無垢・Age28【AV女優橘遥の憂鬱】

四色美美

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神と呼ばれた男

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 某有名私立大学の夜間部に通っていた海翔君は、アルバイトでホストグラブのボーイをしていた。


学入試以前に其処で働いていたそうで、きっかけは彼女が所属したモデル事務所の美魔女社長だった。


『お前のチェリーを奪わせてくれー!!』

海翔君はニューハーフになった同級生に追い掛けられていた。
その時助けてくれたのが美魔女社長だったのだ。


社長はホストグラブのオーナーと知り合いで、海翔君を其処に紹介したのだ。


本当はオーナーのお嬢様お相手だったようだ。




 海翔君がその大学を選んだ理由は……

同じ資格が取れるのに授業料が安いそうだ。

昼間と夜では時間割が違う。
講義単位が少ないから、多額の授業料金は貰えない訳なのだ。

だから海翔君は頑張って、なるべく全課程に出席して単位を取得しようとしたのだ。


彼は経済学部の学生としても、久しぶりに帰ってきた日本を謳歌していたのだった。




 彼は確かに童貞だった。

だから面白半分に、それを誰が奪うかのゲームに巻き込まれただけだったそうだ。




 「俺は意を決して、あの女性が待つホテルに向かった」

海翔君が、あの時の全てを語り出した。


「ドアをノックしたら、バスローブで出てきてすぐにシャワー室に案内された。チェリーを奪うことが目当てだってすぐに解った。後悔した。来るんじゃなかったって思った。でももう遅かった。俺は言いなりになるしかなかったんだ」

一瞬、ヌードモデルの彼女と同じだと思った。


「目を瞑れば良いと、自分に言い聞かせた。でも、出来るもんかと本心が囁く。こんなことだったら、俺のせいでニューハーフなった奴にくれてやれば良かったとさえ思った。そうしていればこんな女性を相手にしなくて済んだのに……そう思ったんだ。あの、疑惑のチェリーボーイと書かれた週刊誌を見て驚いた。写真はあのホテルだったんだ。隠し撮りされていたんだよ。でも結局、失敗したからやっぱりゲイだったってことにされたんだ」


「あ、失敗したんだ」

俺は又気配りのない失言をしていた。


「俺は解っていたんだ。この女性を敵に回したら酷い目に合うことを。俺をナンバーワンにするために、前人者がどんな目に会ったかも知ってる」


海翔君にそんな罠が仕掛られていたなんて思いもよらなかった。
俺は失礼だと承知しながらも身を乗り出していた。




 「ジン・神と呼ばれた男、か」


「読んだの?」

俺は素直に頷いた。


「あれは単なるこじつけ。第一俺が神の訳がないじゃないか」

海翔君はそう言いながら笑っていた。


「それでもイヤだった。今更だったけど……、俺はその時其処から逃げる決意をした。みさとのことが脳裏を掠めた?  そうかも知れない。俺は逃げる途中でみさとのことばかり考えていた。でもみさとは兄妹なんだって言い聞かせたてもいたんだ」


「えっ、今何て言った?」


「妹かも知れないと思ってもいたんだ。でっち上げでもスキャンダルになる世界だ。だから、ホストを辞めて東南アジアに戻ろうと思ったんだ。でもそれは出来なくなった。父が日本に帰ってくるかも知れないと解ったからだよ。あっ、結局妹じゃなかったんだ。本当はイトコだと解っていたけど、心配だったんだ」


