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二つの世界が出会う時
王子からの接触
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午前中最後の授業が終わり、パッセルはある男子生徒から話しかけられた。
「あのさ、君、この前まで平民だったんだって?」
「は、そうであります」
「へえ、平民にもアルファがいたなんてね!
良く出来たベータじゃないの?
あいつら、ちょっと優秀だとすぐ自分はアルファだと言い始めるからね」
「ご子息様がその様にお思いになられるのも仕方がありません。私も、モンタルヌス伯爵様も、ベータクラスでお願い致しますと散々申し上げたのですが…」
パッセルが敢えて言い訳をしてみせると、案の定その生徒は怒りを爆発させた。
「生意気に口答えすんじゃねえ!
このクソが…お前は今日から、ベータ…いや、最下層のオメガクラスだ!」
男子生徒はそう言うと、パッセルの首に巻かれたネクタイをむしりとり、机を蹴り倒して中身をぐちゃぐちゃに踏みつけた。
「平民のベータのくせに、アルファを騙る屑はオメガで充分だ!!」
その男子生徒がそう大声を出すと、それに賛同したらしい学生が口々にパッセルを罵り始めた。
「弁えろ平民!ベータはアルファのいう事を聞いていれば良いんだよ!」
「そのベータというのも怪しいものですわ。
実際本当にオメガじゃありませんこと?
きっと才覚あるアルファの方を色仕掛けで欺いて、手柄を横取りしたのですわ…御可哀想に!!」
「そうだ、そうに決まってる!!」
「テストの成績も、教師の皆様を誑かして手に入れた偽物ですわ!!」
「最近オメガ臭いですしね」
「そうだ、オメガの匂いを持ち込むやつはオメガで充分だ!」
一方罵られているパッセルは「漸くこいつらのケツに火が点いたな」と思った。
理由は分かっている。
この前の総合テストで、フェリスがフォエバストリア王子を抜いて1位になったからだ。
・・・
そう、1位はフェリスでパッセルは9位だった。
クレイドが一生懸命外国語や歴史を教えてくれたのに、少々不甲斐ない結果で反省している。
…ちなみに一つ上の学年ではクレイド・モンタルヌスが一位だった。
「オメガなんかと毎日遊んでいるクレイドが1位」
という虚実は、アルファクラスの間で衝撃だったようだ。
どういう手を使って1位になったのかと、下衆の勘ぐりをする者や教師に訴える者…いや、教師を訴える者まで出て来る始末。
だが、真実はとても単純だった。
クレイドはオメガたちの相談に乗る傍ら、パッセルに勉強を教え、更に自分の勉強も怠らなかっただけ。
正しく努力しているアルファと、適当にやっているアルファでは相当の差が付く。
元々高い潜在能力があるのだから、努力で伸びる幅もかなり大きいのだ。
そしてここから、その事に気付いて努力し始める者と、気づいても努力しない者、気付かないで恨み言だけを言う者との間に大きな差が出来ていくはずだ…
・・・
「おい、聞いているのかオメガ野郎!!」
その言葉でふと我に返ったパッセルは、思い切り殴られたので吹っ飛んだ。
その一撃を皮切りに、次々と暴力が振るわれ…
パッセルが「徴兵後の新人教育や占領軍の思想教育より大した事無いな」と思いながらふと出口の方を見ると、王子と腰巾着が静かに教室を脱出していた。
***
王子はオメガクラスに行き、叫んだ。
「フェリス!フェリスはいるか!」
すると、あからさまにため息を付きながらフェリスは立ち上がり、その場で礼を取った。
「ごきげんよう、我が…
「そんな事はどうでもいい!
パッセルが大変なんだ!!」
「…え、パッセルが!?」
王子はずかずかと教室内に入り、フェリスの手を握って引きずるようにアルファクラスへと急いだ。
そして、走りながらフェリスにだけ聞こえる様に言った。
「パッセルはオメガだ。
アルファの俺が彼と同じ部屋へ入る訳にはいかん、だからお前が…」
「っ、王子、なぜそれを」
「匂いで分かる」
フェリスはその言葉で、小説の設定を思い出した。
「パッセルが運命の番だから、分かるのでは?
他の人間には分からなくとも…」
「だが今や、アラウダも気づくぐらいだぞ」
「ええ、かなり明確に誘引の香が」
「は!?何ですって!?」
まさか運命の番が二人…
いや違う、きっと初めての発情期を迎えて、
だが今はそんなものどちらだって良い。
パッセルが大変なんだから…!!
3人は走った。
そうして、教室に帰ってみると…
現場は想像を超える事態になっていた。
「おや、フェリス殿!と、殿下…と、アラウダ様?」
「パッセル!一体これは」
パッセルに暴力を振るった人間が、全員床の上に転がされていたのだ。
パッセルは事も無げに言った。
「ああ、子どものする事とはいえ、人に暴力を振るってはいけないと教えるのも自分の務めかと思いましてね」
「……だからって、これは」
やりすぎなんじゃ…と異口同音に呟いた3人に、パッセルはこれまた笑いながら言った。
「いえいえ、ちゃんと全員に一発ずつ先に殴らせてやったので、これは正当防衛です」
「……パッセル、君」
「これも、無用な争いを防ぐための教育です」
この世界、アルファというのは人の上に立つように出来ているのでしょう?
…と、パッセルは言い、それから右の拳を心臓の上に当て、きっかり30度頭を下げ、進言した。
「畏れながら、我が国の太陽フォエバストリア殿下にご奏上申し上げます。
人を殴って良いのは、人に殴られる覚悟のある者だけに御座います。
ご聡明な殿下であらせられるならば、これ以上の言葉は無くともお分かり頂けるかと」
パッセルの言葉は平民という出自を全く感じさせない響きであり、仕草はまるで往年の騎士の様であった。
「……ああ、分かった」
「それでは、明日から私はオメガクラスに参ります。
ここに転がるアルファごときには、もう付き合いきれませんので」
そう言ってパッセルはぐちゃぐちゃにされた教科書やノート、筆記用具を拾い集め、一言
「復元」
とだけ唱え、全てを元通りにしてから教室を出て行った。
「あのさ、君、この前まで平民だったんだって?」
「は、そうであります」
「へえ、平民にもアルファがいたなんてね!
良く出来たベータじゃないの?
あいつら、ちょっと優秀だとすぐ自分はアルファだと言い始めるからね」
「ご子息様がその様にお思いになられるのも仕方がありません。私も、モンタルヌス伯爵様も、ベータクラスでお願い致しますと散々申し上げたのですが…」
パッセルが敢えて言い訳をしてみせると、案の定その生徒は怒りを爆発させた。
「生意気に口答えすんじゃねえ!
このクソが…お前は今日から、ベータ…いや、最下層のオメガクラスだ!」
男子生徒はそう言うと、パッセルの首に巻かれたネクタイをむしりとり、机を蹴り倒して中身をぐちゃぐちゃに踏みつけた。
「平民のベータのくせに、アルファを騙る屑はオメガで充分だ!!」
その男子生徒がそう大声を出すと、それに賛同したらしい学生が口々にパッセルを罵り始めた。
「弁えろ平民!ベータはアルファのいう事を聞いていれば良いんだよ!」
「そのベータというのも怪しいものですわ。
実際本当にオメガじゃありませんこと?
