6 / 11
地獄のような日々
第6話 同じもの
しおりを挟む
ジルが魅了の魔法をかけられて、半年が経った。その間も、ずっとリリアは魅了の魔法を解く方法を見つけるために奮闘していた。
けれど、見つからなかった。
そもそも、魅了の魔法などというものはない。口々に言う魔女達の言葉が正しいと示すかのように国で一番大きな図書館にさえも、「魅了の魔法」という記述がみられる歴史的書物はなく、恋愛小説や、童話集の中でしかその記述は見られなかった。
「お嬢様……今日こそ、何かお食べになってくださいませ」
銀の盆を持った世話役のメイドがサイドテーブルに置いたのは、スープとパン。一見して貧相な食事と思われても仕方のないそれらは、今のリリアが一日をかけてやっと食べられる量の食事だった。
それほどまでにリリアの食は細くなっていた。元々、触れれば折れてしまいそうなほど細かった腰は、もはや触れずとも折れてしまいそうなほど細くなり、手足は細枝そのもの。薔薇色に染まっていた頬は青白く、纏う空気は重たく暗い。
リリアはしばらくぼおっと運ばれてきたスープを眺め、ようやく銀のスプーンを手にした。
けれど、開け放たれた窓から小鳥の囀るようなミラの笑い声が聞こえてきて、やっと手にしたスプーンを落としてしまう。
「ジル様……。ミラのために花束を?嬉しい……でも、いいのかしら。お姉様を差し置いて……こんな素敵な花束をミラが貰ってしまって」
「いいんだよ。他でもない君にこの花束を送りたかったんだ」
「でも……」
「もらってはくれないのかい?」
「いいえ!そんな……大切に致します」
楽しそうな会話。よせばいいのに、リリアはどうしてもジルの優しい顔が見たくなって……窓辺へ駆け寄ってしまう。
「そうしてくれると嬉しいよ」
ジルは穏やかに笑い、ミラの髪を優しく梳いた。その仕草は、ジルがよくリリアにしていたもの。ミラに向ける慈愛に満ちた瞳も、リリアに向けられていたものだった。
(……ジル……)
優しい笑顔も。穏やかな声も。優しい手も。向けられる温かな愛情も。慈愛に満ちた瞳も。今までリリアに向けられていたもの全てが、今は、そっくりそのままミラに向けられている。
「……愛しているよ、ミラ。君だけだ。君だけを永遠に愛すると誓うよ」
聞こえてきたその言葉に、リリアの心臓はドクリと嫌な音を立てた。その言葉は以前、ジルがリリアに送った言葉。リリアが何よりも大切にしていたジルからの求婚の言葉だった。
『……愛しているよ、リリア。君だけだ。君だけを永遠に愛すると誓うよ』
照れ臭そうな顔をしていたジル。けれど見つめてくる瞳はどこまでも真剣で……。
『──……僕と結婚してくれるかい』
続いた言葉に、リリアはもちろん『はい』と答えた。
もしかしたら、ジルはリリアへ送った言葉と同じように……ミラへ求婚するのかもしれない。
そんな嫌な考えが頭を過った。けれど、予想に反してそれ以上ジルの言葉が続くことはなく、ミラの媚びるような甘い声が聞こえてくる。
「ジル様、本当に?魅了の魔法を掛けられたからそんなことを言っているのではない?」
「違うよ、ミラ。例え魔法が解けたとしても君を愛することを誓うよ」
延々と続く2人の甘いやりとり。
(魅了の魔法が解けたとしても……ジルはもう私のことを愛さないかもしれない)
脳裏を過った暗い考えに、リリアは慌てて頭を振り、己を叱咤する。
(あと1年と半年……。ジルのことはちゃんと信じていたい)
信じていれば叶うとは思わない。けれど、ジルだって好きで魅了の魔法にかかったわけではないのだから。少なくとも、ジルを疑うことだけはしてはいけない。
魅了の魔法が解けた時『あなたのこと、信じていたわ』と笑顔でジルに伝える。
今はただ、その日が来ることを願うことだけが、リリアに出来る唯一のことだった。
けれど、見つからなかった。
そもそも、魅了の魔法などというものはない。口々に言う魔女達の言葉が正しいと示すかのように国で一番大きな図書館にさえも、「魅了の魔法」という記述がみられる歴史的書物はなく、恋愛小説や、童話集の中でしかその記述は見られなかった。
「お嬢様……今日こそ、何かお食べになってくださいませ」
銀の盆を持った世話役のメイドがサイドテーブルに置いたのは、スープとパン。一見して貧相な食事と思われても仕方のないそれらは、今のリリアが一日をかけてやっと食べられる量の食事だった。
それほどまでにリリアの食は細くなっていた。元々、触れれば折れてしまいそうなほど細かった腰は、もはや触れずとも折れてしまいそうなほど細くなり、手足は細枝そのもの。薔薇色に染まっていた頬は青白く、纏う空気は重たく暗い。
リリアはしばらくぼおっと運ばれてきたスープを眺め、ようやく銀のスプーンを手にした。
けれど、開け放たれた窓から小鳥の囀るようなミラの笑い声が聞こえてきて、やっと手にしたスプーンを落としてしまう。
「ジル様……。ミラのために花束を?嬉しい……でも、いいのかしら。お姉様を差し置いて……こんな素敵な花束をミラが貰ってしまって」
「いいんだよ。他でもない君にこの花束を送りたかったんだ」
「でも……」
「もらってはくれないのかい?」
「いいえ!そんな……大切に致します」
楽しそうな会話。よせばいいのに、リリアはどうしてもジルの優しい顔が見たくなって……窓辺へ駆け寄ってしまう。
