話が違う2人

紫蘇

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あがく世界

勉強会の成果

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王妃様との最初の「実験」から時は過ぎ、二度目の「実験」の日が訪れた。

今日も今日とて裏口訪問…

「お父上にばれると面倒だからな…」
「ですが、夫婦関係は既に破綻していると」
「破綻していようが関係ない。
 王になる男のプライドを見くびってもらっては困る」

あの日急に人として目覚めた王子は、父親を嫌悪する発言が増えた。
オヴィスを見つけてからは特にだ。

「殿下も言う様になりましたなぁ」
「まあ、元々父は嫌いだったからな。
 今も良く分からない理由でフェリスとの婚約解消を認めないし、最近では愛人どもに宝石や服を買ってやる金がかさんで、予備費に手をつけたり…」
「おお…それはまたクズですなぁ」
「ああ、俺も幼少期からずっとそう思っている」

この国の「予備費」とは、緊急事態が起きた時のために取っておく金の事だ。
だから事態が起きるまでは気づかれない。
だが気付いた時にはもう遅い。
激甚災害のひとつもやってきたら…。

と、そんな事を話すうちに、離宮の庭へと到着した二人。

「さて、前回と同じ手筈で行くぞ」
「はっ」

今回の実験である程度の目途がつけられれば…。
パッセルはあくまで冷静にそう考えながら、窓をくぐった。

***

今回の実験で、項の噛み痕はすっかり消えた。
これで噛まれた時の記憶を呼び起こすトリガーが無くなったはずだ…
神経の異常も無かったし、脳への損傷も無い。
異様に活発化している部分も今は無い。
心臓は弱っていたが、余計なものを付けられたりはしていない。

ただ、発情期になるとどうなるかは…未知数だ。

パッセルが王妃に尋ねる。

「少し体重が戻られましたか?」
「そうだね、少しだけ…太れたかな」

胃腸が弱っている中、必死で食べてくれたのだ。
パッセルは30度ほど頭を下げ、結果を告げた。

「もう項の傷痕はありません。触って頂ければお分かり頂けるかと」
「……本当だ、無い」
「体内の様々な場所を、光魔法を通じて出来る限り調べました。
 特に異常はありません、体も、頭も」
「そっか…そうなんだね」

本当に元通りになったんだ…と王妃は呟き、何度も項をさすった。
こころなしか、笑顔の奥に不安が見えた。
その不安を察して、エバ王子は王妃に箱を手渡した。

「母上、こちらを」

箱の中身は、ネックガードだった。
だが、今までの黒一色の首輪とは全く違う、ペールオレンジの革をベースに、青のビーズを編み込んだ水色のレースがあしらわれた一品。

「勉強会の友人が制作してくれたもので、一見装飾品にしか見えませんが…しっかりと項を守ってくれます」
「へえ…いいね、見た目もすごく素敵」

そのネックガードは、第一寮の裏庭で魔法の練習をしていたパッセル達に最初に声をかけた生徒…

『魔法が使えなくても大丈夫。
 作業しやすい服を考えたり、道具を考えたり…
 貴公はそういう事に向いておられる』

そうパッセルに言われたあの生徒がデザインしたものだ。

「彼は、さりげなく、かつ確実に項を守れるドレスも制作しようとしています。
 裁縫の才がある者と、力を合わせて」
「…その子も、オメガなんだね」
「はい、そうです。
 二人とも『オメガの事はオメガでやろう、アルファなんかに任せておけない』と奮闘しています。
 恋が出来ない分、仕事に生きるのだ…と」
「ふふっ、そっか…いい子たちだね」

王妃はそのネックガードを着け、鏡を見て、言った。

「ふふっ…素敵、何だか若いときに戻ったみたい」

その笑顔は、王妃としての笑顔ではなく、一人の人間としての喜びを表す笑顔…

とびきりの、笑顔だった。



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