獣人姫は逃げまくる~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~ R18

鈴田在可

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シドハッピーエンド 王の女

10 世界を滅ぼしかねない男

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自死発言注意





***

「俺の番はこれからはヴィクトリア唯一人だけだ。俺はお前ら全員と別れる。鼻を焼いているのだから他の男に抱かれてみるなり、自死するなり、まあ勝手にしろ。ヴィクトリアに何かしたら殺すからな」

 いきなりのシドの一方的な「お別れ宣言」にぎょっとしたのは、部屋に集まっていた番たちだけではなくて、ヴィクトリアもそうだった。

「番はヴィクトリアだけ」と言ってくれたのは嬉しいが、獣人にとって番を失うのは死にたくなるくらいに辛いというのに、「自死しても構わない」という言い草は流石に酷いし、もっと別の言葉で丁寧に言えなかったのだろうかと思う。

「そ、そんな! シド様!」

「行かないで! 待ってシド!」

 番たちは嘆き慌てているが、シドはそんなことはお構いなしで、彼女たちを尻目に窓から飛び降りて私室を後にした。

 シドと同じように窓から飛び降りて追いかけてくる者もいたが、シドは追随を許さないくらいの速度で里の中を走り抜けた。

 すぐさま辿り着いた先はこの里で唯一の病院である医療棟だ。シドは中の医師たちに指示して、ヴィクトリアの鼻を焼く準備を始めさせた。

「シド、訂正してきて。自死してもいいなんて酷すぎるわ」

 ヴィクトリアは、医療関係者たちが動き回る室内の、清潔な寝台にシドによって寝かされて、心配そうで慈しむような視線を向けられながら、彼に髪を梳かれている最中だった。

「何を言う。俺と一度でも寝た女などこの世から存在ごと消えてほしいと願っているのが、お前の本心だろうが」

 咄嗟に否定はできなかった。シドは何でもお見通しだった。

「…………そうだとしてもよ。私は彼女たちから大事な番を奪うのに、命までは奪えない」

「相手がお前を殺そうとしてきてもか?」

 シドがそう言って部屋の扉を指差したのと同時に、閉じられていた扉が物凄い勢いで叩かれ始めて、複数の女たちのヴィクトリアに対する酷い罵詈雑言が聞こえてきた。

 直接的に殺害を口にする者もいたし、興奮と狂気が綯い交ぜになった、これまで向けられてきたもの以上の、おどろおどろしすぎる悪意の塊をぶつけられて、ヴィクトリアの身体がすくむ。

 それ以上に、扉の隙間から漂ってくる、シドと彼女たちが関係した匂いを嗅いでしまうと、どうにも堪えきれなくて、ヴィクトリアは悲しみに呻いて涙を流した。

 ヴィクトリアは彼女たちに「いなくなってほしい」と思っているが、それは彼女たちにとっても同じことで、きっと番としてシドの唯一の愛が他の女ヴィクトリアに向けられたことを肌で感じていて、命を懸けてでもシドを取り戻そうとしているようだった。

 シドが混乱しているヴィクトリアの鼻をつまみ、安心させるように抱きしめて身体を撫でてくれる。

 今のヴィクトリアにはシドだけが支えだった。

 部屋には鍵がかかっていたのと、どうやらシドが予め医療棟の者たちに、番たちが来たら追っ払えと指示をしていたらしく、声は聞こえなくなって、匂いも遠ざかったが、ヴィクトリアの心情は暗澹たるものだった。

「俺はお前を殺したがっているようなクソ女どもはすぐにでも抹殺したいが、お前は優しいから、番たちが消えたことに安堵しつつも、殺したことを一生気に病むだろう。

 俺はお前以外のことには何も未練はないんだ。お前が望むのなら、この里から出て二人でどこかで暮らしても構わない。

 俺がここに戻ってきたのは、とにかくお前の鼻を早く安全に処置したかったからだ。人間には任せられなかった。万一にも、俺への攻撃として報復も厭わず、手術中にお前を殺す可能性もある。

 ヴィクトリア、俺はお前が死ねば、世界を滅ぼすぞ。それだけはわかっていてほしい」

「シド……」

 番関係になる前は、シドからの父性とは異なる愛情と同時に、こちらを虐めて苦しめたいというような憎しみの念も感じていたが、今現在シドからこちらへ向けるそのような負の感情は一切合切消えていて、重いくらいの真摯な愛を感じる。

 ただ、自分たちの愛が他の人の大事な愛を奪っているのだと思えば、やっぱり心は痛む。

「今は雑多なことは考えるな。これから手術だぞ。

 鼻を焼けば俺が他の女を抱いた匂いがわからなくなって、苦しみも多少はマシになるだろう。

 だが、俺の芳しい最高の匂いもわからなくなってしまうのだから、今この瞬間お前がやるべきことは、他の奴らではなくて、俺のことだけを考えて、俺の匂いを存分に嗅いでおくことだ」

 前より優しくなっても自信家な所は相変わらずだなと、シドを愛しく思いながら、ヴィクトリアは広げられた腕の中に入り込み、もう充分だと思えるくらいまで何度もハグとキスを受けた。
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