「そうしてくれると嬉しいよ」
ジルは穏やかに笑い、ミラの髪を優しく梳いた。その仕草は、ジルがよくリリアにしていたもの。ミラに向ける慈愛に満ちた瞳も、リリアに向けられていたものだった。
(……ジル……)
優しい笑顔も。穏やかな声も。優しい手も。向けられる温かな愛情も。慈愛に満ちた瞳も。今までリリアに向けられていたもの全てが、今は、そっくりそのままミラに向けられている。
「……愛しているよ、ミラ。君だけだ。君だけを永遠に愛すると誓うよ」
聞こえてきたその言葉に、リリアの心臓はドクリと嫌な音を立てた。その言葉は以前、ジルがリリアに送った言葉。リリアが何よりも大切にしていたジルからの求婚の言葉だった。
『……愛しているよ、リリア。君だけだ。君だけを永遠に愛すると誓うよ』
照れ臭そうな顔をしていたジル。けれど見つめてくる瞳はどこまでも真剣で……。
『──……僕と結婚してくれるかい』
続いた言葉に、リリアはもちろん『はい』と答えた。
もしかしたら、ジルはリリアへ送った言葉と同じように……ミラへ求婚するのかもしれない。
そんな嫌な考えが頭を過った。けれど、予想に反してそれ以上ジルの言葉が続くことはなく、ミラの媚びるような甘い声が聞こえてくる。
「ジル様、本当に?魅了の魔法を掛けられたからそんなことを言っているのではない?」
「違うよ、ミラ。例え魔法が解けたとしても君を愛することを誓うよ」
延々と続く2人の甘いやりとり。
(魅了の魔法が解けたとしても……ジルはもう私のことを愛さないかもしれない)
脳裏を過った暗い考えに、リリアは慌てて頭を振り、己を叱咤する。
(あと1年と半年……。ジルのことはちゃんと信じていたい)
信じていれば叶うとは思わない。けれど、ジルだって好きで魅了の魔法にかかったわけではないのだから。少なくとも、ジルを疑うことだけはしてはいけない。
魅了の魔法が解けた時『あなたのこと、信じていたわ』と笑顔でジルに伝える。
今はただ、その日が来ることを願うことだけが、リリアに出来る唯一のことだった。
59
あなたにおすすめの小説
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。
夢草 蝶
恋愛
シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。
どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。
すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──
本編とおまけの二話構成の予定です。
【完】ある日、俺様公爵令息からの婚約破棄を受け入れたら、私にだけ冷たかった皇太子殿下が激甘に!? 今更復縁要請&好きだと言ってももう遅い!
黒塔真実
恋愛
【2月18日(夕方から)〜なろうに転載する間(「なろう版」一部違い有り)5話以降をいったん公開中止にします。転載完了後、また再公開いたします】伯爵令嬢エリスは憂鬱な日々を過ごしていた。いつも「婚約破棄」を盾に自分の言うことを聞かせようとする婚約者の俺様公爵令息。その親友のなぜか彼女にだけ異様に冷たい態度の皇太子殿下。二人の男性の存在に悩まされていたのだ。
そうして帝立学院で最終学年を迎え、卒業&結婚を意識してきた秋のある日。エリスはとうとう我慢の限界を迎え、婚約者に反抗。勢いで婚約破棄を受け入れてしまう。すると、皇太子殿下が言葉だけでは駄目だと正式な手続きを進めだす。そして無事に婚約破棄が成立したあと、急に手の平返ししてエリスに接近してきて……。※完結後に感想欄を解放しました。※
病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。
【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。
Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。
休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。
てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。
互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。
仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。
しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった───
※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』
の、主人公達の前世の物語となります。
こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。
❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる