誰が真面目に勇者なんかしてやるかよ ~めぐりめぐって異世界で再会した友だちが魔王だった話~

紫蘇

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魔王様サイドの過去話

ご近所さんとの約束

 
シノが大急ぎで古民家へ行くと、そこにいたのはご近所の「村田」という老夫婦だった。

「ああ篠くん!いいところへ」
「どうしたんですか村田さん!」
「この家が、ビカーと光ったから、見に来たら、鶴木君がいないんだ」
「え!!」
「うちでトイレでも借りてるんじゃないかと思って、嫁に電話したら、来てないっていうし」
「そうなの、今、大野さんと鴫原さんと、近藤さんと……このあたりにいる人みんなに、連絡をとってみてるんだけど、いないのよ!」

村田のおばあさんは半泣きで、村田のおじいさんはおろおろしている。
そこへご近所の人たちが集まって来る。

「おお、村田さん!鶴木くんは」
「見つからない、どこにもいないんだ」
「便所でなかったら、買い物かもしんねぇな」
「宮田さんとこ連絡して、鶴木君見たか聞いてみよう」

宮田さんはバス停の前でコンビニ的酒店を経営しているご夫妻である。
ご近所から頂いたお野菜で作る爆安惣菜が人気の、まちのほっとステーションだ。

「あそこなら、コーヒーもソーダ―も売ってる」
「そうだな」

ご近所さんのひとり、近藤さんが携帯をパカリとあけて電話をかける。

「あ、ああ、宮っさん?
 ツルちゃんいる?今日見た?あ、朝見た、それ以降は?え、見てない?うん、分かった……
 うん、そう、ツルちゃん、いないんだ、で、探してんだけど、うん……うん、よろしく、じゃ」
「で、なんて?」
「朝、買い物きて、それから見てないって。
 こっち来るついでに、駐在さんに聞きに行ってくるって」
「おお、そりゃ心強い」

そうやって、ご近所というご近所がわらわらと集まる。
大体の人間が集まったところで、駐在さんが皆から証言を集める。

「鶴木くんを最後に見たのは?」
「村田さんじゃ」
「村田さんが鶴木くんに会った時、何かおかしな様子は無かったんか?」
「なんもない」
「そんなら、怪しい人間は?」
「怪しい人間?」
「鶴木君、昔不良だったでしょう?
 その時に敵対してた人間が、今になって復讐に来たのかもしれない」
「なんだって!?」

ご近所で鶴木を知らない人間はいない。
そして、昔不良だった事も知らない人はいない。
それでも彼らは鶴木の事を好意的に受け入れている。

ちゃんと挨拶ができる事や、自分たちの名前をすぐに覚えた事。
何より、知らないことは知らないと言える素直さと、教えてもらった事をちゃんとメモに書く癖。

それが、彼らの心を掴んだのだ。
決して外見ではない……ある一定以上の年齢の人間に、茶髪はとても不評なのだから。

シノは改めて、鶴木という人間の魅力を思い知った。
最初は魂が引かれたという理由で好きになったが、今ではすべてに心惹かれている。

「みなさん、鶴木さんの事、認めてくれているんですね」
「ああ、認めるというか……いい子だなと思ってるよ、な、みんな」
「そうだな、あの子はいい子だ」

ご近所さんはうん、うんとそれぞれのリズムで頷き、駐在さんの言葉で意識を切り替えた。

「では怪しい人間を手分けして探しましょう」
「僕も行きます」
「いや、篠くんはここに残ってくれ。
 鶴木君が戻ってくるかもしれない。
 ああ、戻ってきたら、本官に連絡を」
「分かりました」

そうして、村人総出の捜索が始まった。
怪しい奴を探し出し、鶴木を助けるのだ。
今ごろ復讐に来るだなんて、どうせろくでもない奴に決まっている。
棒でしばいても問題なかろう。

「若い連中には負けん!な、みんな!」
「「おお!!」」

鎌、鍬、熊スプレー、各々が武器を持って出かけ、古民家にはひとりシノだけが残った。

「……自分がこっちへ住むのも、ありかもしれないな」

鶴木はこの土地で、とても愛されている。
そんな彼を、魔王国へ連れて行くとなれば、この地域の人々はきっと悲しむだろう。

だが、その前に。

「まさか、鶴木さんが勇者召喚されるだなんて」

自分は魔王、鶴木は勇者。
前途は多難で、再会までどのぐらい待つか分からない。
それでも……。

「鶴木さんと、番になる。
 なりたいんだ……」



***



捜索開始から2時間後、シノは駐在さんに連絡をした。

「手掛かりになりそうなものを見つけた」

すると駐在さんはご近所さんを引き連れて戻ってきた。

「どんなものを見つけたんだい、篠くん?」
「これ……この、メモです」
「ふむ、付箋紙だね」
「珍しいね、鶴木君はいっつも、ちっちゃいノートみたいなメモ使うのに」
「ちゅうことは、これは鶴木さんのメモじゃないって事?」
「はい、多分」

ご近所さんの推理は当たっていた。
これは鶴木のメモではない。
シノが準備した偽物の手がかりだ。

「なんて書いてあるんだ?」
「日本語じゃねぇぞ」
「あ、それなら私、スマホで翻訳できるかもしれません!」

この村で一番若い宮田の奥さんがスマホを持って前に出ようとした。
それをシノは制止して、言った。

「これ、僕、読めます。
 ……鶴木さんは、僕の事情に巻き込まれたのかもしれない」
「どういうことだ!?」
「僕の親が、変な宗教にはまってしまって。
 そいつらがつかう文字です」

適当な嘘だ。

だが、シノの大学生とは思えない物腰と落ち着きもまた地域の人の間では有名で、訳アリの子じゃないかという噂はずっと囁かれていた。

シノはそれを利用して、彼らをけむにまく事にしたのだ。

「ここには『どうか世界をお救いください』と書いてあります」
「なんだって?」
「……僕が、鶴木さんを見つけます。
 それで必ず、ここへ連れ帰って来ます。
 だから、時間を下さい、お願いします!」

シノは彼らに向かって深々と頭を下げた。
その姿に、ご近所さんはまた「うん、うん」とそれぞれのリズムで頷いた。
村田さんがご近所を代表して、言った。

「篠くん。鶴木君を絶対に取り返してくれ。
 それまで儂らが、あの家を守る」
「ありがとうございます……!」
「頼んだよ篠くん」
「頑張ってくれよ篠くん」
「はい!!」

そうしてシノはご近所代表の村田さんと固い握手をした。
世界を越えて、守らなければならない約束が出来た瞬間だった。

「無理、しないようにな。
 儂らは篠くんのことも大事に思ってるから」
「……はいっ」

村田さんの言葉は、どこまでも温かかった。

提示した証拠が偽造だとしても、守らなければならないだろう。

この大事な約束だけは。








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次回から本編に戻ります!

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