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穢(汚れる)・綾
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そして季節は進み、いつの間にかクリスマス近くになっていた。
私達の学校では、今年最後のイベントであるクリスマス会の練習に余念がなかった。
卒業生全員の進路が無事に決まることを願うためでもあった。
そして、最後の学期を有意義に過ごして貰うために追い出し会も兼ねていた。
卒業試験。
就職活動。
受験勉強。
まだ進路の決まっていない三年生にとっては、地獄の日々が待ち受けているのだった。
だからせめて、クリスマス会は派手に。
ついでに、全員を卒業させて追い出してやるぞ。
そう思って各クラスここぞとばかりの演出をする。
それが通年のパターンだった。
私のクラスの出し物はコントのシンデレラ。
誰が主役の座を射止めるのか?
例によってアミダクジで全てが決まるのだった。
その追い出し会の前日は珍しくホワイトクリスマスイブとなった。
夕方あたりから降り出した雪に、ロマンチックになった私が其処にいた。
実は今日。
この地域の初めての試み。
《キャンドルツリーイベント》
があるのだ。
私は母と行きたくて、父の帰りを待った。
でも父はやっぱり帰って来なかった。
こんな日もキチンとパチンコで遊んで来る。
家庭サービスなんて二の次の身勝手な男の生き様。
水野先生だけにはこんな風になって貰いたくないと思った。
マフラーをしっかり巻いてコートの襟を立てた。
エアコンで暖められた室内と違って、玄関は寒々としていた。
足元からジンジン冷えて、思わず身震いをした。
ポケットから手袋を出し、小さな手にはめた。
そっと頬刷りをする。
柔らかなモヘヤが心地良かった。
これから始まる《キャンドルツリー》がどんなものなのかも知らない。
でもそのネーミングだけで私は酔っていた。
「ねぇお母さん。どうせお父さんは遅いんだから行っちゃおうよ」
私は母を誘った。
でも母は父を待つと言う。
「そんな事言っていたら終わっちゃうよ」
私は玄関の中で、母の心変わりを待っていた。
その時。
いきなり玄関が開いた。
(えっ!?)
私は一瞬棒立ちになった。
ビックとした。
父が……
珍しく父が早く帰って来たのだった。
母に嫌がらせをするためだった。
私が……
《キャンドルツリーイベント》
のことを何時も言っていたからだった。
「テメエ等は又、俺の目を盗んでコソコソと!! おい、解っているのか。早く飯にしろ!」
慌ててキッチンに向かった母に暴言を浴びせる。
そのためだけに早く帰って来たのだった。
父の仕事は営業だ。
イヤなことがあっても我慢する。
下げたくない頭も下げなくてはいけない。
母とのお見合いだって、付き合いだったはずだ。
まさか本当に結婚するなんて思いもしなかったことだったろう。
だから自分の親にも縁談話をしていなかったのだ。
でもそのせいで……
お見合いをしてから親に言ったら叱られ、母親が挨拶に来ることになった。
当日仲人が突然介入して来て、その日の内に結婚式の日取りや式場まで決めてしまったのだった。
あれよあれよと言う間に乗せられて、結婚する気もない母と結婚させられる羽目になった。
辛いのは判る。
でも……
だからって……
母にあたらなくてもいいだろう。
私は母に罵声を浴びせる父の声を聞きながら玄関を開けた。
確かに父の帰りを待っていた。
それは……
会社が終わってすぐ帰って来ると、お酒を呑んでからでも遅くないからだった。
ごくまれに定時で帰る日もあったので期待していたのだった。
でも今日のは違う。
母を馬鹿にするために、完全に仕組んだことだと思った。
そう言う時の時間配布は完璧な人だったから。
