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最後の学園生活
【リュノ】小さなパッセル
しおりを挟むベッドの上でただ丸くなって眠るパッセルの頭を撫でる。
「ゆっくり、お休み」
あれだけの事を成し遂げておきながら、まとまった休みが無いのだ。
結局デートできたのは最初の休日だけ……
「どうしてこんなに忙しいんだい、パッセル?」
唯一余裕があったのは、その日だけ。
デートから帰ってきたら、予定がびっしりと埋まっていたのには驚きを通り越して呆れるしかなかった。
毎日多方面から届く災害救助隊からの報告書に、騎士団からの呼び出し。国道建設とそれにまつわる町村開発の話に、「救国の士」の選定、治癒師団体の立ち上げ、番解消魔法の指導……。
どれもこれも国民の生活、人の命が掛かっている話ばかり。
そっちを考える事の方が、小難しい語句の綴りを覚えるより大事なのは誰にでも分かる。
「勉強してる余裕なんか無いのは、皆知ってる」
図書館では、勉強よりも送られてくる相談事について調べる時間の方が圧倒的に長い。
こんな、小さな体で……
「……回復ポーション、飲み過ぎだ」
机の上に、丁寧に並べられた小瓶。
フェリス殿に返すつもりだったのだろうか?
律儀な性格が垣間見える。
「……俺が帰ってきたからには、苦労させない。
そう思ったのにな……」
結局、俺はパッセルの役に立てないままだ。
何とか仕事を振り分けて貰おうにも、まだ他国の王子という立場で出来る事は限られる。
「……仕方が無い」
いち早く、国籍をこっちに移す。
名実ともにアルバトルス人であれば、手伝えることはいくらでもある。
「本当は結婚するのと同時に、と思っていたが……これではな」
少しでも時間を作ってやれれば、出来るはずなんだ。
眠たい目を擦りながら記憶する……なんて、非効率な事をしなくてもいいんだから。
「……ゆっくりお休み、パッセル」
***
パッセルの部屋の外では、友人たちが俺を待ち構えていた。
「……パッセルは?」
「寝てる」
「……なんだか、らしくないですね」
「今なら簡単に倒せそうだな」
「何で今更、成績にこだわるんですかね?」
確かに、アラウダ殿の言う通りだ。
彼に負けた時は、別に何も無かった。
負け続けている今だって対等に接している。
引け目を感じている様子は無い。
「……何でアラウダには負けても良いんだ?」
すると、フェリス殿が気付いたように言った。
「弟子にかっこ悪いとこ、見せたくないんじゃない?」
「あ……なるほど!」
確かに、ラディアを弟子にしてからかもしれない。
赤点を取った時にだって、あんなに弱った姿を見せたりしなかったのに。
フェリス殿は続けた。
「時々パッセルの言ってる事にちょっと反抗するでしょ、あの子」
「えっ、ただ理解できないだけなのに?」
「真実はそうでも、パッセルにしたら成績が悪いから舐められてるのかなって思うんじゃない?」
「……彼も、成績上位者ですからね」
「中等部からずっと、学年で5位以内に入り続けているからな」
結局、ラディアとギルの恋を応援する作戦で最も割を食っているのはパッセルなのかもしれない。
頼るところがそこしか無いのは分かる、が……
「いっそラディアの師匠を、そろそろ誰かに変えても良いんじゃないか」
もう、パッセルという後ろ盾が出来たのは皆に浸透しているだろう。
卒業したら西の辺境へ行くんだし、ラディアの事も誰かに引き継いでいった方がいい。
すると、同じ心配をしていたらしいフェリス殿が提案してくれた。
「ええ、それは僕も考えていました。
治癒魔法がまだ不安なようなので、治癒師のところへ弟子入りして貰うのも良いんじゃないかと」
「治癒師、か……受けてくれそうな方が?」
「父の友人で、元宮廷治癒師の方がひとり」
シルウェストリス公のご友人であれば、更に強力な後ろ盾にもなるだろう。
ギルも頷いているし、断る理由は無い。
「頼む」
「分かりました」
フェリス殿も快く引き受けてくれて、後はラディア本人の了承を取るだけだ。
こっちはオヴィス殿に任せれば大丈夫だろう。
「オヴィス殿」
「はい、ラディア君の事はお任せください!
リュノ殿下、パッセルさんの事、頼みますね」
「……ああ」
このままじゃ、プロポーズもできやしない。
指輪ももう出来てる。
計画も抜かりなく立てた。
パッセルの休みも確保した。
「……それじゃ、俺は戻る」
ただ添い寝する事しかできないけど……
それはきっと、俺にしか出来ない事だから。
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