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I'll be back
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「全員、淵にあがるんじゃ!」
リオが湖に向かって大声を張り上げた。
すると、大きなカエルやら小さなエビやら、1メートル以上ありそうな大型の魚やらが次々と外に跳ねて出てくる。
リオのように三点立ちができない魚はぴちぴち跳ねて水から上がっていく。
「な、何が起こってるわけ?」
「ん?さすがにお前さんに凍らされるとまずいじゃろ?」
「いや……そういうんじゃなくて……普通の魚とかいないの?」
「普通?良くわからんが、この湖はわしが管理しとるんじゃぞ。全員が眷属じゃし、将来の水の精霊候補じゃ」
「……じゃあヌー族の一件でひっくり返ってたカエルもここ出身?」
「当然じゃ。この湖のやつらはいずれわしのように精霊になって外に出ていく。膨大な時間がかかるがの」
「そ……そうなんだー。全員がしゃべる魚とかエビになるのね……」
「おっ、避難が終わったぞ。遠慮なく凍らせてくれて構わん」
さあどうぞ、と言わんばかりのリオはびしっとヒレを湖に向ける。
わざわざこんな場を用意してくれた俺は是非もない。
俺のために深夜に手伝ってくれる皆さんに心の底から感謝して――
爪先を水面に当てる。
「永久凍土」
ぼそりとつぶやき、未来永劫融解することのない氷をイメージして膨大な魔力を注ぎ込んだ。
最初は小さく音がした。
パシッという霜を踏んだような音。
続いてネズミ算式にその一か所の周囲が凍る。
さらにその外側が凍る。
見る間に白い冷気が立ち上りはじめ、魔力を受け取った湖は己の意思でその領域を一気に広げるように変化していく。
深さは不明。
広さも不明。
だが俺の指先には、確実にこの湖が一瞬で死の世界として完成したことが伝わってきた。
「……さすがじゃの。この水量をこうまで……」
隣で息を呑むリオが感嘆の声を上げた。
淵に上がった生き物たちも各々のやり方で賞賛っぽい動作をしてくれている。
跳ねたり、ゲロゲロ鳴いたり、ハサミをちょきちょき動かしたり。
とても賑やかな夜だ。
「では、溶かしてもらおうかの」
「えっ?」
「こんな程度でお主の溜まった魔力は放出しきれんじゃろ?さあ、溶かしてくれい」
「と、溶かすの?」
「溶かして、また凍らせるんじゃ。繰り返しての」
「そ、そんなに?」
「一番森に被害が出ないじゃろ?範囲も限定できるしの。遠距離魔法が使えれば空にでも撃つんじゃが……無理じゃろ?」
「うん……」
「ほら、早く。あんまり時間をかけるとうちの精霊候補が干上がってしまう」
「……了解。じゃあ……行くぞぉぉぉーーーーっ!」
その後、何度繰り返したことか。
体が軽くなったとふと気づいた時には、一部の小さな魚は水不足ですでにピンチに陥っているほどだった。
心からお詫び申し上げます。
そして、ご協力ありがとうございました。
カナタは復活しました。
***
人間フォームに戻った俺はリオと並んで湖を眺める。
山間の表情は徐々に変わり始めている。
この森から見る朝日はさぞ綺麗だろう。
「リオ、助かったよ」
「それを言うならやつらに言ってくれい」