食事の後片付けの済んだ母を、イベント会場へ行かせなくするためだけにこの時間帯を狙ったのだった。
国道を挟んで左右にある公園。
其処にあるモミノキをクリスマスツリーに仕立てて、願いを込めたオナメント飾る。
二つの公園を結ぶのは、太陽系の惑星を道路面に配置した横断歩道。
一番小さな……
除外された星もある。
発表される以前から其処にあったから、そのままになっていたのだった。
その通路の真ん中に竹で作ったキャンドルスタンドを並べるのだ。
ただ竹を切るだけではない。
薄い石を中に入れての防火対策も岩壁な代物だったのだ。
竹はすぐ伸びて蔓延る。
実は物凄い厄介物なのだ。
良いタケノコを取るために伐採された竹。
これはその有効利用の一部だったのだ。
このアイデアは七夕の時に考えられた。
会場は二つの商店街を結ぶ小道だった。
使用後の竹は小さな垣根にアレンジされて、市民の目を楽しませる。
一石二鳥も三鳥も兼ね備えた町おこしイベントだったのだ。
この竹のキャンドルケースは、そのまま一方通行の仕切りになる。
それはそれは幻想的で美しい……はずだった。
だから私は母と見たかったのだ。
例によって悪戯する父のために……
まさかこんなことになるなんて……
でもどうしても見たくて、一人で外出した私。
こんな家族と楽しむためのイベントに一人で居る……
楽しいはずなどなかった。
その光は……
これからの人生を照らしてくれる物ではなかった。
母と来たかった。
でもこうゆう時に限って早く帰ってくる父。
それも中途半端な時間を選んで。
クリスマスイブだから早く帰って来た訳ではのないのだ。
お祭りの日だって、七夕の日だって、夜から出掛けようとすると必ず邪魔をするためだけにこう言う時間を選んで帰って来るのだ。
だって何時もの年は、私が泣きながら眠った後に帰って来ていたのだから。
子供の時は、父と一緒のクリスマスを楽しみにしていた。
でも、一度も一緒にクリスマスケーキを食べた記憶がない。
本当に本当に……
やり方が汚い父だった。
「佐々木さん」
いきなり声を掛けられた。
振り返ると、其処に清水姉妹がいた。
何時か渋谷で会った叔父さんもいた。
「あらっ泣いてるの?」
清水さんの言葉に驚いて、手袋を外して指を頬に持って行った。
指先が濡れていた。
私は涙を親友に見られたことが気まづくなり、そっと会釈をして帰路についた。
(何のために行ったの!? 解らないよ!!)
私は自問自答した。
でもこれだけは言える。
決して惨めになるために来たのではない。
振り向くと……
雪と炎で、歩道橋が幻想的に映った。
そう……
これが見たかったのだ。
母と一緒に……
気まずい雰囲気だった。
私は出掛ける前にクリスマスケーキを食べてしまっていた。
父の傍は……
まるで針の筵。
私は父との隔たりを感じながら、其処に居るしかなかった。
「クリスマスだから早く帰ってやったんだ」
父は私を睨み付けながら言っていた。
私は居たたまれなくなり、その場から逃げ出し自分の部屋に引き籠もった。
母が困ることも承知だった。
でも、どうして彼処に居たくなかったのだ。
私は泣きながらベッドに居た。
小さい時は、サンタクロースを待っていた。
でも、私に来たことはなかった。
クリスマスプレゼントは母からの手渡しだったから。
(サンタさん。もしも私の願い事が一つ叶えられるのだったら……水野先生に会いたい。会いたいよー!!)
本当は声の限りに泣き叫びたい。
母の真似をして鏡を見ると、涙で顔がグシャグシャになった自分が写る。
この後ろに水野先生がいたら……
私は遠い水野先生の面影を追い掛けては、会えない現実を恨んでいた。
何故父は私に酷い仕打ちばかりするの?
被害妄想だと言われてしまえば美も蓋もない。
私を嫌う元因はやはりあのことなんだろうか?
