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どうやら隣国師団長の庇護欲スイッチを押してしまったらしい
1。初対面はキッチンにて
この世界は三つに別れているとされている。
上に、神々が住まうと言われる天界。
間に、人間や動物が暮らす地上界。
下に、凶悪な魔族と魔物が蔓延る魔界。
これらは常に何処かで繋がっており、しかし細々とした繋がりだけで交わることがないとされていた。
だがある日、突如として魔界の魔物が地上界へと侵攻してきた。天界と違い地上界とは表裏の関係で存在していた魔界は、道を無理やりに広げて大きな繋がりを作り出したのだ。
魔物たちを率いるのは魔界を総べる王─"魔王"だった。魔王は地上界ですらその手に収めようと企んでいた。彼に従う凶暴な魔物や凶悪な魔法を扱う魔族たちに、人間たちは為す術もなく屈服していく。
だが魔王の侵攻は程なくして止まる。強い力を持つとある人間が、その侵攻を食い止めたのだ。そうしてその人間と魔王の戦いが始まった。
そうして、魔王は人間に敗れたのだった。
敗北した魔王は魔界へと繋がる道のある"北の最果て地"を塞ぐように眠り、魔王を倒した人間は勇者と讃えられた。
しかして世界は平和になったが、またいつ魔王が目覚め魔物が溢れ出すとも限らない。勇者はそのための対抗策として、魔王の眠る北の最果て地にほど近い場所に国を造った。
その国はいずれ目覚めるであろう魔王の見張りとして、目覚めた場合迅速に行動できるようにと造られた。そしてそれは、たとえ何百年経とうと変わらない使命として受け継がれていった。
それが、お隣のウルスフタン王国の成り立ちである。
迅速、迅速ねぇ…とジーン・ラパイントは目の前にいる集団に目を向ける。如何にも兵士ですと言わんばかりに揃いの鎧。ご丁寧に国のシンボルが描かれた旗まで持ってるものだから、思わずその歴史を思い返してしまった。
次いで、この部屋の扉を開けた兵士の集団の先頭に立つ男を観察する。灰色の短髪は軽く後ろに流され、黄土色の瞳は壮観な顔立ちに見合った鋭い光を宿している。しかし何処か困惑も混じっているのは気のせいではないだろう。
彼らの中では一等強いその気配に、どう見てもリーダーはコイツだろうなと思わずため息が出そうになる。
気を抜けばすーぐこれだよ…とジーンは辟易としながら、リーダーと思われる男に向き直るべく──
その手に持っていた焼きたてのタルトを机に置いた。
「何かあるならちょっと待ってね。今、エプロンとミトン置いてくるから」
「「「ちょっと待て」」」
「えっオレが待つの?」
集団から一斉に待てと言われ、何を待つ必要があるのだろうと思わず止まる。なんだ、もしや今更礼儀とか気にしているのか。本当に今更すぎやしないだろうか。
とりあえず待ってやるかと、ミトンを脱いでタルトの横に置く。今日のおやつはツヤツヤに光る三種のベリージャムタルトだ。今年は良いベリーが沢山育ったから、このジャムは自信作の一つである。
粗熱を冷ます時間があるので、その間くらいならまぁいいかともう一度兵士の集団に向き直った。何やらリーダー(仮)さんが頭の痛そうに目頭を揉んでいるが、疲れているのだろうか。
確かにお隣とはいえ、ウルスフタンからここまでは馬を使っても一週間はかかる。馬に乗って移動、野宿、移動を繰り返してやってきたのだから疲れてはいるだろう。
わざわざご苦労様なこって。一体なにをしにここまで御足労いただいたのかと、ジーンは興味なさげに彼らの言葉を待つべく椅子に腰をかける。
何故か睨まれたが素知らぬ顔で椅子を勧め、無事断られたので机に頬杖をついた。さっさと要件を言って欲しいなという気持ちは伝わったのか、リーダーらしい男がようやく一歩を踏み出してキッチンへと入室する。
「フゥー……俺…いや、私はケイス・マラミュスカ。貴殿が"魔王"ラパイント殿でよろしいか」
「確かにオレはラパイントですけれど」
「………………ここで一体何を」
「ご覧の通り、タルト焼いてました」
来客の予定はなかったもんで。そう続けて言えば、ケイスと名乗った男はまたしても頭が痛そうに顔を顰めた。存外こちらがまともだと認識してくれたようで、今までの来客よりは話が通じそうだと嬉しくなる。
ウルスフタン王国の隣に位置する北の最果て地に存在する、唯一の建物である大きな城。ジーンはそこに城主として暮らしていた。
つまり、この城が彼ら人間たちの間で魔王城と呼ばれる魔物の巣窟であり、自分が魔王と呼ばれる存在であることは間違いなかった。
しかしこうもハッキリ人間から魔王と呼ばれると、何やら微妙な気持ちになる。別に自分から魔王と名乗ったことは一度もなく──いや確かに魔王という呼称は全く間違いではないのだが、しかしそう名乗ったことはないのであまり自分が魔王という実感がない。
あと更にどうでもいいことを言うのなら、タルトを作っていたことから察せられるだろうが現在地はキッチンである。無駄に広い城のキッチンである。
キッチンでタルトを焼いてる魔王がどこにいるよ。むしろ気分は料理長。なにせこの城で一番料理が上手いのはジーンであるから。城に住む魔物たちも、今日のおやつを楽しみにしていたのに。
「二台目のタルトが焼き上がる前には話終わります?」
「二個も焼いてんのか…!」
「なんならこれから三個目と四個目も焼かないと…」
「いや多いな!!?」
そりゃ多いに決まっているだろう、と思わずジーンは半目になる。人間の間でここが魔物の巣窟などと言われているくらいには、確かにこの城には沢山の魔物が住んでいた。
これがおやつであることと、あまり食事量が多くない魔物が多いため四台程度で済んでいるだけだ。魔物の数に合わせようとすればあと倍は要る。
恐らく、初手から今までの全てが予想外だったのだろう。未だ廊下にいるままの兵士たちが困惑で騒めく。
「だ、団長…本当にコイツが魔王ですか?ただの魔物の料理長なのでは…」
「………玉座に貼ってあった紙、全員で確認しただろうが」
「いやでもあれは……」
コソコソと話しているところ悪いが、その会話はジーンに丸聞こえであった。なぜなら魔族は人以上イヌ科(の魔物)以下の聴力をしているので。
ちなみに玉座に貼ってあった紙とは、大体常に動いているジーンを探してやってくる魔物の為に用意している紙である。
その時いる場所を勝手に記してくれるので、玉座なりキッチンのドアなりに貼り付けておけば分かりやすいため作った魔道具である。
あぁなるほど、とようやくジーンは納得する。キッチンのドアを開け放った割には突撃とかしてこないなと思っていたが、あの紙で少なくとも困惑していたのだろう。あと罠も疑っていたか。
そりゃ玉座にはふんぞり返る魔王ではなく紙が貼ってあり、そこに『オレの現在地はキッチンです。追伸:今日のおやつはタルトだぜ!』と書かれていれば普通は困惑もするか。
メッセージも追記出来るこの魔道具は気に入っていたのだが、人間が来た時は作業中でも玉座に戻った方がいいかもしれない。下手に居場所を探して城をうろつかれても困るし。
こそこそチラチラと話し合いをする兵士たちに、とりあえず何も聞こえていない振りをする。会話の内容はバッチリ聞こえているが、ここで口出しして余計に警戒されても面倒だ。
ところで誰だ、今「あんなひょろっこいのが魔王とは思えない」とか言いやがったヤツ。はたくぞ。
随分と舐めた発言に思わず集団をじっとりと睨みつければ、話し合いを不審がられたと判断したらしいケイスがゴホンと咳払いを一つ。そして輪から外れるとジーンの数歩手前まで歩み寄り、とりあえずと言ったように頭を下げた。
そして上げられた顔はやはり頭が……というかもはや胃が痛そうに歪められているので、苦労してそうだなこの人…と少しの同情を持つ。なお今の彼を苦労させている原因はジーンだろうが。
「……ここまで侵入しておいて説得力はないかもしれないが、我らに争いの意思はない。出来れば話し合いを求めたいのだが…」
