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10 狂乱の宴 ~はろうぃん~ ⬆⬆⬆
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R18は主人公以外です
***
芳一は男に連れられて彼の主人の屋敷まで赴く道中、なぜ戦用の鎧を着ているのかと尋ねた。
「『はろうぃん』だからです」
「はろうぃん?」
今は神無月であるのだが、海の向こうの異国では「はろうぃん」なるお祭りが催される時期で、別名「死霊の祭」とも呼ばれているその祭りでは、仮面を被ったりいつもは着ない衣装を纏ったりなどして別人に成り代わり、人ならざるものから身を守る慣わしがあるという。
そのために彼は年代物の鎧を着て仮装しているとのことだった。
それから「はろうぃん」は南瓜の皮をくり抜いて顔らしきものを作ったり、子供が菓子をもらったりなどして作物の豊穣に感謝するお祭りでもあるそうだ。
彼は一度も異国に訪れたことがないそうだが、いつか向こうの国で商売をするのが夢で、異国の文化に詳しいとのことだった。
話しながら芳一は男に連れられてとある屋敷の中に入った。
廊下らしき場所を少し歩く、と大勢の人の話し声や笑い声や食器類が合わさる音などが聞こえてきた。
こちらですと男に手を引かれて芳一が宴会場らしい部屋に入ると、なぜか一瞬しんと場が静まり返った。しかしまたすぐにガヤガヤとし始める。
「今回の贄は可愛いのう♡ 可愛いのう♡」
「しかし毛がないのが惜しいでおじゃる」
「ツルツル美青年じゃー!」
「???」
目の見えない芳一は男に手を引かれるまま歩き、芳一のための席らしき場所に座らされたが、ガヤの何人かが芳一の近くまでやってきて好き勝手なことを言い始めた。
(なんだか「贄」とか物騒な言葉が飛んでいたような気がするけど、一体どういうことだろう?)
「下の毛もツルツルかなー?」
「駄目です! 触らないでください!」
芳一を囲んでいる三人のうちの一人かハアハアと息を荒くしながら芳一の衣服を脱がそうとしてきたが、商人の男が鋭い声を出してそれを止める。
「何じゃ、ケチケチするな鎧ー」
「そうじゃぞ鎧よー」
「お前が抜げ鎧ー」
取り囲んでいた三人が標的を芳一から鎧を着た商人に変えた。
芳一は目が見えないためにわからなかったが、目と口の部分をくり抜いた南瓜の被り物で顔を隠した男と、同じくひょっとことオカメの面で顔を隠した上に烏帽子を被った男たちだった。
全員が昔の貴族のように狩衣を着ていた。
商人の男は、全く声を上げずに成されるがまま裸に剥かれていった。鎧武者の仮面が剥がされて、男の整いすぎた顔が顕になる。
芳一はガシャガシャと鳴る鎧の音から商人の男が鎧を取られていることはわかったが、無礼講か何かなのだろうかと思った。
「その者らのことは放っておきなさい。余興の一つです」
「私も見ているだけで充分ですわ。お館様から分けていただけますもの」
その場に座ったまま困惑気味でいる芳一に声をかける者たちがいた。落ち着いたような男性の声の後に女性の声が続く。
「お客人、どうかお館様に琵琶を披露してはくださりませぬか?」
老年らしき男からも声をかけられた。
「は、はい……」
芳一は状況がよくわからないままだったが頷いた。自分がここにやって来たのは、商人の主人に琵琶を聴かせるためだ。
「御簾をお上げー!」
芳一が返事をすると誰かの声が響き渡り、するすると衣擦れに似た音が聞こえた。
「琵琶法師、芳一。そなたが来るのを待ちわびていたぞ」
お館様らしき人物から声をかけられて、芳一は驚いた。
(お、和尚さん……)
その声が、和尚さんにそっくり、というか、和尚さんそのものだったからだ。
「さあ、聞かせておくれ……」
美声に促されるまま、芳一は琵琶を鳴らし始めた。
戦で滅んだ武家一族の物語。悲しくも儚いその物語を紡いでいるうちに、周囲からはすすり泣きのような声が聞こえてくる。