十二月二十五日。
三月の卒業式にはまだちょっと早いけど、追い出し会が高校の近くの市民ホールで行われてようとしていた。
学校は冬休みで、クリスマス会を合わせたイベントになる予定だった。
私の住む地域からだと其処は約五キロ離れていて、自転車だと一時間以上かかる場所だった。
卒業生に受験勉強や就職活動をしやすくさせるためにこの時期に開催されていたのだった。
学校へは何時も自転車で行っていた。
だから今日とそれで行くつもりだった。
でも……
いくら近くにあると言っても、その市営のホールはかなり離れていたのだった。
母は私を気遣って、昨日の内に父に車で送ってもらえるように話をしてくれていた。
私が部屋に引き籠もっていた時に。
何時もなら、自転車で行ける。
でもこんな積もった雪道では、到底走れない。
私は気を揉みながら、父を待った。
やっと起きて来た父は雪を見ていた。
「こんなに積もっちゃ車は出せないな」
と、当たり前のように言う。
「えっ!? じゃあ綾は何で行けば良いの?」
母が聞く。
「何時もの自転車で行けばいい」
血も涙もないような父の発言に遂に母はキレた。
「そんなー、あんまりだわ! 綾が、綾が可哀想過ぎる!」
母は泣きながら訴えた。
「あんなに昨日頼んだじゃないの!」
母は興奮していた。
その時、父の目が私を睨んだ。
昨日のお返しだと言っているように思えた。
その時、私は覚悟を決めた。
母はもう一度父に、車で送ってくれるように説得していた。
それでも父は冷静だった。
「時間ないぞ。ほら早く行け」
そう言いながら、朝刊に目を通した。
昨日、私がイベントに一人で出掛けたことが気にくわないようだ。
父にしてみたら、帰って来てやったんだと言う思いがあったのだろう。
でも、そのタイミングが問題なのだ。
それなら素直に寄り道しないで帰って来れば済むことなのに……
クリスマスを楽しんでから家族でイベントに出掛けられたらのに。
そう……
私はあくまで、あのキャンドルツリーイベントにこだわっていた。
本当は家族で楽しみたかったのだ。
清水さんの一家のように。
私は逆らえなかった。
「分かった。じゃあ行って来るね」
そう言ったのは、父に対する意地だった。
自転車なんかで行ける筈がない。
それは解っていた。
それでも私は、サドルにまたがった。
覚悟はしていた。
どんなことがあっても会場にたどり着こうと思っていた。
ハンドルが雪に取られ何度も転ぶ。
半べそをかきながら、それでも前に向かった。
私の長い長い戦いが始まった。
遂に自転車を支えながら歩き出した。
それでも又ペダルを漕ぐ。
半ばヤケクソだった。
容赦なく降り積もる雪。
私は空を見上げては白いため息をはいた。
国道に出るまでその状態は続いた。
驚いた事に国道脇の舗道には、既に幾つかの自転車の轍があった。
私は出来る限り其処を通ろうと思った。
でも、思ってた以上に深い雪にペダルが絡む。
タイヤが沈む。
国道沿いの鋪道も地獄その物だった。
(もし此処で自転車から投げ出されて国道の車に引かれたら……水野先生と会えなくなった今……私に何があるの? これから先もきっと父に意地悪されながら暮らして行くしかないのだろう。だったら、いっそのことこのまま此処で……)
遂に……
其処まで私は追い詰められていた。
ふと足を止めた横断歩道。
昨日の余韻の竹のキャンドルケース。
その上に積もった雪で……
私は清水さんに涙を見られたら事を思い出して、急に惨めなった。
(このまま自転車を捨てて何処かに行きたい!!)
そう思った。
着いた時には、追い出し会は既に始まっていた。
それはそうだ。
私は何時間も……
そう感じられるほど永い時間を、雪との戦っていたのだった。
異常な私を不信に思って、警備員が近づいて来る。
「騒ぎに来たのか?」
質問に首を振った。
「異常者か?」
それにも首を振った。
私はそこで足止めされた。
「親はどうした?」
「その親に、自転車で行けと言われた」
私は正直に答えた。
「嘘つけ!」
警備員の声に私は震えた。
「そんな親何処にいる!」
警備員は私の前に立ちはだかった。
「お願いします。今ならまだ舞台に間に合います!」
私は必死に訴えた。
でも……
聞く耳さえ持っていないらしくて、私は通せんぼされたままだった。
私の身柄は不審者として拘束されることになるようだ。
警備員の電話応答からそう判断した私は、自転車を其処に横倒しにして逃げ出した。
もう嫌になったいた。
説明することも、説得させることも……
それならいっそのことあの建物の中に入って先生方に救いを求めよう。
そう思った。
だってその先に私の目指した市営のホールはあるのだから。
振り返ると警備員が凄い形相で追い掛けて来る。
「誰かー!! お願い誰か助けてー!!」
私は必死にホールに向かって叫んだ。
深い雪に足が取られる。
体が揺れる。
それでも逃げた。
一生懸命逃げた。
でも遂に……
前のめりになり、頭から雪に突っ込む。
そして又……
取り押さえられた。
私はもうボロボロになっていた。
逃げ出す気力もないほどに……
私は又覚悟を決めた。
私達の学校では、今年最後のイベントであるクリスマス会の練習に余念がなかった。
卒業生全員の進路が無事に決まることを願うためでもあった。
そして、最後の学期を有意義に過ごして貰うために追い出し会も兼ねていた。
卒業試験。
就職活動。
受験勉強。
まだ進路の決まっていない三年生にとっては、地獄の日々が待ち受けているのだった。
だからせめて、クリスマス会は派手に。
ついでに、全員を卒業させて追い出してやるぞ。
そう思って各クラスここぞとばかりの演出をする。
それが通年のパターンだった。
私のクラスの出し物はコントのシンデレラ。
誰が主役の座を射止めるのか?
例によってアミダクジで全てが決まるのだった。
その追い出し会の前日は珍しくホワイトクリスマスイブとなった。
夕方あたりから降り出した雪に、ロマンチックになった私が其処にいた。
実は今日。
この地域の初めての試み。
《キャンドルツリーイベント》
があるのだ。
私は母と行きたくて、父の帰りを待った。
でも父はやっぱり帰って来なかった。
こんな日もキチンとパチンコで遊んで来る。
家庭サービスなんて二の次の身勝手な男の生き様。
水野先生だけにはこんな風になって貰いたくないと思った。
マフラーをしっかり巻いてコートの襟を立てた。
エアコンで暖められた室内と違って、玄関は寒々としていた。
足元からジンジン冷えて、思わず身震いをした。
ポケットから手袋を出し、小さな手にはめた。
そっと頬刷りをする。
柔らかなモヘヤが心地良かった。
これから始まる《キャンドルツリー》がどんなものなのかも知らない。
でもそのネーミングだけで私は酔っていた。
「ねぇお母さん。どうせお父さんは遅いんだから行っちゃおうよ」
私は母を誘った。
でも母は父を待つと言う。
「そんな事言っていたら終わっちゃうよ」
私は玄関の中で、母の心変わりを待っていた。
その時。
いきなり玄関が開いた。
(えっ!?)
私は一瞬棒立ちになった。
ビックとした。
父が……
珍しく父が早く帰って来たのだった。
母に嫌がらせをするためだった。
私が……
《キャンドルツリーイベント》
のことを何時も言っていたからだった。
「テメエ等は又、俺の目を盗んでコソコソと!! おい、解っているのか。早く飯にしろ!」
慌ててキッチンに向かった母に暴言を浴びせる。
そのためだけに早く帰って来たのだった。
父の仕事は営業だ。
イヤなことがあっても我慢する。
下げたくない頭も下げなくてはいけない。
母とのお見合いだって、付き合いだったはずだ。
まさか本当に結婚するなんて思いもしなかったことだったろう。
だから自分の親にも縁談話をしていなかったのだ。
でもそのせいで……
お見合いをしてから親に言ったら叱られ、母親が挨拶に来ることになった。
当日仲人が突然介入して来て、その日の内に結婚式の日取りや式場まで決めてしまったのだった。
あれよあれよと言う間に乗せられて、結婚する気もない母と結婚させられる羽目になった。
辛いのは判る。
でも……
だからって……
母にあたらなくてもいいだろう。
私は母に罵声を浴びせる父の声を聞きながら玄関を開けた。
確かに父の帰りを待っていた。
それは……
会社が終わってすぐ帰って来ると、お酒を呑んでからでも遅くないからだった。
ごくまれに定時で帰る日もあったので期待していたのだった。
でも今日のは違う。
母を馬鹿にするために、完全に仕組んだことだと思った。
そう言う時の時間配布は完璧な人だったから。
食事の後片付けの済んだ母を、イベント会場へ行かせなくするためだけにこの時間帯を狙ったのだった。
国道を挟んで左右にある公園。
其処にあるモミノキをクリスマスツリーに仕立てて、願いを込めたオナメント飾る。
二つの公園を結ぶのは、太陽系の惑星を道路面に配置した横断歩道。
一番小さな……
除外された星もある。
発表される以前から其処にあったから、そのままになっていたのだった。
その通路の真ん中に竹で作ったキャンドルスタンドを並べるのだ。
ただ竹を切るだけではない。
薄い石を中に入れての防火対策も岩壁な代物だったのだ。
竹はすぐ伸びて蔓延る。
実は物凄い厄介物なのだ。
良いタケノコを取るために伐採された竹。
これはその有効利用の一部だったのだ。
このアイデアは七夕の時に考えられた。
会場は二つの商店街を結ぶ小道だった。
使用後の竹は小さな垣根にアレンジされて、市民の目を楽しませる。
一石二鳥も三鳥も兼ね備えた町おこしイベントだったのだ。
この竹のキャンドルケースは、そのまま一方通行の仕切りになる。
それはそれは幻想的で美しい……はずだった。
だから私は母と見たかったのだ。
例によって悪戯する父のために……
まさかこんなことになるなんて……
でもどうしても見たくて、一人で外出した私。
こんな家族と楽しむためのイベントに一人で居る……
楽しいはずなどなかった。
その光は……
これからの人生を照らしてくれる物ではなかった。
母と来たかった。
でもこうゆう時に限って早く帰ってくる父。
それも中途半端な時間を選んで。
クリスマスイブだから早く帰って来た訳ではのないのだ。
お祭りの日だって、七夕の日だって、夜から出掛けようとすると必ず邪魔をするためだけにこう言う時間を選んで帰って来るのだ。
だって何時もの年は、私が泣きながら眠った後に帰って来ていたのだから。
子供の時は、父と一緒のクリスマスを楽しみにしていた。
でも、一度も一緒にクリスマスケーキを食べた記憶がない。
本当に本当に……
やり方が汚い父だった。
「佐々木さん」
いきなり声を掛けられた。
振り返ると、其処に清水姉妹がいた。
何時か渋谷で会った叔父さんもいた。
「あらっ泣いてるの?」
清水さんの言葉に驚いて、手袋を外して指を頬に持って行った。
指先が濡れていた。
私は涙を親友に見られたことが気まづくなり、そっと会釈をして帰路についた。
(何のために行ったの!? 解らないよ!!)
私は自問自答した。
でもこれだけは言える。
決して惨めになるために来たのではない。
振り向くと……
雪と炎で、歩道橋が幻想的に映った。
そう……
これが見たかったのだ。
母と一緒に……
気まずい雰囲気だった。
私は出掛ける前にクリスマスケーキを食べてしまっていた。
父の傍は……
まるで針の筵。
私は父との隔たりを感じながら、其処に居るしかなかった。
「クリスマスだから早く帰ってやったんだ」
父は私を睨み付けながら言っていた。
私は居たたまれなくなり、その場から逃げ出し自分の部屋に引き籠もった。
母が困ることも承知だった。
でも、どうして彼処に居たくなかったのだ。
私は泣きながらベッドに居た。
小さい時は、サンタクロースを待っていた。
でも、私に来たことはなかった。
クリスマスプレゼントは母からの手渡しだったから。
(サンタさん。もしも私の願い事が一つ叶えられるのだったら……水野先生に会いたい。会いたいよー!!)
本当は声の限りに泣き叫びたい。
母の真似をして鏡を見ると、涙で顔がグシャグシャになった自分が写る。
この後ろに水野先生がいたら……
私は遠い水野先生の面影を追い掛けては、会えない現実を恨んでいた。
何故父は私に酷い仕打ちばかりするの?
被害妄想だと言われてしまえば美も蓋もない。
私を嫌う元因はやはりあのことなんだろうか?
十二月二十五日。
三月の卒業式にはまだちょっと早いけど、追い出し会が高校の近くの市民ホールで行われてようとしていた。
学校は冬休みで、クリスマス会を合わせたイベントになる予定だった。
私の住む地域からだと其処は約五キロ離れていて、自転車だと一時間以上かかる場所だった。
卒業生に受験勉強や就職活動をしやすくさせるためにこの時期に開催されていたのだった。
学校へは何時も自転車で行っていた。
だから今日とそれで行くつもりだった。
でも……
いくら近くにあると言っても、その市営のホールはかなり離れていたのだった。
母は私を気遣って、昨日の内に父に車で送ってもらえるように話をしてくれていた。
私が部屋に引き籠もっていた時に。
何時もなら、自転車で行ける。
でもこんな積もった雪道では、到底走れない。
私は気を揉みながら、父を待った。
やっと起きて来た父は雪を見ていた。
「こんなに積もっちゃ車は出せないな」
と、当たり前のように言う。
「えっ!? じゃあ綾は何で行けば良いの?」
母が聞く。
「何時もの自転車で行けばいい」
血も涙もないような父の発言に遂に母はキレた。
「そんなー、あんまりだわ! 綾が、綾が可哀想過ぎる!」
母は泣きながら訴えた。
「あんなに昨日頼んだじゃないの!」
母は興奮していた。
その時、父の目が私を睨んだ。
昨日のお返しだと言っているように思えた。
その時、私は覚悟を決めた。
母はもう一度父に、車で送ってくれるように説得していた。
それでも父は冷静だった。
「時間ないぞ。ほら早く行け」
そう言いながら、朝刊に目を通した。
昨日、私がイベントに一人で出掛けたことが気にくわないようだ。
父にしてみたら、帰って来てやったんだと言う思いがあったのだろう。
でも、そのタイミングが問題なのだ。
それなら素直に寄り道しないで帰って来れば済むことなのに……
クリスマスを楽しんでから家族でイベントに出掛けられたらのに。
そう……
私はあくまで、あのキャンドルツリーイベントにこだわっていた。
本当は家族で楽しみたかったのだ。
清水さんの一家のように。
私は逆らえなかった。
「分かった。じゃあ行って来るね」
そう言ったのは、父に対する意地だった。
自転車なんかで行ける筈がない。
それは解っていた。
それでも私は、サドルにまたがった。
覚悟はしていた。
どんなことがあっても会場にたどり着こうと思っていた。
ハンドルが雪に取られ何度も転ぶ。
半べそをかきながら、それでも前に向かった。
私の長い長い戦いが始まった。
遂に自転車を支えながら歩き出した。
それでも又ペダルを漕ぐ。
半ばヤケクソだった。
容赦なく降り積もる雪。
私は空を見上げては白いため息をはいた。
国道に出るまでその状態は続いた。
驚いた事に国道脇の舗道には、既に幾つかの自転車の轍があった。
私は出来る限り其処を通ろうと思った。
でも、思ってた以上に深い雪にペダルが絡む。
タイヤが沈む。
国道沿いの鋪道も地獄その物だった。
(もし此処で自転車から投げ出されて国道の車に引かれたら……水野先生と会えなくなった今……私に何があるの? これから先もきっと父に意地悪されながら暮らして行くしかないのだろう。だったら、いっそのことこのまま此処で……)
遂に……
其処まで私は追い詰められていた。
ふと足を止めた横断歩道。
昨日の余韻の竹のキャンドルケース。
その上に積もった雪で……
私は清水さんに涙を見られたら事を思い出して、急に惨めなった。
(このまま自転車を捨てて何処かに行きたい!!)
そう思った。
着いた時には、追い出し会は既に始まっていた。
それはそうだ。
私は何時間も……
そう感じられるほど永い時間を、雪との戦っていたのだった。
異常な私を不信に思って、警備員が近づいて来る。
「騒ぎに来たのか?」
質問に首を振った。
「異常者か?」
それにも首を振った。
私はそこで足止めされた。
「親はどうした?」
「その親に、自転車で行けと言われた」
私は正直に答えた。
「嘘つけ!」
警備員の声に私は震えた。
「そんな親何処にいる!」
警備員は私の前に立ちはだかった。
「お願いします。今ならまだ舞台に間に合います!」
私は必死に訴えた。
でも……
聞く耳さえ持っていないらしくて、私は通せんぼされたままだった。
私の身柄は不審者として拘束されることになるようだ。
警備員の電話応答からそう判断した私は、自転車を其処に横倒しにして逃げ出した。
もう嫌になったいた。
説明することも、説得させることも……
それならいっそのことあの建物の中に入って先生方に救いを求めよう。
そう思った。
だってその先に私の目指した市営のホールはあるのだから。
振り返ると警備員が凄い形相で追い掛けて来る。
「誰かー!! お願い誰か助けてー!!」
私は必死にホールに向かって叫んだ。
深い雪に足が取られる。
体が揺れる。
それでも逃げた。
一生懸命逃げた。
でも遂に……
前のめりになり、頭から雪に突っ込む。
そして又……
取り押さえられた。
私はもうボロボロになっていた。
逃げ出す気力もないほどに……
私は又覚悟を決めた。
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