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『番の呪い』後編
104 救出へ
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ヴィクトリアは椅子を倒しそうな勢いで立ち上がった。
「待って」
玄関に向かおうとしたヴィクトリアの手首をマグノリアが掴む。
「どこへ行くつもり?」
「ナディアを助けに行かないと。ナディアがこんなことになってしまったのは私のせいだわ。ナディアは私を助けなければ、こんなことにはならなかった」
「それは私も同じよ。昨日ナディアは一人でも帰って来られるだろうなんて思わずに、最後までちゃんと面倒を見ておけばよかった。とにかく落ち着きなさい。闇雲に飛び出して行ってどうするつもりよ」
落ち着いてなんていられるものか。処刑されるだなんて、ナディアは今頃死の恐怖に怯えているに違いない。
「ヴィー、落ち着いて。処刑は昼過ぎだ。まだ時間はある。何とか救い出す方法を考えよう」
ロータスは緊張を孕んだ顔のままだが、ヴィクトリアに落ち着きを取り戻させたいのか、安心させるような低音で諭すように告げてくる。
カナリアは急に緊迫してきた部屋の様子に、心配そうな表情を浮かべながら両親の顔を交互に見ていた。
「マグ、魔法で私を首都まで飛ばすことはできる?」
「あなたは銃騎士隊に狙われている身でしょう? ここに残った方がいいわ。私が一人で行ってくる」
「ちょっと待て、マグを一人でなんて行かせられない。俺も行く」
「また昨日のやり取りを繰り返すの? あなたは残って。万一にでもカナを親のいない子にはしたくない」
マグノリアの言葉は、首都に乗り込んでナディアを助け出すことには、かなりの危険が伴うことを意味している。
マグノリアは魔法使いだが、銃騎士隊だって魔法使いを抱えているのだから――
「それなら君が残るべきだ」
「私は行くわよ? 私の魔法無しでどうやってナディアを助けるつもりなの?」
二人は昨日のようにまたお互いに意見を譲らずに言い合いを始めてしまった。
二人は決して仲が悪いわけではない。お互いを思い合っているが故にこうなってしまうのだろう。
「二人とも喧嘩はやめて、私が一人で行ってくるわ」
ヴィクトリアが決意を込めてそう告げると、二人が揃ってこちらを向いた。
「一人でなんて危険よ」
「そうだぞ、ヴィーが一人で行ってどうするつもりなんだ」
「交渉する。敵だけど、銃騎士隊には一人信頼できる人がいるから、ナディアを解放してもらえないか彼に頼んでみる」
「上手くいくかしらね。了承したふりをしてヴィーを捕獲後、予定通りにナディアを処刑するかもしれないわよ」
「ジュリアスはそんな人じゃないわ」
「ジュリアス……」
驚いたような顔になった後、険のある表情をして硬い声でそう呟いたのはロータスだった。マグノリアは表情を変えないままだ。
「ジュリアスを知っているの?」
ロータスは何も語らなかった。マグノリアも。
何も語れないから。
二人とも口を噤んだままだ。
それが意味することは一つ。
それは、ジュリアスが二人にかけられた『死の呪い』――――秘密を漏らせば死ぬ魔法に関係していることを示す。
ジュリアスを信じたい気持ちはある。
ヴィクトリアを追いかけてシドが九番隊砦にやって来た時に、自暴自棄になったヴィクトリアを励まして生きる意欲を呼び起こしてくれたのはジュリアスだ。
彼は素晴らしい人だと思う。ずっとそう思っていた。
けれど一つだけ気になっていることがある。
『あいつはああ見えて、冷酷な男だ』
レインはジュリアスのことをそう評していた。小屋で一緒に過ごしていた時、ジュリアスの冷酷な面なんて見えなかったが、自分はジュリアスの全てを知っているわけではない。
ナディアの命がかかっているのだから、間違った選択はできない。ロータスの反応から推察するに、今回はジュリアスを頼るべきではないのかもしれない。
ヴィクトリアが考えを巡らせるように押し黙っていると、マグノリアがロータスに向かって口を開く。
「ロイ、あなた今、ヴィーが一人で行った所でどうするんだって言ったけど、あなたが一人で行っても同じことでしょう?
