天才錬金術師は、最強S級冒険者の元相棒

時暮雪

文字の大きさ
16 / 27
元相棒、再会する

14。だって休めって言うから

しおりを挟む
 侵入者があった真夜中から数時間後。手当を済ませ仮眠を取った三人は、巨木の根元へとやって来ていた。

 この森で建物と呼べるのはハオたちの家だけかと思われたが、精霊たちが人間の真似事で始めた店(品物は大体薬草や謎の石で、支払いは魔力だった)や宿屋らしき施設(ただ精霊たちが雑魚寝してる場所)などがあった。
 どうやらそこが広場のような場所らしく、やけに大きな切り株を中心にして街の真似事をしているのだと言う。たまにどこかから拾ってきた武器なども売ってたりするそうで、そういうものはハオやカザキがお買い上げ回収していた。

 その広場から草木で隠すように続いている小道の先に、奥の森にやって来てからその存在を確認した巨木があった。その木はこの世界で一番初めに生えた植物だそうで、この森の守り神でもあると言う。
 巨木に近いほど植物の質が良かったり、異様に大きかったりなどの影響が出るらしい。ガロンはそれを聞いて、やけに大きな草木に納得がいった。

「ところで、この巨木に何の用なんだ?」
「侵入者に関する報告と、森の状況について聞こうかと」
「………木に?」
「んふっ。あぁ、木に」

 精霊とは無縁な暮らしをしていたガロンの困惑に、常に精霊と共に暮らしていたハオはイタズラっぽく笑う。疑問を浮かべる相棒を他所に、ハオは地面に埋まりきらない巨木の根をノックするように叩いた。

おさー!おはよーございまーす!!起きてっかぁ?」
「……んん、あぁ。うむ………………Zz…」
「いや、起きろ??」

 ハオの声に反応するように、巨木の枝がザワりと音をたてる。同時に、空気が直接揺らされたかのような振動が脳に響く。ハオがそれに言葉を返したことで、ようやくそれが声だと言うことに気づいた。
 少々クラりと意識が持っていかれそうになるも、ガロンは頭を振って正気に戻る。そしてここでようやく、あることを思い出した。先程ハオは、この巨木が世界で最初の植物だと言っていた。
 この世界で誰もが知ってるおとぎ話。この世界の始まりを語ったとされる物語。一体誰がそれを語り継いでいたのかは不明だが、ずっと昔から世界に浸透している伝説がある。

 ─はじめに、光と闇が生まれた。光によって大地に芽が生えた。

 それが始まりの木と呼ばれる、この世界に存在する植物の原種とされる幻の植物。あまりにも伝説級の存在であり、誰もそれらしきものを見たことがないことから、既に存在しないと考えられている木。
 真上を向いても頂点が見えない巨木を見上げる。ガロンは魔法のことも精霊のこともあまり知らないが、全ての属性の精霊が一箇所に集まるなんて話は聞いたことがなかった。この森があまりに異常である原因がこの木と言うのなら。

 べしべしと木の根を叩きながら声を掛け続けているハオ。数分後、ようやく声の主の目が覚めたのか巨木の枝が一際大きく揺れた。
 すると、その直径何百メートルもあるであろう幹から枝の様なものが現れた。内側からスルスルと出てきたそれは次第に合わさり、長身で細身の男に変わっていく。
 深い緑の長髪を一括りにし、髪とは少し違う色合いの濃い緑の目を持つ浅黒い肌の男。見た目年齢は二十代後半から三十代前半と言ったところか。ガロンは彼の格好に既視感を覚え、すぐにそれがイグアスタ王国の祭事に使われる伝統衣装と似ていることに気づく。
 不思議な表れ方をした男に、ハオは腕を組みながらため息をつく。男は随分と眠そうな表情のまま、未だふわふわとした声色でこちらに話しかける。

「……うむ、うむ…相変わらずこのバカ孫は手荒いもんだ。まったく、まったく…ふわぁ…ぁあ…おはよう」
「遅い!!こっちは早めに帰んなきゃなんねぇの!年寄りって早起きじゃねぇのかよ」
「やれ、やれ。こちらは遅くまで森の修復をしておったのだ。もう少し、年寄りを労わらんか…」