「話し合い……?」
「…っ!やめろお前ら!!すまない、敵意はない!!」
ピクリとその単語に反応したジーンに、兵士たちは一斉に戦闘態勢に入る。だがそれをすぐさま手で制し、ケイスは再度頭を下げる。それに慌てて合わせる兵士たちを、ジーンは何の変哲もないただの椅子の上で足を組んで眺めていた。ただの椅子がまるで玉座のように見える。
トントンとジーンの指が自身の頬を叩く音が、静かになったキッチンに落ちる。それだけ静かだと兵士たちの早くなった鼓動が聞こえてきさえしそうだった。だがその静寂を切るように、わざとらしく音を立てて椅子から立ち上がる。
そして頭を下げ続けるケイスにゆっくりと近づき、ジーンは彼らには見えていないだろうがその碧眼をニタリと弓なりに細めた。
「敵意はない?今、お前たちは武器を構えたのに?」
「…何分、ここは魔王城。警戒は簡単に解けない」
「話し合いだったら嬉しいんです?」
「………?そ、うだな。そうして頂けると助かる…?」
「ほーん……」
殺気のない声色に、ケイスはそろりとジーンを見上げた。随分と楽しげな碧眼と目が合って、微かに息を飲む。
「──じゃあ兵士さん、話し合いしよう!!」
「…………は???」
ずいっと目の前に差し出されたのは、先程ジーンが持っていた焼きたてのベリージャムタルト。いつの間にか切り分けられていたその一切れを差し出され、訳が分からず手を伸ばすことすら出来ない。
何をふざけているのかと言いたいが、その両手にツヤツヤのタルトがある時点で真面目な話にならないのは目に見えていた。物理的に。
ケイスは、一体自分はここに何しに来たんだとつい頭を抱える。それに対して、疲れたなら甘いもの食べる?と再度タルトを差し出すジーンに思わず彼は叫んだ。
「魔王が侵入者相手に、呑気にタルトを差し出すんじゃねぇ!!!」
「いや話し合い出来るなら話し合いでって言ったのそちらでは!?!?」
話し合いにはお茶とお菓子でしょう!?と負けじと叫び返すジーンに、ケイスは疲れたようにため息をつくしかなかった。
上に、神々が住まうと言われる天界。
間に、人間や動物が暮らす地上界。
下に、凶悪な魔族と魔物が蔓延る魔界。
これらは常に何処かで繋がっており、しかし細々とした繋がりだけで交わることがないとされていた。
だがある日、突如として魔界の魔物が地上界へと侵攻してきた。天界と違い地上界とは表裏の関係で存在していた魔界は、道を無理やりに広げて大きな繋がりを作り出したのだ。
魔物たちを率いるのは魔界を総べる王─"魔王"だった。魔王は地上界ですらその手に収めようと企んでいた。彼に従う凶暴な魔物や凶悪な魔法を扱う魔族たちに、人間たちは為す術もなく屈服していく。
だが魔王の侵攻は程なくして止まる。強い力を持つとある人間が、その侵攻を食い止めたのだ。そうしてその人間と魔王の戦いが始まった。
そうして、魔王は人間に敗れたのだった。
敗北した魔王は魔界へと繋がる道のある"北の最果て地"を塞ぐように眠り、魔王を倒した人間は勇者と讃えられた。
しかして世界は平和になったが、またいつ魔王が目覚め魔物が溢れ出すとも限らない。勇者はそのための対抗策として、魔王の眠る北の最果て地にほど近い場所に国を造った。
その国はいずれ目覚めるであろう魔王の見張りとして、目覚めた場合迅速に行動できるようにと造られた。そしてそれは、たとえ何百年経とうと変わらない使命として受け継がれていった。
それが、お隣のウルスフタン王国の成り立ちである。
迅速、迅速ねぇ…とジーン・ラパイントは目の前にいる集団に目を向ける。如何にも兵士ですと言わんばかりに揃いの鎧。ご丁寧に国のシンボルが描かれた旗まで持ってるものだから、思わずその歴史を思い返してしまった。
次いで、この部屋の扉を開けた兵士の集団の先頭に立つ男を観察する。灰色の短髪は軽く後ろに流され、黄土色の瞳は壮観な顔立ちに見合った鋭い光を宿している。しかし何処か困惑も混じっているのは気のせいではないだろう。
彼らの中では一等強いその気配に、どう見てもリーダーはコイツだろうなと思わずため息が出そうになる。
気を抜けばすーぐこれだよ…とジーンは辟易としながら、リーダーと思われる男に向き直るべく──
その手に持っていた焼きたてのタルトを机に置いた。
「何かあるならちょっと待ってね。今、エプロンとミトン置いてくるから」
「「「ちょっと待て」」」
「えっオレが待つの?」
集団から一斉に待てと言われ、何を待つ必要があるのだろうと思わず止まる。なんだ、もしや今更礼儀とか気にしているのか。本当に今更すぎやしないだろうか。
とりあえず待ってやるかと、ミトンを脱いでタルトの横に置く。今日のおやつはツヤツヤに光る三種のベリージャムタルトだ。今年は良いベリーが沢山育ったから、このジャムは自信作の一つである。
粗熱を冷ます時間があるので、その間くらいならまぁいいかともう一度兵士の集団に向き直った。何やらリーダー(仮)さんが頭の痛そうに目頭を揉んでいるが、疲れているのだろうか。
確かにお隣とはいえ、ウルスフタンからここまでは馬を使っても一週間はかかる。馬に乗って移動、野宿、移動を繰り返してやってきたのだから疲れてはいるだろう。
わざわざご苦労様なこって。一体なにをしにここまで御足労いただいたのかと、ジーンは興味なさげに彼らの言葉を待つべく椅子に腰をかける。
何故か睨まれたが素知らぬ顔で椅子を勧め、無事断られたので机に頬杖をついた。さっさと要件を言って欲しいなという気持ちは伝わったのか、リーダーらしい男がようやく一歩を踏み出してキッチンへと入室する。
「フゥー……俺…いや、私はケイス・マラミュスカ。貴殿が"魔王"ラパイント殿でよろしいか」
「確かにオレはラパイントですけれど」
「………………ここで一体何を」
「ご覧の通り、タルト焼いてました」
来客の予定はなかったもんで。そう続けて言えば、ケイスと名乗った男はまたしても頭が痛そうに顔を顰めた。存外こちらがまともだと認識してくれたようで、今までの来客よりは話が通じそうだと嬉しくなる。
ウルスフタン王国の隣に位置する北の最果て地に存在する、唯一の建物である大きな城。ジーンはそこに城主として暮らしていた。
つまり、この城が彼ら人間たちの間で魔王城と呼ばれる魔物の巣窟であり、自分が魔王と呼ばれる存在であることは間違いなかった。
しかしこうもハッキリ人間から魔王と呼ばれると、何やら微妙な気持ちになる。別に自分から魔王と名乗ったことは一度もなく──いや確かに魔王という呼称は全く間違いではないのだが、しかしそう名乗ったことはないのであまり自分が魔王という実感がない。
あと更にどうでもいいことを言うのなら、タルトを作っていたことから察せられるだろうが現在地はキッチンである。無駄に広い城のキッチンである。
キッチンでタルトを焼いてる魔王がどこにいるよ。むしろ気分は料理長。なにせこの城で一番料理が上手いのはジーンであるから。城に住む魔物たちも、今日のおやつを楽しみにしていたのに。
「二台目のタルトが焼き上がる前には話終わります?」
「二個も焼いてんのか…!」
「なんならこれから三個目と四個目も焼かないと…」
「いや多いな!!?」
そりゃ多いに決まっているだろう、と思わずジーンは半目になる。人間の間でここが魔物の巣窟などと言われているくらいには、確かにこの城には沢山の魔物が住んでいた。
これがおやつであることと、あまり食事量が多くない魔物が多いため四台程度で済んでいるだけだ。魔物の数に合わせようとすればあと倍は要る。
恐らく、初手から今までの全てが予想外だったのだろう。未だ廊下にいるままの兵士たちが困惑で騒めく。
「だ、団長…本当にコイツが魔王ですか?ただの魔物の料理長なのでは…」
「………玉座に貼ってあった紙、全員で確認しただろうが」
「いやでもあれは……」