リオの視線の先では様々な生物が水から顔を出している。
表情はよくわからないのに笑顔に見えた。
「みんなもありがとなー」
俺のお礼を聞いて、全員が湖の中に潜る。
良いやつらだ。
「お前さんの体はこれで戻ったの」
「体はな……」
「なんじゃ?まだ何かあるのか?」
「……変身した時に色んなものを壊しちゃって……」
「何かと思えばそんなことかの」
「そんなことって……結構重い話なんだけど。世話になった人の店も混じってるし」
「お前さんらしくないのー。壊れたなら直せば良いじゃろ?」
「直す……ね」
できればすぐにそうしている。
神技『創造と消滅』を使えば家一軒建てるくらいはできると思う。
ただ、家の構造に詳しくない以上、きちんとしたものを組み立てられるかの自信が無い。
住んでいるうちに倒壊しましたでは話にならないのだ。
扉とか窓ガラスくらいの部品なら作れそうなのだが。
「数軒分の家を建てる金は無いしな……」
どれくらい必要になるか想像もつかない。
まさか異世界に地震保険とか火災保険が充実しているとは思えないし。
せいぜい全壊による見舞金が国から少し至急されるくらいだろうか。
――とても足りないね。
「家を壊したのか?」
「うん……」
「建てなおせば良いじゃろ」
「それは分かってるけど、俺って専門家じゃないし」
「なら詳しいやつにさせれば良い」
「うーん……理屈はその通りだけど、そんな知り合いが街にいないんだよ。家を建てるって結構専門職だし、俺の周りは戦闘特化のやつばっかだし」
「……お主、さっきから後ろ向きすぎるの。お前さんは竜王じゃぞ?力も名前も持っとる。ならばあとは動くだけじゃろ?」
「ありがとな。リオの言う通りだ。でもな……」
「おるぞ」
「……ん?」
「人間に憧れてバカみたいに人間の街を研究しておるやつらが。自分たちで家を建てるなんぞ当たり前にやっとるやつらが」
「…………それって……」
「デーモンゴリラじゃ。お主にも舎弟がおるじゃろ」
――そういえば、そんな舎弟いたな。ゴリモンド……だったと思う。
確か全力で拒否した記憶があるけど。
そういえばレネアーネの家もあいつらに作らせたとか……言ってたな。
「ほれ、では行くぞ」
「えっ……行くってどこへ?」
「デーモンゴリラの集落に決まっとるじゃろ。決めたらすぐ行動がお前さんの信条じゃないのかの?」
ぼうっと呆ける俺を置いて、アクアリオがふわりと宙に浮かび上がった。
とてもフットワークの軽い精霊だ。
***
デーモンゴリラの朝は早く、日の昇らないうちから木の実やイノシシといった森の恵みを集めに森へ出掛けるらしい。
リオからの受け売りだ。
だが、そんなゴリラの生活習慣はともかく、目的地に付いた俺は大きく目を見張った。
目から鱗の衝撃。
そこは人間の街となんら変わらぬ建物が所狭しと建っていたのだ。
森を切り開き、整地し、頑丈な住居を建てる。
人間がしていることをこのゴリラ達は当たり前にこなしていた。
「す、すげーな」
「わしは賛同せんがの。木々を無為に切り倒してしまう行為はの。じゃが、このゴリラの技術は確かじゃ」
「……うん」
「おっ、来たようじゃな」
集落の中央を数匹のゴリラが歩いてくる。
正直、ゴリラの顔などまったく区別がつかないのだが、あの貫録と腕組みの偉そうなゴリラはおそらくリーダー。
……名前なんだっけ?
