話が違う2人

紫蘇

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最後の学園生活

【西ルート隊】爆走

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北の辺境領の中心から出発し、8日間。

砦や村に泊まりつつ、たまには野営に挑みつつ、西の辺境との境まであと少し……
というところまで来た。

今日は一番西の砦で一泊する予定だ。
朝から魔法の練習がてら、いつもの街道整備をしつつ、魔物と戦いつつ進み、現在昼の休憩中。

「随分のんびり進んでいるようだが、大丈夫か?」
「問題ありません。
 そもそもひっ迫した状況でもありませんしね」

今回の優先順位は、出来る限り村や町に寄って『災害への備え』を伝える事。
次に新人と駆け出しに充分な経験を積ませる事。
そして、収穫までに西の辺境へ辿り着く事……

「……発情期は」
「ああ、それも大丈夫ですよ。
 それまでにはダンジョン騎士団の村に着く予定です。
 いざという時のための抑制ポーションもありますし」
「本当か?」

そうも全てが計算通りにいくとは思えない。
もし何かあってからでは遅い。
新人騎士は3人ともアルファだ。
いくらパッセルが強いからと言って、

「まあ、最悪あなたと番えば良いだけですし」
「は」

「ネックガードをしてるんですから、そうそう誰にもバレませんよ。
 結婚、するんでしょう?」
「え」

「素敵なプロポーズ、お待ちしてますからね」
「な」

そんな馬鹿な!!


***


昼休憩が終わり、砦に向かって進む。
防壁の中へ入れるのは砦だけなので、砦に着くまではこのまま街道を真っ直ぐ……

「すてきなぷろぽーず……」
「どうされました、殿下」
「すてきなぷろぽーず……」
「パッセルさまぁ、リュノ殿下の様子が変です」
「放っておきなさい」

さっきからリュノの思考は、9割5分がプロポーズのシミュレーションに費やされている。
残りの5分で何とか馬に乗っている状態だ。
つまり異常をきたしている。

「本当に大丈夫ですか、パッセル様」
「もう、ここまで来れば貴方たちが戦闘の中心です。
 一人ぐらい呆けていても……っお!?」

その時だ。
相変わらず鼻をスンスンしていたメジロがいきなり走り始めた。

「おい、メジロ!」
「ぶるるぅ!」
「待って下さいパッセル様ぁ!!」
「大丈夫です、このまま街道を、メジロ、止まれ、止まれって」
「ヒヒーーン!」

パッセルの制止も虚しく「お前らついて来い!」とばかりにいななくメジロ。
そしてそれに同調する馬たち……

「お、おい!急に」
「うわぁああ!?」

危うくリュノは落馬しかけ、他のメンバーたちも体制を崩しかける。

「手綱を強く握って!振り落とされないように、しがみつきなさい!!」
「はいぃ!」

パッセルの号令に、全員が前傾姿勢になり馬と密着する。
乗っている人間のバランスが良くなったので、馬はさらに速度を上げる……

「メジロ、まさかお前、見つけたのか!?」
「ぶるる!」
「やっぱりあるのか、ダンジョン!?」
「まー!」

メジロは馬らしからぬいななきを上げ、砦へ向かって爆走。

「ひひーん!ひひーん!ぶるっ、ぶるる!!」
「ど、どうした、馬」
「ふしぃいい」
「すみません、うちの馬が、」
「パッセル様!?」
「門の中へ入りたいのです、お願いします」

そうして防壁の中へ入ると、今度は村とは別の方向へと走り出し……

「ひひーーん!」
「おいメジロ」
「ふすっ!」「ぶるる!」
「お、おい、まさかまた!?」

メジロを先頭に馬たちは数秒のうちにトップスピードに達し、そして街道もなにもない林を爆走。
木を躱し、根を、倒木を華麗に飛び越え……

「おぇっ!?」
「堪えろ!!」
「ひいいい!」

乗っている方は吐きそうになるが、何とかこらえてしがみつく。
何とか話す余裕ができた時にはもう、砦も村もどこにあるのだか……!

「西のダンジョンに向かっているのか!?」
「いや、さすがにそれは遠すぎます!」
「ではどこへだ!?」
「分かりません!!」
 
そうパッセルが叫んだ次の瞬間、メジロはまたもいななき急ブレーキをかける。

「ひひーん!」

他の馬たちも同様に急停止し、危うく全員が振り落とされかける、が……

「……メジロ、お前」
「ふるふるぅ」

必死で手綱を握りしめ、落馬を耐えた後に見たそれは……

「……すごい」
「こんな場所、うちの領地にあったか……?」
「さあ知らん、ただ俺も一度も見た事がない」
「えっ、皆さんも知らないんすか!?」
「ああ、初めて見た……」

森の中の、謎めいた遺跡だった。

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