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真実
第11話 正体
しおりを挟む「あ……っ……ぐぁ……」
根から朽ちることを嘆くような、嗄れた声が義母の喉から発せられた。枯れゆく身体を見下ろしながら何が起こっているのか理解しているのに、現状を受け入れられないのか落ち窪んだ目でジルを見上げる。
「…………な、……な、に……を、なにを、したお前」
絞り出された問いかけに、しばらくジルは無言のままだったが、義母の身体がこれ以上ないほど縮み、干からびたようになったのを見てとると、ようやく掴んでいた腕を離す。心なしか息遣いが荒く、その額には汗の玉がびっしりと並んでいた。
「……これは、一体」
驚愕とともに呟いたのはヨウォンだった。その呟きに、ジルはようやく振り向いて、口を開く。
「……魅了の魔法です」
「……魅了の魔法?それは……ミラが君にかけた魔法ではないのか」
「ええ。しかし正確にはこの世に魅了の魔法というものはありません。魅了の魔法とは転じる魔法。彼女はその魔法を使用して、あなたの心を惑わせました」
冷静な口調で紡がれた言葉に、床に伏し老婆と化した義母がびくりと肩を震わせる。
「……転じる、というのは」
ヨウォンは、床に伏した義母を見つめながらジルに言葉の意味を問う。
「主に、1人の人間が特定の誰かへ向ける感情を、別の誰かへ向かうようにする魔法です。過去、大陸で100年戦争が行われていた頃にありとあらゆる負の感情を抑制するために開発されたものですが……やはり、自然より生まれ出た魔法ではないため副作用が強く、使用したものは……生命力と魔力を激しく消耗し、このようになります」
ジルはそこまで言うと、床に伏した義母を見下ろす。
「今までの容貌はただの幻影にすぎません。幻影は自然より生まれ出た魔法ではありますが、邪悪なる蛇の魔法であることに変わりはありません……故に聖水に浸した手で触ると真の姿に戻るのです」
淡々とした口調で説明するジルに、ヨウォンはしばし沈黙する。目の前で起きた信じられないことの説明として、ジルの説明は十分であっただろう。しかし。
「私が誰かに向けていた感情というのは……」
「お心あたりがすでにあるのでは?」
「……それは」
「あなたがリリアの母上様に向けていた感情なのではございませんか?」
「……つまり、私があの人へ向けていた感情が………」
そこまで呟いた後、押し黙ったヨウォンに、憂いの表情を浮かべたジルは、ようやくリリアへと視線を向ける。
その表情が物語るのは何であるのか。リリアには読み取ることが出来ない。
「……っ」
言葉をかけようにも、なんと言ったらいいのか分からず戸惑っていると、ジルは視線を逸らし、動揺しその場から動けずにいるミラの元へ歩み寄る。
「あ……、ジ、ジル様」
ミラの縋るような声音に、ジルは首を振る。
その仕草の意味は何か。
リリアが測りかねている間に、ミラはたまらなくなったのか、細い腕をジルに伸ばし、華奢な身体を震わせながら、縋るようにジルの身体に抱きついた。
「ジル様……ジル様……」
震えるミラを安心させるためか、ジルはそっと大きな手を彼女の華奢な肩に添える。
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