話が違う2人

紫蘇

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揺らぎの時

怪しい転校生

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あの食堂の騒ぎの次の日、なんとアリエス家からわざわざ当主が駆けつけてパッセルに謝罪を申し入れた。

パッセルは親が出て来るような問題ではないとしながらも、当主に

・オヴィスの食育がなっていないと苦言を呈し
・食べ物を粗末にする
 =食糧を粗末にする
 =国防を疎かにする行為だと脅し上げ
・二度と食べ物を粗末にさせないようにと厳命し

謝罪を受け入れた。

「本当に、申し訳ありませんでした」
「次は容赦致しませんぞ」
「は、はいっ…!」

あれで容赦してたんだ…とフェリスは遠い目になり、オヴィスはまた泣きそうな顔になった。

「おしゃべりに夢中になるのもいいけど、ちゃんと食べようね?オヴィス君」
「フェリス様…」
「パッセルはね、農村の出身なんだ。
 作物を育てるのがどれだけ大変か、身をもって知ってる。だから、食事をあんな風に残されたりしたら…ね?怒るのは当たり前でしょ?」
「はい…」

まさかパッセルのフォローに回る時が来ようとは。
そして、食べ物を無駄にする事にあそこまで怒るとは…。

きっと、戦争のせいなのだろう。
パッセルのいた世界線では、日本は負けて三分割されたらしい。
食糧が潤沢にあって負ける戦争なんかない。
パッセルの前世は…奥津四郎は、食べる物の無い中で殺し合い、奪い合う人生だったんだろう。
でなければ、辺境でトカゲの魔物を捌いて食べようだなんて…



意外と美味しかったけど。



フェリスはふと辺境での出来事を思い出しながら、パッセルに問いかけた。

「…パッセルも、オヴィス君に言い過ぎたなと思ってるんでしょ?」
「いいえ、別に。
 炊き出しを求めて並ぶ被災者の姿を見ている身としては、生温いぐらいですよ」
「…そっか、そういうのもあるんだ」

前世でも今生でも食料不足のリアルを知っているからこんなにも厳しいのか…とフェリスは思った。
だけど、折角生まれ変わったのに、ただ栄養を摂るだけの「食べる」じゃ寂しいな…とも思った。

だから、自分も食べる事への思いを語った。

「僕もさ、パッセルが言うのとはちょっと違うけど…食べられるって当たり前じゃないと思うんだ。
 ほら、食べる事が出来る体も必要っていうか」
「……そうですな」

今度は、パッセルがフェリスの前世に思いを寄せた。

フェリスの前世…湯迫叶は、口に食べ物を入れ、咀嚼し、嚥下する事が当たり前の人生では無かったのだ。
若くして先天性の病で死んだと聞いた。
胃ろうや点滴で命を繋いだ末の最期だったのかもしれない。

「…食べられる事は、幸せな事ですね」
「うん…そうだね」

パッセルはフェリスの顔を立てる事にした。
子どものした事だ、と自分に言い聞かせ、これから教育すれば良いと改めてオヴィスに向き直った。

「いいですか、オヴィス殿。
 食事ができる事は、当たり前では無いのですよ」
「はいっ…」
「これからは常に感謝を忘れないように」
「はいっ…」
「今日からはちゃんとしようね、オヴィス君」
「はいっ!」

こうしてオヴィスとパッセルは和解し…

フェリスはパッセルが悪役令息になるのを防いだのであった。


***

それから3人はそれなりに話をする仲になった。
雨降って地固まる…

とはいえ、オヴィスが食事時のパッセルに近づく事は無かったが。


今日も授業終わり、パッセルがフェリスと一緒にいたところへオヴィスが話しかけてきた。

「あの…パッセル様、クレイド様のお好きな物って何か知ってる…ますか?」
「オヴィス殿、『様』は必要ありません。
 敬語も特に必要ありません。
 それから、クレイド兄上の好きな物は…」
「唐揚げだよね」

パッセルの代わりにフェリスが答えた。
オヴィスは一瞬顔色を変えたが、すぐにあざとく小首をかしげた。

「唐揚げ?」
「鶏肉に衣をつけて揚げたものです」

パッセルは簡単に説明をしながらも、こいつ本当に唐揚げを知らないのか?と疑問を募らせる。

この国でも唐揚げは典型的な庶民料理だ。
農村でも祝いの時に屋台が出るし、王都ではピタパンに詰めて売っている。
ちなみに貴族ばかりが通うこの学園の食堂では出た事が無い…

つまり、平民の方が良く知っている料理なのだ。

「…何故、そんな事を知りたいのですか?」

パッセルはずっと不思議だった。

クレイドとオヴィスの接点には思い当たる節が無かったし、こう言っては何だが、兄の顔は騎士科の中でも地味な方でチャームポイントと呼べそうなのはそばかすぐらいだ。
一目で恋に落ちるタイプの相手ではない。

だが、オヴィスはこう言った。

「クレイド様は、僕の憧れの方なんです!」
「…………えっ?」

それを聞いて、慌てたのはフェリスだ。
とはいえ、それはオヴィスの一方的な想いであって、お互いに想い合っているとかではない…だろう、多分、およそ、きっと。
フェリスはそれを確かめようと、オヴィスに聞いた。

「どこかで、会った事があるの?」
「はい、一度だけ…街で。
 でも騎士科の方で座学も主席だなんて、それだけでも素敵だと思いませんか?」
「それは…まあ、そうだね」
「それにお優しいですし、その…お顔も素敵で」
「う…うん、そうだね」

顔はともかく、クレイドは中身が良い。
多少繊細な部分はあるものの、それは恐ろしく図太いパッセルが横にいるからそう思うだけだ。
頼もしいお兄ちゃんのような存在…

そんなところに、フェリスも惹かれたのだ。
フェリス以外にも惹かれた人間がいるのは当然…
だが、パッセルはその辺りにどうも懐疑的だ。

「…兄上が、モテる…?」
「はい、僕にはモテモテです!!
 パッセル様にとっても、クレイド様は素敵なお兄様でしょう?」
「素敵…まあ、伸びしろはありますかね」

中身が36歳の軍人なパッセルにとって、クレイドはまだまだ若造だ。
パッセルの答えにフェリスは噴き出し、オヴィスはむっとした顔になる。
だがそれも一瞬だ。
すぐにまたあざとく俯き加減の上目遣いで、パッセルに向かって言う。

「僕、まだクレイド様には婚約者がいないって聞いたんです。
 だから…立候補したいなって」
「はあ、そうですか」
「これからはちゃんと食べ物に感謝して食事をします、だからパッセル様、僕がクレイド様の婚約者になれるよう、後押しして貰えないですか…?」

すると慌ててフェリスが口を挟む。

「駄目だよ、クレイドは僕とパッセルと一緒に辺境へ行くんだから!」
「じゃあ僕も付いていきます!」
「付いていくって…辺境で生活するのは、そんな簡単じゃないんだよ?」
「そんなの、愛があれば何とかなります!」
「いや、だからさ…面倒を見てもらうだけの子は連れていけないって事で」
「連れて行く人をフェリス様が選ぶんですか?どうしてですか?僕、クレイド様の為なら何だってできます!」


…それは、計った様なタイミングだった。


クレイドはたまたま、フェリスとパッセルを教室まで迎えに来たところで、その話を聞いてしまったのだ…。

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