「良かった。あれっ、そう言えば彼女から聞いたことがあったな。確か、ハロウィンの悪夢の拉致現場で、一緒にいた男性が海翔君のことを兄貴だって言っていたって」


「弟は知らなかったんです。アイツは父親の海外派遣が決まった時、みさとの母親に託されましたから……。みさとを妹だと信じていたんです」


「でも海翔君にとっては初恋の人だった?」

俺の質問に海翔君は頷いた。




 「それより、そろそろ出発します?」


「あっ、仕事忘れてた」

俺達は慌ててファミレスを飛び出した。


「ありがとう海翔君。真面目に仕事やらなきゃ社長にどやされるトコだった」


「いや、此処なら誰に見られても平気だよ。だから案内したんだ」


「それじゃもうちょっといる?」
俺は冗談とも本気ともとられる発言をしていた。


「うん、そうするか?  何て冗談だ。よし出発!!」




 俺達は早速バイクに二人乗りをして、その現場に向かった。

でも着いた所は愛の鐘建設予定地ではなかった。
それはどうやら一軒の農家のようだった。


「えっ、此処何処?」


「知り合いの豚農家の。実は、この家の豚を借りたんだよ。まずはそのお礼と、又借りられるかの交渉」


「へー、此処から借りたのか?」


「あの時『でも……、俺には車が無い。あの土地に豚を運びたいのに、豚も車も無いんだ』そう言ったんだ。したら、『何に使うかは判らないけど、豚も車も家にはあるよ。良かったら使ってくれないか?それで、交渉成立だ」

そう言いながら、海翔君は呼鈴を押した。




 「御無沙汰してます」

出てきた農場主に海翔君が挨拶する。


「あれっ、バイク何時持って来たの?」


「はい。何かと不便なんで、昨日二人で……」


「二人?」


「えっ、まあ……」

ぎこちなくなく答える海翔君を見て、同乗の相手はみさとさんだと思った。


「野郎二人じゃ色気もないな」

農場主は何を勘違いしたのか、俺と海翔君が東京からバイクでやって来たと思ったようだ。


「やだよ。こんなヤツとじゃ……」


「俺だってやだよ」


「ってことは……彼女か?」


「ちゃうちゃう。仕事関係の人だよ」

海翔君は変に誤魔化していた。


(あれっ、みさとさん、昨日東京に来たか? あれっ、確か東京駅に居たのは海翔だけだったような気がする……って言うことは一体誰と来たんだ?)




 「それより、又豚を運んで良いかな?」


「そろそろお願いしようと思い、やって来ました」


「あっ、これも仕事だったんだ」


「そうだよ。まず豚で開墾だ」


「其処に花の種を蒔くのか」


「それは後でだな。今は近くにある花を植えよう」


「それが一番手っ取り早いか?」


「そうだよ。何しろ時間がないからな。どうだ俺達は同士ならないか?」


「同士?」


「そう。俺は此処を守るために生まれて来た。だから君にも仲間になってほしいんだ」


「もしかしたら、此処でずっと暮らせってこと?」

俺の質問に頷く海翔君。


『社長。たった今、いいアイデアが浮かびました。彼処で腰を下ろして仕事がしたいのですが』
それは、社長に語った俺の夢だった……
もしかしたら、社長から聞いたのか?
俺は不謹慎にもそう思ってしまった。




 「こいつの郷土愛は半端じゃないからな」

それは、海翔君の良き理解者だと感じさせる発言だった。


だから君も彼女と静かに暮らせて行けばいいだ。
海翔君がそう言っているように感じた。




 「『このサプライズを思い付かせてくれたのはみさとだった』って。あれは竹じゃなかった?」


「俺は仕方なく、この人に竹の使い道を話したんだ。俺はみさとの発案で決まった卒業論文の中身の通りやってみたくなった。港から見える小高い丘に荒れ放題の土地がある。杭は打ってあるから誰かの持ち物なのだと思っていたけど、その場所が凄く気になっていたんだ」


(海から見える荒れ地か……)

俺は、この土地が物凄く気になっていた。




 「俺はその場所に目を着けた。其処の持ち主を調べて、無償で貸してもらえるように交渉しようとした。でも聞いて驚いたよ。其処は撤退した自動車工場がもて余している土地。つまり親父の勤めている会社の所用物だったのだから」


「あっそれでか?」


「うん。だから早速親父に連絡して、有効活用してはどうかと提案してみたんだ。親父はいつの間にか自動車工場の幹部になっていたんだ。だから、二つ返事でオーケーしてくれたっ訳だ」