「またあんたか。今日は爆撃はしないのか?」
イハリスレールガンを間近に受けたことをまだ根に持っているのだろうか。
一言目から皮肉とは。
そして相変わらず変な服の着方をしている。
ぴちぴちのシャツだったり下着だったり……あまり近付きたくはない風貌だ。
「りゅうぉうさまー!まさかおれっちを迎えに!?」
暑苦しい一際大きいゴリラがリーダーの横から歩み出てきた。
こいつがゴリモンド…………たぶん。おそらく。
うわっ、髪にピンクのメッシュが入ってるんだけど。
完全にチンピラじゃん。
「竜王イハリス殿がお前さんらに話があるそうじゃ」
リオが俺を紹介するだけして、後ろに下がる。
素晴らしい司会ぶりなんだけど、まだ心の準備がね……。
「竜王様が俺たちに話だと?……まさかここを出ていけっていうわけじゃねーだろうな?」
「ゴリマーさん、それはないっすよ。絶対おれっちを連れて行く気になってくれたって話ですわ」
「ゴリモンドは黙れ」
「……へい」
相変わらずの色んな意味での威圧感。
名前はゴリマーだったのね。忘れてたわ。
でもこいつらに俺のやらかしたことを説明するのやだなー。
リオならともかく、ゴリラ軍団にはなー。
うん……結論だけにしとこ。
できるだけ偉そうにした方が効果的かな。
こういうやつらって下手に出るとなめられるって聞くし。
「デーモンゴリラよ。お前たちに家を建ててもらいたい。場所は……人間の街の中だ」
段々と集まってきているデーモンゴリラの間に大きなざわめきが起こる。
だが、言い切ってやったぞ。
――って言葉にしたら無茶苦茶だな。
そんなのやってくれるわけないじゃん。
自分でも無理あるって思うわ。
魔物が人間の街に侵入して家を建てて帰るって……どんな一夜城だ。
下手すれば討伐されるってのに。ハードルが高すぎる。
これ無理だと思う。
けど――
「何軒だ?」
「えっ……」
「人間の街に作るんだろ?……何軒だ?」
「……たぶん10軒程度……かな?」
なぜかゴリマーの目が輝いている気がする。
いや、その周囲も同様だ。
浮足立った軍団って感じ。
なんで?
「10軒もか……」
「……多い?」
「ああ、多いな」
「だよな。人間の街に侵入するだけで命狙われるしなー……無理か」
「無理じゃねぇーっ!」
突然森に響き渡ったゴリラの咆哮に思わず身をすくめる。
「なんて仕事だ。人間の街に俺たちの作品を残せるとは……デーモンゴリラの名にかけて最高の物を作ってやる」
「え……でも命の危険が……」
「そんなものは関係ない!またとないチャンスだ。竜王様の許可を得て堂々と街に入れるうえ、家すら残せるとは。全力で作業に当たると誓おう」
俺は別に許可してないけど……なんかやる気になってるぞ。
でも、さすがに命の危険まで冒してやらせる仕事か不安になってきた。
壊したの俺だし。
やばい。
やっぱり撤回しよう。別の方法を考えるべきだ。
良く考えたらこんなの群れで侵入したら大事件だわ。
デーモンゴリラの襲撃なんてドラゴンナイトもスクランブル発進間違いなし。
騎士団だっていい迷惑じゃん。
「あ、やっぱ――」
「だが、危険は危険。報酬は貰うぞ?」
「ほ、報酬?」
「ああ……そこまで人間の街に入れ込んでいないやつもいる。だが、そんなやつらも服にはうるさい。正直なところ冒険者のものを奪うだけでは足りないんだ。だから――服が欲しい」
「デーモンゴリラが服を?」
「そうだ。今も上下揃わない中途半端なやつらがいる。少しでも構わない。せっかく街に入れるんだ。是非調達したい。それで命を賭けて家の建築を請け負おう」
いやいや、冒険者の服を奪うなよ。
だからお前らは危険って認識なんだよ。
やっぱだめだ。
「話はまとまったようじゃの。では竜王殿は服を報酬に、デーモンゴリラは命がけで家を建てる。良いの?」
「ああ。文句は無い。最高のものを建てよう」
おいーーっ、リオぉぉぉ!
勝手に話進めるんじゃない。
危険すぎるって。
ゴリラも命賭けてまでやる仕事じゃないからっ!
服も無いー!
「先に言っとくがの……その10軒の中には竜王殿の家も含まれとるぞ」
「なにっ!?りゅ、竜王様が俺たちの建てた家に……」
一際大きなざわめきが、一つのうねりになって後方へと続いていく。
ライブ会場で起こるウェーブのようだ。
って、さらに後に引けない状況になってきた……。
「何がなんでも成功させなきゃならんようだな」
それを聞いて男臭い笑みを見せるゴリマーだが、そんな覚悟はいらないの。
いや、わかるよ。
こんなドジやらかした俺のためにって奮い立ってくれたんでしょ?