琵琶を弾く芳一の手は震え、声はいつもより緊張したものになっていた。なぜならば――――
「鎧♡ 乳首とアソコが勃っておるぞ♡」
「綺麗なお顔にぶっかけ祭りじゃー!」
「ほらイケ! イケ!」
「っ…… うっ……」
パンパンと肌と肌がぶつかる音に、喘ぎを堪えているような商人のくぐもった声がする。
(これはたぶん、いや、絶対…… 犯されている……)
「喉まで咥えて相変わらずエロいでおじゃる~」
「鎧の精子♡ 美味♡」
「ああっ! 出る出る!」
すぐそばで肌を打つ音が大きくなり、男の一人が呻いて果てた。すると、次は儂の番じゃ、と別の男が言い出して、またパンパンと音がし始める。
そのうちに三人以外にも別の男たちが混ざり始めて、狂乱は終わらない。
芳一は何度もバチをおろして弾き語りを止めかけた。しかしその度に泣き濡れている者たちから、「続きを」と懇願される。
純粋に琵琶を聴きたがっている者がいる一方で、すぐ横で性欲にまみれた行為を貪っている者たちがいる。
異様な空気の中だったが、琵琶法師である自分には、弾き語りを望んでいる者たちに琵琶を聴かせる責務があると思った。
芳一は内心で激しく動揺しながらも唄い続けた。
(帰ろう…… 終わったらすぐに帰ろう……)
けれど商人にここまで連れて来られた芳一は、一人では帰り道がわからない。
弾き語りが終わる。琵琶を胸に掻き抱きながら、芳一はその場でガタガタと震えていた。
「芳一……」
すぐそばから彼の人に似た声がする。
(和尚さん…………)
芳一は泣きながら心の中でその人を呼んだ。
本人であればどんなに良かったことか。
「素晴らしい弾き語りであった。褒美を遣わす」
お館様の手が伸びてくる。芳一は一瞬身を捩ったけれど、琵琶を抱えたまま逞しい腕に捕まった。
「は、離してください……」
蚊の鳴くような声が届いたかどうかは不明だが、お館様は何も言わずに芳一を抱き上げたまま御簾の中に入り、褥の上にやって来た。
お館様が芳一を褥の上に降ろすのと同時に、薄い御簾が降ろされる。その場に二人きりとなってしまった。
お館様は震える芳一の腕から琵琶を優しく取り上げて、床の上に置いた。
それから芳一を抱きしめると耳に唇を寄せ、舌で耳の縁を一舐めしてから囁いた。
「そなたの全てが気に入った。我のものとなれ」
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芳一は男に連れられて彼の主人の屋敷まで赴く道中、なぜ戦用の鎧を着ているのかと尋ねた。
「『はろうぃん』だからです」
「はろうぃん?」
今は神無月であるのだが、海の向こうの異国では「はろうぃん」なるお祭りが催される時期で、別名「死霊の祭」とも呼ばれているその祭りでは、仮面を被ったりいつもは着ない衣装を纏ったりなどして別人に成り代わり、人ならざるものから身を守る慣わしがあるという。
そのために彼は年代物の鎧を着て仮装しているとのことだった。
それから「はろうぃん」は南瓜の皮をくり抜いて顔らしきものを作ったり、子供が菓子をもらったりなどして作物の豊穣に感謝するお祭りでもあるそうだ。
彼は一度も異国に訪れたことがないそうだが、いつか向こうの国で商売をするのが夢で、異国の文化に詳しいとのことだった。
話しながら芳一は男に連れられてとある屋敷の中に入った。
廊下らしき場所を少し歩く、と大勢の人の話し声や笑い声や食器類が合わさる音などが聞こえてきた。
こちらですと男に手を引かれて芳一が宴会場らしい部屋に入ると、なぜか一瞬しんと場が静まり返った。しかしまたすぐにガヤガヤとし始める。
「今回の贄は可愛いのう♡ 可愛いのう♡」
「しかし毛がないのが惜しいでおじゃる」
「ツルツル美青年じゃー!」
「???」
目の見えない芳一は男に手を引かれるまま歩き、芳一のための席らしき場所に座らされたが、ガヤの何人かが芳一の近くまでやってきて好き勝手なことを言い始めた。
(なんだか「贄」とか物騒な言葉が飛んでいたような気がするけど、一体どういうことだろう?)