コソコソと話しているところ悪いが、その会話はジーンに丸聞こえであった。なぜなら魔族は人以上イヌ科(の魔物)以下の聴力をしているので。
ちなみに玉座に貼ってあった紙とは、大体常に動いているジーンを探してやってくる魔物の為に用意している紙である。
その時いる場所を勝手に記してくれるので、玉座なりキッチンのドアなりに貼り付けておけば分かりやすいため作った魔道具である。
あぁなるほど、とようやくジーンは納得する。キッチンのドアを開け放った割には突撃とかしてこないなと思っていたが、あの紙で少なくとも困惑していたのだろう。あと罠も疑っていたか。
そりゃ玉座にはふんぞり返る魔王ではなく紙が貼ってあり、そこに『オレの現在地はキッチンです。追伸:今日のおやつはタルトだぜ!』と書かれていれば普通は困惑もするか。
メッセージも追記出来るこの魔道具は気に入っていたのだが、人間が来た時は作業中でも玉座に戻った方がいいかもしれない。下手に居場所を探して城をうろつかれても困るし。
こそこそチラチラと話し合いをする兵士たちに、とりあえず何も聞こえていない振りをする。会話の内容はバッチリ聞こえているが、ここで口出しして余計に警戒されても面倒だ。
ところで誰だ、今「あんなひょろっこいのが魔王とは思えない」とか言いやがったヤツ。はたくぞ。
随分と舐めた発言に思わず集団をじっとりと睨みつければ、話し合いを不審がられたと判断したらしいケイスがゴホンと咳払いを一つ。そして輪から外れるとジーンの数歩手前まで歩み寄り、とりあえずと言ったように頭を下げた。
そして上げられた顔はやはり頭が……というかもはや胃が痛そうに歪められているので、苦労してそうだなこの人…と少しの同情を持つ。なお今の彼を苦労させている原因はジーンだろうが。
「……ここまで侵入しておいて説得力はないかもしれないが、我らに争いの意思はない。出来れば話し合いを求めたいのだが…」
「話し合い……?」
「…っ!やめろお前ら!!すまない、敵意はない!!」
ピクリとその単語に反応したジーンに、兵士たちは一斉に戦闘態勢に入る。だがそれをすぐさま手で制し、ケイスは再度頭を下げる。それに慌てて合わせる兵士たちを、ジーンは何の変哲もないただの椅子の上で足を組んで眺めていた。ただの椅子がまるで玉座のように見える。
トントンとジーンの指が自身の頬を叩く音が、静かになったキッチンに落ちる。それだけ静かだと兵士たちの早くなった鼓動が聞こえてきさえしそうだった。だがその静寂を切るように、わざとらしく音を立てて椅子から立ち上がる。
そして頭を下げ続けるケイスにゆっくりと近づき、ジーンは彼らには見えていないだろうがその碧眼をニタリと弓なりに細めた。
「敵意はない?今、お前たちは武器を構えたのに?」
「…何分、ここは魔王城。警戒は簡単に解けない」
「話し合いだったら嬉しいんです?」
「………?そ、うだな。そうして頂けると助かる…?」
「ほーん……」
殺気のない声色に、ケイスはそろりとジーンを見上げた。随分と楽しげな碧眼と目が合って、微かに息を飲む。
「──じゃあ兵士さん、話し合いしよう!!」
「…………は???」
ずいっと目の前に差し出されたのは、先程ジーンが持っていた焼きたてのベリージャムタルト。いつの間にか切り分けられていたその一切れを差し出され、訳が分からず手を伸ばすことすら出来ない。
何をふざけているのかと言いたいが、その両手にツヤツヤのタルトがある時点で真面目な話にならないのは目に見えていた。物理的に。
ケイスは、一体自分はここに何しに来たんだとつい頭を抱える。それに対して、疲れたなら甘いもの食べる?と再度タルトを差し出すジーンに思わず彼は叫んだ。
「魔王が侵入者相手に、呑気にタルトを差し出すんじゃねぇ!!!」
「いや話し合い出来るなら話し合いでって言ったのそちらでは!?!?」
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