嬉しい。
すごく嬉しいんだけど……どこかずれている。
あっ、どうにもならない予感がしてきた。
リオが湖に向かって大声を張り上げた。
すると、大きなカエルやら小さなエビやら、1メートル以上ありそうな大型の魚やらが次々と外に跳ねて出てくる。
リオのように三点立ちができない魚はぴちぴち跳ねて水から上がっていく。
「な、何が起こってるわけ?」
「ん?さすがにお前さんに凍らされるとまずいじゃろ?」
「いや……そういうんじゃなくて……普通の魚とかいないの?」
「普通?良くわからんが、この湖はわしが管理しとるんじゃぞ。全員が眷属じゃし、将来の水の精霊候補じゃ」
「……じゃあヌー族の一件でひっくり返ってたカエルもここ出身?」
「当然じゃ。この湖のやつらはいずれわしのように精霊になって外に出ていく。膨大な時間がかかるがの」
「そ……そうなんだー。全員がしゃべる魚とかエビになるのね……」
「おっ、避難が終わったぞ。遠慮なく凍らせてくれて構わん」
さあどうぞ、と言わんばかりのリオはびしっとヒレを湖に向ける。
わざわざこんな場を用意してくれた俺は是非もない。
俺のために深夜に手伝ってくれる皆さんに心の底から感謝して――
爪先を水面に当てる。
「永久凍土」
ぼそりとつぶやき、未来永劫融解することのない氷をイメージして膨大な魔力を注ぎ込んだ。
最初は小さく音がした。
パシッという霜を踏んだような音。
続いてネズミ算式にその一か所の周囲が凍る。
さらにその外側が凍る。
見る間に白い冷気が立ち上りはじめ、魔力を受け取った湖は己の意思でその領域を一気に広げるように変化していく。
深さは不明。
広さも不明。
だが俺の指先には、確実にこの湖が一瞬で死の世界として完成したことが伝わってきた。
「……さすがじゃの。この水量をこうまで……」
隣で息を呑むリオが感嘆の声を上げた。
淵に上がった生き物たちも各々のやり方で賞賛っぽい動作をしてくれている。
跳ねたり、ゲロゲロ鳴いたり、ハサミをちょきちょき動かしたり。
とても賑やかな夜だ。
「では、溶かしてもらおうかの」
「えっ?」
「こんな程度でお主の溜まった魔力は放出しきれんじゃろ?さあ、溶かしてくれい」
「と、溶かすの?」
「溶かして、また凍らせるんじゃ。繰り返しての」
「そ、そんなに?」
「一番森に被害が出ないじゃろ?範囲も限定できるしの。遠距離魔法が使えれば空にでも撃つんじゃが……無理じゃろ?」
「うん……」
「ほら、早く。あんまり時間をかけるとうちの精霊候補が干上がってしまう」
「……了解。じゃあ……行くぞぉぉぉーーーーっ!」
その後、何度繰り返したことか。
体が軽くなったとふと気づいた時には、一部の小さな魚は水不足ですでにピンチに陥っているほどだった。
心からお詫び申し上げます。
そして、ご協力ありがとうございました。
カナタは復活しました。
***
人間フォームに戻った俺はリオと並んで湖を眺める。
山間の表情は徐々に変わり始めている。
この森から見る朝日はさぞ綺麗だろう。
「リオ、助かったよ」
「それを言うならやつらに言ってくれい」
リオの視線の先では様々な生物が水から顔を出している。
表情はよくわからないのに笑顔に見えた。
