獣人姫は逃げまくる~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~ R18

鈴田在可

文字の大きさ
166 / 220
レインハッピーエンド 愛憎を超えて

4 雪解け

しおりを挟む
少し時間が戻っています

***

「ヴィクトリア! 死ぬな! ヴィクトリア!」

 目を閉じて動かないヴィクトリアに向かってレインが叫んでいる。レインの腕の中で死ねるのなら本望だと思いつつも、泣いている彼に返事をしなければと思ったヴィクトリアは、目を閉じたままレインに精神感応テレパシーを飛ばそうとして――――それを直前でやめた。

『ヴィクトリア、大丈夫ですか? 父にバレないようにこっそりと治療をしました。あなたは気絶したふりでもして、父が油断するように仕向けてください』

 頭の中に美しい声が響いた。

 ヴィクトリアは目を開けそうになったが、ノエルは信頼できると思っていたので、言われた通り気絶したふりを続けた。

『ええと、その声は確かノエル? さっきは殺そうとしたのに助けてくれるの?』

『あなたが正気に戻ってくれましたし、私たちには怪我もありませんでしたから、そのことはいいです。むしろ、うちの父がレインを使ってあなたを殺そうとしてしまってすみませんでした』

『ノエルのお父さまが私を殺す?』

『はい。父はあなたの膨大な魔力を恐れたようです。それから、ナディアを殺した黒幕も父です。ゼウスを魔法で操り、ゼウスの意志に反して銃の引き金を引かせました。非道な父親で本当に申し訳ありません』

『そうだったの…………』

 確かナディアの記憶によれば、一年ほど前に南西列島で起こった事件も、黒幕はノエルとジュリアスの父親である銃騎士隊二番隊長アークだった。

『父には私も腸が煮えくり返っていますが、とにかく今は隙を突いて父から逃げることだけを考えてください。あなたまで殺させるわけにはいきません。全面的に協力します――――』









 ジュッ、と嫌な音がして、愛する人の背中が焼け焦げる匂いと共にレインの絶叫が響く。それまで大人しく気絶したふりを続けていたヴィクトリアは、余りのことに目を開けてしまった。

 ヴィクトリアの視界の先では、甘さのない精悍な顔立ちをした灰色の髪の銃騎士アークが、レインを見下ろしながらその口元に薄く笑みを浮かべていた。

 アークはヴィクトリアを見ていないのでこちらが目を開けていることには気付いていないが、ヴィクトリアは怒りが湧いた。

 しかしヴィクトリアが何か行動を起こすよりも早く、近くに現れたノエルがレインを治療してくれたのでホッとしつつも、とりあえずヴィクトリアはまた気絶したふりを続行することにした。

 すると倒れていたレインが立ち上がって、まるでヴィクトリアを守るように胸に抱き上げてくれた。

 ヴィクトリアはレインの匂いを近くに感じて幸せに包まれ、ドキドキと胸が高鳴った。

「愛する人を守る力はありますよ。もう、決して俺の最愛ヴィクトリアを誰にも傷付けさせません――――」

(『俺のヴィクトリア』って…… 『愛する人』って言ってくれた――――)

 レインの言葉を受けたヴィクトリアの頭からは、レインに胸を刺されて殺されかけたことも、悲しみのあまり死のうと思ったことも、全部綺麗さっぱり消えていた。

(私もレインを心の底から愛しているわ)

 ヴィクトリアには最早、レインと番になって二人で生きていく未来しか思い描けなかった。

 ヴィクトリアは周囲の様子を伺いながら気絶したふりを続けた。どういう訳か、空に突如として巨大で不気味な扉が現れた所で、アークがそれを出現させたらしき次男シリウスの所へ移動し、自分たちから離れた。

 レインに抱き上げられたままだったヴィクトリアは目を開けて、最愛の人の顔を見上げた。

「レイン、私も愛してる」

「ヴィ――――」

 目を丸くしてこちらを見たレインが大きな声を上げそうになり、ヴィクトリアは慌てて人差し指をレインの唇に当て、静かにと伝えた。

「私は大丈夫。ノエルが治療してくれたの。意識のないふりをしていただけよ。

 レイン、私、あなたを愛してる。だけど私、怒りに呑まれて、あなたの話も聞かずにレインの大切な人を殺そうとした…… 本当にごめんなさい。レインが止めてくれなければ、私は道を間違える所だった。

 前の時も………… 以前、私はレインの大切な家族を見殺しにしてしまったことがあって、私は――――」

 謝罪をしようとしたヴィクトリアの口を、ちゅっとレインが軽く口付けたことで塞ぐ。

「ヴィクトリア、そのことはもういいんだ。どうして助けてくれなかったのかと、君を恨んだこともあったよ。だけど、妹が死んだのは君のせいじゃない。

 本当は、あの事件が起こる前に妹は、モデルになりたいって夢を叶えるために、上京するはずだったんだ。それなのに、まだ未成年だし早すぎるって、心配しすぎた俺と父さんが反対して、止めてしまったんだ。

 もしもあの時に妹を信頼して旅立たせていたら、少なくとも妹だけは難を逃れて、今も生きていたはずだ。妹を死なせてしまった責任は俺にある」

「でも……」

 どんな経緯があっても、それでもヴィクトリアがあの時助けていれば、レインの妹は死ななかったはずだと思ったヴィクトリアは口を開くが――――

 レインはヴィクトリアの続く言葉を遮るように首を振った。

「君にずっと罪の意識を持たせてしまってすまなかった。だけどもう、君はそこから解放されていいはずだ」

「それでも私は……」

 ヴィクトリアが再び謝罪を言おうとすると、レインがまたちゅっと口を塞いでくる。唇が離れたと思っても何度も繰り返し口付けが降ってくるので、ヴィクトリアは恥ずかしくなって頬を赤らめつつも、レインに許されたと、そう思ってもいいのだろうかと感じた。

「レイン、私…… あなたを愛しているの。あなたこそが私の唯一の番なの。あなたが私を許してくれるなら、私と一緒に逃げてくれる? ノエルが連れて行ってくれるって」

「俺こそ、君を刺してしまったけど、許してくれる? こんな俺でもいいかな? 嫌だって言われても、俺は諦めるつもりはないけどさ」

「それは、もちろん…… うん、私あなたになら何されてもいいと思っているの。殺されても構わないくらいに、あなたを愛している」

 ヴィクトリアの言葉にレインは一瞬驚いたような顔になってから、微笑む。

「これはまた、重い愛だね。でも嬉しいよ。俺も、君になら何をされても、殺されても構わないくらい君を愛している。

 俺の心も身体も過去も未来も、俺の全部を君にあげるよ。俺の全てを君に捧げても構わないくらい、俺は君を愛している」

 二人の唇が近付いて、今度は触れる程度ではなくて濃厚な口付けが始まったが、気を利かせたノエルが目眩ましの魔法を使ったために、二人の接吻が周囲に見咎められることはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

処理中です...