 綺麗な顔に似合わない重低音で話す男に、ハオの後ろで度肝を抜かれるガロン。それを横目に見たカザキが、やっぱりそうなるよなと勝手に納得して頷く。
 男はガロンを一瞥したと思えば、片眉を上げて手を顎に当てた。何かを考え込むようにじっとガロンを見つめ、そして何か自己完結したのかふぅと息を吐き出して視線を外す。
 その視線に随分と"圧"が込められていたことに、ガロンは人知れず冷や汗を流す。たったそれだけ。されど、圧倒的な力の差を見せつけられたように感じた。
 まだ鍛錬が足らないと力不足に歯痒い思いをしているガロンの横で、ハオはその行動を不満と捉えたのかムスッと頬を膨らませて男に食ってかかる。

「なんだよ、じいさん。何か気に食わないことでもあんのか?」
「やれ、やれ。血の気の多い孫だ…誰もそんなこと言っとらんだろう。まったく、まったく」
「じゃあ何だってんだ」
「…光の者が、随分とはしゃいでいる。その原因がこの者のようだと、少々気になっただけだ。それで、話は何だ?」
「そうだった!森の様子と、夜中の事について聞きたくて。じいさんは何か気になったこととかねぇか?」
「気になること。ふむ、ふむ…一つ、ある」
「何!?どんなことなんだ?」
「うむ、うむ。私は、いつになったら曾孫を見れるのか」
「真面目な話してくれクソジジイ」

 思わず口が悪くなるハオに、十分真面目な話だと返す男。この二人の会話に気が抜けそうになったガロンは助けを求めるように横を見たが、いつの間にか忽然と姿を消していたカザキに気づいて思わず頭を抱える。
 森育ちって皆こんななのか、ともはや遠い目になっているガロン。それに気づいた男がそろそろ真面目に、と呟いてやっぱりさっきの返しは真面目じゃなかったんだなと二人で半目になった。

「うむ、うむ。まずはそちらの客人に、遅ればせながらも挨拶を。私はこの木に宿る精霊であり、原初の元素ロア・エレメントが一つ。大地の元素オリゴテーラと申す。このバカ孫と親しくしてくれていること、感謝しよう」

 そう言って仰々しいお辞儀をするオリゴテーラに、対人があまり得意ではないガロンは何と返せばいいのかと押し黙る。ハオに脇腹を小突かれてようやく名乗りだけして、すぐに顔を隠すようにローブの首元を引き上げた。
 その様子にやれやれと肩を竦めたハオは、ようやく今後を含めての真面目な話を始められることになった。侵入者、壊された結界、消火しにくい炎。議題は沢山あるのである。
 そして、戦闘中に侵入者が言っていたこと。

『三年前は惜しかった。アレを完璧な器にする為の贄は、やはり奴が丁度良いのだろう。忌々しい、私の邪魔をした彼奴が…!』
『あぁぁあぁ…またしても!!これでだ!!贄の分際で!!!何度も!!!私の邪魔をする!!!!大人しく死ねばいいものを!!!!』

 それを聞いていたカザキ曰く、状況的に奴の言っていた『贄』と言うのはハオで間違いないだろう。だが、ハオが奴と対面したのは三年前と昨晩の二回だけの筈だ。なら、残りの一度は一体なんの事なのか。
 そして、器と言われていた『アレ』も気になる。考えることも、そしてこれからやるべきことも多い。

 また局長に小言とかめっちゃ言われんだろうなぁ、と三人で話し合いながらハオはゲンナリと考えたのだった。

─────

 ハオが森から帰って五日後。魔法省局長であるクリスは、自身の秘書役であるネーベの差し出した書類に目を通して口元を引き攣らせた。

「…なぁ、ネーベよ。これは、俺の目がおかしくなっている訳では無いよな?」
「えぇ、勿論。正真正銘、休暇届けですよ」
「…そうか………そうか……」

 にっこりと笑いながらそう言うネーベの言葉に、ぐしゃりと書類を握りつぶした局長は両の拳を机に叩きつけて叫ぶ。

「"半年"の休暇はもはや休暇って言わねーーーんだよぉ!!!!!!!」
「局長、これはきっと新婚旅行ですよ?快く送り出すのが祝福として正しい行為だと思います」

 うがぁ!と書類を放り投げるほど憤る局長に、ネーベはニコニコと通常運転であった。はらりと床に落ちたくしゃくしゃの書類には休暇申請と記されており、そこにはハオの名前と─

『備考。ちょっとガロンと一緒に冒険者してくるわ』

 そんな一言が添えられていた。あまりにも軽い文面に、局長は脳裏に真顔でブイサインをしているハオが浮かぶ。

 局長の胃痛はしばらく治らない。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

処理中です...