〇〇なし芳一

鈴田在可

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17 和尚さんが闇堕ちした ⬆⬆⬆

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「……おじゃ?」

 芳一は行為に夢中だったので、ふと漏れ聞こえてきたその言葉を言ったのが、繋がっている三人のうちの誰だったのかはわからなかった。

 それが彼らから聞いた最後の言葉になった。

 咥えていた巨根が口の中から消失する。後ろの穴に入って蠢いていた二本の竿も、何の前触れもなくいきなり消え去った。
 後孔から大きなものがずるりと抜ける時はいつもかなりの快感を伴うのに、それがなかったので、抜かれたにしてはおかしいなと思った。

 背中にいたはずのひょっとこの重さも無くなっているし、下にいて自分を抱きしめていたオカメも急にいなくなった。

 けれど自分の下にいたはずの男が、まるで煙のように急にいなくなって移動し、直後に横から声がするなんてことはたまにあったので、芳一は三人組が不自然な形で自分から離れたことを最初あまり重く考えていなかった。

 それよりも、絶頂の手前で男根を抜かれたことでイクにイけなくなってしまい、それがまるで拷問のように辛い。

「や、やめないでぇ…… 誰か、誰かぁっ……!」

 芳一は四つん這いのまま尻を左右に振り、誰かに挿れてほしいと誘う。しかし周囲はなぜかしんと静まり返ったままである。焦燥感に駆られた芳一は自分の指で後孔をいじり始めるが、男根二本に犯されていた穴は、その程度の刺激では絶頂までには至らない。

 すすり泣きながら後孔を慰める芳一の腕を誰かが掴んだ。

 芳一は安堵のため息を漏らした。腕を掴んだ男が芳一の指を後孔から引き抜き、代わりに自身の亀頭を芳一のいやらしい穴の入り口に当ててくれたからだ。

「あはっ♡」

 待ち受ける快感への期待に胸が高まり、芳一は笑った。挿れやすいように背中を仰け反らせて尻を高く掲げる。男は芳一の腰を掴むと、自身を芳一の中に沈み込ませてくる。

「ああっ! あああっ!」

 男の大きなモノが突き進んでくるのに応じて、背中をゾクゾクと快感が駆け上がっていく。お尻の中を大きなもので埋められて満たされるととても気持ちがいい。

 体内を穿たれる巨根の感触から察するに、今自分と交わっているのは南瓜かぼちゃ男に違いないだろうと芳一は思った。芳一は南瓜男と交わるのが一番好きだった。

「ああ! 気持ちいいっ……! かぼちゃさん! かぼちゃさん……っ!」

 男の抽送に快感が高まり、芳一は口から涎が溢れるのも構わずに南瓜男の名を連呼した。

「違う、芳一」

 男の動きに合せてより快感を得ようと自身も腰を振り始めていた芳一は、南瓜男とは違う声音を聞いて戸惑い、動きを止めた。

「え……? お、お館様……?」

 その声は紛れもなくお館様のものだが、後孔内に埋まるモノは絶対に南瓜男のモノだ。

 お館様のオチンチンもすごく大きいけれど、南瓜男のチンコはとてつもなく巨大でずば抜けていて、絶対に南瓜男である確信があった。

 それにお館様とする時はいつも毎回御簾みすの中で二人きりで交わるのみだった。お館様は皆に見せながら交わるのを好まない。御簾に入らないままで行為に及ぼうとするのは明らかにおかしい。

 快感に溶けそうになっていた芳一の頭がすっと冴えていく。そういえば先程から誰の声も聞こえないし、自分の頭の上に乗っていて顔の横辺りや背中に垂れ下がっていたはずのかつらも感触がなくて消えている。

 それからずっと床の上にいたはずなのに、自分が手を突き膝を突いているのは草の生えた地面の上のようだった。
 なぜ室内から急に屋外にいることになっているのか、芳一の頭は混乱した。

「………………酷いな、芳一…… 俺を別の誰かと間違えるとは…………
 結局、芳一にとって俺はその程度の存在だったというわけか…………」

「あううっ! ううっ!」

 男が悲しそうにも聞こえる冷たい声音でそう言いながら芳一の腸壁を激しく抉ってくる。

 芳一は苦しみを快感に変えて悶えながら、少し霧が晴れたような――まとわりつく霊の瘴気が祓われたことで幾分いつもの冷静な自分に戻れた――頭の中で考えた。

(お館様と呼んだら怒られたからお館様じゃない…………?