「みんなもありがとなー」
俺のお礼を聞いて、全員が湖の中に潜る。
良いやつらだ。
「お前さんの体はこれで戻ったの」
「体はな……」
「なんじゃ?まだ何かあるのか?」
「……変身した時に色んなものを壊しちゃって……」
「何かと思えばそんなことかの」
「そんなことって……結構重い話なんだけど。世話になった人の店も混じってるし」
「お前さんらしくないのー。壊れたなら直せば良いじゃろ?」
「直す……ね」
できればすぐにそうしている。
神技『創造と消滅』を使えば家一軒建てるくらいはできると思う。
ただ、家の構造に詳しくない以上、きちんとしたものを組み立てられるかの自信が無い。
住んでいるうちに倒壊しましたでは話にならないのだ。
扉とか窓ガラスくらいの部品なら作れそうなのだが。
「数軒分の家を建てる金は無いしな……」
どれくらい必要になるか想像もつかない。
まさか異世界に地震保険とか火災保険が充実しているとは思えないし。
せいぜい全壊による見舞金が国から少し至急されるくらいだろうか。
――とても足りないね。
「家を壊したのか?」
「うん……」
「建てなおせば良いじゃろ」
「それは分かってるけど、俺って専門家じゃないし」
「なら詳しいやつにさせれば良い」
「うーん……理屈はその通りだけど、そんな知り合いが街にいないんだよ。家を建てるって結構専門職だし、俺の周りは戦闘特化のやつばっかだし」
「……お主、さっきから後ろ向きすぎるの。お前さんは竜王じゃぞ?力も名前も持っとる。ならばあとは動くだけじゃろ?」
「ありがとな。リオの言う通りだ。でもな……」
「おるぞ」
「……ん?」
「人間に憧れてバカみたいに人間の街を研究しておるやつらが。自分たちで家を建てるなんぞ当たり前にやっとるやつらが」
「…………それって……」
「デーモンゴリラじゃ。お主にも舎弟がおるじゃろ」
――そういえば、そんな舎弟いたな。ゴリモンド……だったと思う。
確か全力で拒否した記憶があるけど。
そういえばレネアーネの家もあいつらに作らせたとか……言ってたな。
「ほれ、では行くぞ」
「えっ……行くってどこへ?」
「デーモンゴリラの集落に決まっとるじゃろ。決めたらすぐ行動がお前さんの信条じゃないのかの?」
ぼうっと呆ける俺を置いて、アクアリオがふわりと宙に浮かび上がった。
とてもフットワークの軽い精霊だ。
***
デーモンゴリラの朝は早く、日の昇らないうちから木の実やイノシシといった森の恵みを集めに森へ出掛けるらしい。
リオからの受け売りだ。
だが、そんなゴリラの生活習慣はともかく、目的地に付いた俺は大きく目を見張った。
目から鱗の衝撃。
そこは人間の街となんら変わらぬ建物が所狭しと建っていたのだ。
森を切り開き、整地し、頑丈な住居を建てる。
人間がしていることをこのゴリラ達は当たり前にこなしていた。
「す、すげーな」
「わしは賛同せんがの。木々を無為に切り倒してしまう行為はの。じゃが、このゴリラの技術は確かじゃ」
「……うん」
「おっ、来たようじゃな」
集落の中央を数匹のゴリラが歩いてくる。
正直、ゴリラの顔などまったく区別がつかないのだが、あの貫録と腕組みの偉そうなゴリラはおそらくリーダー。
……名前なんだっけ?
