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あがく世界
第一寮裏の騒動
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その日、第一寮裏の勉強会は騒然とした。
「アルファに項を噛まれてから番にさせられるまでの間に、オメガの体内でどういう事が起きているのかを体感してみたいのですよ」
と、パッセルがリュノ王子に項を差し出したからだ。
勿論ネックガードは着けたままだが、そのネックガードはリュノ王子からの贈り物。
王子なら簡単に外せてしまう代物だ。
「ちょっと、パッセル!?
自分を大事にしてって!」
「そうだぞ、パッセル!
隣国の王子様と一緒には辺境へ行けないぞ!」
フェリスとクレイドが必死で止める。
そんな急展開がそうそうあってたまるか!
だって今日の昼までは、確かにパッセルはリュノ王子を避けていた。
強引にエッチな事をされたから傷ついている…と、二人はそう思っていたのに!
「大丈夫ですよフェリス殿、兄上。
この首輪の上からまずは試して貰おうという事ですから」
「それで何も分からなかったら、噛ませるつもりなんでしょ!?
駄目だからね!
パッセルは愛し愛されて結婚するのじゃなきゃ、僕は認めないんだから!!」
フェリスは叫んだ。
パッセルの前世を知っている彼は、今生でこそパッセルは幸せになるべきだと考えていた。
恋愛をする間もなく戦争に巻き込まれた奥津四郎。
時に上官の命令で、時に部下の頼みで、時に捕虜として敵兵に…。
好きでもない相手と何度も身体を繋げた奥津四郎。
当人は「そういうもんですよ」と達観しているが、フェリスの中にいる湯迫叶にとっては悲劇だ。
折角平和なアルバトルスで、パッセルとして生まれ変わったのなら…
好きでもない相手と、そんな事しなくたって良いじゃないか。
「そんな事はありませんよ、フェリス殿。
自分の心は良く分かりませんが、リュノ殿下が自分を愛して下さっているのは知っています」
「違うもん!大事なのはパッセルの気持ちだもん!」
「そうだぞ、パッセル。
お前は貴族じゃないんだから、愛し合っているって理由だけで結婚していいんだ。
下らない損得なんか計算しなくていい!」
クレイドも必死で止める。
自分とフェリスを、エバ王子とオヴィスを、愛し合う相手と相手を結ばせる為に奔走するパッセルが、他人の為に自分を犠牲にするなんて許されない。
何をおいてもパッセルだけは、恋愛結婚であるべきだ。
それが後々、オメガたちの希望になる…
彼はそう考えている。
「大体、番になる過程を気にしてどうするんだよ!」
「…私は、愛されず消耗していくオメガの方々を救いたいのです。
この平和な国の中で不幸である事を義務付けられているなんて、おかしいでしょう?」
パッセルはエバ王子をちらりと見る。
彼は静観の構えだ。
隣のアラウダも同じく。
「…それに、私とて他人事ではありません。
私を隷属させたいがために、強引に項を狙う人間だっている。それを利用して策略を練る人々もいる。
噛まれた後の対策を、早急に準備せねばならない」
「……それは」
彼らの知らない所で、パッセルには色々な事があった。
それは主に、地方へ復興の手伝いに行く時だ。
作業が終わり、今後の見通しを立て、報告の為に領主の館へ行けば、そこで歓待を受ける事もある
見知らぬ貴族と食事を共にする事もある。
強い酒を飲まされるのは良い方で、眠り薬を盛られる事もある。
そんな時に助けてくれるのはいつも領主だ。
だがこうやって領主派から恩を売られ続けていれば、いつかは…。
「結局、自分の為なのです。
だから大丈夫…頼む相手は、間違えていないはずです。
私が番解消の手段を得られなくても、彼なら私を幸せにしてくれる」
今度はフェリスとクレイドが顔を見合わせた。
パッセルの口から出てきたのが、まるでリュノ王子の愛に応えるかのような言葉だったからだ。
そしてその言葉に、周囲もざわつく…
甘い内容なのに淡々と事実を述べる口調なのは、照れ隠しの一種なのかそれとも。
「それではエバ殿下、アラウダ殿。
今からする実験の記録をお願い致します。
フェリス殿と兄上にも、ご協力お願いします」
「…俺は、まだやるとは言っていないぞ」
リュノ王子はここまで自分の心情抜きに話を進められて少々ご立腹である。
その彼をちらりと見やってから、パッセルは悠然と微笑み、またも爆弾発言をする。
「そうですか、ではどなたか代わりの方を」
「やらないとも言っていない!!」
パッセルの言葉に乗せられるように、リュノ王子はパッセルを後ろから抱きしめ…
「良いんだな?」
「…ええ。
あ、そう言えば、アルファの力を借りて番を解消する方法とは何です?」
「ああ、あれは…だな。
アルファの中にも順位があってな。
今の番より上位の人間に契約を上書きしてもらえばいいんだ」
「…ならばやはり使えませんね」
パッセルはそう言って、目を閉じた。
リュノ王子は、そっと彼の項に口を近づけ…
「…本当は、直接噛みついて、君を俺の番にしてしまいたい」
「ふふっ…それでも構いませんよ?」
「えっ」
「冬、山でお会いした時…あなたは私にあれこれしてくれたが、項に口を近づける事はしなかった。
噛みつきたい衝動と戦ってくれたのでしょう?」
「そ、れは…」
こうして、大勢の生徒が見守る中…
リュノ王子はネックガード越しに、パッセルの項に噛みついた。
「アルファに項を噛まれてから番にさせられるまでの間に、オメガの体内でどういう事が起きているのかを体感してみたいのですよ」
と、パッセルがリュノ王子に項を差し出したからだ。
勿論ネックガードは着けたままだが、そのネックガードはリュノ王子からの贈り物。
王子なら簡単に外せてしまう代物だ。
「ちょっと、パッセル!?
