無自覚無敵のやりすぎファーマー~つき合う妖精は大変です~

深田くれと

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やりすぎファーマーは色々と考える

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「あなた……主様のメロンにそれはないでしょ? ひどい食べ方よ?」
「ミジュ、少し多めに見てやってくれないか? ホーネンはそれ以外に味が分かる方法がないんだ」
「…………で、でも……」

 思わぬ言葉を受けて、苛立っていたミジュがしおしおと小さくなった。
 小さ目のテーブルの側に、主様と同じ身長のアンデッドが立っている。
 きらびやかな指輪をいくつも身に付けた骨の手が、白い皿に切り分けられた一口サイズのメロンの果実を無遠慮に掴む。
 そして――

「たおうtgばお」

 めちゃくちゃうまい……あたりかな?
 左側の下の歯に、丁寧にぶすっと突き刺した。溢れんばかりの果汁が下顎にとろりと流れると、眼窩に浮かぶ赤い光が細く形を変える。
 骸骨の恍惚の表情にドン引きだ。
 だけど動きはまだ止まらない。
 今度は右側の歯に刺さっていた果肉を優しく取り外し…………皿に戻す。
 見事な歯型の窪みがメロンに残っていた。

「汚い食べ方ッスねー」
「これは食べるとは呼ばないわ。もったいなくて涙が出てくる」
「…………歯型メロン」

 苦笑いするゼカに、嫌悪感丸出しのミジュ。そして平坦な声をあげるツティ。
 三者三様だけど、うちも言いたいことはよく分かる。
 メロンを歯に突き刺しては外して、次を刺す。
 それの繰り返しがホーネンの食事なのだ。
 だけど、味を知るうちらにとっては羨ましいばかりの豪快さ。とても真似できないし、したくはないけど。

「ミジュ姉、歯型だけだし食べたらどうッスか?」
「恐ろしいこと言うのやめて…………食べて私が骨になったりしたらどうしてくれるのよ」
「アンデッドがうつるわけないじゃないッスか」

 めんどくさそうにあしらうミジュの台詞に、ゼカがけらけらと笑い声を上げる。

「あっ、来た……」
「ようやくか。やはり<テレポート>を使わないと遅いな。ツティ、悪いが家の前まで案内してやってくれ」
「うん」

 ツティが物音を聞きつけてふわりと飛び上がった。ようやく待っていた人物――アンデッド集団――が到着したらしい。
 ホーネンもメロンを丁寧に取り外し、王者の風格を漂わせながら動き出した。


 ***


「ぬ、主様……この方々は何を持っていらっしゃるんでしょうか?」
「……見たところ……墓石だな。ホーネン、寝床と思っていいんだよな?」
「わおい」
「ちょっと!? わおい、じゃないのよ! そんなものどこに置く気よ!? 主様の大切な畑をカタコームにする気!?」

 悲しいながらも、段々とホーネンに慣れてきたミジュが、首にかけられた豪奢なネックレスをこれでもかと掴んで揺さぶる。
 ちなみに揺れているのはネックレスのみだけど。

「ミジュ姉、ちょっと落ち着きなって……」
「場所はある……一応」
「二人も何か言ってよ! しかも、こーんなに大量のアンデッドがやって来るなんて信じられない! このままだと知らずに埋められた死体が動きだしちゃったりするかもしれないのよ!?」
「まーた、おとぎ話を信じてるんスから……」
「……アンデッドは魔法で生まれる。常識」
「こ・こ・に・は! 主様の畑があるのよ! 常識で考えちゃダメなの! 今も突然新しいアンデッドが生まれたり――ひうっ!?」

 勢いよく振り返ったミジュの頭を、大きな手が一撫でした。
 水妖精の表情がみるみる真っ赤に変わる。

「ミジュ、安心してくれ。俺だ」
「…………主様。す、すみません……取り乱してしまって」
「ミジュは怖がりだからな。フラムを見てみろ。あいつはこんなにやって来ても少しも動揺していないぞ? 畑の先輩として胸を張ればいいんだ」
「…………え? いえ……私はそういうことを――」

 最後まで言わなかったミジュが、横目でうちを伺う。
 お姉ちゃんのすごさが分かったかな?
 鼻たかだかで胸を張る。
 が――

「姉さんのあの顔は、最初からあきらめてる顔です……」
「あきらめている?」
「……ま、まあいいです。主様は気にしないでください。……もう分かりました。私も受け入れます……」
「……? よく分からんが、そうしてくれると助かる。ホーネンを含め、この墓石を置く場所は一か所に集めさせよう。分散されると耕す時に邪魔になる。牧草部屋から別れた一室を与えてくれるか」
「……はぁ……分かりました……でも一か所に墓を集めると強力なアンデッドが生まれたりしないでしょうか?」
「大丈夫だろう。なにせホーネンは……えーっと数年はカタコームの管理者をしていたはずだ。そうなる前になんとかしてくれるだろう」