「またあんたか。今日は爆撃はしないのか?」
イハリスレールガンを間近に受けたことをまだ根に持っているのだろうか。
一言目から皮肉とは。
そして相変わらず変な服の着方をしている。
ぴちぴちのシャツだったり下着だったり……あまり近付きたくはない風貌だ。
「りゅうぉうさまー!まさかおれっちを迎えに!?」
暑苦しい一際大きいゴリラがリーダーの横から歩み出てきた。
こいつがゴリモンド…………たぶん。おそらく。
うわっ、髪にピンクのメッシュが入ってるんだけど。
完全にチンピラじゃん。
「竜王イハリス殿がお前さんらに話があるそうじゃ」
リオが俺を紹介するだけして、後ろに下がる。
素晴らしい司会ぶりなんだけど、まだ心の準備がね……。
「竜王様が俺たちに話だと?……まさかここを出ていけっていうわけじゃねーだろうな?」
「ゴリマーさん、それはないっすよ。絶対おれっちを連れて行く気になってくれたって話ですわ」
「ゴリモンドは黙れ」
「……へい」
相変わらずの色んな意味での威圧感。
名前はゴリマーだったのね。忘れてたわ。
でもこいつらに俺のやらかしたことを説明するのやだなー。
リオならともかく、ゴリラ軍団にはなー。
うん……結論だけにしとこ。
できるだけ偉そうにした方が効果的かな。
こういうやつらって下手に出るとなめられるって聞くし。
「デーモンゴリラよ。お前たちに家を建ててもらいたい。場所は……人間の街の中だ」
段々と集まってきているデーモンゴリラの間に大きなざわめきが起こる。
だが、言い切ってやったぞ。
――って言葉にしたら無茶苦茶だな。
そんなのやってくれるわけないじゃん。
自分でも無理あるって思うわ。
魔物が人間の街に侵入して家を建てて帰るって……どんな一夜城だ。
下手すれば討伐されるってのに。ハードルが高すぎる。
これ無理だと思う。
けど――
「何軒だ?」
「えっ……」
「人間の街に作るんだろ?……何軒だ?」
「……たぶん10軒程度……かな?」
なぜかゴリマーの目が輝いている気がする。
いや、その周囲も同様だ。
浮足立った軍団って感じ。
なんで?
「10軒もか……」
「……多い?」
「ああ、多いな」
「だよな。人間の街に侵入するだけで命狙われるしなー……無理か」
「無理じゃねぇーっ!」
突然森に響き渡ったゴリラの咆哮に思わず身をすくめる。
「なんて仕事だ。人間の街に俺たちの作品を残せるとは……デーモンゴリラの名にかけて最高の物を作ってやる」
「え……でも命の危険が……」
「そんなものは関係ない!またとないチャンスだ。竜王様の許可を得て堂々と街に入れるうえ、家すら残せるとは。全力で作業に当たると誓おう」
俺は別に許可してないけど……なんかやる気になってるぞ。
でも、さすがに命の危険まで冒してやらせる仕事か不安になってきた。
壊したの俺だし。
やばい。
やっぱり撤回しよう。別の方法を考えるべきだ。
良く考えたらこんなの群れで侵入したら大事件だわ。
デーモンゴリラの襲撃なんてドラゴンナイトもスクランブル発進間違いなし。
騎士団だっていい迷惑じゃん。
「あ、やっぱ――」
「だが、危険は危険。報酬は貰うぞ?」
「ほ、報酬?」
「ああ……そこまで人間の街に入れ込んでいないやつもいる。だが、そんなやつらも服にはうるさい。正直なところ冒険者のものを奪うだけでは足りないんだ。だから――服が欲しい」
「デーモンゴリラが服を?」
「そうだ。今も上下揃わない中途半端なやつらがいる。少しでも構わない。せっかく街に入れるんだ。是非調達したい。それで命を賭けて家の建築を請け負おう」
いやいや、冒険者の服を奪うなよ。
だからお前らは危険って認識なんだよ。
やっぱだめだ。
「話はまとまったようじゃの。では竜王殿は服を報酬に、デーモンゴリラは命がけで家を建てる。良いの?」
「ああ。文句は無い。最高のものを建てよう」
おいーーっ、リオぉぉぉ!
勝手に話進めるんじゃない。
危険すぎるって。
ゴリラも命賭けてまでやる仕事じゃないからっ!
服も無いー!
「先に言っとくがの……その10軒の中には竜王殿の家も含まれとるぞ」
「なにっ!?りゅ、竜王様が俺たちの建てた家に……」
一際大きなざわめきが、一つのうねりになって後方へと続いていく。
ライブ会場で起こるウェーブのようだ。
って、さらに後に引けない状況になってきた……。
「何がなんでも成功させなきゃならんようだな」
それを聞いて男臭い笑みを見せるゴリマーだが、そんな覚悟はいらないの。
いや、わかるよ。
こんなドジやらかした俺のためにって奮い立ってくれたんでしょ?
嬉しい。
すごく嬉しいんだけど……どこかずれている。
あっ、どうにもならない予感がしてきた。
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