自分を大事にしてって!」
「そうだぞ、パッセル!
隣国の王子様と一緒には辺境へ行けないぞ!」
フェリスとクレイドが必死で止める。
そんな急展開がそうそうあってたまるか!
だって今日の昼までは、確かにパッセルはリュノ王子を避けていた。
強引にエッチな事をされたから傷ついている…と、二人はそう思っていたのに!
「大丈夫ですよフェリス殿、兄上。
この首輪の上からまずは試して貰おうという事ですから」
「それで何も分からなかったら、噛ませるつもりなんでしょ!?
駄目だからね!
パッセルは愛し愛されて結婚するのじゃなきゃ、僕は認めないんだから!!」
フェリスは叫んだ。
パッセルの前世を知っている彼は、今生でこそパッセルは幸せになるべきだと考えていた。
恋愛をする間もなく戦争に巻き込まれた奥津四郎。
時に上官の命令で、時に部下の頼みで、時に捕虜として敵兵に…。
好きでもない相手と何度も身体を繋げた奥津四郎。
当人は「そういうもんですよ」と達観しているが、フェリスの中にいる湯迫叶にとっては悲劇だ。
折角平和なアルバトルスで、パッセルとして生まれ変わったのなら…
好きでもない相手と、そんな事しなくたって良いじゃないか。
「そんな事はありませんよ、フェリス殿。
自分の心は良く分かりませんが、リュノ殿下が自分を愛して下さっているのは知っています」
「違うもん!大事なのはパッセルの気持ちだもん!」
「そうだぞ、パッセル。
お前は貴族じゃないんだから、愛し合っているって理由だけで結婚していいんだ。
下らない損得なんか計算しなくていい!」
クレイドも必死で止める。
自分とフェリスを、エバ王子とオヴィスを、愛し合う相手と相手を結ばせる為に奔走するパッセルが、他人の為に自分を犠牲にするなんて許されない。
何をおいてもパッセルだけは、恋愛結婚であるべきだ。
それが後々、オメガたちの希望になる…
彼はそう考えている。
「大体、番になる過程を気にしてどうするんだよ!」
「…私は、愛されず消耗していくオメガの方々を救いたいのです。
この平和な国の中で不幸である事を義務付けられているなんて、おかしいでしょう?」
パッセルはエバ王子をちらりと見る。
彼は静観の構えだ。
隣のアラウダも同じく。
「…それに、私とて他人事ではありません。
私を隷属させたいがために、強引に項を狙う人間だっている。それを利用して策略を練る人々もいる。
噛まれた後の対策を、早急に準備せねばならない」
「……それは」
彼らの知らない所で、パッセルには色々な事があった。
それは主に、地方へ復興の手伝いに行く時だ。
作業が終わり、今後の見通しを立て、報告の為に領主の館へ行けば、そこで歓待を受ける事もある
見知らぬ貴族と食事を共にする事もある。
強い酒を飲まされるのは良い方で、眠り薬を盛られる事もある。
そんな時に助けてくれるのはいつも領主だ。
だがこうやって領主派から恩を売られ続けていれば、いつかは…。
「結局、自分の為なのです。
だから大丈夫…頼む相手は、間違えていないはずです。
私が番解消の手段を得られなくても、彼なら私を幸せにしてくれる」
今度はフェリスとクレイドが顔を見合わせた。
パッセルの口から出てきたのが、まるでリュノ王子の愛に応えるかのような言葉だったからだ。
そしてその言葉に、周囲もざわつく…
甘い内容なのに淡々と事実を述べる口調なのは、照れ隠しの一種なのかそれとも。
「それではエバ殿下、アラウダ殿。
今からする実験の記録をお願い致します。
フェリス殿と兄上にも、ご協力お願いします」
「…俺は、まだやるとは言っていないぞ」
リュノ王子はここまで自分の心情抜きに話を進められて少々ご立腹である。
その彼をちらりと見やってから、パッセルは悠然と微笑み、またも爆弾発言をする。
「そうですか、ではどなたか代わりの方を」
「やらないとも言っていない!!」
パッセルの言葉に乗せられるように、リュノ王子はパッセルを後ろから抱きしめ…
「良いんだな?」
「…ええ。
あ、そう言えば、アルファの力を借りて番を解消する方法とは何です?」
「ああ、あれは…だな。
アルファの中にも順位があってな。
今の番より上位の人間に契約を上書きしてもらえばいいんだ」
「…ならばやはり使えませんね」
パッセルはそう言って、目を閉じた。
リュノ王子は、そっと彼の項に口を近づけ…
「…本当は、直接噛みついて、君を俺の番にしてしまいたい」
「ふふっ…それでも構いませんよ?」
「えっ」
「冬、山でお会いした時…あなたは私にあれこれしてくれたが、項に口を近づける事はしなかった。
噛みつきたい衝動と戦ってくれたのでしょう?」
「そ、れは…」
こうして、大勢の生徒が見守る中…
リュノ王子はネックガード越しに、パッセルの項に噛みついた。
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