11 / 11
真実
第11話 正体
しおりを挟む「あ……っ……ぐぁ……」
根から朽ちることを嘆くような、嗄れた声が義母の喉から発せられた。枯れゆく身体を見下ろしながら何が起こっているのか理解しているのに、現状を受け入れられないのか落ち窪んだ目でジルを見上げる。
「…………な、……な、に……を、なにを、したお前」
絞り出された問いかけに、しばらくジルは無言のままだったが、義母の身体がこれ以上ないほど縮み、干からびたようになったのを見てとると、ようやく掴んでいた腕を離す。心なしか息遣いが荒く、その額には汗の玉がびっしりと並んでいた。
「……これは、一体」
驚愕とともに呟いたのはヨウォンだった。その呟きに、ジルはようやく振り向いて、口を開く。
「……魅了の魔法です」
「……魅了の魔法?それは……ミラが君にかけた魔法ではないのか」
「ええ。しかし正確にはこの世に魅了の魔法というものはありません。魅了の魔法とは転じる魔法。彼女はその魔法を使用して、あなたの心を惑わせました」
冷静な口調で紡がれた言葉に、床に伏し老婆と化した義母がびくりと肩を震わせる。
「……転じる、というのは」
ヨウォンは、床に伏した義母を見つめながらジルに言葉の意味を問う。
「主に、1人の人間が特定の誰かへ向ける感情を、別の誰かへ向かうようにする魔法です。過去、大陸で100年戦争が行われていた頃にありとあらゆる負の感情を抑制するために開発されたものですが……やはり、自然より生まれ出た魔法ではないため副作用が強く、使用したものは……生命力と魔力を激しく消耗し、このようになります」
ジルはそこまで言うと、床に伏した義母を見下ろす。
「今までの容貌はただの幻影にすぎません。幻影は自然より生まれ出た魔法ではありますが、邪悪なる蛇の魔法であることに変わりはありません……故に聖水に浸した手で触ると真の姿に戻るのです」
淡々とした口調で説明するジルに、ヨウォンはしばし沈黙する。目の前で起きた信じられないことの説明として、ジルの説明は十分であっただろう。しかし。
「私が誰かに向けていた感情というのは……」
「お心あたりがすでにあるのでは?」
「……それは」
「あなたがリリアの母上様に向けていた感情なのではございませんか?」
「……つまり、私があの人へ向けていた感情が………」
そこまで呟いた後、押し黙ったヨウォンに、憂いの表情を浮かべたジルは、ようやくリリアへと視線を向ける。
その表情が物語るのは何であるのか。リリアには読み取ることが出来ない。
「……っ」
言葉をかけようにも、なんと言ったらいいのか分からず戸惑っていると、ジルは視線を逸らし、動揺しその場から動けずにいるミラの元へ歩み寄る。
「あ……、ジ、ジル様」
ミラの縋るような声音に、ジルは首を振る。
その仕草の意味は何か。
リリアが測りかねている間に、ミラはたまらなくなったのか、細い腕をジルに伸ばし、華奢な身体を震わせながら、縋るようにジルの身体に抱きついた。
「ジル様……ジル様……」
震えるミラを安心させるためか、ジルはそっと大きな手を彼女の華奢な肩に添える。
187
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
【完】ある日、俺様公爵令息からの婚約破棄を受け入れたら、私にだけ冷たかった皇太子殿下が激甘に!? 今更復縁要請&好きだと言ってももう遅い!
黒塔真実
恋愛
【2月18日(夕方から)〜なろうに転載する間(「なろう版」一部違い有り)5話以降をいったん公開中止にします。転載完了後、また再公開いたします】伯爵令嬢エリスは憂鬱な日々を過ごしていた。いつも「婚約破棄」を盾に自分の言うことを聞かせようとする婚約者の俺様公爵令息。その親友のなぜか彼女にだけ異様に冷たい態度の皇太子殿下。二人の男性の存在に悩まされていたのだ。
そうして帝立学院で最終学年を迎え、卒業&結婚を意識してきた秋のある日。エリスはとうとう我慢の限界を迎え、婚約者に反抗。勢いで婚約破棄を受け入れてしまう。すると、皇太子殿下が言葉だけでは駄目だと正式な手続きを進めだす。そして無事に婚約破棄が成立したあと、急に手の平返ししてエリスに接近してきて……。※完結後に感想欄を解放しました。※
妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。
夢草 蝶
恋愛
シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。
どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。
すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──
本編とおまけの二話構成の予定です。
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。
「可愛げがない」と婚約破棄された公爵令嬢ですが、領地経営をしていたのは私です
希羽
恋愛
「お前のような可愛げのない女との婚約は破棄する!」
卒業パーティの会場で、婚約者である第二王子デリックはそう宣言し、私の義妹ミナを抱き寄せました。 誰もが私が泣き崩れると思いましたが――正直、せいせいしました。 だって、王子の領地経営、借金返済、結界維持、それら全ての激務を一人でこなしていたのは「可愛げのない」私だったのですから。
「承知しました。では、あとはミナと二人で頑張ってください」
私は手切れ金代わりに面倒な仕事を全て置いて国を出ました。 すると、国境で待っていたのは、隣国ガルガディア帝国の冷徹皇太子ことクライド様。なぜか彼は私を溺愛し、帝国で最高の地位と環境を与えてくれて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる