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二つの世界が出会う時
変化 2
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一方、フォエバストリア王子はと言うと。
「最近、フェリスがクレイド・モンタルヌスと浮気をしているのではないかと噂が立っている」
「仕方がありませんよ殿下。
オメガはアルファに媚を売るものですからね」
彼の側近であるアラウダ・アルベンシス伯爵令息は顔色も変えずにそう言った。
だがフォエバストリア王子は苛立った様子で声を荒らげた。
「俺の婚約者だぞ!」
「ですが、気に入らないのでしょう?
常々そう仰っているではありませんか」
そう、側近…またの名を腰巾着のアラウダは、毎度そう聞かされていた。
うんざりを通り越して無の境地に至る程に。
「そうだ、気に入らない。
あいつが媚を売るアルファの中に、なぜ俺が入っていないのだ!
馬鹿にするにも程がある…」
「婚約者になどなさるからですよ。
殿下の事を『媚びる必要のないアルファ』だと思っているのではありませんか」
その時だ。
無の境地に達したアラウダの一言に、王子は一つの気づきを得た。
「…ならば、オメガは必ずアルファに媚を売る生き物では無いではないか」
「……はい?」
それは突然の…天啓。
「全てのオメガはアルファとみるや直ぐに媚びるものだと聞かされてきたが、フェリスは相手を選んでいるではないか。
しかし、それはフェリスだけか?
それとも全てのオメガが、媚びる相手を選ぶのか?」
「さあ…?
ですがフェリス殿は多少の知恵がついたオメガですから、勝手にそう考えて行動するのでしょう。
それが間違った事とも知らず…」
「それだ」
王子はアラウダの言葉に、またも気づきを得た。
「オメガは愚か者だと貶めて悦に入り、やる事成す事全て間違いだと決めつけ、まともな道など選べまいと勝手に未来を決めてやっている…
それが本当に正しい事なのだろうか」
学園に入り、接する人間の範囲が広がることで、少しずつ王子には分かってきた。
クラスの連中をアルファだからと一括りに出来ないのと同じで、オメガも一括りには出来ないのではないか?
現に、バース診断も受けぬままアルファクラスに編入されたパッセル・モンタルヌス…
彼は間違いなく、オメガだ。
彼からは誘引香がする…薄っすらとだが、確実に。
しかも平民の出。
それなのに、彼からはクラスの者たちには無い力を感じる…
「……フォエバストリア殿下?」
「俺たちは、正しくオメガを理解していないのではないか?」
もしや世界の強制力か……?
どうやら王子は、ただの馬鹿では無かったらしい。
「大体、何故世の中のアルファはオメガを下等だと馬鹿にする割に、競って嫁に迎えるのだ?」
「アルファの子を成す為に必要だからです」
「わざわざ高い金を積むのは何故だ?」
「それは、その家の者が、オメガという無能を育てた苦労を労うための金で…」
アラウダの言い分はこの国で一般的に受け容れられている言説で、人身売買だという批判を避けるために唱えられてきたものだ。だが…
「確かに抑制ポーションは高価だし、発情期を越す方法を学ばせるのもただではない」
「左様にございます、ですから…」
「だが、その支出を補填するだけならまだしも、彼らの外見で積む金額が変わるのは何故だ?」
「……っ」
アラウダは言葉に詰まった。
この国では慣習的に、オメガの実家への結納金は美醜で金額が変わる。
まるでそれは、…性奴隷に値段をつけるかの如く。
それを明瞭に示す事例は幾らでもある。
何ならその言い訳すらも確立している。
愛の無い相手に欲情するにはそれしかなかろう…と。
多くのアルファが「発情の気を当てられれば欲情するに決まっている」とオメガの誘惑を非難し、自身の自制の無さをオメガに擦り付けたその口で「オメガは性的魅力が無ければ話にならない」と主張してきた。
男性オメガには女性的な見た目や仕草を強要し、女性オメガには処女の床上手を強要し…
アルファは優秀な性だから優遇されて当然という顔をして、オメガを搾取してきた。
だから、美醜に拘る理由は1つだけ。
「オメガが生まれた時に、高く売る為だ」
そういうことだ。
どうせオメガが生まれる可能性があるなら、少しでも見目麗しい者をと…
高く買い取って貰えるように、と。
アルファはその優秀と言われた頭で、自分の子がいくらで売れるかと金の計算をしているのだ。
「オメガは人間だろう」
「はあ、まあそうですが」
「劣等であろうとも人間だろう。
いや、そもそも劣等なのか?
