話が違う2人

紫蘇

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最後の学園生活

思い出と約束

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卒業前の思い出づくりーーー。

試験が終わった翌日、朝一番の乗合馬車で3人は露店が立ち並ぶ通りへやってきた。

「この3人で遊びに出るなんて、初めてじゃない?」
「ああ、新鮮だな」
「早速何か食べましょ!お腹空いた~!」

朝の時間帯、露店街にはサンドイッチやホットドッグ等がそこら中で売られている。

「久々にホットドッグ食べたいな~」
「僕はチーズたっぷりのホットサンド!」
「じゃあ俺はあそこの揚げパンを」

今日は身分がばれないように、お互いタメ口で過ごす事にした。
うっかり敬語が出たら銅貨1枚払うルールだ。

「じゃあ、ホットサンドから買いに行こ!」
「ええ、行きましょ……あ」
「あはは、早速銅貨1枚です……あ」
「ふふっ、お互い1枚ずつね!」

元々2人にタメ口だったフェリスは余裕の表情だ。

ちょっとずるい。

3人ははぐれないようにくっついて、まずは一番近いホットサンドの露店を目指す。

「はい、まいど!」
「ありがとうおじさん!」

オヴィスはニコニコしながらお金を払い、早速ホットサンドにかぶりつく。

「おいし~い!」
「えー、おいしそう……ね、パッセル!半分こしない?」
「いいですね、そうしましょ……あ」
「はい銅貨2枚~!」
「あ~!やられた!」

と、そうは言いながらパッセルは楽しそうな表情を崩さない。
使う暇の無かった給金が貯まっているので、余裕なのだ。

「はいよ、まいど!半分に切っといたぞ!」
「ありがとう、おじさん!はいパッセル」
「うん、ありがとう」

3人はチーズたっぷりホットサンドを食べながら次の露店を目指す。

「ね、ね!お昼少なめにしてさ、みんなで噂の巨大パフェに挑戦しない?」
「ごぞ、んんっ、フェリスも知ってたんだ、あの喫茶店」
「あっ、今『ご存知でしたか』って言おうと……」
「はいフェリスも銅貨1枚~!」
「えー!これもなの!?」

罰金の銅貨を入れる袋がまたチャリンと音をたてる。
3人の明るい笑い声が聞こえる。

「おじさーん、ホットドッグ1つ!」


***


そして、昼。

「お待たせしました、当店の名物・巨大パフェで~す!」
「うわぁ……すごい!」
「これ食べきれるかな……」

お目当ての喫茶店はかなり人気があって行列ができる、と小耳にはさんだ3人は、いっそお昼を食べずにパフェに挑戦しようと店に入った。

「ね、パッセル。これ2人で食べきれたの?」
「ああ、厳しい戦いだったが何とか」
「戦いかぁ……」

出てきたのは、大きなどんぶりに生クリームと焼き菓子とプリンとフルーツがこれでもかとうずたかく盛られた一品だ。
アイスクリームは無い。
この世界では、まだ庶民の口に入るものではないのだ。

「とにかく、食べよう」
「うん!いただきまーす!」

3人は仲良くてっぺんの生クリームを掬った。


***


「……うう、苦しい」
「最初は良かったんだけどな……」
「な、最後に果物を取っておいて良かっただろ」
「うん……酸味が有難かった」

3人は巨大パフェに打ち勝って、店の外へ出た。
外の風は少しだけ温かく、あとひと月で春が来る事を匂わせていた。

「でも……楽しかったね!」
「うん!」
「じゃあ、腹ごなしにちょっと歩くか」

喫茶店を出て、露店街とは反対のほうへと歩く。
そこには大きな公園があって、親子連れがちらほらと遊んでいる。

「さすがに桜はまだだね」
「ああ、桜が咲く頃には、小麦を播かないと」
「……本当に、行っちゃうんですね」
「あっ!銅貨1枚」
「えっ!あ、しまった!」

オヴィスが銅貨を袋に入れる。
チャリンと音がして、また少しだけ重くなる。

「大丈夫だ、国道ができたら行き来はそんなに難しくない」
「……パッセル、」
「時々は視察に来てくれ。
 エバ殿下も、母上に会いたいと思うから」
「……うんっ!」

パッセルの言葉に、オヴィスは大きく頷いた。
パッセルはそれを見て満足そうに頷き、続けた。

「あと、東の辺境は年に1回必ず視察へ行ってくれ」
「えっ、うん?」
「ステルラタ辺境伯が拗ねるから」
「……うん」

ちょっとした引継ぎだ。
北のダンジョンは西の辺境から近いが、東のダンジョンは遠い。
しかもお隣はかなりの武力を持つ国だ。
毎日不安との戦いだろう。

「まあ、不安の無い領は無いんだがな。
 アルバトルスじゃ、毎年どこかで災害が起きる」
「……災害が起きたら、パッセルは?」
「もちろん、駆けつけるさ。
 だが、距離はどうしようもない。
 勉強会には馬より速い乗り物を作ろうって研究会もあるし、国立研究所も頑張ってはいるみたいだけどな」

空を飛ぶ魔法は無い。
場所を転移する魔法も無い。

「ま、そのうち出来ると思うしかないよ。
 ちゃんと研究してるんだからさ」
「ああ、そうだな」

日差しは少し暖かく、風は少しだけ冷たい。

「オヴィス、僕とパッセルとクレイドはね。
 3年前、3人で辺境に旗を立てるって約束したんだ。
 だから、オヴィスも僕らと約束しよう。
 オヴィスが困ったときは、僕らが辺境から駆けつける。
 逆に僕らが困ったときは、オヴィスが助けに来て。

 ……僕らの約束はね、必ず守られる。
 アラウダのジンクスと同じぐらい、効き目があるおまじないだよ」


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