無垢・Age28【AV女優橘遥の憂鬱】

四色美美

文字の大きさ
4 / 26

憂鬱な日々

しおりを挟む
 私の撮影は月一度。
安全日の中の特に安全な日だけだった。


そう……
又監督の命じられるままに遣られるだけの撮影。

でもそれらの人達は、きちんと病気まで調べられているようだ。

カメラマンが提案書を出して、進言してくれたそうだ。

監督も納得してくれたらしい。
生で遣らせて、性病を貰いたくないからだ。

監督は金儲けのことしか頭にないようだった。
それでも同意してくれたらしい。


エイズや梅毒、毛蝨。

性交渉によって感染する病気は多い。

それらを防ぐために、色々な手段が使用されたようだ。


スキンを使えばその問題は軽減するらしい。

でも監督は、何も付けさせないで遣らせることに拘っていた。
だから、安全な人だけを選ぶことにしたようだ。


使い捨てるより金になるとでも思ったのか?
借金を取り立てるためには近くに置いておいた方が得策だと考えたのか判らないけど……




 私は監督の言い付け通りに大学を辞め、新事務所の裏にある小さなアパートでカメラマンの隣の部屋で生活するようになった。


あの撮影の後、本当に妊娠しなかった。
だから以前所属していた事務所が安全日を教えてくれたと言う監督の言葉を信じてしまったのだった。



あのグラビアやビデオを見たらきっと反省して社長が助けに来てくれる。
私はそう思っていた。


でも幾ら待っても、何もなかった。
だから仕方なく此処で暮らすようになったのだ。



其処から前にある事務所へ行き、雑用処理の手伝いをさせられていた。


目が覚めたらそのまま布団の中で体温計を舌の上に置く。

それを毎日、グラフに付ける。

それは以前所属していた事務所でもやらされていた。
だから苦痛に感じることはなかった。


私の体調管理のためには必要なんだって。


私はそれが安全日を知るためだと言うことも知らされずにいた。

監督はそのグラフを見て、私の二十歳の誕生日がその中に含まれていることを知ったようだ。




 安全日の見分け方は、基礎体温で判るらしい。

低温から高温に切り替わる前後五日間が特に危険なようだ。


危険日は、生理開始から四日から排卵日の二日後まで。
何故なら排出された卵の寿命が、どんなに長くても二日だからだそうだ。


月経の周期が決まっている人なら、生理の始まる十日前が最も安全な日と思っても大丈夫のようなのだ。




 監督との腐れ縁は、その後八年もの間続けられていた。
その横には何時もあのカメラマンが居た。


耐え難い屈辱をファインダーを通して撮し取る。

カメラマンは常に私側にいてくれたようだった。


『待った。先に遣らせてくれ。誰かこのカメラ頼む』

そう言いながら遣ってしまったことが、カメラマンとして恥ずべき行為だと感じていたようだ。
だからあんなに御託を並べた訳だ。


でも私はあの時、不思議な感覚になった。


身体の中を通り抜け一番奥の壁をリズミカルに叩かれた時……
私はさっきまで痛くて、辛くて啼き叫んでいたとは思えないような声を出していた。


もしかして……
あれが喘ぎ声?

そうだったのかも知れない。

私はきっと彼のテクニックでイカされていたのだ。


私は今二十八歳。
グラビアアイドルは限界のようだった。


生で遣らせる橘遥のDVDの売れ行きも落ちて来ていた。


だからなのか?
きっと監督は見切りを付けて、最後に最初の男達と手を組んだに違いなかった。

もう一度、私を売り込むために……

だからカメラマンを変えたのだ。




 でも何故あの娘が?


私は床にアヒル座りになっているまだあどけない少女が心配でならなかった。


『ハロウィンの悪夢・拉致、監禁そして〇〇〇!!』
監督はその〇〇〇!!のところに再戦慄!!

と入れる予定だったそうだ。

戦慄!!
が私のデビュー作品だと知っている人が、そのDVDを売る作戦だったようだ。




 『だっておかしいでしょう?  私を脱がせたいなら……、どうしてデニムなの?』
って聞いたら……


『それも、彼方さんの希望だ。どうやら手こずりたいらしいんだな』

そう言った監督。


(だから、あの娘は助かったの? そうよ。私の時と同じだったらきっと最初から遣られていた……)


その時、監督の言って意味が理解出来た。


(手こずりたいか? でも本当に手こずって良かった)




 『そりゃそうだ。前技なんか遣ってたら、コイツは逃げていたよ』

監督のあの日の言葉を思い出す。


きっとあの娘には、その前技もあったんだろう。
私のようにいきなりがどんな結果になるか解りきっているはずだから……


監督にもあの時の悲鳴や啼き声は聞こえていたはずだから……

でも、私だと信じていたはずだ。
もしかしたら彼女は、その後で……


考えただけで、震えが来る。

そう……
あの娘も私同様ヴァージンだったのだ。


よりによって監督は……

又腸が煮え繰り返る。


やはりあの娘が助かったのはお兄さんがバイクで追い掛けたからだろう。

兄弟愛の力なんだろうと思っていた。




 その時私は、大切な人の存在することに気付いた。
私の中で唯一果てたあのカメラマンだ。

でも彼は喘ぎ声を上げながら私の身体を堪能して以来、大人しくなっていた。

きっと、誰か好きな人とシコシコ遣っているんだろうと思っていた。




 又……
あの日がよみがえった。

そんな時、耳を澄ませて隣の部屋音を聴く。

彼に優しくしてほしいのに……
又イカせてほしいに……

もう一度感じたいに……

傍に居るのに言えないもどかしさ。
隣り合わせの部屋に居るのに触れ合えない哀しさ。


そんな時私は、彼の行為を思い出しては疼かしていた。


(貴方が欲しい。今すぐ抱いて欲しい)

