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最後の学園生活
芝居の後
しおりを挟むその後、出勤してきた宮廷官吏に王の交代が通達された。
説明を求めて大広間に集まった彼ら・彼女らにシルウェストリス公から説明があり、予備費に手をつけた話と玉璽を投げ寄越された話を聞かされると、大体の官吏が納得して王の交代を支持した。
ただ、全員から「先に教えといて欲しかったな~」という苦情はあったが。
それから各地の領主と王領で働く地方官吏に配る書簡が、ウルサの実家であるスマリティムス家の工房でモリモリと印刷され……印刷しすぎた分は号外として国民に配布された。
「災害の時に使うための金使い込んだ……」
「俺らの税金を何だと思ってたんだ!?」
「それに愛人が50人以上いたんですって!
とんでもない話だわ」
「その愛人だけど、美人だからって無理やり連れて行かれた子も結構いるらしいぞ」
「最低野郎じゃねーか」
そして国民は概ね、新しい王に変わる事に賛成を示した。
新しい王は第一王子のフォエバストリア殿下。
新しく出来た副王の座に就くのは第二王子のエイギルフェルド殿下。
副王は独自の騎士団を率いて、全国に拡がった災害救助隊と連携し魔物から国民を守る仕事だそうだ。
また、各地の騎士団同士の横のつながりを強化する仕事も担うという。
地方で問題があればすぐに国王へ報告が行く仕組みづくりの一つだそうだ。
「良く分からんが、兄弟仲良くこの国を治めてくれるってことかな」
「うん、良く分からんが、仲が良いのはいいことだ」
これについても、ふんわりとだが賛成が示された。
中身がよく分かっていない国民が大半だが。
「いやぁ、5月から新しい王様かぁ……」
「って事は、今から記念の商品を考えても間に合うな!」
「4月には結婚式もするってさ」
「えっ!じゃあ結婚記念の商品も考えなくっちゃ」
「やだわぁ忙しくなっちゃう!」
ビッグイベントが続く事に文句を言いながらも、王都の民は楽しそうだ。
おめでたい事続きのここで、商売っ気を出さなくてどこで出すのか。
「新しい王妃様ってどんな方かしらねぇ~」
「号外によると、運命の番ってやつらしいぞ」
「えっ本当!?」
「だったら余計にめでたいじゃないの!」
号外を読む者の周りには人だかり。
王都といえど、文字が読めない者はまだまだ多い……
だが、モンタルヌス領での「領民皆識字」施策の結果次第では、全国へその取り組みは広がるだろう。
「私も字が読めるようになりたいわ!」
「そうね、そうしたら人に頼まなくても号外を読めるわ」
「誰かに読んでもらわなきゃならないって、大変だものね!」
「次の号外も楽しみね!」
……後にこの号外は王都瓦版へと発展していき、スマリティムス家は大きな財産を築く事になるのだが……
それはまた、別のお話。
***
さて、国民と王宮官吏の間ではコンセンサスが得られた王の交代だが、当の新王と新副王は当惑気味だ。
自分たちがどうこう言う間に、どんどん外堀が埋まっていく感じ……
そりゃ最初からその予定だったけど、それがいきなり本決定になるとは思わなかったのだ。
つまり、心の準備が整っていない。
なのに前王の代理は平気でこんな事を言う。
「引継ぎって言ったって、税収が確定した後に予算編成をするのと、各局からの報告に耳を傾けて問題があれば話し合って解決方法を探って最終的に採択して実行して結果を見て良くない点があれば修正点を炙り出して施策の変更または追加予算の投入を話し合って、最終的にはその責任を取るだけの事ですよ?」
二人の王子は心の中で叫ぶ。
『だけ』って何、『だけ』って!
だが、実際に叫ぶのは憚られる……
今はあの王が王でなくなってから初の御前会議なのだ。
エバ王子は拳を握りしめて言った。
「……それに付随して発生する仕事は?」
「ああ、それぞれの部署にちゃんと優秀なの取り揃えてますから、どこの部署に割り振るかだけ考えて、そこの部署が忙しすぎる様であれば他部署から応援の人材を回す、と、それだけですよ」
だから『だけ』って何、『だけ』って!
あまりの適当さに、兄弟はついに叫んだ。
「全然『だけ』じゃないじゃないか!!」
「それ『だけ』と思わないとやってられないだけの話じゃないだろうな!?」
「何、出来ないなら素直に周りの人間に『助けてくれ』と言えば良いんです。
ここにいる皆は、私がこれぞと見込んだ精鋭。
相談しさえすりゃ、必ず力になるんですから」
シルウェストリス公がそう言い放つと、集まった人々の顔は漏れなく真っ赤に染まった。
それほど彼から高く評価されているなんて、思ってもみなかったからだ。
「それに、エバ殿下にもギル殿下にも『為政者たるには』をずっと教えてきたはずです。
今すぐ思い出せなくとも、お二人の中に私の教えは根付いている……そう、信じていますから」
今度は二人の王子も真っ赤になった。
初等部に入る前、父親より父親らしく……いや、父親としては相当に口煩い部類だったけれど……毎日毎日、彼らに話しかけては立派な為政者になるのだと繰り返し説かれた事を思い出したからだ。
『いいですか、お二人とも。
兄が王になろうが、弟が王になろうが、それはその時の情勢にすぎません。
王になった方は王として、王にならなかった方は王の一番の理解者として、共に為政者たらねばなりません。
それから、番は必ず大事にする事。
それが出来ぬアルファに王は務まりませんぞ!』
……多分、グレたのは後半の2行のせいだろう。
本来の父親と、あまりに言う事が違うから。
「……そうか」
全員が大いに照れて無言になる中、エバ王子は意を決して、言った。
「……分かった、やってみる。
皆、どうか力を貸してくれ。
この国を今より少し豊かな国にするために」
そう言って、全員に頭を下げた。
その行動に議場にいる全員が、エバ王子の決意を受け取り……
万雷の拍手をもって、彼を次の王と認めた。
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