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序章

職場

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-職場-
 カンッ、カンッ、カンッ、カンッ、
 ヴィーンッ!ヴィーンッ!
 ドドドドドドド、ドドドドドドド、
 金槌や機械の音が工場内に響き渡る。
 「おーいお前たち!それが終わったら昼にしろー!」
 「はぁーい!」
 工場長からの指示。すごく優しく、厳しく、お世話になっている55歳の凄腕部品メーカーだ。
 僕、[鹿波卓]は、ここに勤めて早5年。工場長である[高橋洋二]にはかなり可愛がられており、採用面接の時の面接官でもあって、僕自身、信頼している。
 そんな我々の会社、工場である[株式会社 エイプリル]は創業30年。創業者である[志賀晴見]が、月日をかけて全国の家具や、家電のために部品を作り各々の家具家電会社に出荷している、正に部品製造会社として手助けをして作り出した会社だ。なんてことない普通の工場であり、僕はその中の製作部にいる一人。地元の高校は機械科の卒業であるため、やりたいことを仕事にしている僕にとっては、やり甲斐のある仕事だ。
 何不自由なく働いており、洋二さんが休憩で缶コーヒーを買いに行った時だった。
 「鹿波くん!ちょっと。」
 なんと創業者であり社長の志賀さんからの呼び出し。
 「はい!何でしょうか?」
 「実はな、この会社なんだが、とんでもない注文を受け付け始めた」
 「とんでもない注文!?それは、一体何でしょう?」
 「それはな…」
 言葉に詰まる社長。頭を下に俯く。
 「この会社は、家具や家電のための部品を作る会社だろ?」
 そりゃそうだ。
 「あ、はい。」
 「違う部品を作って欲しい。」
 違う部品?
 「はい?違う部品って、まさかとは思いますが、楽器とかですか?」
 変な質問だ。
 「楽器ではない。とんでもないものだ。」
 だから、そのとんでもないものを知りたい。
 「それって、何ですか?」
 口角を上げ、ニンマリと微笑を浮かべながら聞いてみる。すると、社長の重い口が開く。
 「…武器だ。」
 武器?何のための?
 「実はな、私の弟が警察の人間で、ある組織を潰すために、組織対策グループを発足させたのだが、そのグループのリーダーが、私なんだ。」
 ん?どういうことだ?
 「はい?」
 馬鹿なフリして聞き返す僕。
 「だからぁ!私は警察とも繋がっていて、その組織が良からぬことを仕出かすかもしれないというのを聞いてだな、協力することにしたんだ。」
 社長は渋々、謝っているかのような口調で話を切り出す。
 「でもそれ、洋二さんには伝えてんすかね?」
 僕は質問を続けた。
 「そもそも工場長は僕じゃなく洋二さんじゃないですか?なんで直接僕に伝えたんすか?」
 真っ当な質問だ。
 「君は空手経験者だと聞いた。スポーツに自信はあるか?」
 「いやそうじゃなくて…」
 そんな時だった。洋二さんだ。
 「おい!何やってんだよ?」
 「あぁ、高橋くん。鹿波くんにちょっと頼みたいことがあって。」
 「俺は?工場長だぞ。」
 確かに。
 「君は絡まなくていいことだ。君には…今の仕事に専念して欲しい。」
 度々、言葉を濁しながら洋二さんを説得する。もしかしてこれは?
 「高橋くん。早く戻りなさい。休憩は終わったはずだ。鹿波くん、この話はまた後で。」
 洋二さんは、工場長をクビになるのか?もしくは異動か?あらゆる辞令が脳裏をよぎる。
 「なんだよ、あいつは。60だろ?いい大人なんだから話せっつーんだよな!おい、戻るぞ、卓。」
 「あ、はい。」
 僕は何になるのだろう。何のために武器の部品を作るのだろう。その組織って何だ?頭が混乱する。
 とりあえず仕事に戻った、僕と洋二さん。右横から
 「洋二さん、大変です!はみ出た金具をニッパーで切り落とそうとしたら指切ったやつがいて!」
 同期の[前宮剛]が慌てて洋二さんの元に近づいた。
 「なーにやってんだよ!今行く!」
 洋二さんと僕は、一番大きな機械を扱うラストパンと呼ばれるところへ駆けつけた。
 「洋二さん…やっちゃいました…」
 怪我をしたのは、僕と前宮の後輩、[本間晋助]だ。
 「あぁ…やっちゃった、ってお前、これ、軽傷じゃねーか!ちょっと切っただけだろ?」
 患部をよく見ると、ニッパーの先の刃のところで、スッと軽く切っただけのような傷口だった。
 「すいやせん。」
 本間は、少し弱いところがある。ビビりであり虫が大の苦手。オバケなんて以ての外。
 「とりあえず、消毒して絆創膏でも貼っておけ。」
 「ういっす。」
 僕と前宮は、目を合わせ、苦笑いし合った。
 後30分で退勤時間。そろそろ仕事も終わる頃、洋二さんが僕のところにやって来て話をした。
 「おい、卓。さっきの社長、何話してたんだよ。気になってしょうがねぇ。」
 「もう少しで仕事終わるじゃないすか。終わってから話しますよ。」
 「ケチだなぁ。分かったよ。飲みながら話すか!」
 「イイっすね!いつもんとこっすか?」
 「いつもんとこだよ!」
 洋二さんが休憩の間の、僕と社長との話がかなり気になるようで、いつも行く居酒屋で話をすることにした。僕だけじゃなく、前宮も本間も他の同僚も集まって飲みに行っている。
 退勤時間。大きい音のブザーが工場内に響き渡る。すると、従業員全員が動かしていた手を止める。
 「お疲れーっす!」
 一日の終わりを、大きな声とやり尽くした感満載の言葉で締めくくる。 
 「よぉーし!お前ら!帰って飲む準備しておけ!今日は金曜!浴びるほど飲むぞー!!」
 工場長、洋二さんは大の酒好き。
 「今日は俺の奢りだー!」
 全員が喜ぶ。
 「うぉーい!!!」「やったー!!」「月一で習慣化してるよなー!!」
 太っ腹だ。辞めて行った従業員は、洋二さんの漢気とキレた時の怖さに耐えれなくなって辞めた人が多いとよく聞くが、僕たちにはそうは思えなかった。なぜなら残っている従業員は、女性を含め、皆漢気溢れる性格だからだ。洋二さんをかなり信頼していると言えよう。
 ロッカーで着替えを済ませ、「お先!」と一言申し、一足先に家路を急ぐ僕。家には妻と子どもがいる。まず先に、二人にただいまを言いたくて、すぐ帰る。その支度準備後のこと。
 「鹿波くん!時間あるか?」
 社長だ。
 「すいません。やはり今日はやめてください。来週聞きます。必ず。今日は金曜ですし、妻と子どもにも迷惑かけたくないし。それでは。」
 社長の顔は、重たげな表情を浮かべていた。だが僕にとっては、仕事も大事だが家族も大事だ。
 メッセンジャーが使うようなマウンテンバイクに跨り、颯爽と漕いで帰り道を渡る。帰り道は、周りがライバル会社や同じような部品製造会社、更には居酒屋、飲食店が立ち並ぶ、下町の風景に染まっている。そんな景色が目に映る中、家に辿り着いた。乗っていたマウンテンバイクから足を降ろし、スタンドも降ろす。マウンテンバイクの鍵を締め、そして家の扉を開ける。
 「ただいまー!」
 「おかえり、パパーっ!」
 「んん~、ただいま!あいちゃん!」 
 娘だ。もうすぐ3歳になる。
 「パパ、見てぇ!あいが描いたの!パパとママぁ!」
 3歳にしては上手過ぎる絵。僕と妻を描いていた。
 「おお!上手だねぇ~。あいは将来画家になるか?」
 「画家はピンからキリまでよ。お金にならないわ。今のうちに精一杯描きなさい。」
 淡々と切り出す妻、[恵美]。いつも冷静で、僕が仕事でやらかした時も、「謝りなさい、洋二さんに。いつも可愛がってくれてるし、迷惑はかけられないでしょ?」と的確にアドバイスをくれる。
 「まあ、あいのやりたいことを尊重すべきよね。もう少し大きくなったら自覚するわよ。夢も変わるって言うし。」
 「ちなみにこの絵って、幼稚園でか?」
 「ええ。絵を描く時間ってのがあるらしくて、今回はパパとママを描きましょう、って。こないだは好きなことだったんだけど、あい自身が絵を描いてるとこを描いてたの。絵が好きなのよねぇ~。今だけはいいけど。」
 いつも現実を打ち付ける恵美だが、娘の[あい]は「ママはごはんとおそうじしてればいいの!パパとあいはママのごはんがだーいすきだからね!」となんとも微笑ましくも有難い言葉を妻によく放つ。すると妻も、「はいはい。ありがとう。あいちゃんは私たちの可愛い、可愛い子どもだからねぇ~。いっぱいご飯食べて大きくなるのよ!」と喜びを前面に出して娘を褒める。側から見ていて、これが家族なのだろうな、と、あいの父、僕はいつも喜んで笑っている。
 「あ、あなたご飯は?」
 今日は飲み会だ。
 「あ、そうだ。今日、華金だろ?洋二さんの奢りで飲みに行くことになった。」
 と言うと、持っていたスマホのバイブレーションが波打つ。
 ヴルルルル、ヴルルルル、ヴルルルル…
 液晶には洋二さんの名前が。開いて見ると、
『そういえば、お前んとこは嫁と娘がいたな。もしよかったら連れてこい。みんなも喜ぶぞ。』
 メールの内容。いいのか?お金がその分高くなるのに。しかし洋二さんの心意気だ。聞いてみよう。
 「今、洋二さんからメールが入った。よかったら恵美とあいもどうか、って。ご飯は食べたの?」
 「いいえ、今日は買い物行く暇がなくて、残りものであり合わせしようかなって思ってたとこ。でも洋二さんねぇ~…いいのかしら、甘えちゃっても。」
 珍しく乗り気だ。
 「お前たちがよかったらいいんじゃないか?」
 「じゃあ準備するわ。あいー!お着替えするよー!」
 「ええー!?どっか行くのー?」
 「パパの会社の人がご飯奢ってくれるって!美味しいはずよー!何食べるー?」
 「ハンバーグぅー!」
 どっかのお笑い芸人のような言い方で言う、あい。可愛いな。
 「よし!俺も着替えるか!」
 そうして支度をし、近所にある、洋二さんの親戚が切り盛りしている居酒屋へ歩いて行く。子供用のおかずもメニューにあるから、まあなんとも便利な居酒屋だ。
 「ねぇ、どこどこー?」
 あいはお腹を空かせている。
 「歩いて10分ぐらいのところだよー。ハンバーグ、あるといいね!」 
 「おすし、食べたーい!」
 「…」
 夫婦揃って無言になる。流石は子どもだ。気持ちの切り替えが早い。
 「ハンバーグは?」
 恵美が、少し怒り気味で言う。
 「おい。あまりそういう顔するな。」
 「あるわけないでしょ、居酒屋に。」
 「そこは子どもなんだから合わせろよ。」
 分かったような口をよく聞く。あまり自己中心的になるな、と言わんばかりの言い回しだった。
 「ねぇねぇ、おすしは今度でいい!」
 雰囲気を察したのか、あいが我儘を言わなくなった。そんなことを言いながらも、目的地の居酒屋に着いた。
 「お疲れっす!」
 僕以外の従業員は、全員来ていた。
 「遅えよ!卓ぅー!お!恵美ちゃんにあいちゃん!久しぶりー!!」
 「お久しぶりです、洋二さん!いつも旦那がお世話になってますー!」
 「誰だっけー?」
 そっか。あいが会ったのは1年ぐらい前だ。覚えているわけがない。
 「パパの先輩だよ。小ちゃかったから覚えてないかなー?」
 「あいちゃん!洋二おじちゃんだよー!いくつになったかなぁ?」
 いつになく洋二さんが娘に近い。
 「さんさぁーい!おじさんはー?」
 聞き返すな。変なノリで返ってくるはずだ。
 「おじちゃん?ごじゅうごちゃい。」
 当たった。
 「ごじゅうごちゃいでおしゃけがだいしゅきなおじちゃんでしゅ!」
 やり過ぎだ。
 「変なのー!」
 ナイスツッコミ。周りの従業員、妻は笑っている。僕は苦笑いだ。僕にも悪ノリで接する時があるからだ。
 「よし!鹿波一家はここに座れ!俺の横だ!」
 「おっ!今日は無礼講ですか!?洋二さん!」
 「おう!卓だけな!」
 いつも僕だけ贔屓されるが、何故なのだろう。もしかしてソッチか?いや、でも奥さんとお子さん、お孫さんまでいるお爺ちゃんだ。そんな洋二さんに導かされて横に座り、あいを挟み、恵美が座った。
 「おい!お前ら!飲み物頼めー!なあ、卓たちは何飲む?」
 鹿波家の注文を決める。
 「恵美。何飲む?」
 「私、飲めないので、ウーロン茶で。」
 「あいは?」
 「じゅーしゅー!」
 「何のー?」
 「おらんじー。」
 オレンジな。まだ3歳だし仕方がない。
 「じゃあ生とウーロン茶とオレンジジュースで。」
 決まった。飲み物だけは。
 「オッケー!んじゃボタン押すな。」
 注文ボタンを押す洋二さん。店員さんが歩いてやってくる。
 「注文お伺いしまーす。」
 洋二さんが注文を言っていく。
 「えっとね、生2つと、ウーロン茶とオレンジジュース1つずつ!」
 店員さんが復唱する。
 「生2つに、ウーロン茶とオレンジジュースを1つずつですねー。ご準備致しますので少々お待ちください。」
 「はいよー。」
 飲み物の注文を終えた。
 そういえばだが、社長と僕との会社での会話を気にしていた洋二さん。いつ振り出すのか。
 「あ、恵美ちゃん。」
 ん?妻に用?
 「あ、はい!」
 急に呼ばれたから、少し焦って返答した妻、恵美。
 「この卓君ね、いつもやってくれるよ。いい部下もって良かった。」
 「あぁ、ありがとうございますぅ。」
 嬉しそうな妻。正直、僕も嬉しい。というより、洋二さん、既に酔っているのか?
 「いやぁ、卓。いい嫁さん貰って幸せもんだろ!」
 そこは、幸せもん「だな」だな。
 「はい。自慢の妻です。」
 またまた嬉しそうな妻。
 「ラブラブぅー!パパとママはまいにち、あいのパパとママだよー!」
 夫婦揃って嬉しい顔。
 「あら!あいちゃーん!やっぱり可愛いねー!」
 嬉しそうなあい。両手を頬に当て、アヒル口を披露。可愛い。目に入れても痛くない。
 従業員全員と妻、あい、洋二さんに飲み物が行き届いた。洋二さんの乾杯音頭が始まる。
 「よぉーし!お前ら!飲みもん持ったか!今日は楽しい楽しい金曜日!エイプリルも俺もお前らも、ここまで来れてサイコーだ!今日はとことん飲んで、とことん騒ごうぜ!カンパーイッ!」
 「カンパーイッ!!」
 従業員たちのユニゾンした声が、店内に響き渡る。水のようにゴクゴク飲む洋二さん。僕も飲んだ。妻もウーロン茶を飲む。ストローの刺さったオレンジジュースをチュウチュウ飲む、あい。
 飲み始めて1分程、ある疑問が。 
 「あの洋二さん。食べ物って…」
 「あぁ!セット注文してあっからよ!勝手に来るぞ!」
 そうだったんだ。
 「そうなんすね!先に言ってくださいよー!」
 「悪りぃ、悪りぃ!」
 洋二さんは、やはり気前がいい。そうこうしてるうちに、スピードメニューのドレッシングをかけたキャベツが来た。きゅうりの浅漬けまで。そして、その2分後ぐらいには、焼き鳥盛り合わせの到着。
 食事をし、お酒を飲み、あの話になるかと思いきや、洋二さんは既に顔が赤い。
 「なあ、卓。ウチの会社、家具やら家電やらの部品作ってんだろ。下請けかも知んねーがよ、下請けなりの努力して、誰もが知ってる会社になったんだよ。俺らのおかげだなぁ!」
 確かに、僕たちが作っていなければ、土台がしっかりした会社にはなれなかったはずだ。いや、そんな話はどうでもいい。
 「洋二さん!ビール注がせてくださーい!」
 本間が来た。なかなかあの話が出来ない。
 「お!なんだよぉ~。指、大丈夫かぁ~?」
 そうだ、今日、本間は怪我したんだった。
 「はい!大丈夫っす、ヒック。コップをどぉぞー!ヒック。」
 めちゃくちゃ酔っ払っている。
 「ういうい。」
 トクトクトクトク…
 いい注ぎっぷりだ。
 「うい、サンキュー、本間~!」
 ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ
 「っかぁ~っ!美味えぞ!もういっぷぁい!」
 駄目だ。今日は無理そうだ。
 「あ、おめぇ、卓ぅ。そういやぁ~…社長との話はなんだったんだよぉぅ。」
 お、そっちから話してきたか。やっと話せる。
 「あ、あの話っすね。なんか、社長の弟さんが警察の人間らしいんすけど、組織対策グループを発足させたらしいんです。その組織ってのがよく分かんなくて、テロ組織か?って思ったんすけどね。なんか、その組織に対抗するための武器の部品を作ってくれ、って言われて…」
 事細かに、工場長である洋二さんに伝える。
 「エロこじきぃ~??なんだぁそりゃぁ~??」
 やはり駄目だ。テロ組織がエロ乞食にしか聞こえていない。泥酔状態だ。
 「テロ組織っすよ。てーろーそーしーき!」
 「あぁ、テロなぁー!んー。テロだぁーっ!!??テロってぇと、あのテロかぁー!?」
 声が大きい。辞めとくべきだった。
 「どうしたんすか?テロって何のことっすか?」
 「なんだなんだ!?テロリストがいんのか?」
 「スパイかー!どこだぁー!!」
 あぁ~あ。どんどん騒ぐって言ってたのが、意味が変わってきた。本当の騒ぎが始まった。
 「ねえ、何よテロって。どういうことなの?」
 「パパぁ~?てろそしきってなぁーに?」
 いかん。家族まで騒ぎが伝染し始めた。これはもう、従業員全員に伝えるしかない。
 「いやいや…みんなさ、落ち着いて!な?」
 ここで前宮が場を和ませる。こんな時に頼りになる同期。
 「なあ、鹿波。洋二さんと何話したんだよ。」
 妻もここに参戦してきた。
 「あなた。テロってなんのこと?」
 答えるしかない。溜め息を吐いてから、ゆっくり口を開く。
 「みんな聞いてくれ!社長から直々に要望があったんだ。ある組織に対抗するべく社長の弟さんが、警察内部で組んだ組織対策グループを結成したらしい!」
 「社長の弟さんって、そういえば警察の人だったよな!」
 前宮はかなり真面目なタイプで、社長のことは就職前に会社のことをよく調べていたので、よく知っていた。
 「そう。そのグループのために、武器の部品を作って欲しいってさ。その武器が何なのかは、よく分からん。拳銃なのか、はたまた爆弾なのか。想像つかない。しかもな…まだ、ちゃんと詳細を聞いてないんだ。」
 そう言うと、周りはまた
 「ん?どういうこと?」
 「警察に協力するってことか?」
 ブツブツ言われ始めた。すると妻、恵美がこう言う。
 「なるほどね。あなたをそのグループのメンバーの中に入れるってことじゃない?空手経験者だし、ブレイクダンスやってたじゃない、高校の時。」
 高校時代に出会った恵美は、全てをお見通しかのように切り出した。
 「いや待て。俺は警察じゃないし、ましてやその組織と戦える自信ないよ!」
 「そういうことじゃなくて、部品作りのリーダーにして、あなたがその組織をよく調べて、何に対抗するのか、その組織の潰し方を研究して、部品作りを始める。そして、それを、ここにいる従業員全員で協力する。違うかな?違ったらごめんなさい。」
 ん?僕はスパイになるのか?そんなのは御免だ。
 「そういうのは警察に任せりゃいい!」
 「その警察に頼まれてんじゃねぇの?俺ら。」
 前宮までもお見通しなのか?しかし、泥酔状態の洋二さんの酔いが、少しずつ醒めてきており、渋い声で話し始めた。
 「俺はどうなる?」
 僕もそれを懸念していた。工場長としての立ち位置がなくなる恐れがある上に、仕事がなくなる恐れもある。
 「それはまだ…なんとも…」
 「ふざけんな!あのクソ社長気取りめ!直談判してきてやる!」
 暴走し始めた洋二さん。止めなければ。
 「洋二さん!落ち着いて!まだ分かんないっすよ!詳細聞いてないし!」
 羽交い締めしながら、叫び止めた。
 「どうしたんだよ、急に。おい、洋二。何事だ?」
 居酒屋の店長でオーナーであり洋二さんの親戚である、[高橋勝]が厨房奥から、山高帽子を取りながら問いただしに来た。親戚というより、従兄弟らしい。
 「俺がクビになるかもしんねぇ…」
 低い声で呟く洋二さん。
 「いや、だから分かんないっすって。」
 止める僕。
 「クビになったらウチで働け。死んだお前の親父も喜ぶぞ。」
 宥める勝さん。
 「俺は死なねぇ。」
 そういうことではない。
 「何の話だよ。」
 本当に、何の話だろうか。
 「うるせぇな!俺は26年間、エイプリルになる前の志賀建設から頑張ってきてんだよ!なのに…俺がクビだぁ…?っざけんじゃねぇってんだよ!」
 怒号を飛ばし、目の前にある椅子を蹴り飛ばした。あいの目の前で。
 「うわぁ~~んっ!こわぁーい!ママぁ~っ!」
 泣き始めた。
 「よしよし、帰ろっか、ね?」
 あいは泣き喚き、恵美はあいを宥める。嗚呼、これが俗に言う、地獄絵図というものか。
 「すいません。私たち帰ります。あなた!会社のことだし、あなたはこの状況をどうにかして!じゃあお先に失礼します。」
 恵美がそう言うと、あいの手を引っ張りながら居酒屋の扉を開け、小走りで帰って行った。
 僕の会社は、部品製造メーカー。これからどうなるのか。僕と前宮、本間に、工場長である洋二さん、従業員全員によるオフィス会議が始まった。
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