私の願いはそれだけだった。




 カメラマンのことを思うと、胸が張り裂けそうになる。

苦しくて苦しくて仕方ないこの感情が恋だと解っている。


でも、私から言える訳がない。
貴方と遣りたいなんて言えるはずがないのだ。

純情可憐な乙女だった日々が蘇がえる。

もしもあの頃出逢えていたなら……

それでも私は、彼に捧げていたと思う。
私は彼に運命的な何かを感じていたのだ。


最初はお尻を振って拒絶しようとした。
がんじがらめにされていても頑張ったんだ。




 でも私はこの人に助けてもらった。

痛くて痛くてどうしょうもなかった時、優しくしてもらった。
あれがあったから私は、苦痛だけだった撮影を乗りきれたのかも知れない。

だから今……
貴方の傍で過ごしたい。




 あれ依頼……
一度たりとも感じたりしていない。


あのカメラマンが、あまりに上手だったから。
私のヴァージンを奪った百戦錬磨の俳優より誰よりも……

だから彼のために取っておく。
本当の絶頂は残しておくことにしたのだ。
それが私に出来る唯一の抵抗だった。




 私は未だ、監督に言われるままに演技する。

幸い、お客様に顔は見られないのだ。


何故か、監督は私の相手をお客様と呼ぶ。


そのお客様方は、全員バックから遣りたがる。
デビュー作品を思い出して感じたいそうだ。

皆に見られても、撮られてもへっちゃらのようだ。

後でモザイク処理されると解っているから大胆に、遣りたい放題入れてくる。


だから監督も、バック以外はさせない。

私のふてくされた顔を見せないようにしただけなのかも知れないが。

お客様は、イク前には出して放出する決まりだ。
つまり幸いなことに、私はまだ彼以外受け入れていないのだ。

それだけが救いだった。
私の支えだった。


私はただ監督の指導で、ヤラセ演技の喘ぎ声を上げる。

決して、素人のお客様相手に感じている訳ではないのだ。


それでも満足してお帰りになられる。

一体私の何に感じるの?

私は淫らな女になっていくしかないのだろうか?




 出来れば、最初が彼なら良かった。

どんなに痛くても我慢出来たのにと思った。


もしあの椅子が此処にあったら、私は自らを捧げたい。

もう一度、八年前のヴァージンだった頃に戻って……

それほど、苦しい日々だったのだ。




 彼に犯されているのに、不思議な感覚になったことを思い出す。


(あれって、イカされた訳? あぁだったらもう一度遣られたい。中年のお客様じゃいや……。若いあの身体で彼に激しく遣られたい。ねぇ、今すぐ此処に来て、私を抱いて……)




 私はどうして此処にいるの?
ふと、そんな疑問にぶつかる。

監督は、何故私を自由にさせてくれないのだろう?
私を育ててくれた両親の借金はあとどれくらいあるのだろうか?




 デビュー作品が大ヒットしたと聞いている。

なら、それなら今すぐ私を開放して……

私の願いはそれだけだった。




 そんな時、偶然懐かしい人に合った。

私の高校の大先輩で、同じ大学に通っていた人だった。


高校を卒業して語学を勉強するためにアメリカに渡り、やはり日本の大学に入ろうと帰国したのだ。


彼女は私が以前所属していた事務所に努めていた。

私はこの人の紹介で雑誌やチラシのモデルなどをやっていたのだ。


そう……
私もハロウィンの悪夢で拉致された少女のように高身長だったのだ。

彼女が私に間違えられたのは着ている服装だけではなかったのだ。


それと、あの屈辱のバースデープレゼンショーの時私はショートヘアーだった。
だからあの三人組は彼女を拉致したのだと思ったんだ。




 その人は、私の近況を聞いてきた。

私は、本当は話したくもない新宿駅東口の拉致事件を泣きながら訴えてしまっていた。


そしたら、以前在籍していた事務所の社長が私のことを凄く心配していると言った。


「嘘ばっかり……」
私は思わず言っていた。


「社長は私をあの監督に売ったじゃない」
そう言ったら、信じられないって言うような顔をされた。


私はその時、一度事務所を訪ねてみるように説得された。




 悲しかった。
何故私を監督に売った人に会わなきゃならないのかが解らなかった。


「マジよ。マジに本当よ。社長は貴女を売ったりなんかしていないって」

彼女は力説した。




 「私のデビュー作品見た?」


「あぁ、あの処女を売るってヤツ?  うん、見たことは見たわよ」


「実はあの日が安全日だったんだって。監督は事務所に教えてもらったって言ってる」


「えっ、嘘ー!?   そんなの有り得ない」


「本当なんだよ。監督は、私の両親の借用書も持っていたの。だから身体で払ってもらうって凄んでね。私怖くて、従うしかなかったんだ」

でも私の話など彼女は信じていない様子だった。


「兎に角、一度訪ねてみて……」

彼女はそう言って席を立った。




 「絶対に行ってね。約束よ。もし、貴女の話が事実だとしてもね。そうだったら、その悔しさぶつけてみたら?」


「聞いてくれるかな?」


「聞かせなくちゃダメ。社長何も解っていないようだから」

彼女の言葉が気になった。


(社長が何も解っていないって、一体なんのことなんだろう?)

私はこの時、社長に会ってみようと思い始めていた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...