当て馬にも、ワンチャンあってしかるべき!

紫蘇

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学園5年目

王都のクリスマス1日目

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今日はお昼前から王都へ視察デート
昨日夜遅くまで生地を作っていたもんで、少し眠い。

「…昨日はずっと厨房にいたのか?」
「ええ、手土産のスコーンの仕込みで…」

フルフラットになった特製馬車の中で時々欠伸をかみ殺す…
そんな俺を見て殿下は少しご機嫌斜めだ。

「無理せず王都の神殿に頼めば良いではないか」
「いや、一応俺が招くんですし…ふわぁ…」
「お前の手作りは俺だけの物で良いと思うが?」

んん、何だ、そこを怒ってるのか。
こういうのも嫉妬ってことなのかな…

「まったく…着くまで少し寝ていろ、ほら」

殿下が俺を抱き込んで頭をなでなでしてくれる…

***

「ルース、起きろ」
「ん、ふ…すいません、すっかり寝てしまって」
「問題ない、今着いたところだ。
 …出られるか?」

そういって、殿下が俺の股間を見る…うん?

「…っ!?」

な、なして?
ムスコまでしとるん?

「こ、こら!ねてなさいっ、このっ」
「仕方ないな、せっかく起きたのだから愛でてやらねば」
「あっ、ちょ、やっ…んっ!!」

***

とまあ色々あって現地には20分ほど遅れて到着。
この前行ったのとは別の本屋さんだ。

実は、前回まで行ってた本屋さんにはいつの間にか色んな出版社の人が現れるようになってしまって…。

それだけなら良いんだけど、その人たちの
「この本面白かったんだよね~」
「ほんと?読んでみよっかな~」
という大根芝居を見るのが何だか忍びなくて、ちょっと今回はパスさせてもらう事に。

「わぁ…ここは絵本が充実してるお店なんですね」
「ああ、将来子どもが出来た時には世話になるかもしれんな」
「気が早すぎません?」

だってさ、実際産めるかどうか分かんないじゃん?
あんまりプレッシャーかけないで欲しいんだよな。
まあ今からビビってたって仕方ないし、前世に比べりゃ産まれた子の性別云々で問題が起きない分まだ平和か…。

ま、それはさておき。

「俺、子どもの時にこういうの読んだこと無くて」
「ああ、それならこのあたりの昔話集はどうだ?」
「へえ…じゃあこれと、あと…この本、絵がかわいいから、買ってみようかな…」

ゆっくり絵画鑑賞とかしてる暇ないし、せめて絵本でアート成分補給しとこう…と思って昔話集含め5冊を選ぶ。
カラー印刷だからか、やっぱり一冊一冊が高い…
まあ、買ってもらえるんだから良いようなもんだけどね。

これを子どもたちにタダで読ませてあげられたらなぁ…図書館を作るか…それよりも、それこそ国中の保育園や孤児院に配布してもいいのかもな。
毎年5冊程度を厳選して…

「おい、ルース。
 また何か考えていたな?」
「あ、えっと、絵本を国中の子どもたちに読んで貰えるようにならないかなって…
 クリスマスに保育園や孤児院に国からプレゼントできたらいいなって」
「ふむ、慈善としては新しい方法だな」
「毎年5冊程度を厳選して送る、とか…でも、国が絡むと思想統制とかできるようになっちゃうし、悩みどころですね」

たとえ最初の思いはそうでなくても、やろうと思えば悪用できるようなシステムじゃ困る。
特に国が絡むときには国民にも分かりやすく…
ロメリアのおっさんが言っている「透明性」ってやつを確保しないとね。

「それに、これも俺がやるなんてことになったら、スケジュールがやばいですし」
「うむ、それは確かに…」
「いっそ文学系の教授に頼むのもありかと」

学問が国家におもねらない保証も無いけどね。
でもそういう事言い始めたら何にも進まないし…

「細かい話はクリスマスの行事が終わってからだな」
「そうですね…あ、今日のお昼はどうします?」
「せっかくだからクリスマスの市へ行って食べるかと思ってな」
「えっ、すっごい楽しそう!」
「そうだろう?」

俺はウキウキで本を抱えて書店を出る。
クリスマスの市はここから歩いて10分ほどの市場でやっているとのこと。

「行くぞ、ルース」
「うん!」

俺は殿下の手を取って、歩きながら考える。

そういえば子どもの頃に参加した記憶が無いのは何でだろう?と…。
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