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揺らぎの時
新キャラと飯
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夏休み明け、久々に訪れた学生食堂は今日も賑やかだ。
ビュッフェ形式なので、学生たちは思い思いに好きな料理を皿へ盛り、空いている席へ散っていく。
新しく来たオヴィスの世話係を頼まれたパッセルも、フェリスと一緒に3人でトレイを持ち、列に並ぶ。
「わぁ…色んな料理がある!」
「野菜も肉もバランス良く、が肝心ですよ」
「はーい!」
「オヴィス君は、こういった場所は初めて?」
「はい!実はこの前まで平民だったので…」
「おや、そうでしたか…私と同じですね」
オヴィスの科白が真実なら、またも平民出身のオメガの出現という事になる。
こうも重なれば、平民からバース診断を取り上げた理由も怪しいものだ…
「パッセルに引き続きオヴィス君も…となると、やっぱりバース診断を貴族だけに限るのはまずい気がするね」
「ええ、よくこれまで何の問題も出なかったものです」
「それって『上手に隠蔽してる』って事?」
「まあ、そうとも言えますね」
フェリスとパッセルはそんな話をしながら、空いている席を探す。
すると二人の存在に気が付いたのか、少し遠い席からクレイドが手を振った。
「おーい、ここ、空いてるぞ~!」
「あ、兄上!ありが…」
「クレイド様!」
と、突然オヴィスがトレイを持ったままクレイドの元へ駆け出し、
「危ない、オヴィス殿!」
「あ、わぁ!!」
だから当たり前の様に他人とぶつかり…
派手な音を立てて、こけた。
***
そんな騒ぎが起きているとはつゆ知らず、食堂の個室では王子二人にアラウダを加えた3人が食事をしていた。
「エバ殿はこの部屋を良く使うのですか?」
「ええ、最近は食事時より放課後に集まる時に使う事が多いですが」
「という事は、他の者に聞かれたくない話も出来る…と?」
「ええ、勿論…
ところでリュノ殿は先程『運命の番を探しに来た』と仰ったが、あてはあるのですか?」
フォエバストリア王子改めエバ王子は、多少踏み込んだ話題に手をつけた。
同席するアラウダもドキドキの展開である。
「ああ、あれは…ただの冗談ですよ。
たまたまこの国との国境あたりへ視察に出ていたら、そちら側の砦で動きがあったと聞いたものですから。
万が一という事も考えて、様子を見に行けという事になったのです」
「!!」
やはりそうか!…とアラウダは思った。
夏季休暇中に行われたあの視察は、やはり隣国を刺激したのだ。
突然今まで放置していた砦の修復に手を付けるなど、そちらを警戒していますよと言わんばかりではないか…。
だが、この窮地をどうすべきか…とアラウダが考えるよりも先に、エバ王子はただ「驚いた」ような顔を作って言った。
「何と、我々は同じ時期にあの辺りへいたのですね。
視察という事は、魔物の被害が出たり?」
「いや、そういう訳では無いのだが…」
「そうでしたか、我が国の失態がそちらのご迷惑になっていないのなら良かった」
そうして、ほっとした表情を見せるエバ王子に対し、リュノ王子は聞いた。
「…失態、ですか?」
「ええ、国境の砦を放棄したまま、修繕もせず数十年も放置していたのです。
理由は色々あるにせよ、実にお恥ずかしい」
野盗の根城になる可能性や、魔物の巣になる可能性もあったというのに…
ご迷惑をお掛けしていたらお詫びせねばならぬところでした、とエバ王子は困ったとほっとしたの中間の表情を作って言った。
「…確かに国境の砦を放棄しっぱなしというのは…。
ですが、急になぜ?」
「友人がその場所に興味を持ちまして、一度見に行きたいと言ってくれたのです。
偶然のようなもので…彼がそう言ってくれなければ、今でも放置したままだったでしょう」
お互い、何も言わず放置していた土地だ。
その放置を「戦う意志の放棄」と取るか、「隣国への甘え」と取るか。
それは単にお互いの「考え方の違い」である、とエバ王子は示したのだ。
そして、リュノ王子はその話に納得したように頷いた。
「…我が国も、長らく目を向けなかった場所です。
そのご友人は慧眼ですね」
「ええ、本当に。
これからはお互いの交流を深められる様、国境を安心して越えられる様にせねばなりませんね」
こちらに戦う意志は無く、むしろ友好関係を深めたいのだ…
という形でエバ王子は話を締め括った。
こうして、彼の初外交はまずまずの成功を納め…
アラウダは自分の仕える人が有能であることを再確認した。
ビュッフェ形式なので、学生たちは思い思いに好きな料理を皿へ盛り、空いている席へ散っていく。
新しく来たオヴィスの世話係を頼まれたパッセルも、フェリスと一緒に3人でトレイを持ち、列に並ぶ。
「わぁ…色んな料理がある!」
「野菜も肉もバランス良く、が肝心ですよ」
「はーい!」
「オヴィス君は、こういった場所は初めて?」
「はい!実はこの前まで平民だったので…」
「おや、そうでしたか…私と同じですね」
オヴィスの科白が真実なら、またも平民出身のオメガの出現という事になる。
こうも重なれば、平民からバース診断を取り上げた理由も怪しいものだ…
「パッセルに引き続きオヴィス君も…となると、やっぱりバース診断を貴族だけに限るのはまずい気がするね」
「ええ、よくこれまで何の問題も出なかったものです」
「それって『上手に隠蔽してる』って事?」
「まあ、そうとも言えますね」
フェリスとパッセルはそんな話をしながら、空いている席を探す。
すると二人の存在に気が付いたのか、少し遠い席からクレイドが手を振った。
「おーい、ここ、空いてるぞ~!」
「あ、兄上!ありが…」
「クレイド様!」
と、突然オヴィスがトレイを持ったままクレイドの元へ駆け出し、
「危ない、オヴィス殿!」
「あ、わぁ!!」
だから当たり前の様に他人とぶつかり…
派手な音を立てて、こけた。
***
そんな騒ぎが起きているとはつゆ知らず、食堂の個室では王子二人にアラウダを加えた3人が食事をしていた。
「エバ殿はこの部屋を良く使うのですか?」
「ええ、最近は食事時より放課後に集まる時に使う事が多いですが」
「という事は、他の者に聞かれたくない話も出来る…と?」
「ええ、勿論…
ところでリュノ殿は先程『運命の番を探しに来た』と仰ったが、あてはあるのですか?」
フォエバストリア王子改めエバ王子は、多少踏み込んだ話題に手をつけた。
同席するアラウダもドキドキの展開である。
「ああ、あれは…ただの冗談ですよ。
たまたまこの国との国境あたりへ視察に出ていたら、そちら側の砦で動きがあったと聞いたものですから。
万が一という事も考えて、様子を見に行けという事になったのです」
「!!」
やはりそうか!…とアラウダは思った。
夏季休暇中に行われたあの視察は、やはり隣国を刺激したのだ。
突然今まで放置していた砦の修復に手を付けるなど、そちらを警戒していますよと言わんばかりではないか…。
だが、この窮地をどうすべきか…とアラウダが考えるよりも先に、エバ王子はただ「驚いた」ような顔を作って言った。
「何と、我々は同じ時期にあの辺りへいたのですね。
視察という事は、魔物の被害が出たり?」
「いや、そういう訳では無いのだが…」
「そうでしたか、我が国の失態がそちらのご迷惑になっていないのなら良かった」
そうして、ほっとした表情を見せるエバ王子に対し、リュノ王子は聞いた。
「…失態、ですか?」
「ええ、国境の砦を放棄したまま、修繕もせず数十年も放置していたのです。
理由は色々あるにせよ、実にお恥ずかしい」
野盗の根城になる可能性や、魔物の巣になる可能性もあったというのに…
ご迷惑をお掛けしていたらお詫びせねばならぬところでした、とエバ王子は困ったとほっとしたの中間の表情を作って言った。
「…確かに国境の砦を放棄しっぱなしというのは…。
ですが、急になぜ?」
「友人がその場所に興味を持ちまして、一度見に行きたいと言ってくれたのです。
偶然のようなもので…彼がそう言ってくれなければ、今でも放置したままだったでしょう」
お互い、何も言わず放置していた土地だ。
その放置を「戦う意志の放棄」と取るか、「隣国への甘え」と取るか。
それは単にお互いの「考え方の違い」である、とエバ王子は示したのだ。
そして、リュノ王子はその話に納得したように頷いた。
「…我が国も、長らく目を向けなかった場所です。
そのご友人は慧眼ですね」
「ええ、本当に。
これからはお互いの交流を深められる様、国境を安心して越えられる様にせねばなりませんね」
こちらに戦う意志は無く、むしろ友好関係を深めたいのだ…
という形でエバ王子は話を締め括った。
こうして、彼の初外交はまずまずの成功を納め…
アラウダは自分の仕える人が有能であることを再確認した。
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