 にっこりと笑う主様に、ミジュが引きつった笑顔を返した。
 離れた場所では、ホーネンがやってきたアンデッドをすでに何かのグループに分けている。
 明らかに重装備の骨。
 頭に赤い布を巻いて黒いローブに体を包んだ骨。
 少々みすぼらしい揃わない杖を手にした骨。
 そして一番数の多い、ただの骨。
 反抗的なやつどころか、誰もかれも即座に反応して素早く移動している。とんでもない統率力。
 とても数年の経歴じゃない。
 それに…………あの本によれば最低百年はくだらないはずだ。
 いずれ骨の反逆の日が来るんじゃないだろうか。

「フラム、ちょっと来てくれ。みんなもだ」
「はーい」

 主様がうちら妖精を全員集める。
 統率力では負けていないかもしれない。

「数が多いからこのアンデッド達に名前を付けたいと思う。一人一人は覚えきれない」
「「「「…………えぇっ!?」」」」
「今から、ダンジョンの入口をくぐる順番に――」

 結論を出しかけた主様の顔の前に、全員で輪を作るように移動する。
 口々に待ったをかける。

「ま、待ってくださいっ!」
「そうッス、そうッス!」
「…………やーん」
「主様ぁ……」

 間違いなく、ホネワンとかボーンワンとか言いかけた口が、ゆっくりと閉じるのを見計らって、ミジュが提案する。

「名前は私たちで考えさせてください!」
「おぉ……まあ、いいが……俺の案を聞いてからでも……」
「いえっ、主様の案は素晴らしいと思いますけど、聞いてしまうと、それだ! って思ってしまって……私たちにも成長の機会が欲しいんです!」
「なるほど…………分かった。じゃあみんなに任せよう。俺の代わりにいい名前をつけてやってほしい」
「任せてくださいっ!」

 グッジョブ、ミジュ!
 あんな言い回しを思いつくなんてさっすがうちの妹だね。
 名前なんて無くていいんじゃない、ってしか考えてなかった。

「では、話は以上だな。みんな、こいつらを案内してやってくれるか? ホーネン、お前の仲間はこれで全部か?」
「たおうtなおあwうたえあおpた」
「…………いや、カタコームの全員かと聞いたわけじゃないんだ。協力してくれそうな仲間がこれで終わりか、と聞きたかったわけで……ん? 結局カタコームの全員が来たのか?」
「わおい」
「ほぉっ、少しは反対するやつがいるかもと言っていたのに……ホーネンは仲間に信頼されているんだな」
「tぁんたおう」
「そんなに照れるなって、わはははっ」

 主様がホネキングに近付いてローブの背中をばんばんと二度叩く。
 まるで友達のようだ。

 と、その時――
 ホーネンの頭がとんでもない速度でぐりんと動いた。何かを視界に捕えたのか。一瞬見つめた先では、スケルトンが隊列からはみ出している。
 あっ、とうちがつぶやいた瞬間には――
 大人の太ももほどの太さの黒い光線が、空間に走った。
 暗い残光を残し、光がスケルトンの頭を爆散させる。

「…………えぇ!?」

 三人の妹が遅れて顔を歪めた。
 間違いなく上位者による制裁が行われた。ホーネンの恐ろしさをこれでもかと実感させる闇魔法。
 音もなく、マナのぶれもなく。
 空気すら震わせることなく。
 一体のスケルトンはこの世を去った。
 止まったかのごとき時間が動きだし、ぱらぱらと骨粉が霧散する。

「……ホーネン、今度から先に警告してからにしてやれ」

 主様が、やるせない顔でぺしっとホーネンの後頭部を叩いた。
 後ろで妹の誰かが「ひっ」と小さな声をあげた。下手をすれば、アンデッド対主様&妖精姉妹の大戦争勃発だ。
 強力な闇魔法VS最高硬度のカブが飛び交う熾烈な戦場。
 緊張感を漂わせながら状況の変化を待つ。
 そして――

「……わおい」

 強大なアンデッドが折れた。
 主様が満足そうにうなずき、うちらはほぉーっと大きく息を吐いた。
 あぶないあぶない。
戦争が回避された瞬間だった。

「じゃあ、早速畑仕事だな。みんな、案内してやってくれ」

 その言葉で、ホーネンを筆頭に有名な『誘いのカタコーム』全アンデッドが動き出した。
 ……畑仕事のために。
 もう二度と見たくない光景だ。
 おぞましすぎるうえに、シュールすぎる。
 まるで死者の世界に迷い込んだみたいだ。
 その中で、ミジュが耳打ちをするように恐る恐る主様に尋ねる。

「あの程度で良かったのですか? あの方、死んでしまいましたけど……」
「大丈夫だ。墓石は壊してないだろ?」
「……墓石?」
「ああ。あれが彼らの存在の根幹らしい。体は粉々になっても、墓石さえあれば半日ほどで復活するそうだ。大事なものだから、カタコームに置いてくるのかと思ったんだが……どうやら本気でここに住むことにしてくれたようだな。光栄なことだ」
「…………そう……ですね」
「さぁ、時間が惜しい。仕事に戻ろう。まずはやつらにクワの上手な使い方を伝授しなければ。ミジュのことも紹介してやりたいし」
「わ、私を?」
「もちろんだろ。俺の畑の最高指導者としてな。ホーネンにもお前の上司だと説明しなければ」

 ミジュが白目を向いて地面に落下した。
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