話が違う2人

紫蘇

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あがく世界

【パッセル】アリエス領へ

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友人たちに頼んでおいたネックガードは無事に完成していた。

首だけでなく、胸部と背骨周りまで硬い革で覆う鎧のようなデザインだ。

俺はそれを受け取り、オヴィスと箱馬車で出発した。

リュノ殿下が一時帰国すると聞いて、それならばとオヴィス殿に声を掛けたのだ。
もちろん彼はエバ王子と相談するだろうが、秘密にしておく理由も無くなったのでどちらでも良い。
一応、内密にして欲しいと王子には頼んできたが…

どこまで内密に出来ているかは分からない。
オヴィスから筒抜けになっている可能性は大いにある。

「あの、パッセルさん…これって…鎧?」
「ええ、魔物から身を守る装備です。
 オヴィス殿を守るためにも、多少の武装はしておかねば」
「すみません…僕が戦えないばかりに」

今のオヴィスは戦闘向きではない。
家でも「オメガだから」という理由で魔物との戦いに参加する事は無かったのだそうだ。
仕方が無い。

「こんななのに、愛があれば何でもできますなんて…すみません」
「いやいや、今から覚えていけば良い事です。
 はい、オヴィス殿の分もありますよ」
「あっ、ありがとうございます!」

二人で同じ装備をする事で、魔物対策だと言い切っても違和感が無くなった。
この旅から戻ったら、腕の良い革職人を探して彼らに引き合わせよう。
仲間の分も発注せねば。

「でも、パッセルさんって学園の外ではネックガードしないんですね」
「ええ…オメガである事を国民にばらすな、と言われておりますし、いつもしているのは宝石がぶら下がっていてこういう場には向きませんから」
「そっか、色んな理由があるんですね」
「ええ、光有れば闇もまた有り、ですよ」

王妃になるための訓練はフェリス殿がしているが、今は俺が代わりだ。
言葉の裏を捉えるためには、まず事情通になる事も大事。

「フォエバストリア王子の近くにいるようになると、日々多くの情報が入って来ます。
 全てを頭に入れて考えるのです」
「確かに、知らない事がいっぱいです」

それでも、オヴィスは代官の子だ。
領内の様々な情報が集まる中にいたのだから、素地は出来ているはず。

「派閥とか、難しいですよね」
「ええ、その辺りは特に…
 利害関係と言っても、何を利益と捉えるかによりますから。
 税率、司法、立法、軍事…それから、水」
「水!水は分かります、どこに用水路を通すかで揉める事がありますもん」

…やはり、それなりに素地はあるな。
これなら王妃教育も宮廷使用人人事や執事の監督や…



う~~ん、山ほどある。



「まあ…学園で学ぶ事も大いにありますからね」
「?はい」

フェリス殿という教育係もいる。
王子自ら教える事もあるだろう。

愛があれば何とかなる…

今はそう信じよう。
あと2年あるのだから。


***


学園から5日間ほどかけてアリエス領へ着いた。

途中の道があまり整備されていなかったので、いくらか整えつつ進んだ分少し遅くなった…
帰りはもう少し早く進めると良いのだが。

「もうすぐうちが…あっ、あれです!」
「ほう、立派な邸宅ですな」
「ありがとうございます!
 あっ!父さ~ん!母さ~ん!」

オヴィスが馬車の窓から手を振る。
すると、家の前にいた夫婦が手を振り返す。

「パッセルさん!あれ、僕の両親です!」
「ええ、それはお顔を見れば何となく」

馬車が家の前に着くと、停めるのもそこそこにオヴィスが馬車を降りて彼らに駆け寄る。

「ただいま、父さん、母さん!」
「お帰りオヴィス!元気だったかい?虐められてはいないかい?」
「うん、良くしてくださる方々に恵まれたから大丈夫!
 あ、こちらパッセルさん…」

オヴィスが俺をご両親に紹介する。
俺は一礼し、夫妻に自己紹介しようと頭を上げると、

「パッセルさん…って、あのパッセル様!?」
「な、なんと!?
 オヴィスよ、パッセル様をお連れしたのか!?」

オヴィスの両親が驚いた声を上げる。
どうやら俺が来る事を知らなかったらしい二人は、オヴィスにそういう事は事前に連絡しろと小言を言うが…

「うん、手紙に書いたでしょう?
 パッセルさんを連れて行くよって」
「手紙?手紙はまだ来てないわよ、オヴィス」
「え~、出発の3日前には出したのにぃ」

きっとお手紙を配達する人がのんびり屋さんなんだわ~…
なんて、オヴィスの母上が仰る。
だが、多分そういう事ではない。

彼の出した手紙を盗んだ奴がいるのだ。
俺を連れて帰る事を知られたくない人間…

十中八九、俺を狙いにくる人間。
もしかしたらオヴィス狙いの人間かもしれないが…今の所、どこの派閥にも彼を狙う理由が無い。
とはいえ、可能性はゼロではない…

オヴィスの家族を危険に晒すのも良くない。
ここは護衛をこの家に残し、単独行動をする事にした。

「申し訳ございません、ご夫妻。
 思いがけず急な訪問になってしまいました。
 早速ですが、私はこの町を少し見て回りたく存じます。
 案内は不要で御座いますから、オヴィス殿とご両親は久々の再会を楽しんでいてください」
「は、はい!!」

こうして向こうの家族に時間を作る。
買い出しに行くかもしれないから、その時は頼みます…と護衛に声をかけ、俺は町の方へ歩いた。

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