きっと才覚あるアルファの方を色仕掛けで欺いて、手柄を横取りしたのですわ…御可哀想に!!」
「そうだ、そうに決まってる!!」
「テストの成績も、教師の皆様を誑かして手に入れた偽物ですわ!!」
「最近オメガ臭いですしね」
「そうだ、オメガの匂いを持ち込むやつはオメガで充分だ!」
一方罵られているパッセルは「漸くこいつらのケツに火が点いたな」と思った。
理由は分かっている。
この前の総合テストで、フェリスがフォエバストリア王子を抜いて1位になったからだ。
・・・
そう、1位はフェリスでパッセルは9位だった。
クレイドが一生懸命外国語や歴史を教えてくれたのに、少々不甲斐ない結果で反省している。
…ちなみに一つ上の学年ではクレイド・モンタルヌスが一位だった。
「オメガなんかと毎日遊んでいるクレイドが1位」
という虚実は、アルファクラスの間で衝撃だったようだ。
どういう手を使って1位になったのかと、下衆の勘ぐりをする者や教師に訴える者…いや、教師を訴える者まで出て来る始末。
だが、真実はとても単純だった。
クレイドはオメガたちの相談に乗る傍ら、パッセルに勉強を教え、更に自分の勉強も怠らなかっただけ。
正しく努力しているアルファと、適当にやっているアルファでは相当の差が付く。
元々高い潜在能力があるのだから、努力で伸びる幅もかなり大きいのだ。
そしてここから、その事に気付いて努力し始める者と、気づいても努力しない者、気付かないで恨み言だけを言う者との間に大きな差が出来ていくはずだ…
・・・
「おい、聞いているのかオメガ野郎!!」
その言葉でふと我に返ったパッセルは、思い切り殴られたので吹っ飛んだ。
その一撃を皮切りに、次々と暴力が振るわれ…
パッセルが「徴兵後の新人教育や占領軍の思想教育より大した事無いな」と思いながらふと出口の方を見ると、王子と腰巾着が静かに教室を脱出していた。
***
王子はオメガクラスに行き、叫んだ。
「フェリス!フェリスはいるか!」
すると、あからさまにため息を付きながらフェリスは立ち上がり、その場で礼を取った。
「ごきげんよう、我が…
「そんな事はどうでもいい!
パッセルが大変なんだ!!」
「…え、パッセルが!?」
王子はずかずかと教室内に入り、フェリスの手を握って引きずるようにアルファクラスへと急いだ。
そして、走りながらフェリスにだけ聞こえる様に言った。
「パッセルはオメガだ。
アルファの俺が彼と同じ部屋へ入る訳にはいかん、だからお前が…」
「っ、王子、なぜそれを」
「匂いで分かる」
フェリスはその言葉で、小説の設定を思い出した。
「パッセルが運命の番だから、分かるのでは?
他の人間には分からなくとも…」
「だが今や、アラウダも気づくぐらいだぞ」
「ええ、かなり明確に誘引の香が」
「は!?何ですって!?」
まさか運命の番が二人…
いや違う、きっと初めての発情期を迎えて、
だが今はそんなものどちらだって良い。
パッセルが大変なんだから…!!
3人は走った。
そうして、教室に帰ってみると…
現場は想像を超える事態になっていた。
「おや、フェリス殿!と、殿下…と、アラウダ様?」
「パッセル!一体これは」
パッセルに暴力を振るった人間が、全員床の上に転がされていたのだ。
パッセルは事も無げに言った。
「ああ、子どものする事とはいえ、人に暴力を振るってはいけないと教えるのも自分の務めかと思いましてね」
「……だからって、これは」
やりすぎなんじゃ…と異口同音に呟いた3人に、パッセルはこれまた笑いながら言った。
「いえいえ、ちゃんと全員に一発ずつ先に殴らせてやったので、これは正当防衛です」
「……パッセル、君」
「これも、無用な争いを防ぐための教育です」
この世界、アルファというのは人の上に立つように出来ているのでしょう?
…と、パッセルは言い、それから右の拳を心臓の上に当て、きっかり30度頭を下げ、進言した。
「畏れながら、我が国の太陽フォエバストリア殿下にご奏上申し上げます。
人を殴って良いのは、人に殴られる覚悟のある者だけに御座います。
ご聡明な殿下であらせられるならば、これ以上の言葉は無くともお分かり頂けるかと」
パッセルの言葉は平民という出自を全く感じさせない響きであり、仕草はまるで往年の騎士の様であった。
「……ああ、分かった」
「それでは、明日から私はオメガクラスに参ります。
ここに転がるアルファごときには、もう付き合いきれませんので」
そう言ってパッセルはぐちゃぐちゃにされた教科書やノート、筆記用具を拾い集め、一言
「復元」
とだけ唱え、全てを元通りにしてから教室を出て行った。
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