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揺らぎの時
まさか、そっちが?
しおりを挟む一方、食堂。
多少のアクシデントがあった昼食だが、
①ぶつかった生徒にフェリスが詫びを入れ
②パッセルが魔法でその生徒とオヴィスの服の汚れを落とし
③駆けつけた食堂の係員が床を素早く掃除する
という見事な連携によって、その場は見事に取り繕われた。
「ごめんなさい…」
「食物、という人間にとって大切なものを運んでいるという意識が足りん」
「そうだよ、料理がもったいない事になっちゃう」
「すみません…」
振る舞い云々よりも先に「飯を無駄にした」事に小言を言う二人。
お互い立場も世界線も違うけれど「好きなものを好きなだけ」食べられる前世ではなかった事が共通しているからだろうか…。
「はぁ…もう一回取り直すしかないね」
「仕方がありません、初回ですから多目に見るとしましょう。
次からはこういう温情措置があると思わぬように、宜しいかオヴィス殿?」
「はっ……はい」
但しパッセルの方がこういう事には厳しい。
拾って食えと言われないだけましと思え、とでも思っていそうな顔だ。
いきなり出てきた軍人オーラに、泣きそうになるオヴィス。
いつの間にか駆けつけたクレイドがパッセルをまあまあと宥め、二人に先に席へ行っててくれと促す。
「俺が彼の事見とくから、先に食ってて良いぞ。
えーと、君は…」
「オヴィスです!」
「うん、オヴィス…君、見ない顔だね?」
「はい、今日から転入してきました!」
「へぇ~、珍しいな」
するとオヴィスは恥じらうように手を組み、上目遣いにクレイドを見て言った。
「はい…クレイド様に、お会いしたくて」
その時、この場にいた全員が同じ言葉を飲み込んだ。
《何言ってんだこいつ》
モジモジするオヴィスだけが妙に浮いた空気の中、クレイドはようやく口から音を出した。
「…………え?」
***
そうしてようやくの思いで席に付けば、オヴィスは食事には目もくれずクレイドに話しかける。
取ってきた料理が冷めるのも構わず…
その光景にパッセルのオーラが徐々に怒りに染まり始め、察したクレイドは席を立とうとした。
「…俺はもう飯食って終わったから、先に…」
「あっ、だったら僕もっ」
クレイドが立ち上がると同時に、折角取り直した食事の大半を残して立ち上がろうとするオヴィス。
パッセルの怒りが頂点に達しかける。
「一食分無駄にしておきながら、その上取ったものを残す…だと?」
「ひっ…」
「ちょっ、パッセル!抑えて、抑えて」
…いや、達しかける、ではない。
すでに達していた。
「良いか貴様。このパンを作る小麦粉ひとつとっても、ただ春に種を蒔き秋まで待てば良いというものではない!貴様は平民出身だと言うが、それにしては食べるという事に無頓着すぎる。
良いか?選民意識ばかりの貴族と同じぐらい厄介なのは、物があるからこそ金で買えるという事をまるで理解しない輩だ。金さえ払えば食べ物が常に手に入ると勘違いしている。収穫ができなければいくら金を積んでも無駄だと言うのに、金があるのに飢えるわけがないと勝手に考え傍若無人を働き、子どものミルクすら取り上げて飲もうとする!」
「パッセル、抑えろって」
「ほら、みんな怯えてるから!」
食べ物を粗末にする事が、これほどの怒りを生むとは…
パッセルの前で食べ残したり好き嫌いを言ったりしなくて良かった、とフェリスとクレイドは心の中で思いながら必死で宥めた。
だがパッセルの説教は止まらない。
オヴィスが泣くまで、いや泣いても続く地獄の時間…
「はっきり言おう、俺は貴様の食に対する態度が気に入らない。食い物を粗末にする人間が兄上に近づくなど許しがたい!アリエス家は一体どういう教育をしているんだ?領主なら領民を馬鹿にしているし、中央で国政を担う家なら国民を馬鹿にしている!!」
「う、ううっ…」
「泣きたいのは貴様が無駄にした食い物と、無駄にしようとした食い物たちと、美味しく食べてもらいたいと料理を作った調理人だ。
それをグズグズと…さっさと食え!!
全部食って、さっき落として駄目にした食い物の事、調理人の心を無駄にした事を心底悔いて、死ぬまで忘れるな、分かったか!!」
「うっ、ぅ、ずびばぜん…」
「謝罪は何に対してだ!?」
「うっ、うっ、だべものど、りょうりじでくれたひどですう」
「ぶつかった生徒は!?」
「うぁああん、ごべんなざいい!」
「分かったら黙ってさっさと食え!!!」
「あぃい!!」
まさに鬼軍曹さながら…。
パッセルは腕組みをしオヴィスを睨みつけ、彼が必死で食事を詰め込むのを最後まで監視していた。
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