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最後の学園生活
きょうだい仲良く
しおりを挟む離宮に戻っても興奮冷めやらぬ姫は、手放しでパッセルを褒め称えた。
「パッセル、あんなに強かったのね!」
「ええ、ですがここだけの話、魔法は使わない方が有利なのです……私の場合、ですが」
「ま、どうして?」
「魔法を出した後、どうしても隙が出来ますから……。
ギル殿下には内緒ですよ?」
「わかったわ!」
多分明日には伝わっているだろうなと思いつつ、パッセルは苦笑する。
だが、それでいい。
自分がここを去るまでに、ギル王子に勝って貰わなければならない。
副王という立場が完成に近づけるために……
だが、姫君は少々せっかちな性格らしい。
「ね、パッセル!次はボルタおじさまと戦うのでしょ?何で戦うの?剣?魔法?どっちなら勝てそう?」
「姫、私とシルウェストリス公は決闘しませんよ?」
「えー、どうして?」
「理由が無いからです」
そもそもやる理由が無い。
もしシルウェストリス公が決闘するなら、相手はクレイドぐらいだろう。
可愛い息子を奪った男なのだから。
「理由があれば、決闘なさるの?」
「理由があっても、決闘以外の方法で落としどころを見つけるのが私や公の仕事です」
「……そうですのね」
姫はもう一度あの熱狂を見たかった。
ギル兄様はかっこよかったし、パッセルもかっこよかったし、終わった後に駆け寄る人の姿にもぐっとくる。
……いや、一度じゃない。
もっとあの光景が、見たい。
「……んふふん」
姫は頭の中で何がしかの考えを高速でまとめると、この場は引き下がる事にした。
「残念ですわ」
***
一方その頃、エバ王子の部屋では決闘した者同士が仲良く茶を飲んでいた。
「ギル、パッセルに負けたんだって?」
「ええ、最小限の移動で攻撃を躱されて、それなら手数を増やしてやれと思ったんですが……見事に仇を取られました。
良かったですね?リュノ殿」
「うん、良かった」
リュノは素直にギルの言葉に頷いたが、心ここにあらずだ。
「……結婚したら、十中八九尻に敷かれるな」
「夫夫喧嘩にならんでしょうね」
「……大丈夫、喧嘩しなければいいだけだから、うん」
パッセルと一緒に戦ってきたリュノだが、パッセルの本気を目の当たりにしたのは今回が初めてだ。
あんな強者にちょっかい出してたんだと思うと、自分の無知さが本当に恐ろしい。
「おいおい、早速結婚生活に暗雲か?」
「暗雲とかないです」
さっきから謎の敬語と謎のタメ口が混ざり合っている。
兄弟は顔を見合わせ、リュノの心配を始める。
「ほんと大丈夫かリュノ殿」
「……パッセル、かっこよかった……」
「今度は乙女になりましたね」
「情緒が不安定だな」
……どうも駄目っぽい。
これで本当に、素敵なプロポーズが出来るのだろうか?
「……まあ、パッセルが何とかするだろ」
「そうですね」
この事態を招いた張本人に何とかしてもらう以外にどうしようもない。
現状、なす術なし。
「……ところでギル、次は勝てそうか?」
「勝ちに行くしかありません。
なぜか近衛も王都も、自分に希望を寄せてくれているようですし……」
「なら、勝たないわけにはいかんな」
「……ええ」
パッセル最終教官。
今回の政変で、近衛の殆どに鬼教官ぶりが刷り込まれてしまった。
今までは王都騎士団の若者だけだったのに、だ。
そのおかげで、現在の近衛と王都騎士団の関係は過去に無い程良好になっている。
共通の敵があるからだ。
その敵の名は……最終教官・パッセル。
「頼むぞギル……
お前が駄目なら、俺は秒殺だ」
「兄上は今も剣術が不得手なのですか?」
「不得手どころか、さっぱりだよ。
だが、最終手段に『力づく』という選択肢が無い事が強みだと、シルウェストリス殿が教えてくれた」
つまり、平和ならエバ王子、乱世ならギル王子が王を継ぐ。
どちらが王になるのかは情勢が決める、というのはそういう話。
「だからユバトゥス王国とも、北の大国とも、友好的な関係を築きたい。
魔物だけでも大変なのに、人間とも争ってたんじゃ国が無くなるだろ」
100年前、魔物によって国民の半分を失ったと言われるこの国の人口は、当然ながら回復していない。
「平和が一番。
国民が飢えない事が最重要、だが友好関係にある方が良いと思わせるだけの何かも必要だ」
それは文化なのか、新しい技術なのか。
はたまた新しい資源「推定:魔石」の存在なのか……。
「俺が出来なくても、次の王に託せる仕組みが必要だ。
少なくとも、あと3代は愚王に出てきてもらっちゃ困る」
「ええ」
二人はポヤポヤなリュノの横でそこそこシリアスな話をしつつ、紅茶を傾け……
「だからギルも、子育て頑張れよ?」
「ぶふっ!?」
ギルはいきなりの言葉に、紅茶を吹いた。
「あ、兄上、急に何を!?」
「急にも何も、乱世になったらそっちの出番だろ。
……で、ラディアとはどこまで進んでるんだ?」
突然ニヤニヤする兄。
動揺する弟。
「どうなんだ、キスぐらいはもう……」
「きっ、何もしておりません!!」
「いや何かしてないと逆に駄目だろ」
そして、エバ王子が兄として弟に説教を垂れる。
「いいかギル、ラディアが卒業するまでに既成事実を作るぐらいの事はだな……」
「な、なにをいうんですかあにうえ!?」
「だってそっちの相性もあるからねって、母上が」
「ははうえぇええ!!」
……アルバトルスの兄弟は仲良しだ。
兄が王と決まってからも、変わる事無く。
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