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第三章 裏路地の戦い②
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隠し持っていた散弾銃で不意を突かれたが、不思議なことにセンはまだ立っていることができた。
仕組みは未だに理解していない。
この国の魔法使いがいうには体内で生成された磁場が方向を狂わせるとか。おかげで自分が撃った銃弾はほとんど当たることがないし、精密機械の近くにいることを固く禁じられたりと幸か不幸かわからぬ体質を手にしていた。
八ッ目も、本質的には変わらない。
どちらも同じ幻想種なのだから。
「快ッ感……。一度、撃ってみたかった……あと言ってみたかった……」
「そうかい。俺を蜂の巣にしかけて満足か?」
「それ、誤解。急所は、避けてるから。それに、イスミくんには当たらないでしょ? ふぅ。この姿で喋るの、なかなか難しい。これでもだいぶ使い慣れてきたつもり、なんだけどな」
「まだ元に戻るなよ。その姿してるなら、俺も遠慮なくぶん殴れるからよぉ」
「野蛮」
「5秒前の自分に言え! で、お前なにが目的なんだよ……」
声色から彼女が何者なのかすぐに特定できた。最初こそアリシアが標的かと思っていたが、センが立ち止まるや追うのを止めたのですぐに察した。八ッ目の標的は自分であると。そのあといきなり撃ってくるとは思いもしなかったが。彼女……異形の姿は初めてみるが、八ッ目は禁忌領域で何度か言葉を交わした仲だった。いや、正確にはもっと前からの知り合いになるが。この異世界エトワールに飛ばされて以来、かつて人だった彼ら彼女らを今までと同じ目線で見ることが難しくなっていた。
「仲間を、集めてるの――。できるだけ戦える、強い生徒を。あなたは特別。特別に強いから、どんな手段をとっても、あの場所へ連れ戻すように言われている。たとえ手足をちぎってでも、頭をもぎとってでも、ね」
そういって八ッ目は心臓部に指を当てる。
センは唾を吐き捨てて、2本の警棒を構えた。
「わりぃけどアリシアが戻る前にお引き取りしてもらうぜ。勢い余って地獄に行っちまっても責任とらねぇからな」
「ふぅ……イスミくんあの女のことばかり。ちょっと、ううん。すごく、嫌い……あたまにくるッ!」
殺気に反応して半身を反らす。
右肩から伸びた5本目の脚が突出して煉瓦で造られた道に突き刺さる。
深く呼吸を吸って、センは相手を見定めた。
八ッ目の特徴からして、そのモデルはあからさまに蜘蛛だ。
蜘蛛は4本ずつの脚、つまり計8本の手足を持ち、口元に鋏角という鋭利な顎を持っている生物だ。
中間距離から至近距離まで隙のない強さである。わずかに隙があるとすれば彼女の経験値に他ならない。
左肩から繰り出された6本目の脚を警棒で反らす。続け様、7本目と8本目が背腹部から両足狙いで襲ってきた。センは細胞ひとつひとつに命令を出すように意識を集中させた。もしファンタジーな世界で魔法が使えたならこんな感じなんだろう、と悠長に考える余裕すらあった。
身体中を駆け巡る青い光が両手にした警棒を伝い、八ッ目へと伝わる。
ビクッと、全身の筋肉が硬直したように八ッ目は崩れ落ち、センは彼女の懐まで距離を詰めた。
「おい。言い残したことがあれば、聞いてやるぜ」
「……んっ。そうね……」
警棒を重ね合わせて軽く捻る。カチッと音がして120センチほどの警杖にしたセンは、その先端に威力を集中させるように体内発電を高める。硬直が解けたが八ッ目はそんなセンに顔を向けて、口元から今にもはち切れんばかりの業炎を浴びせた。
えっ、と驚きを隠せないセンだがすぐさまコートで頭と胸部を隠し地面に転がって鎮火させた。
「ぐはァーー、蜘蛛が火を吐くんじゃねぇ!」
「画図百鬼夜行、知ってる? 妖怪の画集があるんだけど。絡新婦はね、火を吐く子どもたちを操るんだって。単純に生物の力だけをものにしてるってわけじゃないみたい。それとねイスミくん、割と粘ったみたいだけど、そろそろ時間切れ。君はとっても特別だから、いっぱい考えて、準備をしたんだよ」
「あ?」
「君を捕まえるのにわたし一人だけって、おかしいと思わなかった?」
「あっ……」
馬鹿野郎が、と心の内で何度も自分を罵った。どうしてそんな当然な疑問を思いつかなかったのか。自分ではなくアリシアが襲われる可能性があったことに焦ってしまったのだろうか。穴があったら入りたい。一生シーツに包まって顔を隠していたい。それくらいの大失態だ。つまり彼女は囮だった。無理やり向こうに連れていかれたところで、拒否するなり逃げるなりできたのだ。それを強制させるてっとり早い方法なんて人質だろう。
お前らアリシアに指一本触れてみろ、タダジャオカネェゾ……。
強い衝撃――。
口にしようとした言葉が出せず、気づけば頭上に地面があった。ちがう。浮いているのだ。回転して、落ちている。首から上のない自分の身体が崩れ落ち、ぐるぐると回る視界。こんなタイミングで目が合ってしまった。捕まったアリシアの言葉にならない表情。視界がどんどん暗くなる。いしきがどんどん遠のいていく。もし自分がしんでしまっても、ないてくれるひとなんて、だぁれもいないと思ってたのに、そんな顔されるとよけいにかなしくなってしまう。どんどん、くらくなる。いしきが、とおのいていく。
