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最後の学園生活
決闘の続き
しおりを挟むつまり王宮の外まで響く大歓声は、離宮まで余裕で届くという事だ。
「かっこ良かったですわ、ギルお兄様!」
「アリス、見てたのか!?」
何事かしら、と覚えたての認識阻害魔法で駆けつけた姫君は、決闘の後半をきっちりと見届けていた。
「……見事に負けましたね」
「かっこ悪くて、すまん」
もちろん姫君一人を行かせられないので、パッセルとウルサも付いてきた。
つまり、決闘の後半、リュノが劣勢になっていく様をパッセルもばっちり見た。
右わき腹を見事に打たれて、蹲るところまで。
パッセルはリュノの傷を癒しながら言った。
「かっこ悪くはありません。
一人で出来ないなら仲間を集めれば良い、というだけの事です」
「……どういう意味だ」
「そのままの意味ですよ」
一方のギルは、歓喜に沸く近衛騎士たちに手を振っていた。
そこには小さく……ラディアの姿も、あった。
「可愛らしい恋愛だと、思いませんか」
「は?」
「ギル殿下とラディアの事です。
ああいう恋は、私には出来ないなと」
「……ああいうのが良いのか」
「いいえ、全然。
あれを自分に置き換えると寒気がします」
そう言うと、パッセルは真っ直ぐその場へ立ち上がった。
「……パッセル?」
そして、訓練場を出ようとするギル王子にはっきりと聞こえる様に呼びかけた。
「ギル殿下!私とも是非、決闘を!」
「!!?」
ギル王子はゆっくりと振り向いた。
訓練場がざわついた。
いや、空気が……変わった。
「魔法は、ありか?」
「この人出です、無しに致しましょう」
「「……!!」」
本気か、やる気だ、何が起きる、どっちが勝つ、ギル殿下は消耗しているが、向こうは魔法無しだ……
ざわめきは遠くなり、集まった全員の声が小さく聞こえるほどの緊張感が、この場を支配した。
「ああ、ですが、回復魔法だけ失礼します」
パッセルがぱちん、と指を鳴らした。
するとギル王子の体が軽く光り……
「これで、疲労は五分五分です」
「……だな」
「では、一戦お願い致します」
パッセルは上着を脱ぎ、リュノに投げて寄越した。
「誰かパッセルに細剣を持て!」
「ああ、結構です。
ここに細剣の模造刀はありませんから……
どなたか、乗馬鞭をお持ち頂けませんか」
弾かれた様に一人の騎士が馬屋へと走った。
そして、急いで一本の鞭を持って戻り……
「そこから投げてください!
私がそれを握った瞬間から、始めましょう」
鞭を持ってきた騎士は、動きが止まった。
投げるのを失敗したらどうする……
「何をしている!戦で躊躇すれば死ぬぞ!」
「は、はい!!」
それでも騎士は、何度も深呼吸をし……
ついに、それを、投げ……
「とあぁ!」
騎士の叫び声か、ギル王子の発声か。
本日2度目の決闘が、始まった……!
***
ギル王子の初撃をパッセルが華麗な足さばきで躱し、次の一打を鞭で受け流す。
さらに鋭い縦の動きを横からの力で崩し、その勢いで回転し、バックハンドの一撃。
ギル王子はその一撃を咄嗟にしゃがんで除け、反動で逆袈裟の一撃、を、体捌きで紙一重躱して見せるパッセル。
受け止めない。
躱す。そしていなす。
恐ろしいほどの動体視力。
「っあ!」
「ふっ」
それから後ろへとん、とん、と2つ下がり、相手が飛び込んでくれば横へ1つ躱し……
動きに翻弄される、ギル。それでもパッセルを追い詰めようと、手数を増やして前へ、横へ。
一方のパッセルは、一瞬の隙を待ちながら避け続ける……
「当たらねえ……!」
「ギル殿下でも駄目なのか?」
「殿下ぁ!どうか勝ってください!」
「俺たちの分、仇取ってください!!」
パッセルに対し、何らかのトラウマがある騎士たちが団の垣根を越えてギル王子を応援する。
「ギル殿下!」「ギル様!」「殿下っ!」
「殿下!」「でんか!」「殿下!!」
その時……
「遊んでんなよパッセル!!」
どこかから、一声かかる。
その声に一瞬気を取られるパッセル。
その隙を逃さず飛び掛かるギル……!!
「っと、余計な事抜かすぜ」
「!?」
それが、速さゆえに真っ直ぐで単純な動きを呼ぶ罠だと気づいた時……
「あ!!」
ギル王子の背中が、地面に付いた。
「かはっ……!」
思わず剣を持つ手が緩んだところをパッセルの鞭が狙い、剣だけを見事に跳ね飛ばし……
「うおっ!あっぶねぇ、何すんだお前!」
先程の声の主、シルウェストリス公は済んでのところでそれを避けた。
パッセルは言った。
「今から良いとこだって言うのに、邪魔して頂いたお礼ですよ」
「何だとこの野郎、今度は俺と決闘するか?」
シルウェストリス公は落ちた剣を拾い、近くにいた騎士にそれを押し付けると、丸腰でパッセルの方へ……
「こちらは一向に構いませんが、あちらの人の許可がいるのでは?」
パッセルが示す方を見ると、真っ赤になって叫ぶ人影。
「ゴラァア!まだ話が途中だろ国王代理ィ!」
最近冷静を保つのが面倒になったアルベンシス候だ。
シルウェストリス公はてへぺろしながら言った。
「やっべえ、宰相殿激おこじゃん☆」
「キモイ真似はお止め頂けますかオッサン」
「あっひどーい!オッサン差別はんたーい!!
仕方ねえ、ギル殿下の仇討ちはまた後日な!」
んじゃ!と軽く手を挙げて挨拶し、その場を去っていくシルウェストリス公。
こっちは敬語も面倒になってきたらしい……
「……ゲキオコ?」
「……怒髪天を衝く、という事でしょうか」
「それよりも……シルウェストリス公とパッセル殿が、戦う?なにで?」
「どう考えても魔法だろ」
「いや意外と体術……」
「算術だったらどうするよ」
「それはシルウェストリス公の勝ちだろ」
こうして、微妙に締まらない最後でギル王子とパッセルの戦いは終わった。
騎士たちにはちょっとした絶望が残り……
「シルウェストリス公 対 パッセル」
の決闘カードを望む声が、静かに流れ始めた。
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