喫茶店の日常

黒歴史制作者

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喫茶店のある二十四時間section1

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  桜の花が散り始めた時期のことであった。

  初瀬と呼ばれる喫茶店の店員は濃紺の髪を揺らしながら喫茶店の開店の準備をしている。

  開店前の店の扉が開き、鈴の音が店内に響き渡る。

  

  開けたのはこの喫茶店の常連客である女性だった。開店前に開けたことに対して何も思ってないのか初瀬の方を見て声をかけてくる。

「初瀬ちゃん。今日空いてる?」
「急に来て何を言っているのかしらね。見て分からないの? 準備中よ」
「ということは、暇なのか」

  話を聞かない常連客である女性に初瀬は溜息をつく。この言語を喋れる人ではあるのだが、まともに話を聞かずに会話を進めていく。

  ここの常連客は大概自分勝手に話を進める人しかいないため、この女性に限った話ではないが。

「要件を言いなさい、要件を」
「暇だから、遊ぼう?」

  その言葉を聞いた初瀬は満面の笑みを浮かべる。そして拳銃を作り出して額に押し当てる。

「ふざけないでくれるかしら。私は準備があるって言ってるでしょう」
「嘘だから! ちょっ、危ない」

  女性は焦って両手を上のに上げているが、笑っている。この女性が開店前に来るとこの展開は恒例と化している。

  すぐに拳銃を下ろし、適当な椅子に座る。女性はその正面に座り、初瀬の顔を見る。

「で、白夜は何の用かしら?」
「それなんだけどね。貴女、いつまでこの世界の言葉を使わないでいるつもりなのかな」

  初瀬に白夜と呼ばれた女性は笑みを浮かべたまま初瀬に問いかける。
  初瀬はその問いかけに対して図星をつかれたような顔をして溜息をつく。

「それを白夜に言われると、何か釈然としないわね」
「なら言われない様に行動すればいいのだけれどね」

  白夜は問いかけている割には軽い雰囲気でいる。しかし初瀬の雰囲気に油断はなく、白夜の一挙一動を見逃さないように観察している。

  そのため、結果的には開店前の喫茶店内には不穏な雰囲気が渦巻いていた。

「別に、白夜に言われる程困っている訳ではないわ」
「やっぱり、教えてくれないか」

  白夜はそのセリフを聞いて溜息をつく。この結果を予測していたらしい。纏っていた軽い雰囲気が霧散するが、立ちあがって初瀬から背を向ける。

「帰るのかしら。何のために来たのか、理由を聞いてもいいかしらね?」

  扉を開け喫茶店から出ようとしていた白夜は、その声に振り向き初瀬に目を向けて言う。

「単に、貴女が困っていないか気になったからだよ。特に深い意味はない」

  それだけ言って白夜は店を出る。

  扉が閉まりきって鈴の音が消えてから、初瀬は安堵の溜息をつく。

「あの雰囲気で深い意味はないって嘘にしか聞こえないわよ」
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