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いきましょうか、坊ちゃま
メイヤードに戻る日
しおりを挟む『秘匿されし錬金術』ホムンクルス生成。
まさか後継ぎ問題をそういう形で解決してくると思わず、俺はちょっと……ひいた。
「これはとあるダンジョン街で流れていた噂だったんだが、調べてみたらかなり信憑性の高いものだと分かったんだ」
「まあ、魔族の増え方ってこれに似てるからね」
キース様が自信満々に俺に向かって言う。
「どうだシーラ。
この方法なら、俺とクリムトの間に後継ぎを作る事ができるぞ」
「……まあ、そうですわね」
だって、資料の中に堂々と書いてあるんだ。
男性2人の精子を、煮沸消毒したフレスコに入れ……って。
「……はあ……」
ほんと、こんなとこで突然エロゲらしさが顔を出すなんて思わなかったぜ……
どうすれば。
「……まさか、こんな解決方法があるなんて」
「シーラも予想してなかったの?」
「ええ、ご落胤探しか、法律を変えるか、どちらかだと予想していましたから」
「えっ」
「えっ?」
つか、それが現実的な解決方法だよね?
主人公様は公爵家っていう権力に近い家の直系男子なんだから……
まさかこいつ、気がつかなかった……のでは……
俺は疑いの目でキース様を見つめる。
するとキース様はお顔を一瞬でキュっと引き締め重々しくおっしゃる。
「確かに、そういった方法もあるにはあるな」
「……まさか、これ一本に賭けてたんですか?」
「そうだが?」
「……」
この人即答しちゃったよ、おい……。
ため息も出せない俺を放って、キース様とモートン様が実務的な会話を始める。
「それで、必要な素材が色々とあってな」
「それを僕とシーラで集めてくればいいんだね?」
「えっ」
坊ちゃまは俄然やる気になっている。
もしかして、俺との子どもを……
いや、無いな。
あれだけ「ふたりきり」を強調する坊ちゃまが、子どもを欲しがるわけがない。
「行きたくないの?シーラ」
「いや、突然のお話だったので……。
突然従者が辞める事で、クリムト様の評価が落ちたりしないか、と」
俺はといえば……まあ、そろそろ職人ギルドに復帰しないと腕がなまりそうだしな。
クリムト様の従者も楽しかったけど……
「メイヤードに、戻らないといけませんね」
「うん、今度はちゃんと僕がシーラを守る。
同じ部屋に住んで同じベッドで寝る。
どこに行くときもついてく、ずっと一緒」
モートン坊ちゃまは鼻息荒く、重めの独占欲宣言をした。
キース様とクリムト様は苦笑いで済ませてるけど、俺にしてみれば死活問題だ。
「……モートン様」
「なあに、シーラ」
ここはひとつ、しっかりと言い聞かせておかないと……。
「同じ家で暮らすのは良いですが、毎日するつもりなら手加減して頂かないと困ります」
「何で?」
「次の日仕事にならないからです。
回復魔法で何とかできる範疇に留めておいてもらわないと」
それに、俺には本業がある。
そろそろ仕立て屋に戻らなきゃ、在庫が罪庫になっちゃう……。
「職人ギルドの方とは手紙でやり取りをしていますが、そろそろ注文も溜まって来てるそうで」
「……むー……」
「職人が仕事をする上で、最も大事なのは納期、次に品質です。
それが信頼をつれてくる。
……正直、俺には冒険者って生き方は難しいです。
農家の人たちからの害魔獣駆除だけを請け負って、あとは家で裁縫をしているのが、ちょうどいいんです」
「……シーラ」
正直に言う。
俺、ダンジョンが楽しいと思った事、無い。
少し先の敵を気にしながら歩いて、剣で殴って魔物を殺す。
魔物の死体は残らない。
けど、それが何だか……
本当にゲームの中に閉じ込められているような気分になる。
「冒険者はモートン様のお仕事。
私はお戻りになるのを家で待ちながら働く。
そうするのが一番いいと思うんです」
それに、冒険者としてはもう限界が見えてる。
だけど裁縫は、まだやれる事が山ほどある。
……でも、正直まだ、メイヤードに帰るのは怖い。
ここで職人ギルドの仕事ができるなら、その方がいいのかもしれない。
だって、あれだけの残党が、ジョットとかいう人の一声で出てきた。
ってことは、あれより多くの人が俺の事を恨んでいるってことだ。
「……ここでも居場所のなさに苦しむなんて、思わなかったな」
前世では、何処へ行っても門前払いで。
家族写真の中にすら、収まる事を拒否されて。
台木家がなかったら、死んで……
「ああ、そうか……台木だ」
「?」
坊ちゃまの魂は台木だ。
だからって、坊ちゃまと台木を同一の人間だと思うことは出来ない。
顔も違うし世界も違う。
何より、前世の記憶がないんだからどうしようもない。
だけど……
「坊ちゃまがいれば、安心です」
何となくそんな気がして……。
俺は、メイヤードに戻ることにした。
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