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最後の学園生活
パッセルとアラウダ、オヴィスとラディア
しおりを挟む一方その頃、パッセルはアラウダと離宮にいた。
「パッセル殿、お疲れ様でした」
「いえいえ、アラウダ殿こそ一番難しいところを良くぞやってくださいました」
学園はこの騒ぎで一時休校となっている。
安全の為、オヴィスは次の王妃として学園再開までの間王宮に入る事になった。
ラディアもこの王宮のどこかにいるだろう。
自分の部屋で大人しくしていれば良いが……。
「あの、扉を開く瞬間でしょう?」
「ええ、全ての瞬間において、扉の開閉は最重要舞台装置でしたからね」
「正直今でも手が震えますよ。
あれほど大きな事件を、間近で見る事になるとは……それで、どうして離宮に?」
「近衛騎士団の方から、狭い通路での戦闘訓練の計画を立てて欲しいと言われましてね」
「ああ……なるほど」
あの襲撃で最初に指揮をとっていた騎士は、自信を喪失して辞表を出した。
その責任を取って、後進の育成を手伝えという事らしいが……
「とはいえ、もう二度と王宮内で戦闘が起きない事を祈りますよ」
「ええ、本当に……今度はここへ姫君がお住まいになるのですしね」
北の大国は彼女を王宮の外へ出すなと言っているが、王宮の壁の中であれば離宮も王宮。
植木鉢の坪庭と大小の水瓶で出来たビオトープも既にこちらへ移設済みである。
「そういえば姫君の新しい教育係に、ウルサ殿が選ばれたとか?」
「ええ、姫君には魔法の才があるとシルウェストリス公が仰るので……
あちらへ輿入れなさった後に、お独りで戦わねばならぬ事も想定して、と」
「確かに、ご懐妊が気に入らぬ者が出るやもしれませんしね」
ボルタは彼女が魔法を習いたいと言い出す前に、先回りしてお願いを叶える事にしたらしい。
この忙しい時に急にそんな事言われたら、兄たちも怒るだろうし……。
「まあ、ウルサに任せておけば大丈夫ですよ。
彼女も高等部の2年生で魔法を始めたのですから……」
アラウダはそう言うと、窓から庭を眺めた。
そこには坪庭とは比べ物にならない広さの庭園があり、遠くには咲きほこる秋バラが見えた。
「王妃様たちは無事、西の辺境へ到着されたでしょうか」
「……きっと、大丈夫ですよ。
途中までカヌス伯爵家の領軍が迎えに出るとの事でしたから」
パッセルもまた、西の空を見た。
美しい秋空に、今年の麦の出来を思い描き……
「来年はもっと作付を増やして……鶏も飼おう」
と、つぶやいた。
***
さらに一方その頃、ラディアはオヴィスに呼び出されて庭園の四阿にいた。
時間が空いたからお茶でも飲まないか、と誘われたのだ。
「ラディア君、魔法の勉強は捗ってる?」
「パッセルさんの言う事と授業で習う事がまだ上手く繋がらなくて……
どうしても自己流になってしまうんです」
こんな事を魔法が使えないオヴィスに愚痴っても仕方が無いのだが、他に吐く先もない。
小さく項垂れたラディアに、オヴィスは何も分からないふりをして聞いた。
「自己流だと駄目なの?」
「その……どっちでも出来るようにしなさいって、パッセルさんが。
騎士の皆さんは学園で教わった通りの魔法を使うんだから、一緒に行動するなら必要だって」
ラディアはまた小さな声で言った。
自分より何も出来ないはずのオヴィスの方が、よっぽど強そうに見える……
誰かに愛されているという自信がそうさせるのかもしれない。
そんなオヴィスは小さく呟いた。
「そっか、パッセルさんの中では、ラディア君はもう騎士と一緒に行動するって決まってるんだね」
その小さな呟きに、小さな声でラディアは疑問を呈した。
「……そう、なんですかね」
するとオヴィスもまた、小さい声で答えた。
「そうじゃない?
だって、ギル殿下についてくって事は騎士と仕事するって事だもん」
「……本当に、そうでしょうか」
ラディアは何故か異様に後ろ向きだ。
シルウェストリス公と共に愚王を追放したパッセルと、ただギル王子に付いて回るだけだった自分を比べているのかもしれない。
「そんな事あるよ!
パッセルさんはさ、ギル殿下にも幸せになってもらいたくて、ラディア君を鍛えてるんだよ」
「……そう、でしょうか」
「パッセルさんは、ラディア君と一緒になればギル殿下も幸せだろう、って思ってるって事だよ」
「………けど」
何とか、治癒魔法を使えるようにはなった。
それでもパッセルの技と比べたら、子どもの遊びみたいなものだ。
ただ傷を塞いで喜んでいるようじゃ……。
オヴィスは小さく小さくなった。
だからだろうか。
オヴィスは逆に、大きな声で言った。
「んもう!わからないかなぁ!
ラディア君はベータだから遠慮してるのかもしれないけどさ!
アルファの第二王子って、昔は子どもが作れない相手と結婚するのが普通だったんだよ!」
「えっ」
話の方向が急に切り替わった事。
オヴィスが自分をベータだと思っている事。
その2つにラディアは驚き、顔を上げた。
オヴィスはその目をしっかりと見て、言った。
「だから、ベータ男子の君が結婚してもいいんだよ。
ギル殿下の横にいて、ギル殿下に人生賭けて尽くせる子なら、それでいいの!
実際まだ婚約者は決まって無いし!
たかが地方代官の子の僕が、王妃になるんだよ?
地方官吏の子が副王妃になって何がいけないの?」
「そ、れは……」
彼に必要なのは、堂々とした姿勢だ。
勿論オヴィスは、彼のちょっとだけ複雑なバース性事情は把握している。
その上で、彼はベータとして振舞う事に必死なのも。
だから、彼が本当の事を言えるまで、騙されておいてあげようと決めた。
名付けて「ベータとして振舞えている事から自信を付けさせよう作戦」だ!長い!!
言葉に詰まるラディアに、オヴィスは畳みかけた。
「もう身分もバース性も関係ないの。
だって最強の魔導師は平民だし、最高の薬師はオメガだし、頼りにされてる災害救助隊員は皆ベータだ。
そしてな~んの特技もない僕が、王妃様!
別にパッセルさんみたいに強くなくてもいいじゃん。
強い魔物はみんなで倒せばいいんだし!」
「!!」
『一人で出来なくても、皆で力を合わせれば出来る』
それはパッセルがずっと示してきた事。
だけど、ラディアには上手く伝わらない事。
だったらパッセルでない人間が、彼に言えば良い。
「一人で悩んじゃ駄目だよ、ラディア君。
僕には魔法も剣も分からないけど、恋愛の事と外国語の成績ならパッセルさんより上なんだから!」
「オヴィス、様……」
「だから、悩んだら僕のところへ相談においで。
その……魔法とかの事は、パッセルさんに聞かなきゃ駄目、だけどさ?」
「お、オヴィスさまぁ……!!」
ラディアはついに、泣いた。
この恋が辛いと人前で泣くのは、初めての事だった。
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