二つ返事ってトコが気になる。
もしかしたら、見きり発車かな?
なんて思っていた。


「管理や維持費だけでも相当な金額がかかるらしいんだ。だから放ったらかしになっていた訳だ。俺も彼処を何とかしたかったんだよ。だから、乗った訳だ」




 「でも喜んでくれたよ。『俺達の故郷をよろしく頼む』って、受話器の向こうでそう言われた。俺達……って、親父とみさとの母親のことだと思った。『勿論だよ。俺に任せてくれ』思わずそう言ったんだ」


農場主は熱心に耳を傾けてくれたようだ。

だから、豚が借りられた訳だ。


「俺はそれに気を良くしていた。だから『でも……、俺には車が無い。あの土地に豚を運びたいのに、豚も車も無いんだ』って言ってた。本音は、車が借りたい。出来ることなら運転手付で……そう言いたかったんだよ」


「俺はそれを察して『何に使うかは判らないけど、豚も車も家にはあるよ。良かったら使ってくれないか?』って言ったんだ」


「でも……、俺の心を見透かしていると判っていたよ」


「何だか羨ましいな、こう言う結び付き……。きっと絆って言うんだね」

俺は解ったようなことを言っていた。




 「まず草の処分だ。それには又此処で豚を借てり放す」


「要するに、又車で豚を運び、其処へ放せして来いってことか?」

間髪入れずに言ったかと思うと農場主は豚舎へ向かった。


「実は、みさとが見て教えてくれたテレビ番組を見ていたらしいんだ。豚舎で餌を与えるのと違って代金がかからない。それだけでも農家の利益になるから結構乗り気だった」




 農場主早速、豚を数頭乗せた軽トラで其処に向かって出発した。


「さあ、俺達も出発しよう」

海翔君がバイクに跨がった。


麓から丘を目指す豚。
自然に耕した状態の土地が生まれて行く。


そんな風景を俺に見せるためなのか?
何故か港にいた。




 俺達はその後で、豚の放牧現場である愛の鐘設置場所へ急いだ。


バイクが現場に近付くにつれて、動悸が激しくなっていく。

それが何なのかは判らない。


でも、何かが俺を待っていると感じていた。




 その土地はとても広かった。
そして……

監督との面会時に感じた何かを思い出させた。


「ヴィアドロローサ」
俺は思わず言った。
それはまさに、あの時俺が想像していた景色そのものだった。




 (そうか……あの動悸はこれだったか? 俺は此処に来る前にこの風景と出会っていたんだ。それはきっと、俺の深部にコラボしていて、俺と彼女が求めていたものなんだ)


それは……、社長に語った俺の夢。
そのものだったのだ。




 社長は監督との出来事など気にするなと言った。
でもしない訳がない。


彼女が背負わされた背徳行為と言う十字架。

どんなに打ち消したくても、取り消したくても……俺がバラしたことにより社長も知ることとなった真実が彼女にはある。


彼女気が付かなければそれで済む問題ではないのだ。


俺はこれから先……
多分一生、この試練と共に生きて行くしかないんだろう。


それはキリストが十字架を背負って歩かされたと言う、ヴィア・ドロローサにも似てる。

そう思った。


エルサレムにある悲しみの道は、その先の丘まで続く。


あの時、社長に夢を語った。

その思い描いた風景そのものが目の前に広がっていたのだ。


あの時俺は、今度こそ彼女をしっかりと守りたいと思った。

そう考えた時、閃いた。

愛の鐘の向こうに無人のチャペルを作ろう。
と――。


出来ることなら二人でその近くに住み、一生を彼女に捧げたいと思ったんだ。


それが俺の出来る唯一の償いだと思った。

俺の夢は……
その時に変わったのだ。




 『社長。たった今、いいアイデアが浮かびました。彼処で腰を下ろして仕事がしたいのですが』
俺は思わず言っていた。


『つまり、娘と一緒に彼処で暮らしたいってことか?』


『はい。海翔君達と一緒に愛の鐘プロジェクトをやり遂げたいのです。あの土地が会社の資産なら、もっと活かせる方法も模索出来ると思います』


『何だか解らないけど、君はやってみたいのだろう?』


『はい。是非やらせてください』

だから俺は必死に頭を下げたんだ。




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