ゴールドスカル(不完全な完全犯罪・瑞穂と叔父の事件簿)

四色美美

文字の大きさ
12 / 23

叔父に真実を・磐城瑞穂

しおりを挟む
 「このコンパクトは、俺が始めて叔父さんから貰った給料で買ったんだ」


「ちょっと待て、俺は給料なんかやった覚えはないぞ。お小遣いの間違いじゃないか?」


「何言ってるんだ。お小遣いじゃないよ。やだ忘れちゃったの?」


「そうだったか? あっ、思い出した。『さっきみずほちゃんがこのアパートを見ていたような気がする』って言った後だったな」


「そうだよ。俺は『嘘だーい』って言った。でも本当に見ていたようなんだ」


「やはりそうだったか?」


「うん。話し変わるけど、そのコンパクトにこんな文字が書いてあった。その文字が泣いていたんだ。みずほの心を……、みずほの痛みを俺に伝えようとしているかのように……その時俺の霊感が覚醒されたんだ」


「これは酷いな。みずほちゃんは虐められていたのか?」
その質問に首を振る。
叔父さんにはあの事件の真実をまだ話していなかったのだ。



 「『今度は誰が死ぬんだろう?』ってクラスメートの町田百合子が言った時、『えっ!?  ああ、例の三連続?』そう言ったのは、福田千穂だった』


「三連続?」


「そう三連続なんだ。この殺人ゲームは……このまま続くのか!? って俺は思った」


「殺人ゲームとはまた穏やかじゃないな。もしかしたらみずほちゃんはそれに巻き込まれたのか? 確か三連続で死が発生すると言う迷信があったな」


「所謂こじつけだけどね。一人が死に……次の人が死ぬ。そんな時、死が飛ぶとか言って恐れたのだったね。注意しろと言う暗示らしいけど、それを悪用されてみずほは殺されたんだ」
そう言った途端に涙が溢れてきた。




 「ところで瑞穂。さっき福田千穂とか言わなかったか?」


「ごめん、叔父さん。千穂が死んだのは俺の責任なんだ。千穂は俺が好きだったらしい。でも俺はみずほに夢中で、千穂のことは眼中になかったんだ。だから町田百合子の悪巧みに乗ってしまったんだよ」


「町田百合子ってのは千穂ちゃんと一緒に屋上から落ちた娘か?」


「うん。町田百合子はある人のストーカーだったんだ」


「ストーカー! それはまた、穏やかじゃないな」


「そうなんだ。だからソイツの後を付け狙っていたんだ。その時、ソイツは『サッカーの試合に磐城瑞穂が来なければいいな』って言ったのを聞いて、俺を殺す気になったんだ」


「えっ!? 狙いは瑞穂だったのか? それだったら何故みずほちゃんが……」


「千穂が、望んだんだ。平仮名表記のキューピット様でいわきみずほって百合子が強引に書き込んだ時に」


「キューピット様って?」


「あっ、所謂コックリさんだよ」


「へー、懐かしい。ところで、まだそんなのが流行っているんか?」


「いや、町田百合子がいわきみずほって書くために始めたんだ。あれは鉛筆での自由表記だから」


「自由表記って?」


「キューピット様は他の邪悪な占いと違い、鉛筆を使用するんだ。その手軽さが小学生にうけて一気に広まったんだ。はい、いいえ。そのくらいしか要らないから」


「そう言えばコックリさんは確か十円玉だったな」


「うん、そうだよ。一人の女生徒が、藁半紙の上にハートマークを書く。そのハートの真ん中にへ百合子が矢を足したんだ」


「その時、いわきみずほって書かれたのか?」


「『この次に死ぬのは誰ですか?』って、あまりにも唐突な質問だった。でもみんな、鉛筆の先を見つめていた。そしてその答えが、いわきみずほだったって訳だ」


「いわきみずほって二人いるな」


「だから『そうだ。男なのか女なのか聞いてみて』そう言ったのが千穂だった」


「でも何でそんなことが解るんだ。まさか……」


「そう。みずほのコンパクトが熱をもち、俺に見させてくれたんだよ」
俺は更に泣き出した。




 「そして放課後。岩城みずほは屋上へ呼び出されたんだ」
俺は声を詰まらせた。俺の感じた事柄を叔父に話しても良いのか戸惑っていたからだ。もう既に始めてしまったのに……


俺はみずほの返事を聞きたくなって、コンパクトを握り締めた。でも何も答えてはくれなかった。


「『昨日キューピット様を遣ったら、あんたが死のお告げがあったの。だからあんたは死ななきゃならない 』そう言いながら百合子がコンパクトを見せて、『恋人もあんたの死を望んでいる』と、徐々に屋上の柵に追い詰めて行ったんだ。俺は慌ててコンパクトを閉じた。それ以上見るのが怖くなったんだ」
やっと言えた。でもそれで叔父に伝わったかどうかは解らないけどね。




 「瑞穂!!」
叔父は俺を抱き締めながら頭に手をやった。


「辞めてよ、叔父さん」
俺は照れくさそうにその手をほどいた。


「キューピッド様。聞こえは良いが、ようするに狐狗狸さんだ。狐に天狗に狸。邪悪な……そう思えてならなかった」



「以前何かの雑誌で読んだ事がある。キューピッド様だか解らないけど……。学校で遊んでいた時帰ってくれなくなったらしい。十円玉から指を離すと死が待っている。そう思い誰も帰れなくなったそうだ」


「その話は叔父さんから以前聞いたよ。『余りに帰宅の遅い子供を迎えに学校へ父兄達が集まった時は、みんな半狂乱になって泣きながら机を囲んでいた』と言っていたよ」


「そんな邪悪な方法で、みずほちゃんの死がもてあそばれたって訳か?」


「そうだよ。だから俺は始めたヤツを許せないと思ったんだ」


「だから見えたのか? その時と同じように、あの男性のゴールドスカルのペンダントヘッドから……」
叔父の質問に頷いた。




 不思議だった。
何故見えるのか、解らなかった。
俺が心を込めて贈ったコンパクトはみずほを綺麗にするためではない。
だってみずほは充分美しくセクシーだった。
セクシャルと言った方が正しいのかも知れない。
内面から湧き出す魅力がみずほにはあった。


この叔父の探偵事務所でアルバイトした初めての給料で買った物だった。だからみずほは心から喜んでくれたんだ。


「『瑞穂のためにもっと可愛い女性になるね』ってみずほは言ってくれた」


「いや、みずほちゃんは元々可愛かったよ」
叔父が言ってくれた。





 「俺はみずほの残したコンパクトを通して事件の真相を知ろうとした。でも何故俺にそんな能力があるのだろう? それは俺自身も解らないから、きっとみずほの心が見せてくれたのだと思ったんだ」


「瑞穂に真実を伝えるために……かな?」


「でも、そしてそれが……新たなる悲劇への始まりになることなど……俺には知る由もなかった。そうこの事件はこのままでは終わるはずがなかった。三連続で死が発生する。これはまだ序章に過ぎなかったのだ」


「でもまさか千穂ちゃんが……」


「だから誰にも言わないで。全ては千穂を愛さなかった俺の責任なんだから……」


「違うよ瑞穂。千穂ちゃんは双子の兄妹みたいな存在だったからだよ。そんなに自分を責めるな」
叔父が言ってくれた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...