これは我々が劣等であれと望んだ結果では無いか?」
学園では、発情による事故を防ぐためにバース性でクラス分けしているのをいい事に、授業の内容から何から全て違うのだ。
彼らは高等部でありながら、初等部の内容を復習させられている。
しかも、発情の危険を分かっていながら、オメガの子女を半ば強制的に学園の高等部に通わせている。
表向きは、高等部の内容など理解できないから初等部のおさらいからさせる、という理由だ。
だが、本当にその理由は正しいのだろうか?
「我々はオメガに対し、随分身勝手な行いをしてきたのではないか?」
「違います殿下、我々は彼らを正しく導き…」
「は、何が正しく導く、だ。
番となり、自分だけしか受け入れられないように縛り付けた事の責任も取らない男の、何が正しい」
「……殿下」
フォエバストリア王子は苦々しそうにその言葉を漏らした。
ずっと心のどこかでは、おかしいと思っていた。
オメガである事が悪いとは、どういう事か、と。
オメガである母の、何が悪いのだ、と。
「アルファの為に、貴族の為に、バース性は利用されてきたのだ。
我々はその事に気付かぬ様、洗脳され続けてきたのだ。
バース性を拠り所にして人を支配してきた、愚か者たちによって」
アルファだから人の上に立つ事を許される…のであれば、アルファでありさえすれば上に立つ人間は誰であろうがどうでもいい…
という図式もまた成り立つ。
アルファだから人の上に立つのではない。
リーダーに相応しいから、リーダーになるのだ。
アルファの王子だから国王になるのではない。
国王に相応しいから、国王になるのだ。
「もっと早くに、気が付くべきだったんだ。
優秀なアルファのくせに…何というザマだ」
「…殿下」
漸く、為政者たるものとして目を覚ました王子は、アラウダに言った。
「小さな頃から当たり前のように聞かされて来た事を疑うことは、並大抵ではないだろう。
しかしこのままでは、アルファだというだけの愚か者にこの国を食い荒らされてしまうぞ」
「最近、フェリスがクレイド・モンタルヌスと浮気をしているのではないかと噂が立っている」
「仕方がありませんよ殿下。
オメガはアルファに媚を売るものですからね」
彼の側近であるアラウダ・アルベンシス伯爵令息は顔色も変えずにそう言った。
だがフォエバストリア王子は苛立った様子で声を荒らげた。
「俺の婚約者だぞ!」
「ですが、気に入らないのでしょう?
常々そう仰っているではありませんか」
そう、側近…またの名を腰巾着のアラウダは、毎度そう聞かされていた。
うんざりを通り越して無の境地に至る程に。
「そうだ、気に入らない。
あいつが媚を売るアルファの中に、なぜ俺が入っていないのだ!
馬鹿にするにも程がある…」
「婚約者になどなさるからですよ。
殿下の事を『媚びる必要のないアルファ』だと思っているのではありませんか」
その時だ。
無の境地に達したアラウダの一言に、王子は一つの気づきを得た。
「…ならば、オメガは必ずアルファに媚を売る生き物では無いではないか」
「……はい?」
それは突然の…天啓。
「全てのオメガはアルファとみるや直ぐに媚びるものだと聞かされてきたが、フェリスは相手を選んでいるではないか。
しかし、それはフェリスだけか?
それとも全てのオメガが、媚びる相手を選ぶのか?」
「さあ…?
ですがフェリス殿は多少の知恵がついたオメガですから、勝手にそう考えて行動するのでしょう。
それが間違った事とも知らず…」
「それだ」
王子はアラウダの言葉に、またも気づきを得た。
「オメガは愚か者だと貶めて悦に入り、やる事成す事全て間違いだと決めつけ、まともな道など選べまいと勝手に未来を決めてやっている…
それが本当に正しい事なのだろうか」
学園に入り、接する人間の範囲が広がることで、少しずつ王子には分かってきた。
クラスの連中をアルファだからと一括りに出来ないのと同じで、オメガも一括りには出来ないのではないか?
