いきましょう、ぼっちゃま! ~モブの俺が攻略対象者の弟を連れて逃げた結果~

紫蘇

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いきなさい、坊ちゃま!

返済と聖地巡礼 3

「……ーら、シーラ、しっかりして」
「あっ……ああ、すみませ……」
「すまんすまん、あの程度で目を回すなんて思ってなかったんだよ」
「ひっ!あ、アレイス様っ!?」

 気が付くと俺はどっかの部屋へ運び込まれていた。
 背中の感触に、俺は慌てて起きた。

「すみませんっ!ベッドを、」
「ああ、良いんだ…俺が悪かった」

 主人公は半笑いで俺に謝った。
 ってことは、ここ…

「安心して、シーラ。僕の部屋だよ」
「えっ、あ、そうでしたか…申し訳ありません、クリムト様」

 俺はそっと周りを見渡した。
 すると、泣きそうな顔の坊ちゃまがそこにいた。

「……坊ちゃま?」
「っ、シーラ!!」

 坊ちゃまは俺に駆け寄ると、その勢いのまま抱き着いて来た。
 なので俺はもう一度ベッドへ倒れ込んだ。
 慌てて起きた意味…んもう。

「モートン坊ちゃまにも、ご心配をおかけして申し訳ありません」
「さっきこいつと話をつけた。もう食べられないから安心して」
「こいつって…この方は、公爵令息様ですよ」

 俺は坊ちゃまにぎゅうぎゅう抱き着かれながら、言葉遣いを注意した。
 すると主人公は言った。

「はは、いいんだ…俺も揶揄い過ぎたと反省している」
「い、いえ…私に耐性がないのが悪いので」

 クリムト様はともかく、主人公のオーラは強すぎる。

 それに、このゲーム…セックス熟練度っつーふざけたステータスを上げるために、「特定の相手が出来るまで」街でナンパ…もちろんセックス込みのやつ…をしまくる必要があるんだよな。
 なんつーの…逆モブ姦?
 ちなみに、それを上げると触手プレイやスライム姦が出来る様に…
 んんっ。

 ともかく、本気で食われると思ってしまったこちら側のミスだ。
 自意識過剰すぎて申し訳ない…

「…坊ちゃま、そろそろ起きても宜しいですか?」
「嫌だ」
「いや、クリムト様とお話が…」
「このままここに泊まる」

 どうやら俺が倒れたのを良い事に、坊ちゃまのブラコンが仕事を始めたらしい。
 あれこれ理由をつけて、お兄ちゃんと一緒にいようとしている…困った。

「駄目ですよ、寄宿舎にも規則があるでしょう?」
「そんなの、こいつが何とかする」
「あぁ?何だ急に」

 坊ちゃまは主人公を便利屋あつかいし始めた。
 さすが主要キャラだけの事はある…けど、それも困る。
 ここはもう一回、言葉遣いを注意した方が…

「ですから坊ちゃま、」

 すると、主人公が俺の言葉の先を読んで言った。

「いいよもう、キースで…クリムトもそう呼べ」
「それはなりません、アレイス様。
 私は子爵家の子、家格の差は歴然としています」
「またそういう事を……つれないなぁ」

 ……あれ?
 もしかして主人公…クリムト様を狙ってる?

 ***

 主人公キース・アレイス様は「じゃあ許可を取り付けてくる」と言って出て行き、俺はようやくクリムト様にお金を返すことが出来た。

「長らくお借りしたままで、申し訳ありません」
「ううん、シーラだったら絶対返しに来てくれると思ってたから。
 こうしてモートンとも会う事が出来たしね」

 そう言ってクリムト様はニコニコと笑う。
 そして、文机の引き出しから小さな包みを取り出して、俺に渡してくれた。

「…これ、今までのお給料。
 安くて申し訳ないんだけど…受け取って」
「え…」

 俺は袋の中を見た。
 そこには大金貨が…6枚。
 前世の価値にして凡そ…6000万円くらい?
 大金貨一枚あれば一年なんも仕事しなくても生きてける感じ…って、

「こ、こんなに頂けません!」
「どうして?」
「俺みたいな新人使用人の給金は、1年で中金貨1枚と決まっています」
「でも今は6年目の立派な中堅使用人だろう?」
「6年目だって、大金貨なんてとても!」

 考えて?
 22歳のリーマンが、普通年収1000万も貰える?
 インセンティブがあったって無理でしょ!
 超有名外資系企業に就職したって…

 なのに、クリムト様は涼しい顔で仰る。

「ううん、今のレイクリッド家の使用人は、みんなそれぐらい貰っているよ。
 あれから屋敷内の人事を見直したんだ。
 今は昔の半分まで減らして、その代わりに給金を1.5倍にした」
「えっ」
「それに、使用人の仕事という枠を超えてモートンを育ててくれた君には、特別な賞与があってしかるべきだ。
 …だから、貰って欲しい。
 そしてこのお金を、君自身のために使って欲しい。
 モートンを育てる為にかかったお金の事を考えたら、この額じゃとても足りない…魔法書が一体いくらするのか、僕だって知っているから」

 …確かに、そうだ。
 魔法書は、初級が小金貨5枚。中級は中金貨1枚。上級は…中金貨、5枚。
 前世の価値にして、小金貨1枚が10万円、中金貨1枚が100万円だと考えて欲しい。

 そして俺は、クリムト様に魔法書を買った事を……
 報告してしまって、いた。
 明らかなやらかし……!

「……分かりました、じゃあ、遠慮なく」
「うん、分かってくれて良かった」

 しかしこんな大金抱えて、乗合馬車に乗るのか…
 スリにだけは気を付けなきゃな。

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