段と……おぉ。
これこそファンタジー。
かわいいなー。何歳くらいなんだろ?
でも長寿命の設定多いから見かけどおりじゃない可能性もあるんだよね。
そういえば俺も自分の年齢知らないな。もうどうでもいいけど。どうせ20歳以下じゃないだろうし。
「こんにちは。私は斎藤と申します」
コンニチハーワタシハサイトート――って何普通に話しかけてるの。
エルフに自分の旧名名乗ってどうすんのよ。
その人間は別世界でもう死んだし。
今の俺は邪竜イハリス。こわいドラゴンだから。
だいたい言葉通じないじゃん。
またやっちまった。
考えられんくらいにスムーズに女性に話しかけられたというのに。これも邪竜の性格でしょうか。
色々やっちゃったぞ。
しかも一人で森を歩いてるエルフの前にドシンって。
ないわー。
大きな邪竜出現、捕食ルート間違いなし。
よりにもよってこんな大事な場面でやっちゃったの?
初対面から最悪です。
「こんにちは、イハリス様。どうしてここに?」
「……? 君を見つけたからだけど」
「え?」「は?」
あっれー? 予想外に返事が返ってきたんだけど。
イハリスって名乗らなかったよね?
ちょっと待って。俺の言葉聞こえてるの?
やばい混乱してきたぞ。
「イハリス様?」
鈴を転がすような声とともに疑問を浮かべたエルフが俺を見ている。
ちょっと待って、考え中です。邪竜イハリス考え中。
まず、俺の言葉が通じた。これは間違いない。
人間には通じないのにエルフには通じるのか。それともこの子だけか。
そして、俺は斎藤と名乗ったのにイハリスと知っている。
これは――いや、邪竜として有名だから単に知ってる可能性もある。騎士団だって俺を見かけるなり邪竜イハリスと言ってた。
でもそれならなぜ逃げようとしないんだ?
こわーい邪竜ですよ? 戦う気――なわけないか。
むしろこの子の声から感じるのは親しみ。俺に憧れてるとか。
ないな。
種族違うし。
「大丈夫ですかイハリス様? 具合が悪いのですか?」
さらっさらの肩までの髪を揺らしてエルフが見上げてきた。
お、おう。
良く分かんないけどなんか泣きそうになる。
じんわりと目頭が熱いです。
邪竜の俺にこんなにやさしい言葉をかけてくれたのは君が初めてです。
会っていきなり勇者に斬りかかられたり、嫌われたり、神に遊ばれた俺。
泣きそうです。
もう細かいこと考えるのやめよ。
流れに身を任せるわ。
「ごめん、大丈夫だから。ちょっと嬉しくて」
「嬉しい……ですか?」
「うん。初対面の俺をこんなに心配してくれることが嬉しくて」
「初対面?」
「……?」
「イハリス様? ……私の名前……覚えて……ますよね?」
「……え?」
あなたの名前を言えって?
「俺の名前を言ってみろ」と自己主張のために試してるとかじゃないですよね?
これはもしかして……もしかする?
ザ・知人って感じですか? こんなに嫌われてるのにフレンドリーな知人いるの?
うそーん。
一気に冷静になってきたぞ。
そういえばガキんちょが「絶対いい人だから」的なことを言ってた。
あれはもしや分かっていて会いに行けと言われたのでは?
や、やるな邪竜イハリス。ちょっと見直した。こんな美人さんと知り合いなんて。
もしかして人間以外とは仲良い感じなんでしょうか。
でも俺はどうしたらいいの?
思いっきり話しかけちゃったんだけど。
知り合いだと分かってればもう少し考えたのに。
謝るのも意味不明なんだけど、名前忘れてるって結構失礼じゃない?
それもフレンドリーな感じの人だし、なんとなく一度や二度の出会いって感じじゃないし。
ヘルプミー。
「もしかして……名前忘れちゃったんですか?」
エルフの少女がまつ毛を悲しそうに伏せ、拗ねた子供のような表情を作った。
そんなエルフを見て俺の罪悪感メーターはいきなり振り切っちゃいました。
違うんです。忘れたんじゃなくて、知らないんです。一度も会ったことないの。
人格入れ替わっちゃったんです。
ごめんなさい。
どうしたら分かってもらえる?
転生したなんて絶対信じてもらえないわ。でも正直に言わないと、名前を忘れた理由が説明できん。
邪竜イハリスには記憶力がない……とかどうだ?
ないな。
それなら最初から名前なんて覚えられないはず。
「どうして何も言ってくれないんですか? ほんとに忘れたんですか?」
やめて。
もう泣きそうなんだけど。エルフも俺も。
――に、逃げるってのは?
いやダメだ。こんな状態で逃げるのは。ドラゴンでも人間でも許されん。
考えろ。考えるんだ、イハリス。
――しばらく離れていてど忘れしちゃって、あははは。って感じは?
これもダメだな。
そもそもいつぶりに会ったのか分からん。
最悪昨日会っていたとかいうケースもあるのに。
見ないうちに美人になっちゃって分からんなー、改めて名前を教えて下さい、お嬢さん。
って格好つけるのも同じ理由で無理か。
どうすりゃいいんだよ! 知人に会うなんてこと全然考えてなかったじゃん。
邪竜の記憶なんてかけらも残ってないのに。
――って、それだっ! あるじゃないか!
「ごめん。じ、じつは……記憶が無いんだ……」
これ以外に思いつかん。こんなに使い古された台詞を使う日が来るとは。
「えっっ!? 記憶が……ないっ!? ほんとですか?」
エルフが少し涙をにじませた両目を見開いて、両手で口を押えた。
心苦しいけど、信じてくれたかな?
ってそんな驚かんでもいいんじゃない?
いや、これが普通なのか。
「信じてもらえないかもしれないけど、そうなんだ。昼ごろに変な食べ物を食べてからなぜか記憶を失ってしまったんだよ」
勢いで言っちゃったけど変な食べ物ってなんなのよ。
イカ焼きか?肉か?
もうちょっとうまい言い訳あったよな。
頭打ったとか。
それはないか。頑丈だしな。
「そ、そんなことが……イハリス様に」
「うん。だから君を見た記憶はかすかにあるんだけど、名前はまったく思い出せない」
ごめん。嘘です。
かけらも見た記憶ない。ちょっとフォローがいるかと思って。
余計なこと言ったか。
「そうだったんですか……イハリス様が記憶を……ほんとに?」
少し細められた目がこちらに向けられる。
だよねー。
疑って当然だわ。そんな簡単に記憶喪失になってたまるかよ。
だが貫き通すしかない。
勢いでGOだ。これからの知人、友人はみんなこれで行くしかない。
「ほ、ほんとほんと。そのせいでさっきまで孤独感に襲われてたんだ。俺を知ってる人に会えてすごく安心した」
ぐすん。
嘘を塗り重ねましたね。ごめんなさい。
ナンパでこんなテクニックなかったっけ?
この寒空の下で出会えたのは運命だ……とかなんとか。
孤独感に襲われてたのは本当だけど。
まあ邪神のせいなんだろうからエルフに罪はない。
「まだ信じられませんけど、ほんとに名前は忘れちゃってるみたいですね……」
「ごめんね。良かったらもう一度教えてくれない? 今度は絶対忘れないから」
脳に刻み付けましょう。
この邪竜イハリスの名にかけて。不名誉な名ですけどなにか?
「はい。なんかちょっと恥ずかしいですけど………エルフのレネアーネです……もう忘れないでくださいね」
いい子じゃん。
めっちゃいい子、レネアーネちゃん。
邪竜さん惚れちゃいそうです。
なんなのこのエルフ。想像以上なんだけど。
名前言ったあとのお辞儀はサービス?
邪竜の視力は流れる髪とか揺れる胸とか全部捕えちゃうんだけど。
俺を悶え殺す気か。
エルフ万歳。
「レネアーネね。絶対忘れない。……で、レネアーネは俺とどんな知り合いなわけ? あっ、ごめん。それも忘れちゃってて」
「悲しいけど、そうだろなあって思ってました」
「うん」
「私は――イハリス様の婚約者です」
「え? ……えぇっ!?」
恥じらうエルフが放った言葉はまったく想定外のものだった。
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