トリプルトラブル・キュートゴースト珠希憑き

四色美美

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バレンタインデー顛末希

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 ――ガチャ。
玄関を開けると目に入る白い花。
冬のこの時季は水仙になる。


十二月から二月にかけては切り花ではなく、鉢植えになるのが常だった。

シクラメン・葉牡丹・ビオラなど、探せば白色系の花は沢山見つかる。

でもやはり庭で栽培した草花には勝てない。

だから美紀はこの水仙の咲くのを心待ちにしていたのだ。


「ただいま」

リビングにまず声を掛ける。
正樹は仕事で居ないのは承知だった。


何時ものように玄関を掃いた後、庭に出てみた。

出来れば仏壇用に水仙を切り取りたかったのだ。




 美紀は水仙を一本だけ切り、珠希の仏壇に向かった。

沙耶に会いに行ったことを報告するためだった。


心を込めて合掌した後美紀はキッチンに向かった。


意を決する。

そんな言葉がピッタリだった。
正樹への贈り物をこの手で作り上げるためには珠希の力がどうしても必要だったのだ。


美紀は、それほど珠希が大好きだったのだ。


「ママごめんなさい……」
美紀は泣いていた。


幾らパパが……
正樹が好きでも……
珠希を蔑ろには出来なかったのだ。




 時々自分の中に珠希を感じる。
その度ハッとして、沙耶の言われた真実を思い出す。


『美紀ちゃんの体の中には、お義兄を愛した姉の魂が居るのよ』


全てはそれだった。

自ら正樹を愛した訳ではなかったのか?

その事実が美紀を苦しめていたのだった。

出来ることなら知らずにいたかった。
でも、それではもっと苦しい。
それでもいいと思った。
大好きなママからパパを奪うなんて自分には出来るはずがない。
その時はそう思っていた。




 気を取り直して、美紀は調理台の前に立った。

まずガナッシュを作る。

いわゆる生チョコレートと呼ばれている物で、チョコレートを熱い生クリームや牛乳で溶かして作る。

これにリキュールを加えて、泡立て器でぐるぐる混ぜる。


でもそれは正樹用だった。

まだ未成年の、お子様三人には別のノンアルコールな物を加えた。


室温で少し冷ました後、丸い口金の付いた袋に入れてココアの入ったバットの上に絞り出す。

兄弟用に二十一個作った。
六個ずつケースに詰めて、残りは試食用にするためだった。

そのための小さなお皿がその横に置いてあった。


ココアごとガナッシュをすくい、掌で丸める。

そうすることにより、手にくっ付きにくくするのだ。

これは珠希のアイデアだった。


油を薄く塗ったお皿の上に搾り出す手間と、洗い物を少なくする工夫だった。

どうせ手にココアを付けなくてはいけないのだ。
それならいっそ、たっぷりのココアの中に入れればいい。
そんなとこだった。




 再びココアの入ったバットに戻し、ガナッシュを転がしながら絡ませる。


「軽くふわっと絡ませる」

美紀は珠希のレシピを忠実に再現した。
そしてやっと、バレンタインデー用トリュフが完成したのだった。


美紀は仏間へ行き、小さなお皿を供えた。


「ママ一つ頂戴」
そう言いながら、三個のトリュフチョコの内の一つを摘み頬張った。

残りは珠希と智恵と半分こ。

何時もとは違う何か……

別に智恵のことを蔑ろにしていた訳ではないが、沙耶に打ち明けたことによって、より身近な存在になっていたのだ。


「美味しい。流石だね、ママ」

美紀は自分自身で作り上げておきながら、珠希と一緒に調理したと思っていたのだ。

その中に智恵も入っていてくれたら嬉しいと美紀は思っていたのだった。


でも本当は……

珠希が亡くなって五年。
美紀は未だに珠希の亡霊から解放されないでいたのだった。




 ーーーーー
美紀……
これはもう貴女のレシピよ。
貴女は私の教えた通りに作ったのかも知れない。
でもそれ以上になってるわ。
だから私なりの代わりだなんて思わないで。

こんな美味しいチョコレート初めて食べたわ。

智恵さんの分まで用意してくれてありがとう。
今半分っこしたからね。

智恵さん初めてだから泣いているよ。


美紀本当にありがとう。
貴女は優しさはきっと智恵さん譲りね。


私はみんなの迷惑省みずに、ダーリンを独り占めしたかっただけなの。

だってダーリン、格好良かったからね。
だから愛されていることを自慢したかっただけなのかも知れないわ。
ーーーーー




 秘密りで始めたトリュフ作り。

でもそれに気付いてソワソワしだす秀樹と直樹。

いくら内緒にしても、甘い香りは隠せるはずがない。
二人はそれだけで浮き足立つ。


冷蔵庫内は既に調査済みだった。


だから、今か今かと待ち望んでいたのだ。


勿論、義理チョコだと解ってる。
でも本命チョコであってほしい。


「えぇーい!!」


「たぁー!!」

一途な願いを込めて……
二階から俄か仕込みの念を送る。


(――もうこうなったら誰でもいい。

――どうか三人の中から選んでほしい。

――親父に取られるのだけは絶対イヤだ!!)

