話が違う2人

紫蘇

文字の大きさ
249 / 292
最後の学園生活

【リュノ】小さなパッセル

しおりを挟む
 
ベッドの上でただ丸くなって眠るパッセルの頭を撫でる。

「ゆっくり、お休み」

あれだけの事を成し遂げておきながら、まとまった休みが無いのだ。
結局デートできたのは最初の休日だけ……

「どうしてこんなに忙しいんだい、パッセル?」

唯一余裕があったのは、その日だけ。

デートから帰ってきたら、予定がびっしりと埋まっていたのには驚きを通り越して呆れるしかなかった。

毎日多方面から届く災害救助隊からの報告書に、騎士団からの呼び出し。国道建設とそれにまつわる町村開発の話に、「救国の士」の選定、治癒師団体の立ち上げ、番解消魔法の指導……。
どれもこれも国民の生活、人の命が掛かっている話ばかり。

そっちを考える事の方が、小難しい語句の綴りを覚えるより大事なのは誰にでも分かる。

「勉強してる余裕なんか無いのは、皆知ってる」

図書館では、勉強よりも送られてくる相談事について調べる時間の方が圧倒的に長い。
こんな、小さな体で……

「……回復ポーション、飲み過ぎだ」

机の上に、丁寧に並べられた小瓶。
フェリス殿に返すつもりだったのだろうか?
律儀な性格が垣間見える。

「……俺が帰ってきたからには、苦労させない。
 そう思ったのにな……」

結局、俺はパッセルの役に立てないままだ。
何とか仕事を振り分けて貰おうにも、まだ他国の王子という立場で出来る事は限られる。

「……仕方が無い」

いち早く、国籍をこっちに移す。
名実ともにアルバトルス人であれば、手伝えることはいくらでもある。

「本当は結婚するのと同時に、と思っていたが……これではな」

少しでも時間を作ってやれれば、出来るはずなんだ。
眠たい目を擦りながら記憶する……なんて、非効率な事をしなくてもいいんだから。

「……ゆっくりお休み、パッセル」


***


パッセルの部屋の外では、友人たちが俺を待ち構えていた。

「……パッセルは?」
「寝てる」
「……なんだか、らしくないですね」
「今なら簡単に倒せそうだな」
「何で今更、成績にこだわるんですかね?」

確かに、アラウダ殿の言う通りだ。
彼に負けた時は、別に何も無かった。
負け続けている今だって対等に接している。
引け目を感じている様子は無い。

「……何でアラウダには負けても良いんだ?」

すると、フェリス殿が気付いたように言った。

「弟子にかっこ悪いとこ、見せたくないんじゃない?」
「あ……なるほど!」

確かに、ラディアを弟子にしてからかもしれない。
赤点を取った時にだって、あんなに弱った姿を見せたりしなかったのに。
フェリス殿は続けた。

「時々パッセルの言ってる事にちょっと反抗するでしょ、あの子」
「えっ、ただ理解できないだけなのに?」
「真実はそうでも、パッセルにしたら成績が悪いから舐められてるのかなって思うんじゃない?」
「……彼も、成績上位者ですからね」
「中等部からずっと、学年で5位以内に入り続けているからな」

結局、ラディアとギルの恋を応援する作戦で最も割を食っているのはパッセルなのかもしれない。
頼るところがそこしか無いのは分かる、が……

「いっそラディアの師匠を、そろそろ誰かに変えても良いんじゃないか」

もう、パッセルという後ろ盾が出来たのは皆に浸透しているだろう。
卒業したら西の辺境へ行くんだし、ラディアの事も誰かに引き継いでいった方がいい。
すると、同じ心配をしていたらしいフェリス殿が提案してくれた。

「ええ、それは僕も考えていました。
 治癒魔法がまだ不安なようなので、治癒師のところへ弟子入りして貰うのも良いんじゃないかと」
「治癒師、か……受けてくれそうな方が?」
「父の友人で、元宮廷治癒師の方がひとり」

シルウェストリス公のご友人であれば、更に強力な後ろ盾にもなるだろう。
ギルも頷いているし、断る理由は無い。

「頼む」
「分かりました」

フェリス殿も快く引き受けてくれて、後はラディア本人の了承を取るだけだ。
こっちはオヴィス殿に任せれば大丈夫だろう。

「オヴィス殿」
「はい、ラディア君の事はお任せください!
 リュノ殿下、パッセルさんの事、頼みますね」
「……ああ」

このままじゃ、プロポーズもできやしない。

指輪ももう出来てる。
計画も抜かりなく立てた。
パッセルの休みも確保した。

「……それじゃ、俺は戻る」

ただ添い寝する事しかできないけど……

それはきっと、俺にしか出来ない事だから。

しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

処理中です...