そんなかおしないで、どうせおれは……。
仕組みは未だに理解していない。
この国の魔法使いがいうには体内で生成された磁場が方向を狂わせるとか。おかげで自分が撃った銃弾はほとんど当たることがないし、精密機械の近くにいることを固く禁じられたりと幸か不幸かわからぬ体質を手にしていた。
八ッ目も、本質的には変わらない。
どちらも同じ幻想種なのだから。
「快ッ感……。一度、撃ってみたかった……あと言ってみたかった……」
「そうかい。俺を蜂の巣にしかけて満足か?」
「それ、誤解。急所は、避けてるから。それに、イスミくんには当たらないでしょ? ふぅ。この姿で喋るの、なかなか難しい。これでもだいぶ使い慣れてきたつもり、なんだけどな」
「まだ元に戻るなよ。その姿してるなら、俺も遠慮なくぶん殴れるからよぉ」
「野蛮」
「5秒前の自分に言え! で、お前なにが目的なんだよ……」
声色から彼女が何者なのかすぐに特定できた。最初こそアリシアが標的かと思っていたが、センが立ち止まるや追うのを止めたのですぐに察した。八ッ目の標的は自分であると。そのあといきなり撃ってくるとは思いもしなかったが。彼女……異形の姿は初めてみるが、八ッ目は禁忌領域で何度か言葉を交わした仲だった。いや、正確にはもっと前からの知り合いになるが。この異世界エトワールに飛ばされて以来、かつて人だった彼ら彼女らを今までと同じ目線で見ることが難しくなっていた。
「仲間を、集めてるの――。できるだけ戦える、強い生徒を。あなたは特別。特別に強いから、どんな手段をとっても、あの場所へ連れ戻すように言われている。たとえ手足をちぎってでも、頭をもぎとってでも、ね」
そういって八ッ目は心臓部に指を当てる。
センは唾を吐き捨てて、2本の警棒を構えた。
「わりぃけどアリシアが戻る前にお引き取りしてもらうぜ。勢い余って地獄に行っちまっても責任とらねぇからな」
「ふぅ……イスミくんあの女のことばかり。ちょっと、ううん。すごく、嫌い……あたまにくるッ!」
殺気に反応して半身を反らす。
右肩から伸びた5本目の脚が突出して煉瓦で造られた道に突き刺さる。
深く呼吸を吸って、センは相手を見定めた。
八ッ目の特徴からして、そのモデルはあからさまに蜘蛛だ。
蜘蛛は4本ずつの脚、つまり計8本の手足を持ち、口元に鋏角という鋭利な顎を持っている生物だ。
中間距離から至近距離まで隙のない強さである。わずかに隙があるとすれば彼女の経験値に他ならない。
左肩から繰り出された6本目の脚を警棒で反らす。続け様、7本目と8本目が背腹部から両足狙いで襲ってきた。センは細胞ひとつひとつに命令を出すように意識を集中させた。もしファンタジーな世界で魔法が使えたならこんな感じなんだろう、と悠長に考える余裕すらあった。
身体中を駆け巡る青い光が両手にした警棒を伝い、八ッ目へと伝わる。
ビクッと、全身の筋肉が硬直したように八ッ目は崩れ落ち、センは彼女の懐まで距離を詰めた。
「おい。言い残したことがあれば、聞いてやるぜ」
「……んっ。そうね……」
警棒を重ね合わせて軽く捻る。カチッと音がして120センチほどの警杖にしたセンは、その先端に威力を集中させるように体内発電を高める。硬直が解けたが八ッ目はそんなセンに顔を向けて、口元から今にもはち切れんばかりの業炎を浴びせた。
えっ、と驚きを隠せないセンだがすぐさまコートで頭と胸部を隠し地面に転がって鎮火させた。
「ぐはァーー、蜘蛛が火を吐くんじゃねぇ!」
「画図百鬼夜行、知ってる? 妖怪の画集があるんだけど。絡新婦はね、火を吐く子どもたちを操るんだって。単純に生物の力だけをものにしてるってわけじゃないみたい。それとねイスミくん、割と粘ったみたいだけど、そろそろ時間切れ。君はとっても特別だから、いっぱい考えて、準備をしたんだよ」
「あ?」
「君を捕まえるのにわたし一人だけって、おかしいと思わなかった?」
「あっ……」
馬鹿野郎が、と心の内で何度も自分を罵った。どうしてそんな当然な疑問を思いつかなかったのか。自分ではなくアリシアが襲われる可能性があったことに焦ってしまったのだろうか。穴があったら入りたい。一生シーツに包まって顔を隠していたい。それくらいの大失態だ。つまり彼女は囮だった。無理やり向こうに連れていかれたところで、拒否するなり逃げるなりできたのだ。それを強制させるてっとり早い方法なんて人質だろう。
お前らアリシアに指一本触れてみろ、タダジャオカネェゾ……。
強い衝撃――。
口にしようとした言葉が出せず、気づけば頭上に地面があった。ちがう。浮いているのだ。回転して、落ちている。首から上のない自分の身体が崩れ落ち、ぐるぐると回る視界。こんなタイミングで目が合ってしまった。捕まったアリシアの言葉にならない表情。視界がどんどん暗くなる。いしきがどんどん遠のいていく。もし自分がしんでしまっても、ないてくれるひとなんて、だぁれもいないと思ってたのに、そんな顔されるとよけいにかなしくなってしまう。どんどん、くらくなる。いしきが、とおのいていく。
そんなかおしないで、どうせおれは……。
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