 この声を持つ人はあと一人しか知らない………… でもいやまさか……

 だって丁寧語じゃないし、自分のことを「俺」だなんて言わないし…………?)

 愛している和尚と交われて積年の思いが果たせたのなら嬉しいが、和尚がこの場にいるとしたら、お館様たちとの交わりを見られてしまったはずだ。

(複数相手に欲にまみれた淫らな行為をしていたと知られたら、和尚さんに嫌われてしまう……)

 それは、芳一がずっと恐れていたことだった。

 芳一は答えに辿り着くことが怖かった。自分の心を守るために、「今性交しているのはお館様に声がよく似た親戚の誰かだ!」という結論に達したが――――

 すり…… すり…………

 自分を犯す男の手が鬘の取れた頭に伸びてくる。その撫で方は、紛れもなく――――

「……お、和尚…………さん………………」

 芳一は、絶望に似た気持ちでその名を呼んだ。

「ああ、ようやくわかってくれたのか…………」 

 和尚の声はどこまでも暗い。

 芳一はガタガタと震え出した。

(見られてしまった…… きっと…………)

「ゆ、許してください! もう二度と他の人たちとあんなことしません! 僕を破門にしないでください!」

 和尚さんに捨てられたら傷心で死んでしまう。芳一は必死で謝った。しかし――――

「ははは、はははははっ」

 和尚がいきなり低音で乾いた笑い声を立てた。その雰囲気が恐ろしい。

「面白いことを言うんだな芳一。お前は俺の弟子ではないのだから、破門も何もないだろう。
 お前はずっと、ずーっとずーっと、死んで霊体になって転生した後のその先もずっとずっと未来永劫俺のそばにいろ」

「あん! あんっ!」

 ナカを行き来する巨大なモノの速度が増して、快感に芳一は喘ぐ。「ずっと俺のそばにいろ」というようなことを言われて胸とアソコがきゅんきゅんしてしまう。

 芳一は他の男としていたことを和尚が許してくれたのかと思ったが、芳一の心を読んだらしき和尚が言葉を紡ぐ。

「勘違いするなよ、芳一。俺はお前の裏切りを許してないからな。

 人を憑き殺す悪霊と交わるなど言語道断。この爛れて穢れきった淫乱穴は俺が封印して塞いでやらなければ、再びそこら辺にいる男をたらし込むだろう。被害者を出さないように俺が永遠に監視して塞ぎ続けてやる」

(ううっ…… 許されてなかった……)

 気落ちすると同時に芳一の頭に疑問が浮かんだ。

(悪霊と交わる…………?)

「やはり気付いていなかったんだな。芳一、お前はずっと死者と交わっていたんだ。

 だが安心しろ、お前の穢れた穴は今俺の神気を宿す神棒で浄化されている。お前の穢れは俺が祓う。

 お前はずっと、俺だけの美しい芳一のままだ」

 やはり心を読んだらしき和尚にそう言われるが、芳一はその内容に打ちひしがれた。

(あの人たちがもう死んでいただなんて…………)

 あまりのことに身の内に宿っていた劣情が沈静化していく。

 芳一の滾っていた男根もしおしおと項垂れた。

 芳一の心の動きを掌握しているだろう和尚は、腰を振りながら笑い出す。

「奴等は俺が一匹残らず消し炭にしてやった! いや、霊体だから二度と輪廻転生が出来ないように滅殺してやったと言ったほうが正しいな! アーッハッハッハッハッハ!」

 和尚の楽しそうな高笑いを聞き、芳一は二重の意味で意気消沈した。

(あの人たちはド助平だったけど、そこまで悪い人たちには思えなかった。それがこの世からもあの世からも魂を消滅させられてしまって、二度と輪廻転生ができなくなってしまっただなんて……

 それに和尚さんだって、本当は魂を消滅させて喜ぶような人では決してない)

 本来はとても慈悲深い人のはずで、人の不幸を心底楽しむような人ではなかった。

(和尚さんが変わってしまった! 僕の愛する心優しき和尚さんがっ!)

「俺の芳一に手を出す不届き者は全員死ね! 皆死に絶え尽くして滅びろ! あはははははは!」

「お、和尚さあぁぁぁぁぁん!」





 和尚さんが壊れた! 和尚さんが! 闇堕ちした!
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