〇〇なし芳一

鈴田在可

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 その夜――――

 和尚は芳一と話したその日のうちには再び寺を離れることになったが、通夜を行った後に得意の馬術を駆使して単身寺へ戻ってきた。

 檀家の者たちには渋られたが、急用があり一旦戻るが翌々日の葬式には必ず戻ると告げて、お供の僧たちは全員檀家に置いてきた。

 月明りの下、広大な墓地や鎮魂の茸栽培地に囲まれている寺を見下ろせる小高い丘に和尚は来ていた。

 和尚は樹木に身を隠すようにして、寺の正面入り口も裏口も両方見渡せる場所へ位置取った。

 和尚が留守にしていることになっているはずの今宵、芳一はきっと悪霊たちの元まで出かけるはずだ。和尚は芳一が出てきたらこっそり彼の後をつけるつもりだった。

 和尚はこれまでも何とか死の連鎖を止められないかと、僧侶の仕事の傍ら悪霊の根城を探し出そうとしてきた。

 けれど遺体に取り憑く瘴気はその場に留まるばかりであるし、死者が出た家の周辺住民に、「亡くなった若者が夜どこかへ出かけていたらしいが、行き先を知らないか?」と訪ねてみても、それらしい目撃証言などは得られなかった。

 芳一を囮に使ってしまうような形になるが、彼が口を割らない以上、出かける芳一の後を追って悪霊たちの居場所を突き止める他はないだろうと思っていた。

 夜も更けて皆が寝静まった頃に、異変は突然やってきた。

 和尚の全身が総毛立つ。

 常人であれば何も見えなかっただろう。もしくは空間が歪んで見えるか、輿の周囲で踊る幾つもの火の玉だけは見えるかして、霊体の一部は捉えられたかもしれない。

 寺に続く道を、通常ではあるはずのない速度で豪華絢爛な輿こしが移動してくる。

(ああ…… あれは生きてはいない……)

 輿を担ぐのは、綺麗に整えられた昔の貴族の装束を着込む男たちだったが、しかし皆死んでいる。

(複数の悪霊たちが芳一を迎えにやって来た……)

 和尚はその事実に圧倒され立ち尽くした。

 霊の一団はかなりの年数を経た強力で古い悪霊たちだった。

(果たして自分に祓えるだろうか……)

 寺の建物の壁をすり抜けて中に入った輿が、ややあって同じように出てくる。おそらく輿の中に芳一は乗っているのだろう。

 速度を上げて飛ぶように移動し始めた輿の後を、騎乗した和尚は悪霊たちに気付かれないように追い始めた。





 輿の速度はかなり速い。風が吹き抜けるが如く移動する輿を追うが、次第に距離が離れてしまい、和尚の霊力を持ってしても居場所が探知できないほどになってしまった。

 和尚は一旦馬を止め、額に吹き出した汗を馬上でぬぐう。

 芳一を連れ去った悪霊たちを見失ってしまった。

 けれど、和尚は輿に描かれていた家紋から悪霊たちの行き先に検討をつけていた。

 その家紋は、和尚の実家の隠し家紋だった。

 和尚はかつて戦で滅んだ貴族の末裔だった。一族は皆死んだとされていたが、落ち延びた生き残りが細々と血脈を繋いでいた。

 しかしそのことは世間に長らく伏されていた。「我らは歴史から消えた一族であり、再び陽の目を見ることはまかりならん」という当代当主の言いつけを、その後の当主たちが守り続けたからだ。

 それに異を唱えたのが先代当主である和尚の父親だった。父親は、「祖先を滅ぼした敵方の一族も既に滅んでおり、自分たちがいつまでも日陰者に甘んじるのはおかしい。自らの正しい出自を明かすべきだ」と主張していた。

 けれど血筋の証明である大切な家宝を知り合いに持ち逃げされるなどして騙された結果、父親は憤死してしまい、悪霊となった。 

 霊力持ちの和尚は、悪霊となった父親を強制的に祓って魂に傷を付けるのではなく、自然な形で成仏するようにと時間をかけて丁寧に説き伏せた。

 悪霊になるほどの未練を残したまま強制的に成仏させられたのでは次の生にも影響が出るし、それに憎しみや苦しみを抱いたまま今生を終えるのではなく、すべてを許してから旅立ってほしかった。

 和尚は長い時間をかけて父親を説得し、自ら進んで成仏させた。

 今回芳一を連れ去った悪霊たちは強制的に成仏させるしかないだろうと和尚は思っていた。

 一体ならいざ知らず、数が多いし、それに時間をかけていたのでは芳一が死んでしまう。

 手綱を握りしめた和尚は、彼の先祖たちが眠っているはずの墓地へと向かった。
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