57 / 292
あがく世界
秘密の実験
しおりを挟む
あの実験から1週間が過ぎた。
あれから王妃様の体調が悪化する事も無く、実験は成功の最低ラインを越えた…と、言えそうだ。
次の実験は王妃様の体力が回復し次第…
と思っていたら、パッセルの元に一通の書簡が届いた。
今日も勉強会後の夕食、からの食堂の個室ミーティングの始まりだ。
いつもの8人で書簡の内容を確認する…
「…これは、実験に協力して下さる方々のリストですね」
「お母上が声を掛けて下さったのだ…
学生時代の友人たちとは、今でも手紙のやりとりをしていらっしゃるからな」
「という事は、秘密裏に…という事ですね?」
「そうだな」
リストには十人程の名前が載っていた。
断った人もいる事を考えると、苦しんでいる貴族の奥方はどれ程いるのだろうか?
「では、連絡手段を考えねば…」
「いや、日程を組んでお母上にお伝えすれば、各個人に連絡して頂けるはずだ」
「それでは王妃様の負担になりませぬか?」
「問題無い、むしろ「やれる事があるから人生にハリが出る」と喜んでおいでだった」
すると、オヴィスとフェリスが感嘆の声を上げる。
「やっぱり王妃様はお強い方なのですね…」
「そうだね、常に僕らの指針たるお方だもの。
いいかいオヴィス。
教養やダンスより、大事なのは強い精神力!」
「はい!」
…実験の裏で、オヴィスの王妃教育も順調に進行しているようだ。
「では、早めに日程を組んでしまいましょう。
皆さんのご希望日時も記されていますから、なるべくこれに沿って…」
「これでは夜に寮を抜け出す事になるが」
「何、第一寮は警備も杜撰ですから余裕ですよ」
「じゃあ、助手は僕かクレイドか…」
「私も手伝いますよ」
「えっ、アラウダ殿が?」
「私がいると問題が起きないのでしょう?」
「まだ根に持ってたんですかそれ」
こうしてわあわあ言いながらも、実験スケジュールは決まった。
エバ王子は日程表をその日に持ち帰り、王妃へと手渡し…
そして。
「…それでは、参りますか」
「ええ、早速」
番契約に縛られたオメガの元へ向かう日が、やってきた。
***
今日の作戦は、こうだ。
まず表から訪問する係…こちらは当主を引き付ける。
先触れも無く王子、または公爵子息が来れば、対応に追われて当主の伴侶への目が届きにくくなる。
そうしておいて、内部協力者に庭に面する窓を開けて貰う。
居なければ被験者本人が開けてくれる。
まずは表からの訪問…
「フォエバストリア殿下!?それにシルウェストリス公子!」
「先触れもなく、こんな時間に済まない…侯爵殿。
実は内々に聞きたい事があってな」
「は、何でございましょう?」
「私と、ここにいるフェリスの婚約解消の事なのだが…」
父親を説得する材料を内密に探しているのだ、という話をすれば、あちらとて大慌てだ。
何せ渦中の人間が2人してやってくるのだから。
「フェリス様は王家に必要なお方。
第二王子であらせられるエイギルフェルド殿下との婚約に切り替えられるというのはいかがかと」
「ですがそれは、エイギルフェルド殿下をないがしろにしているのと同じでは?」
「そ、そうですな…」
エイギルフェルド第二王子は現在中等部だ。
バース性はアルファ。
王になる野心はともかく、彼もまた派閥を持つ身だ。
そう簡単に予定を変える事は出来まい。
「それに、エイギルフェルドも王の子だ。
婚約を打診する相手はすでに決めているだろう。
例え男オメガを毛嫌いしているとしてもな」
エバ王子は、第二王子がパッセルとの結婚を画策している事を知っている事を暗に示した。
するとこの家の当主が動いた…
「殿下は、それを良しとするおつもりですか」
「……ふむ」
ついに話が本題に入る。
裏の部隊が動く時だ。
《クレイド、今だ》
合図は通話魔法によって行われる。
「パッセル、入るぞ」
「はい、兄上」
通話魔法は、自分とキスをした相手を繋げる魔法。
「兄上、結構進んでるんですね」
「えっ、あ、うん」
フェリスにとって、湯迫叶にとって、キスとは特別なものだ。
恋人としか、してはいけないもの…
「…さて、無事にお会い出来ましたね、マダム」
「ああ…あなたが、パッセル…?」
この実験が成功して番解消法が確立しても、この二人には必要なさそうだ…。
パッセルは被験者の前で、無情にもそんな事を考えたのだった。
あれから王妃様の体調が悪化する事も無く、実験は成功の最低ラインを越えた…と、言えそうだ。
次の実験は王妃様の体力が回復し次第…
と思っていたら、パッセルの元に一通の書簡が届いた。
今日も勉強会後の夕食、からの食堂の個室ミーティングの始まりだ。
いつもの8人で書簡の内容を確認する…
「…これは、実験に協力して下さる方々のリストですね」
「お母上が声を掛けて下さったのだ…
学生時代の友人たちとは、今でも手紙のやりとりをしていらっしゃるからな」
「という事は、秘密裏に…という事ですね?」
「そうだな」
リストには十人程の名前が載っていた。
断った人もいる事を考えると、苦しんでいる貴族の奥方はどれ程いるのだろうか?
