皆平等に努力が報われる幸せな世界。

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第一章:幸せな世界

第二話:レベル

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――あれからさらに一ヶ月。

 科学技術の発展によって開発された新薬『光』が世に普及し現実はもはや、ファンタジーになってしまった。努力は必ず報われると知り、ランニングやら重量挙げやら、勉強やらに精を出す人も多く現れた。皆それぞれ相応の結果を出した。
そして、便宜上、例の研究所と政府が合同で開発した『能力測定器』が配布され、各々の能力がレベルとして表された。

――レベル三十。

 これは、俺のレベルだ。レベル三十というのはなかなか高レベルで早々いない。なぜならレベルを一上げるだけでも死ぬような思いをしなくてはならないからだ。約半分の人は、やれば伸びると知っていても、その辛さ故に努力をやめてしまう。こんな俺でさえ天才と呼び称されるまでに成長できるのに、なんて勿体ないんだと思いつつ、玄関のドアを開ける。

「――行ってきます」

 俺は先日引っ越しをした。川のほとりにある、ぼろぼろな家から、住宅街の一軒家に。これも猛勉強によって底上げした知力を投資に使い、大儲けしたからだ。

「――いってらっしゃ~い……!!」

 俺が玄関のドアを開け、外に出ようとした時、サラサラな髪に健康的な体型をした米華が見送りに来てくれた。

「あぁ」

 米華は健康的になり、オシャレも出来る様になった。以前までも美少女と言っても差し支えない見た目だったが、今はもっと綺麗だ。それに、学校で友達が出来たらしい。前まで、その不潔な見た目によって周りの人達から気味悪がられていたのが、少し裕福になり、体を清潔に出来るようになってから皆話しかけてくれるようになった。毎日食卓で顔を合わせれば、友達の話ばかりで本当に幸せそう。

「――よかった……」



                       ◇

――俺は学校前の早朝ランニングを終え、公園のベンチで休憩していた。今日は梅雨も開け、雲ひとつ無い良い天気。そんな良き日にそぐわないような、鉄パイプを持った集団がやって来た。


「――お前が、結城 ミツキか……」
 
 俺の名を呼び、顔に鉄パイプを突きつけてくる。

「あぁ、そうだが?」
 
 俺は、突きつけられたパイプをへし折りそう言う。レベル三十ともなれば鉄パイプの一つや二つへし折ることは全く造作ではない。

「な、なにぃ……!?」

 武器を折られ、驚く集団。

「ま、まぐれだ、皆で一斉に殺れば……!!」

 そう言うと、俺の四方を囲んだ。そして、パイプを手に一斉に突進してきた。常人にしては早く、恐らくレベル十ぐらいはあるのだろう。パイプが俺に当たる瞬間、俺は空高く飛び上がり、重力のまま、集団が固まっている所にスタンプをお見舞いした。

「ぐ、ぐぁ……」

 集団は俺の攻撃を喰らい、ひとり残らず気絶した。

――無数に存在するどんな物語に置いても、人を一番成長させるのは実戦だ。実際、今出回っている最効率のレベリング法は、自分よりレベルの高いやつと戦うことだ。周りの人のレベルを知り、人々の競争心に火を付けるのが目的なんだろうが、レベルは、能力測定器を通じて一般公開される。だから、一日に五回はこの調子で襲われる。

「――米華にはやめさせておいて正解だったな……」

 俺と同様に薬を飲んだ米華。毎朝トレーニングに行こうとすると着いてこようとした。なんでも、「私もにぃにぃみたいに強くなりたい……!!」ということらしい。中途半端に強くなれば、色んな人に狙われて、危険だ。だったら、最初から、普通に今まで通り生活していたほうが良い。

「――やべ、始業まであと十分……!!」

 公園の時計を見ると、八時二十五分を指していた。始業は八時半、あと五分しかない。

「急げー!!」

 担任の佐藤先生は本当に怖い。筋肉まみれの体と、人を二、三人殺してそうな人相。レベル三十の俺でさえ、叶うとは思えない。


                         ◇

「――ま、間に合った……」

 あの公園から学校までの二十キロ、全力で走ってきた俺は息を切らしながら自分の席に座った。

「――席につけ……」
 
 佐藤先生が入ってきた。いつもどおりの人相にクラスの隅から(きゃー)という悲鳴が聞こえたり聞こえなかったり……。

「――以上で、ホームルームは終わりだ」

 そう言うと、先生は教室から出ていった。

「――よお、ミツキ……!!」
 
 クラスにかかる重圧が消え、ホッとしていると目の前にやかましい顔があった。

「なんだ、陽日はるひか……」

「なんだとは酷いな!!」

 がはは!! と豪快に笑う『元気小僧』という言葉に最もふさわしい男ハルヒ。
こいつは、俺があの薬を飲んで、人生を変える前から、何かと絡んできてくれた奴だ。汚い髪に、ぼろぼろな制服。周りから気味が悪がられる俺に「お前の制服、何か猛者みたいでいいな……!!」とか言って話しかけてくれた。
頭はあまり良くないが素直で良いやつだ。

「ごめんごめん、ハルヒ、俺、ついに三十なったぞ」

「なに、くそー、また負けたか……!!」

 俺とハルヒは親友であるとともにライバルでもある。

「俺昨日やっとレベル二十五になったのに……」

 こいつはもともと、見た目通り身体能力がバカ高く、レベルは俺のほうが上だが、運動に置いて、一度も勝ったことがない。

「でも、お前のほうが強いだろ……?」

「その通り……!! たとえレベルで負けていても、かけっこだけは負けない……!!」

 片手を腰に当て、もう片方の手を天井に突き上げる。決めポーズかなんなのか知らないが、ダサい。

「今はわかんないけどな……?」

 からかい口調でハルヒを脅してみる。すると……


「う、ううぁぁあああああ!!」

 後数分で授業が始まるにも関わらず、校庭に走りに行ってしまった。

「やれやれ……」


                       ◇

――長かった授業も終わり、帰りの時間になった。

「――気をつけて帰るように……」

 帰りのホームルームが終わり、皆それぞれ、部活やら寄り道に向かう。

「ミツキ行くぞ……」

 俺は放課後にレベル上げのために毎日三十分、近くの山でハルヒと組手をする。

――身長が百八十以上あるミツキの攻撃は重い。気を抜けば簡単に吹き飛ばされてしまう。


「――おぉ、何だそれは……!! 凄いぞミツキ……!!」

 だから、レベル三十になったと同時に出来るようになった『空中歩行』を使いハルヒの頭上に回る。

「終わりだ」

 高いところから落ちればその運動エネルギーは凄まじいものとなる。俺は、重力を利用し、ハルヒの頭にドロップキックをお見舞いしようとした。が、ハルヒは喰らう直前、俺の足を掴みぐるぐる回して吹き飛ばした。

「がははは、まだまだ甘いなミツキ……!!」

 どこからそんな力湧いて湧いてくるのか疑問だが、今日も負けてしまった。

「帰るか。俺も投資しないといけないし」

「そうだな、俺も、飯食いたいし……!!」

 服に着いた土をほろい、カバンを持って山を降りる。山から見える景色は絶景でこの街の全てを見渡せる。
だから、どこで火事が起きたとか、交通事故が起きたとか。ひと目で分かってしまう。


「なあ、ミツキ。あれみろ……」

――本当にこの山は何でも見通してしまう。俺達の学校が燃えていることも……。







 



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