現に、バース診断も受けぬままアルファクラスに編入されたパッセル・モンタルヌス…
彼は間違いなく、オメガだ。
彼からは誘引香がする…薄っすらとだが、確実に。
しかも平民の出。
それなのに、彼からはクラスの者たちには無い力を感じる…
「……フォエバストリア殿下?」
「俺たちは、正しくオメガを理解していないのではないか?」
もしや世界の強制力か……?
どうやら王子は、ただの馬鹿では無かったらしい。
「大体、何故世の中のアルファはオメガを下等だと馬鹿にする割に、競って嫁に迎えるのだ?」
「アルファの子を成す為に必要だからです」
「わざわざ高い金を積むのは何故だ?」
「それは、その家の者が、オメガという無能を育てた苦労を労うための金で…」
アラウダの言い分はこの国で一般的に受け容れられている言説で、人身売買だという批判を避けるために唱えられてきたものだ。だが…
「確かに抑制ポーションは高価だし、発情期を越す方法を学ばせるのもただではない」
「左様にございます、ですから…」
「だが、その支出を補填するだけならまだしも、彼らの外見で積む金額が変わるのは何故だ?」
「……っ」
アラウダは言葉に詰まった。
この国では慣習的に、オメガの実家への結納金は美醜で金額が変わる。
まるでそれは、…性奴隷に値段をつけるかの如く。
それを明瞭に示す事例は幾らでもある。
何ならその言い訳すらも確立している。
愛の無い相手に欲情するにはそれしかなかろう…と。
多くのアルファが「発情の気を当てられれば欲情するに決まっている」とオメガの誘惑を非難し、自身の自制の無さをオメガに擦り付けたその口で「オメガは性的魅力が無ければ話にならない」と主張してきた。
男性オメガには女性的な見た目や仕草を強要し、女性オメガには処女の床上手を強要し…
アルファは優秀な性だから優遇されて当然という顔をして、オメガを搾取してきた。
だから、美醜に拘る理由は1つだけ。
「オメガが生まれた時に、高く売る為だ」
そういうことだ。
どうせオメガが生まれる可能性があるなら、少しでも見目麗しい者をと…
高く買い取って貰えるように、と。
アルファはその優秀と言われた頭で、自分の子がいくらで売れるかと金の計算をしているのだ。
「オメガは人間だろう」
「はあ、まあそうですが」
「劣等であろうとも人間だろう。
いや、そもそも劣等なのか?
これは我々が劣等であれと望んだ結果では無いか?」
学園では、発情による事故を防ぐためにバース性でクラス分けしているのをいい事に、授業の内容から何から全て違うのだ。
彼らは高等部でありながら、初等部の内容を復習させられている。
しかも、発情の危険を分かっていながら、オメガの子女を半ば強制的に学園の高等部に通わせている。
表向きは、高等部の内容など理解できないから初等部のおさらいからさせる、という理由だ。
だが、本当にその理由は正しいのだろうか?
「我々はオメガに対し、随分身勝手な行いをしてきたのではないか?」
「違います殿下、我々は彼らを正しく導き…」
「は、何が正しく導く、だ。
番となり、自分だけしか受け入れられないように縛り付けた事の責任も取らない男の、何が正しい」
「……殿下」
フォエバストリア王子は苦々しそうにその言葉を漏らした。
ずっと心のどこかでは、おかしいと思っていた。
オメガである事が悪いとは、どういう事か、と。
オメガである母の、何が悪いのだ、と。
「アルファの為に、貴族の為に、バース性は利用されてきたのだ。
我々はその事に気付かぬ様、洗脳され続けてきたのだ。
バース性を拠り所にして人を支配してきた、愚か者たちによって」
アルファだから人の上に立つ事を許される…のであれば、アルファでありさえすれば上に立つ人間は誰であろうがどうでもいい…
という図式もまた成り立つ。
アルファだから人の上に立つのではない。
リーダーに相応しいから、リーダーになるのだ。
アルファの王子だから国王になるのではない。
国王に相応しいから、国王になるのだ。
「もっと早くに、気が付くべきだったんだ。
優秀なアルファのくせに…何というザマだ」
「…殿下」
漸く、為政者たるものとして目を覚ました王子は、アラウダに言った。
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