失敗するわけにはいかないのよ? 救出できなければナディアは死ぬわ。私が行かないという選択肢はないのよ」
「……わかった。だけど俺も一緒に行くぞ」
「私も絶対に行くわ」
「二人のどちらかは残って。カナを見ている人が必要だから」
「ヴィー、この家でカナと一緒に待っていてくれるよな?」
「いいえ、ロイが残るべきよ。カナの父親なんだから」
結局二人とも譲らない。
最終的には、カナリアも一緒に行くと言い出して収拾がつかなくなった。
そんな中、マグノリアはヴィクトリアの様子をじっと見つめている。
「……ロイ、あなたがカナと残って」
「女二人だけで危険な場所に行かせられるわけがないだろう!」
マグノリアの言葉にロータスが食ってかかる。
「ヴィーは銃騎士隊と関わりがある。最悪捕まった時に交渉の窓口になれるかもしれない。だけどあなたは、何かある?」
言われてしまったロータスは反論出来なかった。ロータスは獣人としての戦闘能力には乏しい。
医師という特性はあるものの、魔法使いの治癒魔法には敵わない。
「私とヴィーが救出に向かってロイとカナはここに残る。たぶんそれが一番いいのよ。ここでずっと話し合いばかりしていても時間がもったいないわ。敵地に行くのだからそれなりに準備をしていかないと」
ロータスはさらに何かを言いたそうにしていたが、マグノリアはそれを遮るように強引に話をまとめてしまった。
「待って」
玄関に向かおうとしたヴィクトリアの手首をマグノリアが掴む。
「どこへ行くつもり?」
「ナディアを助けに行かないと。ナディアがこんなことになってしまったのは私のせいだわ。ナディアは私を助けなければ、こんなことにはならなかった」
「それは私も同じよ。昨日ナディアは一人でも帰って来られるだろうなんて思わずに、最後までちゃんと面倒を見ておけばよかった。とにかく落ち着きなさい。闇雲に飛び出して行ってどうするつもりよ」
落ち着いてなんていられるものか。処刑されるだなんて、ナディアは今頃死の恐怖に怯えているに違いない。
「ヴィー、落ち着いて。処刑は昼過ぎだ。まだ時間はある。何とか救い出す方法を考えよう」
ロータスは緊張を孕んだ顔のままだが、ヴィクトリアに落ち着きを取り戻させたいのか、安心させるような低音で諭すように告げてくる。
カナリアは急に緊迫してきた部屋の様子に、心配そうな表情を浮かべながら両親の顔を交互に見ていた。
「マグ、魔法で私を首都まで飛ばすことはできる?」
「あなたは銃騎士隊に狙われている身でしょう? ここに残った方がいいわ。私が一人で行ってくる」
「ちょっと待て、マグを一人でなんて行かせられない。俺も行く」
「また昨日のやり取りを繰り返すの? あなたは残って。万一にでもカナを親のいない子にはしたくない」
マグノリアの言葉は、首都に乗り込んでナディアを助け出すことには、かなりの危険が伴うことを意味している。
マグノリアは魔法使いだが、銃騎士隊だって魔法使いを抱えているのだから――
「それなら君が残るべきだ」
「私は行くわよ? 私の魔法無しでどうやってナディアを助けるつもりなの?」
二人は昨日のようにまたお互いに意見を譲らずに言い合いを始めてしまった。
二人は決して仲が悪いわけではない。お互いを思い合っているが故にこうなってしまうのだろう。
「二人とも喧嘩はやめて、私が一人で行ってくるわ」
ヴィクトリアが決意を込めてそう告げると、二人が揃ってこちらを向いた。
「一人でなんて危険よ」
「そうだぞ、ヴィーが一人で行ってどうするつもりなんだ」
「交渉する。敵だけど、銃騎士隊には一人信頼できる人がいるから、ナディアを解放してもらえないか彼に頼んでみる」
「上手くいくかしらね。了承したふりをしてヴィーを捕獲後、予定通りにナディアを処刑するかもしれないわよ」
「ジュリアスはそんな人じゃないわ」
「ジュリアス……」
驚いたような顔になった後、険のある表情をして硬い声でそう呟いたのはロータスだった。マグノリアは表情を変えないままだ。
「ジュリアスを知っているの?」
ロータスは何も語らなかった。マグノリアも。
何も語れないから。
二人とも口を噤んだままだ。
それが意味することは一つ。
それは、ジュリアスが二人にかけられた『死の呪い』――――秘密を漏らせば死ぬ魔法に関係していることを示す。
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けれど一つだけ気になっていることがある。
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ナディアの命がかかっているのだから、間違った選択はできない。ロータスの反応から推察するに、今回はジュリアスを頼るべきではないのかもしれない。
ヴィクトリアが考えを巡らせるように押し黙っていると、マグノリアがロータスに向かって口を開く。
「ロイ、あなた今、ヴィーが一人で行った所でどうするんだって言ったけど、あなたが一人で行っても同じことでしょう?
失敗するわけにはいかないのよ? 救出できなければナディアは死ぬわ。私が行かないという選択肢はないのよ」
「……わかった。だけど俺も一緒に行くぞ」
「私も絶対に行くわ」
「二人のどちらかは残って。カナを見ている人が必要だから」
「ヴィー、この家でカナと一緒に待っていてくれるよな?」
「いいえ、ロイが残るべきよ。カナの父親なんだから」
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最終的には、カナリアも一緒に行くと言い出して収拾がつかなくなった。
そんな中、マグノリアはヴィクトリアの様子をじっと見つめている。
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