58 / 292
あがく世界
勉強会の成果
しおりを挟む王妃様との最初の「実験」から時は過ぎ、二度目の「実験」の日が訪れた。
今日も今日とて裏口訪問…
「お父上にばれると面倒だからな…」
「ですが、夫婦関係は既に破綻していると」
「破綻していようが関係ない。
王になる男のプライドを見くびってもらっては困る」
あの日急に人として目覚めた王子は、父親を嫌悪する発言が増えた。
オヴィスを見つけてからは特にだ。
「殿下も言う様になりましたなぁ」
「まあ、元々父は嫌いだったからな。
今も良く分からない理由でフェリスとの婚約解消を認めないし、最近では愛人どもに宝石や服を買ってやる金がかさんで、予備費に手をつけたり…」
「おお…それはまたクズですなぁ」
「ああ、俺も幼少期からずっとそう思っている」
この国の「予備費」とは、緊急事態が起きた時のために取っておく金の事だ。
だから事態が起きるまでは気づかれない。
だが気付いた時にはもう遅い。
激甚災害のひとつもやってきたら…。
と、そんな事を話すうちに、離宮の庭へと到着した二人。
「さて、前回と同じ手筈で行くぞ」
「はっ」
今回の実験である程度の目途がつけられれば…。
パッセルはあくまで冷静にそう考えながら、窓をくぐった。
***
今回の実験で、項の噛み痕はすっかり消えた。
これで噛まれた時の記憶を呼び起こすトリガーが無くなったはずだ…
神経の異常も無かったし、脳への損傷も無い。
異様に活発化している部分も今は無い。
心臓は弱っていたが、余計なものを付けられたりはしていない。
ただ、発情期になるとどうなるかは…未知数だ。
パッセルが王妃に尋ねる。
「少し体重が戻られましたか?」
「そうだね、少しだけ…太れたかな」
胃腸が弱っている中、必死で食べてくれたのだ。
パッセルは30度ほど頭を下げ、結果を告げた。
「もう項の傷痕はありません。触って頂ければお分かり頂けるかと」
「……本当だ、無い」
「体内の様々な場所を、光魔法を通じて出来る限り調べました。
特に異常はありません、体も、頭も」
「そっか…そうなんだね」
本当に元通りになったんだ…と王妃は呟き、何度も項をさすった。
こころなしか、笑顔の奥に不安が見えた。
その不安を察して、エバ王子は王妃に箱を手渡した。
「母上、こちらを」
箱の中身は、ネックガードだった。
だが、今までの黒一色の首輪とは全く違う、ペールオレンジの革をベースに、青のビーズを編み込んだ水色のレースがあしらわれた一品。
「勉強会の友人が制作してくれたもので、一見装飾品にしか見えませんが…しっかりと項を守ってくれます」
「へえ…いいね、見た目もすごく素敵」
そのネックガードは、第一寮の裏庭で魔法の練習をしていたパッセル達に最初に声をかけた生徒…
『魔法が使えなくても大丈夫。
作業しやすい服を考えたり、道具を考えたり…
貴公はそういう事に向いておられる』
そうパッセルに言われたあの生徒がデザインしたものだ。
「彼は、さりげなく、かつ確実に項を守れるドレスも制作しようとしています。
裁縫の才がある者と、力を合わせて」
「…その子も、オメガなんだね」
「はい、そうです。
二人とも『オメガの事はオメガでやろう、アルファなんかに任せておけない』と奮闘しています。
恋が出来ない分、仕事に生きるのだ…と」
「ふふっ、そっか…いい子たちだね」
王妃はそのネックガードを着け、鏡を見て、言った。
「ふふっ…素敵、何だか若いときに戻ったみたい」
その笑顔は、王妃としての笑顔ではなく、一人の人間としての喜びを表す笑顔…
とびきりの、笑顔だった。
132
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
【完結】ただの狼です?神の使いです??
野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい?
司祭×白狼(人間の姿になります)
神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。
全15話+おまけ+番外編
!地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください!
番外編更新中です。土日に更新します。
目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた
木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。
自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。
しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。
ユエ×フォラン
(ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)
第十王子は天然侍従には敵わない。
きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」
学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる