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二人で語り合いたいです
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「げっ!」
明らかに魔物がしゃべっていた。
しかも、『竜王』という単語を含んでいる。
確実に正体がばれている。
目の前で白きウーパールーパ―がルミルの手から抜け出して俺の顔を見上げる。
その瞳には強い憧れ。
待てぇい!
もう少しボリューム落とせっ!
声に込める魔力を落とせっ!
ルミルに感づかれるっ!
『僕はウーパードラゴンのウーパーです』
舌足らずの幼い声で能天気な自己紹介をするウーパーに、俺は慌てて腰を折って顔を近づける。
そして、「かわいいなー、こいつ」などとぶつぶつ言いながら、耳がありそうと思われる部分に顔を近づけて、必殺の一言を小声で放つ。
『黙れ』
『――ひっ』
『俺がいいと言うまでしばらく黙っていろ。いいな』
素早く顔を上下させたことを承諾の意思と受け取り、体を硬直させたウーパーを軽く一度撫でてやる。
約束を破ればこの場で殺す――という意味で。
続いて、何とか二人きりになれる言い訳を素早く考える。
もしこの場にリィリかレネアーネがいればフォローしてもらえたかもしれないのに、肝心な時にいないんだから。
「いやー、ほんと可愛い目をしてる。……こいつを見てると俺の研究魂に火がついてしまったぞー。ちょっと二人で語り合いたいな」
「語り合う?」
「ち、ちがっ、違った。言い間違えた。そうだよなー。語り合えるはずないもんなー…………見つめ合いたくなった、の間違いだった」
「見つめ合う?」
「その通り! 気に入ったやつとは、つい見つめ合いたくなるんだ。どこか邪魔の入らない場所で二人で語り――いや、見つめ合いたい。今すぐに! ってことでちょっと部屋に連れていくから」
「ひどいことしない?」
「するかっ! ほんとちょっとだけ見つめ合ってくるだけ! 心配ない。だからルミルは散歩でもしてきてっ! 夜までしてきていいから! じゃあまた後でこいつ返すから!」
「あっ……」
心配そうな表情のルミルを意図的に見ないようにして、俺はベッドの上で固まるウーパーの胴体をがしっと掴む。
『ぐえっ』と一瞬苦しげな声が聞こえた気がしたが、知らないふりだ。
さっさと部屋に連れ込まなければ身の破滅が訪れる。
二階へダッシュ!
***
『で、お前ウーパードラゴンって言ってたっけ? ……なにそれ?』
ベッドに腰掛けた俺は、小さな机に置いた生き物と真正面から見つめ合う。
『初めまして、イハリス様。僕はウーパードラゴンです』
さっき脅してしまったというのにこの生き物の声は弾んでいる。
明らかに俺に対して良い印象を持っている。大変ありがたいことだ。
が、場所はわきまえてほしい。
『だからそれが何なのって聞いてるの。お前ってドラゴンなの? トカゲなの?』
『もちろんドラゴンです。魔法も使えます』
『ほー。体小さいのにすごいのね』
『こう見えてもヴェルザード様の側近を任されていますので』
『ヴェルザード? 誰それ?』
『えっ!? ……さすがにそれは冗談きついです。イハリス様の次に強いと言われるヴェルザード様です。絶息竜――知らないはずがないです』
『そ、そうだったね…………もちろん知ってる。絶息竜ね……その名前聞いたの久しぶりだなー……ほんと……』
絶息竜ヴェルザード?
名前こわっ!
邪竜よりよっぽど怖い。
出会ったら死あるのみ、みたいな?
俺の次に強いって言われるドラゴンとかマジやばいのでは? 呼吸するみたいにヴェルザードレールガンとか使えるドラゴンだろ?
やばいぞ。これは生死の問題になる。
何とか争いは回避しないと……。
待て。このウーパー、ヴェルザードの側近をやってるって言ってなかったか?
げっ、思いっきり脅迫してしまった。しかも乱暴に掴んでしまったぞ。
今からでも下手に出た方がいいか?
『久しぶりですか? ほんの数十年前にイハリス様と戦いましたけど』
もう戦っちゃってるのね。
さらりと言ってるけど俺に恨みがあるとかじゃないだろうな?
『……そ、そうだっけ? ……そうかー、あいつと戦ってからまだそれくらいだったかー……ど、どんな感じの戦いだったかなー?』
『記憶に残らないくらいなんですね。さすがは竜王様です。ヴェルザード様の側近としては複雑ですけど』
『そういうお世辞はいいって……で、どんな感じだったかな?』
『それはもう苛烈なものでした。あっ、僕からすればですよ? ヴェルザード様のフレアノヴァで山が吹き飛んでましたし』
『ほ、ほー……それは強烈すぎる……ね』
『イハリス様だって、湖を丸ごと蒸発させたじゃないですか』
『……そうだったかなー、あんま覚えてないなー』
『やっぱり大物です。あんな戦いでは満足できないんですね』
『も、もうこの話やめよっか……あんま楽しくないし……で、ウーパーはここに何しに来たわけ?』
淀みなく会話していたウーパーの動きがぴたりと止まる。
何か話しにくいことがあるのだろうか。
『ちょっと用事がありまして。お城に潜入しようとして強い人間の集団にやられたんです。でも休憩すれば次こそは……』
『何でお城に?』
『……僕の目的がそこだからです』
『ふーん。詳しく話す気ないみたいだけど、要はやられて逃げてきたってことだろ?』
『……』
『やめとけって。次は死ぬかもしれないぞ? 誰だって敵には容赦しないの知ってるだろ?』
『あの城に侵入しないとダメなんです』
『死ぬまでか?』
『情報さえ手に入ればいいんです』
『なら少しは様子伺ったりしたらどうなの? 今突っ込んでも警備も厳重でしょ?』
『ですが……』
『命の危険があるわけ? ……探し物か? 探し人か?』
『……人です』
『時間が経つとまずいの?』
『いえ……あの人を人間がどうこうできるわけがありません』
『ならまずは様子見ろって。うちに一人、国に出入りできそうな子もいるし』
『ほんとですかっ!?』
『うん』
ちょっと待てよ。
これって流していい情報だったか?
普通にしゃべっちゃったけど、よく考えたらこいつのやってることってテロリスト同然では?
……国家転覆罪とか。
クリニックにテロリストかくまっている場合はどうなんだ?
まずいよね?
でももう教えちゃった……ごめんなさい。
せめてウーパーが侵入する時は俺も変装して被害出ないように頑張るから……国王様、許してください。
邪竜に悪気はないんです。ほんと。
『まあ、当分ここにいたら? 顔見られたの?』
『変身してたんでそれは大丈夫ですけど、竜王様に迷惑がかかるのでは?』
『心配すんな。そんな小さな迷惑なら何でもない。うちにはもっと大いなる災いがいるから』
『大いなる災い……ですか?』
『うん。でも、いくつか約束もしてもらうぞ。この家も人間が出入りするからね。それと刃向ったらダメなやつらがいるから……』
『竜王様のことですね? もちろん約束します。ですが……』
『分かってるよ。情報が入れば欲しい、だろ? ギルドでもそれとなく聞いてやる。……そんで? どんな人間の情報だ?』
『人間ではないです。……欲しいのは、この国の守護竜の情報です』
『は?』
守護竜なんているの?
昔、俺がなろうとしてたポジションがあるの?
***
「よいしょっと」
カウンターの上に、庭で余っていた木箱のフタを一つ乗せた。
その上には厚めの毛布が敷いてある。
何を隠そう、この上がウーパースペースだ。
ちなみにルミルは本当に散歩にでも出かけたのか一階にはいない。
……よく分からない子です。
『寝床まで……助かります』
『遠慮すんな。食べ物はなんでもいいのか? 炭はいける?』
『炭ですか? ……魔力がふくまれてるなら大丈夫だと思いますけど……竜王様は炭をいつも食べているんですか?』
『そんなわけないだろ』
両手で体を持って、毛布の中に優しく置く。
今後のことを考えて、絶息竜ヴェルザードの側近に恩を売っておこう――そんないやしい算段もしております。
ついでに、さらりとレネアーネの手作り料理も押し付けられないか確認しちゃいました。
『言ったとおり、この店には怖いリッチとエルフがいるから……そいつらには決して刃向うな』
『竜王様より凶暴な二人……わかりました。でもその方々とはしゃべってもいいんですよね?』
『いいぞ。ルミルっていうお前を運んできた子がいなければ構わん。それと……来た客への危害は厳禁だから』
『はい。じゃあしばらくここでお世話になります』
こうして、クリニックに新たな住人が加わることになりました。
カウンター横の四角いスペースで寝ているのでたまに声かけてあげてくださいね。
たぶん、「キュー」って鳴くはずです。
……そう演技させとけば人気出るかなっていう邪竜の浅知恵です。
明らかに魔物がしゃべっていた。
しかも、『竜王』という単語を含んでいる。
確実に正体がばれている。
目の前で白きウーパールーパ―がルミルの手から抜け出して俺の顔を見上げる。
その瞳には強い憧れ。
待てぇい!
もう少しボリューム落とせっ!
声に込める魔力を落とせっ!
ルミルに感づかれるっ!
『僕はウーパードラゴンのウーパーです』
舌足らずの幼い声で能天気な自己紹介をするウーパーに、俺は慌てて腰を折って顔を近づける。
そして、「かわいいなー、こいつ」などとぶつぶつ言いながら、耳がありそうと思われる部分に顔を近づけて、必殺の一言を小声で放つ。
『黙れ』
『――ひっ』
『俺がいいと言うまでしばらく黙っていろ。いいな』
素早く顔を上下させたことを承諾の意思と受け取り、体を硬直させたウーパーを軽く一度撫でてやる。
約束を破ればこの場で殺す――という意味で。
続いて、何とか二人きりになれる言い訳を素早く考える。
もしこの場にリィリかレネアーネがいればフォローしてもらえたかもしれないのに、肝心な時にいないんだから。
「いやー、ほんと可愛い目をしてる。……こいつを見てると俺の研究魂に火がついてしまったぞー。ちょっと二人で語り合いたいな」
「語り合う?」
「ち、ちがっ、違った。言い間違えた。そうだよなー。語り合えるはずないもんなー…………見つめ合いたくなった、の間違いだった」
「見つめ合う?」
「その通り! 気に入ったやつとは、つい見つめ合いたくなるんだ。どこか邪魔の入らない場所で二人で語り――いや、見つめ合いたい。今すぐに! ってことでちょっと部屋に連れていくから」
「ひどいことしない?」
「するかっ! ほんとちょっとだけ見つめ合ってくるだけ! 心配ない。だからルミルは散歩でもしてきてっ! 夜までしてきていいから! じゃあまた後でこいつ返すから!」
「あっ……」
心配そうな表情のルミルを意図的に見ないようにして、俺はベッドの上で固まるウーパーの胴体をがしっと掴む。
『ぐえっ』と一瞬苦しげな声が聞こえた気がしたが、知らないふりだ。
さっさと部屋に連れ込まなければ身の破滅が訪れる。
二階へダッシュ!
***
『で、お前ウーパードラゴンって言ってたっけ? ……なにそれ?』
ベッドに腰掛けた俺は、小さな机に置いた生き物と真正面から見つめ合う。
『初めまして、イハリス様。僕はウーパードラゴンです』
さっき脅してしまったというのにこの生き物の声は弾んでいる。
明らかに俺に対して良い印象を持っている。大変ありがたいことだ。
が、場所はわきまえてほしい。
『だからそれが何なのって聞いてるの。お前ってドラゴンなの? トカゲなの?』
『もちろんドラゴンです。魔法も使えます』
『ほー。体小さいのにすごいのね』
『こう見えてもヴェルザード様の側近を任されていますので』
『ヴェルザード? 誰それ?』
『えっ!? ……さすがにそれは冗談きついです。イハリス様の次に強いと言われるヴェルザード様です。絶息竜――知らないはずがないです』
『そ、そうだったね…………もちろん知ってる。絶息竜ね……その名前聞いたの久しぶりだなー……ほんと……』
絶息竜ヴェルザード?
名前こわっ!
邪竜よりよっぽど怖い。
出会ったら死あるのみ、みたいな?
俺の次に強いって言われるドラゴンとかマジやばいのでは? 呼吸するみたいにヴェルザードレールガンとか使えるドラゴンだろ?
やばいぞ。これは生死の問題になる。
何とか争いは回避しないと……。
待て。このウーパー、ヴェルザードの側近をやってるって言ってなかったか?
げっ、思いっきり脅迫してしまった。しかも乱暴に掴んでしまったぞ。
今からでも下手に出た方がいいか?
『久しぶりですか? ほんの数十年前にイハリス様と戦いましたけど』
もう戦っちゃってるのね。
さらりと言ってるけど俺に恨みがあるとかじゃないだろうな?