「下の毛もツルツルかなー?」
「駄目です! 触らないでください!」
芳一を囲んでいる三人のうちの一人かハアハアと息を荒くしながら芳一の衣服を脱がそうとしてきたが、商人の男が鋭い声を出してそれを止める。
「何じゃ、ケチケチするな鎧ー」
「そうじゃぞ鎧よー」
「お前が抜げ鎧ー」
取り囲んでいた三人が標的を芳一から鎧を着た商人に変えた。
芳一は目が見えないためにわからなかったが、目と口の部分をくり抜いた南瓜の被り物で顔を隠した男と、同じくひょっとことオカメの面で顔を隠した上に烏帽子を被った男たちだった。
全員が昔の貴族のように狩衣を着ていた。
商人の男は、全く声を上げずに成されるがまま裸に剥かれていった。鎧武者の仮面が剥がされて、男の整いすぎた顔が顕になる。
芳一はガシャガシャと鳴る鎧の音から商人の男が鎧を取られていることはわかったが、無礼講か何かなのだろうかと思った。
「その者らのことは放っておきなさい。余興の一つです」
「私も見ているだけで充分ですわ。お館様から分けていただけますもの」
その場に座ったまま困惑気味でいる芳一に声をかける者たちがいた。落ち着いたような男性の声の後に女性の声が続く。
「お客人、どうかお館様に琵琶を披露してはくださりませぬか?」
老年らしき男からも声をかけられた。
「は、はい……」
芳一は状況がよくわからないままだったが頷いた。自分がここにやって来たのは、商人の主人に琵琶を聴かせるためだ。
「御簾をお上げー!」
芳一が返事をすると誰かの声が響き渡り、するすると衣擦れに似た音が聞こえた。
「琵琶法師、芳一。そなたが来るのを待ちわびていたぞ」
お館様らしき人物から声をかけられて、芳一は驚いた。
(お、和尚さん……)
その声が、和尚さんにそっくり、というか、和尚さんそのものだったからだ。
「さあ、聞かせておくれ……」
美声に促されるまま、芳一は琵琶を鳴らし始めた。
戦で滅んだ武家一族の物語。悲しくも儚いその物語を紡いでいるうちに、周囲からはすすり泣きのような声が聞こえてくる。
琵琶を弾く芳一の手は震え、声はいつもより緊張したものになっていた。なぜならば――――
「鎧♡ 乳首とアソコが勃っておるぞ♡」
「綺麗なお顔にぶっかけ祭りじゃー!」
「ほらイケ! イケ!」
「っ…… うっ……」
パンパンと肌と肌がぶつかる音に、喘ぎを堪えているような商人のくぐもった声がする。
(これはたぶん、いや、絶対…… 犯されている……)
「喉まで咥えて相変わらずエロいでおじゃる~」
「鎧の精子♡ 美味♡」
「ああっ! 出る出る!」
すぐそばで肌を打つ音が大きくなり、男の一人が呻いて果てた。すると、次は儂の番じゃ、と別の男が言い出して、またパンパンと音がし始める。
そのうちに三人以外にも別の男たちが混ざり始めて、狂乱は終わらない。
芳一は何度もバチをおろして弾き語りを止めかけた。しかしその度に泣き濡れている者たちから、「続きを」と懇願される。
純粋に琵琶を聴きたがっている者がいる一方で、すぐ横で性欲にまみれた行為を貪っている者たちがいる。
異様な空気の中だったが、琵琶法師である自分には、弾き語りを望んでいる者たちに琵琶を聴かせる責務があると思った。
芳一は内心で激しく動揺しながらも唄い続けた。
(帰ろう…… 終わったらすぐに帰ろう……)
けれど商人にここまで連れて来られた芳一は、一人では帰り道がわからない。
弾き語りが終わる。琵琶を胸に掻き抱きながら、芳一はその場でガタガタと震えていた。
「芳一……」
すぐそばから彼の人に似た声がする。
(和尚さん…………)
芳一は泣きながら心の中でその人を呼んだ。
本人であればどんなに良かったことか。
「素晴らしい弾き語りであった。褒美を遣わす」
お館様の手が伸びてくる。芳一は一瞬身を捩ったけれど、琵琶を抱えたまま逞しい腕に捕まった。
「は、離してください……」
蚊の鳴くような声が届いたかどうかは不明だが、お館様は何も言わずに芳一を抱き上げたまま御簾の中に入り、褥の上にやって来た。
お館様が芳一を褥の上に降ろすのと同時に、薄い御簾が降ろされる。その場に二人きりとなってしまった。
お館様は震える芳一の腕から琵琶を優しく取り上げて、床の上に置いた。
それから芳一を抱きしめると耳に唇を寄せ、舌で耳の縁を一舐めしてから囁いた。
「そなたの全てが気に入った。我のものとなれ」
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