そう……
結局其処に落ち着く。


でも……
何故そうなったのかが判らない。


『大きくなったら、パパのお嫁さんになる』

そんな美紀の言葉を、軽く受け流してきた兄弟。

それが本当はどんなに真剣なものだったかなんて、知るはずもなかったのだ。




 双子の兄弟が同じ人を愛してしまうケースは良くあることだと聞く。

以心伝心。
感覚が一緒なので、同じようなことを考えてしまうそうだ。


でも美紀は……
今まで、何の感情も持ち併せていなかった兄弟だったのだ。

いくら、血の繋がりが無いにしても。


それがチームメイトの大の一言からかわるなんて……


親友の大がライバルとなるなんて……

妹だと思って、意識もしていなかった美紀をこんなに大好きになるなんて……


苦しくて、苦しくて仕方ない。
愛しくて、愛しくて仕方ない。


幾ら愛しても、美紀は別の人を愛している。

血の繋がりのない父親を愛している。


自分達の本当の父親を愛している。


嘘だと思いたい。
何かの間違いなんだと信じたい。
でも……
秀樹も直樹も気付いてしまっていた。

美紀の心の中を……
自分達の入り込める隙間も無いほどに、美紀が愛を貫いている真実を。




 でも……
それは執念とでも言うべきか。
未だにバトルを繰り返している三人。


美紀の正樹への本当の気持ちを知りながら、大はそれでも自分に勝ち目があると信じていた。

長年暮らして来て全てを知っている兄弟よりも、ぶがあると思っていたからだ。


でも一向になびかない美紀に、不安を抱くようになっていた。


それでもまだ、美紀に気持ちを伝えようと息巻いていた。


何故好きになったのか解らない。

突然目覚めた恋に戸惑いながら、直樹に打ち明けた。
まさか……
直樹と秀樹がライバルになるなどと予想もしていなかったのだ。


それでも、クリスマスに長尾家に招待されたことが強みになっていた。

正樹に美紀を任されたと思ったからだった。


三人はそれぞれで悩み、そして運命のバレンタインデーを待つことになったのだった。




 三人三様の恋愛バトル。

それを歯痒く見ていたクラスメイト達。


そしてやっと……
高校野球で大活躍した彼等に応援団も立ち上がった。
でもそれは、美紀が誰を選ぶかと言う賭けだった。


「俺は大に賭ける。何故なら、アイツは先生になると言ったからだ。やはり、将来性があるのは大だと思うんだ」


「私は直樹さんが良いと思う。真面目だもん。それが一番よ」


「私はカッコイい秀樹さんが良いわ」

それは、クラス全体。
いや、学校全体を巻き込んだ騒動に発展して行ったのだった。




 やっぱり駄目かと、俯く秀樹と直樹。
大も真似をした。

三人に冷たい風が吹く。
クラスメートはそう思ったようだった。

みんなが見守るなか、トリプルラブバトルはそれで収縮するかと思われた。

それでもまだあがき苦しむ二人がいた。

美紀が本当は正樹が好きなことは分かっていた。

それでも納得出来るはずがなかった。
もし正樹と結婚したら、同じ誕生日の美紀が自分達の母親になってしまうのだ。

妹を母と呼ばなければならなくなるのだ。

絶対にそれだけは避けたかった。


何故……
自分達では駄目なのか?

兄弟は兄弟で、それぞれに思いを巡らす。


でも結局解るはずがない。


だって美紀自身さえも、気付いてもいないことだったのだから。


沙耶の言葉がなかったら、きっと一生美紀は苦しむはずだった。

でもだからって、今が苦しくない訳がない。
知ってしまった以上……

美紀はきっともっと苦しむはずなのだから。




 そしていよいよその本番の日。

待ちに待ったバレンタインデーがやってきた。


学校は期末試験後、卒業に向けて週一の登校になっていた。


就職活動や入試の準備などで忙しくなるためだった。


その登校日が偶々その日と重なったのだった。


美紀は、チョコレートの包みを三個用意していた。

勿論、大と秀樹と直樹の分だった。


それを見て、ガッカリする者もいた。

自分も欲しいと、クラスメイトの男性陣は密かに期待していたのだ。


そんな中……
本命チョコは誰の手にと、学友達は誰もが固唾を飲んで見守っていた。




 「喧嘩しないでね」

美紀はそう言いながら、全く同じサイズのトリュフチョコを三人に渡した。


それを見届けて、みんなため息を吐いた。


「勘違いしないでね。本当に義理チョコだから」 
美紀はトドメに、ハッキリそう言いながら渡していた。

美紀自身、このままではイヤだったのだ。

だからワザとそう言ったのだった。


「美紀はな、親父を愛しているんだよ」

本当は美紀が誰を好きなのかと言うことを知らないと思い込み、大に告げた直樹。


「えっー!?」
突拍子のない大の声が、クラス全体に広がった。
大はわざと、そう言ったのだった。


「そうか、だからおばさんはあの時……」
直樹に聞こえるように言った後、大はもう一度花火大会の時の沙耶の言動を思い出していた。




 『ねえ、あんた達。美紀ちゃんが誰を好きなのか知ってて言ってる訳?』

言ってしまってから慌てて口をふさいだ沙耶。

『あれ私……?  何ていうことを』
そして沙耶はそっと正樹の顔を伺った。


あの日の……
花火大会のルーフバルコニーの出来事を、大は思い出していた。


「そんな馬鹿な……」
大はガッカリした振りをしていた。


「だろ?  俺達だって納得行かないんだ」

直樹は今まで、交わして来たラブバトルが急に虚しく思えていた。

たから大に打ち明けだのだった。


でもクリスマスに正樹から美紀を託されたと思い込んでいた大。

内心、勝ったことを確信していた。




 ーーーーー
美紀。
良く言えたわ。
あの三人にはそれくらい言わないとね。

それにしても可哀想な息子達。
母親が憑依している妹を愛した罰よ。


美紀があれだけ可愛いから判る気もするけどね。

でも、大君納得していないようだけど大丈夫かな?
何か悪巧み考えていそうで怖いわ。
ーーーーー




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