『……そ、そうだっけ? ……そうかー、あいつと戦ってからまだそれくらいだったかー……ど、どんな感じの戦いだったかなー?』
『記憶に残らないくらいなんですね。さすがは竜王様です。ヴェルザード様の側近としては複雑ですけど』
『そういうお世辞はいいって……で、どんな感じだったかな?』
『それはもう苛烈なものでした。あっ、僕からすればですよ? ヴェルザード様のフレアノヴァで山が吹き飛んでましたし』
『ほ、ほー……それは強烈すぎる……ね』
『イハリス様だって、湖を丸ごと蒸発させたじゃないですか』
『……そうだったかなー、あんま覚えてないなー』
『やっぱり大物です。あんな戦いでは満足できないんですね』
『も、もうこの話やめよっか……あんま楽しくないし……で、ウーパーはここに何しに来たわけ?』
淀みなく会話していたウーパーの動きがぴたりと止まる。
何か話しにくいことがあるのだろうか。
『ちょっと用事がありまして。お城に潜入しようとして強い人間の集団にやられたんです。でも休憩すれば次こそは……』
『何でお城に?』
『……僕の目的がそこだからです』
『ふーん。詳しく話す気ないみたいだけど、要はやられて逃げてきたってことだろ?』
『……』
『やめとけって。次は死ぬかもしれないぞ? 誰だって敵には容赦しないの知ってるだろ?』
『あの城に侵入しないとダメなんです』
『死ぬまでか?』
『情報さえ手に入ればいいんです』
『なら少しは様子伺ったりしたらどうなの? 今突っ込んでも警備も厳重でしょ?』
『ですが……』
『命の危険があるわけ? ……探し物か? 探し人か?』
『……人です』
『時間が経つとまずいの?』
『いえ……あの人を人間がどうこうできるわけがありません』
『ならまずは様子見ろって。うちに一人、国に出入りできそうな子もいるし』
『ほんとですかっ!?』
『うん』
ちょっと待てよ。
これって流していい情報だったか?
普通にしゃべっちゃったけど、よく考えたらこいつのやってることってテロリスト同然では?
……国家転覆罪とか。
クリニックにテロリストかくまっている場合はどうなんだ?
まずいよね?
でももう教えちゃった……ごめんなさい。
せめてウーパーが侵入する時は俺も変装して被害出ないように頑張るから……国王様、許してください。
邪竜に悪気はないんです。ほんと。
『まあ、当分ここにいたら? 顔見られたの?』
『変身してたんでそれは大丈夫ですけど、竜王様に迷惑がかかるのでは?』
『心配すんな。そんな小さな迷惑なら何でもない。うちにはもっと大いなる災いがいるから』
『大いなる災い……ですか?』
『うん。でも、いくつか約束もしてもらうぞ。この家も人間が出入りするからね。それと刃向ったらダメなやつらがいるから……』
『竜王様のことですね? もちろん約束します。ですが……』
『分かってるよ。情報が入れば欲しい、だろ? ギルドでもそれとなく聞いてやる。……そんで? どんな人間の情報だ?』
『人間ではないです。……欲しいのは、この国の守護竜の情報です』
『は?』
守護竜なんているの?
昔、俺がなろうとしてたポジションがあるの?
***
「よいしょっと」
カウンターの上に、庭で余っていた木箱のフタを一つ乗せた。
その上には厚めの毛布が敷いてある。
何を隠そう、この上がウーパースペースだ。
ちなみにルミルは本当に散歩にでも出かけたのか一階にはいない。
……よく分からない子です。
『寝床まで……助かります』
『遠慮すんな。食べ物はなんでもいいのか? 炭はいける?』
『炭ですか? ……魔力がふくまれてるなら大丈夫だと思いますけど……竜王様は炭をいつも食べているんですか?』
『そんなわけないだろ』
両手で体を持って、毛布の中に優しく置く。
今後のことを考えて、絶息竜ヴェルザードの側近に恩を売っておこう――そんないやしい算段もしております。
ついでに、さらりとレネアーネの手作り料理も押し付けられないか確認しちゃいました。
『言ったとおり、この店には怖いリッチとエルフがいるから……そいつらには決して刃向うな』
『竜王様より凶暴な二人……わかりました。でもその方々とはしゃべってもいいんですよね?』
『いいぞ。ルミルっていうお前を運んできた子がいなければ構わん。それと……来た客への危害は厳禁だから』
『はい。じゃあしばらくここでお世話になります』
こうして、クリニックに新たな住人が加わることになりました。
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……そう演技させとけば人気出るかなっていう邪竜の浅知恵です。
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