無自覚無敵のやりすぎファーマー~つき合う妖精は大変です~

深田くれと

文字の大きさ
27 / 40

雇われ冒険者は遭遇する

しおりを挟む
「うぅ……さむっ」
「ティル、大丈夫?」
「なんとか。しっかし、突然こんなに冷え込むとは……体なまったかな」
「私の予備貸してあげるよ?」
「すまん」

 例の商店を監視できる家の屋根に腰を下ろしている。
 俺の隣でしゃがみこむ魔法使いのアンリエットが顔を覗き込んできた。ひょっとしたら鼻水が垂れていたのかもしれない。
 感覚が薄い鼻をすすって、差し出されたローブを体に巻く。
 時刻はちょうど深夜を回ったところだ。
 商店通りに人影は無く、遠く離れた飲み屋街だけに灯りが見える。昼間の喧噪が嘘のような静けさだ。

「もう四日になるけど体大丈夫なの? 私たちは交代だからいいけど……」
「大丈夫、大丈夫」
「……突然依頼を受けて帰ってきた時は不思議だったけど……こんなに真剣ってことは今回もアルノート様絡み?」
「さあ、どうだろうな」
「隠さなくてもいいじゃない。そういうのやめてよ」

 アンリエットが小さく頬を膨らます。子供のようだ。
 こんな彼女はパーティでは最年少だが、魔法の才能は飛び抜けている。それこそルネリタに届こうかというほどに。
 うちのメンツは単独ではBランクを少し超える程度だが、連携の良さと後方を一人で担える彼女の力が大きく、Aランクもそつなくこなせる。

「別にじいさん絡みだからって隠すわけじゃねえよ」
「それ、嘘。ティルが真面目な顔してる時ってアルノート様に頼まれた時だけだもん。しかも危ない仕事でしょ?」
「……そんなに真面目な顔してる?」
「うん」

 ローブの間から手を出して、自分の顔を触ってみる。夜風に晒された肌が冷たくなっていた。
 凝り固まった感覚をほぐすように軽くマッサージして、アンリエットの顔を見る。

「ちょっとはマシになった?」
「ううん。変わんない」
「あっそ……」

 自分ではいつもと変わらないつもりなのだが、長い付き合いのパーティメンバーにはすぐわかるらしい。
 いつも通り早めに夕食を食って、軽く酒をあおってきたはずなのだが、顔に出てしまうのか。
 今度から酒を少し増やすか……だが、いざという時に動けないと困るしな。

「ねえ、ティル……荷物を運ぶ賊を見つけるって言ってたよね?」
「賊って決まったわけじゃねえがな」
「この四日の間に出入りした男は違うんだよね?」
「ああ。あいつらはただの仕入れ先ってところだ。レジェンド野菜は持ってねえ。もしレジェンド野菜を運んでいればすぐに店先に並ぶだろうからな」

 そうだ。
 あの並んでまで買う客のいるレジェンド野菜を出し惜しみする理由がない。隠して売る必要があるなら、堂々と店先に並べるはずがない。

「地下に運搬用の穴があるって可能性はないかな?」
「…………王都の中心に近いあの位置までか? ないだろ」
「ずっと掘り進めていたとか……人じゃなくて、小さな箱を送るだけの穴は?」
「それは……」

 絶対に無いとは言い切れない。
 過去、城壁の下をくぐるように穴を掘ったバカがいると話を聞いたことはある。だが、野菜ごときにそこまでやるだろうか?
 いや……そう考えるとダメか。貴重な薬だと考えれば、ありうる。

「否定できないよね? なら提案なんだけど、<遠視>使ってみない?」
「……監視はできるだけ秘密裏に、が依頼主の頼みなんだ」
「別にアルノート様やルネリタさんみたいな方を見張るわけじゃないでしょ? あの二人なら<遠視>に気付くかもしれないけど……普通は無理よ」
「だが……もしも気付けば……」
「私の<遠視>可能距離は知ってるでしょ? ここなら気付かれても逃げられるって。それに『逃げ足のヒュー』が隣にいるんだから。大丈夫だって」

 逃げ足のヒューとはパーティをやっかむやつが付けた俺の通り名だ。
 なかなか的を得ていると俺は思っているが、怒ったパーティメンバーが通り名を付けた男を懲らしめにいったのは有名な話だ。
 皮肉っぽい笑顔でアンリエットがウインクを飛ばす。「やってみよ」という台詞とともに。
 俺は少し迷う。

「……そんなに危険な相手なの?」
「いや……わかんねえ。さっきも言ったが賊かどうかもわからない。本当にうまい野菜を作って満足してるだけのお人よしの可能性もある」
「いつもの依頼みたいに、姿を見られたらすぐに命の危険があるってわけじゃないんだね? じゃあ大丈夫だって。さっさとやっちゃお。お家の中をさっと覗いて地下に穴が無ければそれで終わりなんだから」
「…………そうだな。アンリエットの言う通りだな」
「うん!」

 彼女は器用な魔法使いだ。
 短時間なら<遠視>に<透視>を組み合わせられる。この辺が優秀な魔法使いの証拠だ。普通なら<遠視>を飛ばすことがせいぜいなのに。
 まあ、じいさんの依頼だから慎重に考えていたが、確かに偵察が得意なアンリエットなら大丈夫だろう。経験は折り紙つきだ。
 家の中にアンリエットの魔法に感づくやつがいるとも思えない。

「よしっ、じゃあいっちょ試すか。失敗した時のために、宿で寝てる二人も起こしとくか? 気付かれたとき用に戦力はあるにこしたことはないぞ?」
「ティルったら……全然そんなこと考えてないくせに」
「ばれたか。だが、アンリエットだって失敗するなんて考えてないだろ?」
「もちろん。家の中を覗くのはタブーだけど、だからって失敗なんてしないわ。……任せて」

 アンリエットが夜の帳の中で立ち上がった。片腕を上げて、水色の魔石が埋め込まれた杖をセドリック商店に向けた。
 少しの時間、マナを溜める。
 そして――
 波紋が体を通り抜けるような感覚と共に、<遠視>と<透視>の複合魔法が音も無く放たれた。


 ***


 アンリエットが訝しげに眉をひそめた。
 黒い瞳の焦点は遠くを見つめたまま合っていない。まだ魔法を切ったわけではないらしい。
 ただ事ではない雰囲気を感じて尋ねる。

「どうした?」
「よく分からないけど……何かがいたような……」
「何かってなんだ? 偶然、住人が動いただけか?」
「分からないけど、気のせい……だと思う……部屋に寝ているのは中年の男……もう一部屋は……おかしいわ……ベッドがあるのに誰も寝ていない……女の子はどこ……」
「娘の方がいない……どういうことだ? まさか外泊か?」

 自分で可能性を口にしてみたが、有りえない話だ。
 あの店には他に扉が無い。店を閉める時に中に消えていったところは確認している。年頃の娘が忍んで出掛けるなら、俺達の目をかいくぐるスキルが必要だ。
 だが、変装して野菜を買いに行った時にはそんな気配はまったく無かった。ただの純朴な娘そのもの。

「……アンリエット、地下は?」
「待って……もう少しだから……」

 とにかく目的を急がせようと、気持ちを切り替えて腕組みをした時だった。
 唐突に背筋に悪寒を感じて目を凝らした。
 そこには――

「――――っ! アンリエットっ! 魔法を切れっ!」
「えっ?」
「バカっ、早くしろ!」

 黒い何かが遠くの屋根の上に飛び上がった。この距離でも分かる身のこなしの凄まじさにぞくぞくと悪寒が続く。
CランクやBランクの相手じゃない。
 ぼんやりと立っているアンリエットの首根っこを即座に掴んだ。丈夫なローブごと、彼女の体を全力で後ろに引いて、隣の家の屋根に飛び移る。
 両手で抱え直し、さらに二軒、三軒とジグザグに移動を行いながら距離を取る。

 ――最初にアンリエットが「気のせい」と言った時点で気付くべきだった。
 とんでもないミスだ。
 やはりじいさんの嗅覚は未だに現役。俺は温い生活をしていてこの様だ。
 何が「危険かどうかも分からない」だ。危険だと疑ってかかるのが一流のパーティのはずなのに。
 Aランクパーティが何て様だ。こんなにもあっさりと……

「くそっ、気付かれた」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

処理中です...