「では、連絡手段を考えねば…」
「いや、日程を組んでお母上にお伝えすれば、各個人に連絡して頂けるはずだ」
「それでは王妃様の負担になりませぬか?」
「問題無い、むしろ「やれる事があるから人生にハリが出る」と喜んでおいでだった」
すると、オヴィスとフェリスが感嘆の声を上げる。
「やっぱり王妃様はお強い方なのですね…」
「そうだね、常に僕らの指針たるお方だもの。
いいかいオヴィス。
教養やダンスより、大事なのは強い精神力!」
「はい!」
…実験の裏で、オヴィスの王妃教育も順調に進行しているようだ。
「では、早めに日程を組んでしまいましょう。
皆さんのご希望日時も記されていますから、なるべくこれに沿って…」
「これでは夜に寮を抜け出す事になるが」
「何、第一寮は警備も杜撰ですから余裕ですよ」
「じゃあ、助手は僕かクレイドか…」
「私も手伝いますよ」
「えっ、アラウダ殿が?」
「私がいると問題が起きないのでしょう?」
「まだ根に持ってたんですかそれ」
こうしてわあわあ言いながらも、実験スケジュールは決まった。
エバ王子は日程表をその日に持ち帰り、王妃へと手渡し…
そして。
「…それでは、参りますか」
「ええ、早速」
番契約に縛られたオメガの元へ向かう日が、やってきた。
***
今日の作戦は、こうだ。
まず表から訪問する係…こちらは当主を引き付ける。
先触れも無く王子、または公爵子息が来れば、対応に追われて当主の伴侶への目が届きにくくなる。
そうしておいて、内部協力者に庭に面する窓を開けて貰う。
居なければ被験者本人が開けてくれる。
まずは表からの訪問…
「フォエバストリア殿下!?それにシルウェストリス公子!」
「先触れもなく、こんな時間に済まない…侯爵殿。
実は内々に聞きたい事があってな」
「は、何でございましょう?」
「私と、ここにいるフェリスの婚約解消の事なのだが…」
父親を説得する材料を内密に探しているのだ、という話をすれば、あちらとて大慌てだ。
何せ渦中の人間が2人してやってくるのだから。
「フェリス様は王家に必要なお方。
第二王子であらせられるエイギルフェルド殿下との婚約に切り替えられるというのはいかがかと」
「ですがそれは、エイギルフェルド殿下をないがしろにしているのと同じでは?」
「そ、そうですな…」
エイギルフェルド第二王子は現在中等部だ。
バース性はアルファ。
王になる野心はともかく、彼もまた派閥を持つ身だ。
そう簡単に予定を変える事は出来まい。
「それに、エイギルフェルドも王の子だ。
婚約を打診する相手はすでに決めているだろう。
例え男オメガを毛嫌いしているとしてもな」
エバ王子は、第二王子がパッセルとの結婚を画策している事を知っている事を暗に示した。
するとこの家の当主が動いた…
「殿下は、それを良しとするおつもりですか」
「……ふむ」
ついに話が本題に入る。
裏の部隊が動く時だ。
《クレイド、今だ》
合図は通話魔法によって行われる。
「パッセル、入るぞ」
「はい、兄上」
通話魔法は、自分とキスをした相手を繋げる魔法。
「兄上、結構進んでるんですね」
「えっ、あ、うん」
フェリスにとって、湯迫叶にとって、キスとは特別なものだ。
恋人としか、してはいけないもの…
「…さて、無事にお会い出来ましたね、マダム」
「ああ…あなたが、パッセル…?」
この実験が成功して番解消法が確立しても、この二人には必要なさそうだ…。
パッセルは被験者の前で、無情にもそんな事を考えたのだった。
127
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた
木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。
自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。
しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。
ユエ×フォラン
(ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)
【完結】ただの狼です?神の使いです??
野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい?
司祭×白狼(人間の姿になります)
神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。
全15話+おまけ+番外編
!地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください!
番外編更新中です。土日に更新します。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
第十王子は天然侍従には敵わない。
きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」
学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる