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揺らぎの時
【閑話】シルウェストリス公の怒り
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「…悪どもめ」
「んもう…フェリスのしたいようにさせてあげようって、そう話したじゃないの」
「…着々と、フェリスを辺境へ連れて行く準備が整っているじゃないか」
「準備も何もないところへ行くよりは安心だよ」
違う、そういう問題じゃない!
こうなったらあのクレイドとかいうのの本性を暴いてやろう……と、平民の中にわずかだがいると言われるオメガを探していたところ、アリエス伯爵から話があった。
「フェリス様とクレイドの仲を裂くお手伝いを致しましょうか?」
***
アリエス伯の持ってきた提案はこうだ。
ある男子オメガを使って、クレイドを誘惑し、フェリスを幻滅させる。
王子がクレイドとの恋が破れたフェリスを慰め、もう一度二人の友情を恋愛に変える…
なるほど、王子がどう出るかはどうでも良いが、クレイドがフェリス以外の人間と付き合うのなら、フェリスが辺境へ連れて行かれる事は無くなる…
「…それは面白そうな話じゃないか」
「ええ、公爵様におかれましては、フェリス様を通じて王家との結びつきを強固にされるのは悲願かと存じます」
「そうだな」
…とは言ったものの、本当はフェリスが近くに嫁ぐことが大事なんであって、王家とか別にどうでもいい。
あんなんと親戚とか…
つか、もう親戚なんよ。
だから尻拭いして回ってんのよ。
こっちだって、領地の事とか色々仕事あるってのによぉ。
あいつが愛人と遊んでる間に、代わりに公務回してよぉ。
それを「貴族派の台頭ガ~!」とか、ふざけんのも大概にしてもらいたいっつーか。
大体よぉ。
緊急で入って来る騎士団の出動要請に、税金軽減の嘆願に、直轄地の揉め事に、予算配分に、経理の最終チェック、人事の最終決定…
ちょっと遠いけど親戚だからって、全部俺に持ってくるのはあっちだろ!
王兄とかどこ行ったんだよ!
あいつらしれっと逃げやがって!
俺がしたくてしてるんじゃねーわ!
やらねーと国が回んねーからやってんだわ!
王様が機能してねーからな!!
「…発言力がどうとか、心底どうでもいい」
「そもそも、王様が丸投げしてくるんだものね」
それでも回んないから友だちにも頼んで、各部局のそこそこの立場の奴も巻き込んで、必死で何とかしてんだよ。
俺一人で国家予算を云々なんて恐ろしい事できねーからな!!
責任分散型で俺は生きる!!
「とは言え我々だけでは手が足らんから、最近文句言いのアルベンシス候も巻き込んでやった」
「元々宰相だもんね、少しは手伝って貰わないと」
「最近ではデライトも手伝ってくれるし、家のよしみでメリフェラ伯も何かと気配り頂く…有難い事だ」
もうさ、分かる奴は分かってんのよ。
貴族派の台頭=王の怠慢って。
次の王様がまともなら、俺もサクっと引退して領地に引っ込んで、2人で楽しくスローライフを決め込んでやるっつーの。
「僕も手伝える事があれば良いんだけど…」
「君はいてくれるだけで尊いから大丈夫。
大体、シルウェストリス領の行事や揉め事の対応は君に任せきりだし…働きすぎは良くない。
死を招く」
「旦那様だって、働きすぎじゃないの?」
「私には優秀な部下を育てて駒にしているからね、今はそれほどでも無いよ」
そう、公務の方は大分ましになったんだ。
問題はそれ以外の「尻拭い」…。
ったくさぁ。
あいつが飽きて捨てた愛人へのフォローの為に神殿と連携して修道院の環境を整えてさぁ。
うっかり生まれたご落胤のサポートの為に孤児院作って、育児から教育まで体制を整えてさぁ。
何で俺がお前の隠し子の為に孤児院を経営しなきゃならんのよ。
神殿と仲良くなるきっかけにはなったけど、それでチャラに出来る程お前の罪軽くねーからな!
「…はぁ」
大体皆がさぁ、「発言力がー!権力がー!」ってさぁ、言うけどさぁ、そんなに言うんならさぁ、代わってくれたっていいんじゃね?
出来るもんならな!!!
つーかさぁ、あのクソ色ボケドグサレ王、国庫に手ぇつけやがって、まじで予備費をどう思ってるわけ?
『あんなに使わないだろ?』じゃねーよ!!
激甚災害に備えてんだよ!!
過去100年のデータぐらい見ろ!!
ハリケーンが5つの領を蹂躙した年!
地震で山が崩れて3つの領で果樹園が全滅した年!
そして、魔物の大群に西の辺境を全て奪われた年…
そう、あの西の辺境が潰れてしまった年。
『いっそ捨てると覚悟を決めて、関所を国境からずっと手前に移動させ、欲しければユバトゥスに差し上げる』
それが当時の王の、苦渋の決断。
そしてそれが!
今の!!
予備費の潤沢さに!!
つながっています!!!
「かの王の賢さが、なんであいつに残ってないんだろうな…」
「んもう、不敬ですよ旦那様」
「そうはいうがね、君。
あれは政治には向かんよ。
さっさと解任して、別の道を探してやった方が国の為だろうね」
「じゃあ、辞めて何をさせるつもりなの?」
「……さあ?」
学生ん時、得意科目の一つでもありゃあ…
今度学園の理事長に、過去の生徒の成績が残ってるか聞いてみるか。
俺には思いつかんし…
そもそも、あいつ一応先輩なんよね。
「…庭いじりとか、どうだろうね」
「いやいや、庭師になるのも大変なんだから」
「だよなぁ…」
はぁぁ…。
こんな時にフェリスが王宮にいてくれたら…
「…それはそれで心配になるだろうがな」
「王妃教育なんて名目で、嫌がらせを受けに行ってるようなもんだったからね」
「まったくだ」
あのドグサレ色ボケクソ王、フェリスをいつか食うつもりだったに違いない。
女しか抱かないなんて言ってるが、どこまで本当だか!
「…不能になる薬でも盛ろうかなぁ」
「また急に物騒だね」
「その方が世の為人の為って事もあるだろ?」
そんな薬があるのかは知らないが、無ければ作っても良い。
フェリスのおかげで、俺も多少薬学に興味が出てきたところだしな。
「…今頃フェリスは、何をしてるのかな」
「温かくして過ごしていれば良いけど」
…俺はふと窓の側に行き、西の空を見た。
とても穏やかな空だった。
=========
長らく作品の種類を「短編」にしておりましたが、長編に変更しました。
最初は2万字程度で終えるつもりだったんです…
ほんとすみません…
「んもう…フェリスのしたいようにさせてあげようって、そう話したじゃないの」
「…着々と、フェリスを辺境へ連れて行く準備が整っているじゃないか」
「準備も何もないところへ行くよりは安心だよ」
違う、そういう問題じゃない!
こうなったらあのクレイドとかいうのの本性を暴いてやろう……と、平民の中にわずかだがいると言われるオメガを探していたところ、アリエス伯爵から話があった。
「フェリス様とクレイドの仲を裂くお手伝いを致しましょうか?」
***
アリエス伯の持ってきた提案はこうだ。
ある男子オメガを使って、クレイドを誘惑し、フェリスを幻滅させる。
王子がクレイドとの恋が破れたフェリスを慰め、もう一度二人の友情を恋愛に変える…
なるほど、王子がどう出るかはどうでも良いが、クレイドがフェリス以外の人間と付き合うのなら、フェリスが辺境へ連れて行かれる事は無くなる…
「…それは面白そうな話じゃないか」
「ええ、公爵様におかれましては、フェリス様を通じて王家との結びつきを強固にされるのは悲願かと存じます」
「そうだな」
…とは言ったものの、本当はフェリスが近くに嫁ぐことが大事なんであって、王家とか別にどうでもいい。
あんなんと親戚とか…
つか、もう親戚なんよ。
だから尻拭いして回ってんのよ。
こっちだって、領地の事とか色々仕事あるってのによぉ。
あいつが愛人と遊んでる間に、代わりに公務回してよぉ。
それを「貴族派の台頭ガ~!」とか、ふざけんのも大概にしてもらいたいっつーか。
大体よぉ。
緊急で入って来る騎士団の出動要請に、税金軽減の嘆願に、直轄地の揉め事に、予算配分に、経理の最終チェック、人事の最終決定…
ちょっと遠いけど親戚だからって、全部俺に持ってくるのはあっちだろ!
王兄とかどこ行ったんだよ!
あいつらしれっと逃げやがって!
俺がしたくてしてるんじゃねーわ!
やらねーと国が回んねーからやってんだわ!
王様が機能してねーからな!!
「…発言力がどうとか、心底どうでもいい」
「そもそも、王様が丸投げしてくるんだものね」
それでも回んないから友だちにも頼んで、各部局のそこそこの立場の奴も巻き込んで、必死で何とかしてんだよ。
俺一人で国家予算を云々なんて恐ろしい事できねーからな!!
責任分散型で俺は生きる!!
「とは言え我々だけでは手が足らんから、最近文句言いのアルベンシス候も巻き込んでやった」
「元々宰相だもんね、少しは手伝って貰わないと」
「最近ではデライトも手伝ってくれるし、家のよしみでメリフェラ伯も何かと気配り頂く…有難い事だ」
もうさ、分かる奴は分かってんのよ。
貴族派の台頭=王の怠慢って。
次の王様がまともなら、俺もサクっと引退して領地に引っ込んで、2人で楽しくスローライフを決め込んでやるっつーの。
「僕も手伝える事があれば良いんだけど…」
「君はいてくれるだけで尊いから大丈夫。
大体、シルウェストリス領の行事や揉め事の対応は君に任せきりだし…働きすぎは良くない。
死を招く」
「旦那様だって、働きすぎじゃないの?」
「私には優秀な部下を育てて駒にしているからね、今はそれほどでも無いよ」
そう、公務の方は大分ましになったんだ。
問題はそれ以外の「尻拭い」…。
ったくさぁ。
あいつが飽きて捨てた愛人へのフォローの為に神殿と連携して修道院の環境を整えてさぁ。
うっかり生まれたご落胤のサポートの為に孤児院作って、育児から教育まで体制を整えてさぁ。
何で俺がお前の隠し子の為に孤児院を経営しなきゃならんのよ。
神殿と仲良くなるきっかけにはなったけど、それでチャラに出来る程お前の罪軽くねーからな!
「…はぁ」
大体皆がさぁ、「発言力がー!権力がー!」ってさぁ、言うけどさぁ、そんなに言うんならさぁ、代わってくれたっていいんじゃね?
出来るもんならな!!!
つーかさぁ、あのクソ色ボケドグサレ王、国庫に手ぇつけやがって、まじで予備費をどう思ってるわけ?
『あんなに使わないだろ?』じゃねーよ!!
激甚災害に備えてんだよ!!
過去100年のデータぐらい見ろ!!
ハリケーンが5つの領を蹂躙した年!
地震で山が崩れて3つの領で果樹園が全滅した年!
そして、魔物の大群に西の辺境を全て奪われた年…
そう、あの西の辺境が潰れてしまった年。
『いっそ捨てると覚悟を決めて、関所を国境からずっと手前に移動させ、欲しければユバトゥスに差し上げる』
それが当時の王の、苦渋の決断。
そしてそれが!
今の!!
予備費の潤沢さに!!
つながっています!!!
「かの王の賢さが、なんであいつに残ってないんだろうな…」
「んもう、不敬ですよ旦那様」
「そうはいうがね、君。
あれは政治には向かんよ。
さっさと解任して、別の道を探してやった方が国の為だろうね」
「じゃあ、辞めて何をさせるつもりなの?」
「……さあ?」
学生ん時、得意科目の一つでもありゃあ…
今度学園の理事長に、過去の生徒の成績が残ってるか聞いてみるか。
俺には思いつかんし…
そもそも、あいつ一応先輩なんよね。
「…庭いじりとか、どうだろうね」
「いやいや、庭師になるのも大変なんだから」
「だよなぁ…」
はぁぁ…。
こんな時にフェリスが王宮にいてくれたら…
「…それはそれで心配になるだろうがな」
「王妃教育なんて名目で、嫌がらせを受けに行ってるようなもんだったからね」
「まったくだ」
あのドグサレ色ボケクソ王、フェリスをいつか食うつもりだったに違いない。
女しか抱かないなんて言ってるが、どこまで本当だか!
「…不能になる薬でも盛ろうかなぁ」
「また急に物騒だね」
「その方が世の為人の為って事もあるだろ?」
そんな薬があるのかは知らないが、無ければ作っても良い。
フェリスのおかげで、俺も多少薬学に興味が出てきたところだしな。
「…今頃フェリスは、何をしてるのかな」
「温かくして過ごしていれば良いけど」
…俺はふと窓の側に行き、西の空を見た。
とても穏やかな空だった。
=========
長らく作品の種類を「短編」にしておりましたが、長編に変更しました。
最初は2万字程度で終えるつもりだったんです…
ほんとすみません…
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