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最後の学園生活
【西ルート隊】異質な場所
しおりを挟む突如として森の中に現れたのは、植物に飲み込まれかけている古代の神殿っぽい建物だった。
「……ここ、北の辺境領ですよね?」
「……ああ、間違いなくな」
「……しかし薄暗いな」
「……どうします?」
「……いや、夜間訓練用の松明はあるけど」
全員が息を呑む光景に、パッセルは異様な程冷静になってこの建物を観察していた。
「つまり上へと攻略を進めるタイプか。
外観通りであれば5層、または屋上含め6……
隠しがあったとして地下、地下でどこか他へと繋がっていたら面白いんだ……が」
「……パッセルさま?」
別のゲームの人格が軽く目覚めたらしいパッセルは、ひどく当たり前かのように提案した。
「少しだけ入ってみることにしましょう。
ダンジョンかどうかが確定すれば、今後の予定も変わってくるでしょうから」
「ああ……そうだな」
「ダンジョン……これも、ダンジョンなのか?」
この17人の中でダンジョンを経験しているのは、新人騎士3人とパッセルとリュノだ。
駆け出し魔法使いが聞く。
「ダンジョンとは、どういう所なのですか」
「人間を襲うように作られた魔物が出る場所です。
外とは時間の流れが違います。
この中での1日は外での1時間、とまあその程度に考えて頂ければ」
パッセルが簡単に説明し、リュノが続けて言う。
「それから、そっちの3人は知っていると思うがウサギには気を付けなければならない。
即死させられる恐れがある」
「えっ!?」
その言葉を補足するように、新人騎士3人も言う。
「本当だぞ。
首を前歯でガブリとやってくるんだ」
「『ウサギを見たら首を守れ』が、ダンジョンでの合言葉だから」
「的確に首狙って跳んでくるから」
彼らの言葉に、教訓が行き届いている事を確認したパッセルは大きく頷き、彼らに提案する。
「ともかく、2~3回程戦闘してみましょう。
リュノ殿を先頭に、エル殿、デラ殿、ベン殿で前衛を。他の方々は中盤で、様子を見て判断を。
私は最後尾を行きますので、怪我をしたらすぐに後方へ声かけを」
「「はい」」
先頭は剣を抜き、左手に松明を持った。
中盤もまた、倣うように剣を抜いた。
そして最後尾から声がかかる……
「では、出発」
***
建物の中に入ると、そこには明らかに異質な空気が漂っていた。
「これがダンジョン……」
「お館様が『うちにも欲しい』と仰っていたが……
気楽な物ではなさそうだな」
先頭は冷静だが、中盤は初めての経験に多少浮足立ってみえる。
「周囲の警戒を怠らずにお願いします。
天井からも魔物が来る可能性がありますから」
そうパッセルが注意した瞬間。
「出たぞ!でかい蜘蛛だ、毛むくじゃらの!」
「毒に気を付けて!」
先頭の上げた声に、一瞬にして頭にタランチュラを思い描いたパッセルは注意喚起をする。
「天井を走る可能性もあります、中盤前から2人は天井を警戒!」
「「はい!」」
「魔法は最小限に、味方を巻き込む可能性があります!」
「「はい!」」
戦闘が始まった音が、前の方から聞こえる。
虫系の魔物は、大きくなればなるほど堅い。
ガツン、ガキン、と金属に剣を叩きつけたような音が響く。
「関節を狙え!」
「はい!」
「天井から1匹来るぞ!魔法頼む!」
「はい!」
とはいえ、動揺している駆け出したちに冷静に魔法が撃てるはずもない。
パッセルが後ろからサポートを入れる。
「風、巻け、首」
「ギュオ!?」
蜘蛛の首がぼとりと落ちる。
中盤はそれを躱し、体液に当たらないように距離を取る。
「おい、まだ動くぞ!?」
「虫には良くある事だ、動揺するな!」
首を落としても、暫くは生きているのが虫系魔物だ。
首無し巨大タランチュラは、見えてないはずなのに魔法使いたちへと襲い掛かる。
「うわぁ!?」
「落ち着け、首のとこから魔法が通る、やれ!」
「は、はい!!」
落ちた首の方にとどめを刺しながら、辺境騎士が魔法使いに指示を飛ばしつつ前方へ声をかける。
「前衛、無事ですか!」
「今のところは、だがかなりの数見える、パッセル!」
「了解、前方凡そ10m、火球発現」
するとまた、中盤にいる騎士から声が上がる。
「また天井から来たぞ!魔法!」
「「はいいい!」」
「返事はいいから、腕振れ、腕!!」
「う、うで、」
「仕方ねぇなぁもう!!
腕を横に開いて、ってやつだよ!」
「あっ、あ、はい、はいっ!!」
辺境騎士たちの怒号に、駆け出しの9人は今までの戦闘を思い出し、必死で魔法を使い始める。
「腕をクロスして、風!」「風!」
「腕を振り下ろし、水!」「水!」
「拳を前に突き出して、火!」「火!」
「拳を上に突き上げ、雷!」「雷ぃ!」
これは救助隊の魔法使い共通の動きだ。
西のカヌス領で救助活動をした時に広まり、今回北へと持ち込まれた「動作による魔法発現」である。
パッセルが編み出し、パッセルが広めたこの魔法理論は、魔法剣の理論とも似ている。
北の辺境騎士の間では一時期魔法剣が流行った為に、同行してくれた騎士たちにもすぐ理解できたらしい……
指示が的確である。
「あ、あたった!」
「やった…わぁ!落ちて来た、ひぃ!」
「いいぞ、魔法使い!後は任せろ!」
天井に剣は届かないが、下へ落ちさえすればどうという事は無い。
落ちた蜘蛛に騎士たちがとどめを刺す。
「あー、前の方から流れて来るのか」
「仕方ねぇ、全部あいつらで倒せって方が無理さ」
「おーいガキども!遠慮なくこっちへ流して来い、全部やらなくて良い!」
そうやって天井を這って来るのを倒し、横の壁を走って来るのを串刺しにし……
「えい、水、水ぅ!」
「どりゃぁ!火ぃいい!」
魔法使いたちは、凡そ魔法使いらしくない動きで何とか戦い始めた。
「いきなり結構な戦闘になりましたね」
「そんな感想今いらないです!!」
「うええん、かぜ、風っ、風っ!!!」
「……」
こりゃ、この戦闘で引き上げだな。
パッセルはそんな事を考えながら、前衛のその前へ魔法を出し続けた。
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