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最後の学園生活
試験週間、終了
しおりを挟む今日、ついに試験が終わった。
終わってしまった。
「……パッセル、その」
「……出来た気がしない」
「全部、埋めたんでしょ?」
「埋めた、埋めたけど……自信が無い」
まだ結果も出ていないのに、パッセルは敬語を忘れるぐらいダメージを受けていた。
確かに、試験の内容はほぼ1~2年の復習だ。
しかしパッセルはオメガクラスにいる。
アルファが使う教科書は、1年の時のものだけしか持っていないのだ。
2年生の教科書は、オヴィスやフェリスに見せてもらった……彼らは教師に堂々と交渉して、その教科書を手に入れたのだ。
かたや自分は……。
「教科書すら、自力で用意できてない……」
「それは……ほら、お金がいるから」
「しかも結構な額ですよ?
僕もエバ様が買ってくださらなかったら……」
「そんな事は言い訳にならない」
パッセルは自分に厳しい。
他人に厳しい分、当然の事だ。
勉強会では優しいけれど、人に教えながらも魔法の精度・体術の練度・細剣の技術を磨きぬいて来た。
朝、誰よりも早起きして鍛錬に励んできた。
それが、勉強ではさっぱり発揮されない……
フェリスはふと、パッセルに耳打ちした。
「バグかな?」
「……小説内での私は?」
「……努力が実って、僕を追い抜く」
「マジか……」
それがどうしてこうなった。
「まあ、結果が出るまで分かんないよ、ね?」
「……見なくても分かる、平均以下だ」
バグだとすればデバッガーを訴追したい気持ちで、パッセルは机に突っ伏した。
「落ち込まないで、パッセル」
「……死にたい」
「駄目ですよそんな事言っちゃ!」
そんな最悪の精神状態のところへ、もうすぐやってきてしまうのだ。
試験が終わったらデートしよう、と約束を取り付けた男が。
「……先に部屋へ戻ります」
「う、うん……変な気起こさないでよ、パッセル」
「……はい」
もう、自分の部屋で丸くなって眠るしかない。
パッセルは陰鬱な気持ちで、とぼとぼと寮の部屋へ戻った。
***
パッセルは部屋に戻ると制服を脱ぎ捨てて、寝間着に着替える気力も無くベッドへと潜り込んだ。
「……なんでだろう、こんな……」
前世でも、勉強は苦手だった。
小学校で成績が悪い事を理由に虐められ、教師に訴えても「本当の事だろう」と逆に説教を受け、家で泣いていたら父親に柔道の道場へ放り込まれた。
そこで、成績以外にも人間をはかる物差しがある事を学び、強さを追い求めるようになった。
だが徴兵されて、また成績の事で悩まされるのだ。
大卒でなければ、士官にはなれない。
ただその一点で、どんなに戦績を上げようが何をしようが、戦場に立ち続ける事になった。
中国に占領された後も、それは変わらず……
「……頭が良ければ、大学に行けて、4年間徴兵されずに済んだのに」
いわゆるFラン大学にすら受からなかった奥津四郎は、18歳で徴兵された。
ただ、徴兵されたから生き残ったとも言える。
実家にいたら、家族と一緒に蜂の巣になっていただろう。
「……学校は、成績が全てなのに」
出来ない。
勉強が出来ない。
入学試験は口頭だったから、良かった。
識字の覚束ない平民に、配慮があったのだ。
自分をアルファとして迎え入れる為に。
「……2年で、倍の量になるし」
3年で殆ど授業をしない分、2年で相当に詰め込むのがこの学園のカリキュラムだ。
1年の時から詰めておけば良いのに、と思うが仕方無い……
それで全員、やってきているのだから。
「クレイド兄上は、やはり凄かったんだ」
そう、クレイドに教わっている時には、成績がそれほど悪くなかった。
一時は10位以内に入っていた事もある。
それなのに、最近急に……
「……何で」
……突然、問題が全て記述式になった。
前は選択肢を選ぶものが多かったのに。
試験問題が変化しているのだ。
それは、学園側の措置かもしれないし、世界の強制力というやつかもしれない。
「……そんなの、関係無い。
みんな同じ条件なんだ、それなのに……」
フェリスも、オヴィスも、ちゃんと成績上位者に名を連ねている。
それがパッセルには悔しくて仕方ない。
……実は、フェリスとオヴィス以外のオメガ学生は大体撃沈しているのだが……
パッセルはそれに気づいていない。
気付かないのだ。
殊成績だけは、上しか見ていないから。
「……情けない、なぁ」
丸く、小さくなって、ぽろりと涙を溢す。
それはパッセルにとって、あまりに久々の事で……
「……っ、……」
だから止め方を、すっかり忘れてしまった。
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